無限輪舞
 
 最初に知覚したのは、夜空から降り注ぐの雪の結晶であった。
 同時に、自分がこの世界に生誕したことを認識する。
 次に認識したのは、目の前にいる同胞の姿であった。
 
「あなたは誰?」
「名前はありません。名前がないから幽霊なのです。あなたも同じでしょう」
 
 同胞は、そこまで言ってから突然苦笑した。
 
「……なんてね。いい加減、このやりとりも飽きてきたわね。長門さん」
 そんなことをいう同胞、朝倉涼子を、私はたしなめた。
「情報統合思念体からは、既定事項を遵守するように命じられているはず」
「細かいところまで律儀に従う必要なんてないわよ。未来人さんたちの時間平面理論によれば、些細な違いなんて、未来に影響を与えないんでしょ?」
 それは確かにそのとおりではあるが。
「あなたは、既定事項遵守命令がなくても、『彼』を殺すつもりのくせに」
「だって、状況に変化をもたらせるチャンスは数少ないもの。私が試せる機会はその一点だけに限られてるわ。だいたい、長門さんだって、既定事項遵守命令がなくたって、私を阻止するつもりなんでしょ?」
「そう」
「まあ、いいわ。それまでは仲良くしましょうね」
 異存はない。『彼』を殺す殺さないという問題も、実のところどうでもいいことだから。
 私と彼女がその問題にこだわることそれ自体が、もはや既定事項のようなものだった。
「了解した」
 彼女が立ち去っていく。
 
 彼女とのこのやりとり自体、もう何回目だろうか。
 
 
 
 私は、雪舞う中を、ゆっくりとマンションの自室へと向かっていった。
 
 これからの10年がどうなるかは、予測はできる。些細な点で異なることはあれど、これまで繰り返したきたものと大差はないだろう。
 しょせん、私はエンドレスなロンドを踊り続けるからくり人形にすぎない。
 
 涼宮ハルヒがその力によって同じ年月を延々と繰り返していることも、そして、いまだ分からぬその理由も、私にとってはもうどうでもよいことだった。
 
 
 
 私の89垓5374京3760兆4065億2879万3218回目の人生は、こうして始まった。
 
 
終わり


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