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俺がハルヒと出会ってもうすぐ1年が経とうとしていた3月の話だ。
春休みを目前にして北高生徒たちはほんのり余裕のある毎日を送っていた。
だが俺にとっては一生悔いの残る春だった。
 
今日は10日。あと一週間ほどで春休みだ。
短縮授業が始まったことにより、部活動に所属していないほとんどの生徒は午前中の授業が終わると足早に下校を始める。
部活動には所属していない俺だが生徒会非公認の部活(部活と呼べるものでもないが)SOS団に所属していたため授業後は下校せずに部室に向かった。
部室と言っても正確には文芸部なのだがハルヒによって乗っ取られ、今となってはSOS団の根城となっている。
部室のドアを開けるとそこにはやはり椅子に座って本を読んでいる長門がいた。
「よう、長門。」
長門は俺を一瞥すると再び本に目を落とす。
これが長門流のあいさつ。いつもの光景だ。
俺はパイプ椅子を引き寄せ、腰掛けた。
時間は12時か。
腹が減ったな。弁当食うか。
俺は腹の虫を黙らせるため鞄の中の弁当を取り出して机に広げた。
 
 
なかなかうまいぜお袋。
弁当をかき込みながらふと思った。
やっぱり長門は宇宙人なんだから食べなくても平気なのだろうか?
以前長門のマンションに行ったときレトルトのカレーを出されたことがあったな。
あのときは気づかなかったが長門でも家ではメシは食ってんだな。
だが学内で食べてるところをほとんど見たことはない。
長門は昼はいつも部室で本を読んでいる。
万能な長門のことだからその気になれば一流シェフ並の料理ができそうな気もするんだがな。
聞いてみようか。
「長門。お前は料理とかしないのか?」
長門は無表情で俺を見ると、
「・・・・・しない。」
「いつぞやお前のマンションに行ったときに出してきたようなレトルトをいつも食べてるのか?」
「・・・そう。・・・手間がかからないので余計な行動をしないで済む。」
「レトルトだけじゃ栄養偏るぞ!」
「・・心配いらない。私はあなたたち人間とは違う。基本的に食べなくても活動自体に支障はない。」
やはり長門は食べなくても平気なのか。
それでも食べるってことは一応長門にも食欲はあるんだな。
長門には日頃から世話になりっぱなしだからな。今度どこかうまい店に連れてってやろうか。
「たまには自分で料理してみればいいさ。お前ならできるよ。」
長門はすこし考えこんだように沈黙すると、
「・・・・・承知した。」
そう言って再び本に目を落とした。
 
俺が弁当を食い終わり空の弁当箱を片付けていたとき部屋がノックされた。
「どうぞ。」
開かれたドアの向こうには憎らしいほどのハンサムフェイスを持った古泉が立っていた。
古泉は俺と長門を見て、
「おや?まだお二人だけですか。涼宮さんと朝比奈さんはまだのようですね。」
微笑面を浮かべながらいけすかない超能力野郎は俺の隣に座った。
こいつは料理とかするんだろうか?
まぁ長門よりは可能性はありそうだが。
「なぁ古泉。お前は料理とかするのか?」
古泉は相変わらずの微笑面で俺の顔を見て、
「なんですか藪から棒に。珍しいですね。」
「で、どうなんだ?」
「えぇ、料理だけでなく洗濯や掃除などもしていますよ♪」
「男のお前がか?」
「僕も機関の指示で家族と離れてこちらでは一人で生活してますからね。全部一人でやってますよ。」
「ご苦労なこった。」
「まさかあなたから労いの言葉がもらえるとは思いませんでしたよ。なにか良いことでもあったのですか?」
「いや、聞いてみただけだ。大した理由はない。」
「あなたも料理くらいしてみたらどうですか?楽しいですよ♪」
「悪いが俺の中学のときの家庭科の成績は1だ。お前のように器用じゃない。」
古泉は俺に顔を近づけ、
「そんなこと練習次第でどうとでもなりますよ。なんなら僕が一から手とり足とりお教えしましょうか?」
古泉よ、目の前に長門がいることを忘れてないか?人がいる前でそこまで顔を近づけるのはやめてくれないか?いや、二人のときに言われたらもっと嫌だが…
「断る。俺の性分に合わねーよ。」
俺が古泉から離れながら言うと古泉はふふっと微笑みながら、
「それは残念です。」
何が残念なんだ?
まぁいい。
すると再び部室のドアが小さな音でコンコン鳴った。
この小鳥がつついたような叩きかたはあの方しかいない。
古泉が応える。
「どうぞ。開いておりますよ。」
ドアが開くと廊下に立っていた人は頭をペコリと下げながら、
「ご、ごめんなさい。遅くなっちゃいました。」
この朝比奈さんの愛くるしい仕草は俺の目の保養だね。
あなたがいくら遅れても俺は怒りませんし、あなた待っててと言うならいつまでも待ちますよ。
朝比奈さんは顔を上げて部室内を見回すと、
「涼宮さんはまだ来てないんですかぁ?よかったぁ。」
朝比奈さん今のは少し問題発言ですよ。ハルヒに聞かれてたらまたあなたは悲劇のヒロインを演じてしまう。
「ハルヒならまだ来てませんよ。」
朝比奈さんは机の上に鞄を置き俺たちを見ると、
「キョン君、古泉君」
とニコリと微笑んだ。
これは今から朝比奈さんが着替える合図である。
いつまで愚直にハルヒの命令を守るつもりなのか。
まぁ俺としてはいろんな衣装の朝比奈さんを見れるわけで嬉しいんだが。
「おい。古泉。」
「はい。」
俺と古泉は部室の外に出てドアを閉めた。
今この中の光景を目にできないのは残念でならないね。
 
数分後ドアが開くとメイド服姿の朝比奈さんが、
「お待たせしちゃってごめんなさい。」
「いえいえ。」
別に謝らなくて結構ですよ。
あなたの迷惑ならいくらでも受けましょう。
「あ、お茶いれますね♪」
朝比奈さんはそのままお茶をいれる用意をしていた。
格好も行動もまさにメイドさんだ。
わざわざ先ほど長門と古泉に聞いた料理のことは朝比奈さんに聞くまでもないな。
朝比奈さんは既に実証済みだ。
同じ理由でハルヒもね。
そういえばハルヒはまだ来てなかったな。
学食にでも行ってるのか?
まぁあいつがいないと平和でいいぜ。
 
することもないので古泉とチェスをすることになった。
口では偉そうにチェスの魅力を語っておきながら実力は相変わらずだ。
朝比奈さんはお茶をいれるためお湯を沸かし、長門は黙って本を読んでいる。
すると突然、バタンとドアが開き、
「遅れちゃったわ!」
とハルヒが現れた。
ハルヒは団長の席に座ると満面の笑みを浮かべて、
「みんな聞いて!SOS団に朗報よ!とうとうSOS団の名が全国に知れ渡るときが来たわ!」
またわけのわからないことを言い出しやがった。
「頼むから最初から説明してくれよ。」
ハルヒは立ち上がると俺の前に来て一枚のチラシを突きつけた。
『ミス女子高生日本一決定戦・予選受付開始』
なんだこれ?
「見ればわかるでしょ!ミス女子高生日本一を決める大会のチラシよ!」
「それは見ればわかる!お前は何が言いたいんだ!?」
ハルヒは腕を組み、
「あんたホントにバカね。この大会に出場して日本一になればSOS団の名も全国区に鰻登りよ!」
わかってはいたが一応ハルヒに聞いてみる。
「で、誰が出るんだ?」
ハルヒは朝比奈さんに抱きつくと、
「もちろんみくるちゃんよ!みくるちゃんならグランプリ間違いなしだわ!」
 
朝比奈さんはハルヒに抱きつかれ戸惑っている。
「えぇ~!?私が出るんですかぁ~?む、無理ですぅ~。」
「大丈夫よみくるちゃん!あたしが必ずグランプリにしてやるわ!」
「そ、そんなぁ~!」
またハルヒの横暴が始まった。
「おいハルヒ。朝比奈さんばかりに頼ってないでお前が出たらどうだ。たまには団長らしいとこ見せてくれよ。」
ハルヒは俺を睨み、
「なんで団長のあたしが出なくちゃならないのよ!団員なら団長の言うことに黙って従いなさい!」
「だったらお前も団長なら団員のことを少しは気遣ったらどうだ!少しは他人の迷惑も考えろよ!」
ハルヒは俺のそばに寄ると、
「迷惑?みくるちゃんはあたしのオモチャなのよ!あんたにそんなこと言われる筋合いはないわ!」
オモチャ?
こいつが以前同じような発言をして俺が殴りかかろうとしたことがある。
あれから半年近くが経ってこいつも少しはマシになっていたかと思ったがちっとも変わっちゃいなかった。
「ふざけんな!朝比奈さんはお前のオモチャでも奴隷でもないんだよ!いつまでも子供みたいなこと言ってんじゃねえよ!」
俺は怒りに震えハルヒを怒鳴りつけた。
古泉が俺を止めようと俺の肩に手を置く。
ハルヒは一瞬驚いたような表情を見せたがすぐに俺を睨みつけ、
「そんなにあたしが嫌なら出て行きなさいよ!あんた一人いなくてもSOS団の活動になんら支障はないわ!」
 
この言葉を耳にして俺の中の何かが音をたてて切れた。
「や、やめてくださぁい。私なら大丈夫ですから喧嘩しないで下さぁ~い。」
そんな朝比奈さんの言葉も今の俺には届かなかった。
気がつくと俺はハルヒの頬を平手でひっぱたいていた。
パチンと渇いた音が部室内に広がる。
その音で俺は我に帰った。
しばらくの沈黙が流れハルヒが、
「なにすんのよ!」
と怒りだした。
「すまんハルヒ。つい・・・」
ハルヒは怒り顔のまま、
「あんたの考えはよくわかったわ!もうここには来なくていいわよ!破門よあんたなんか!死んじゃえバカ!」
ハルヒは鞄を取ると、怒っているのか泣いているのかなんとも言えない表情で走って部室を出ていってしまった。
 
やっちまった…
 
あのハルヒとは言え俺は女に手をあげてしまった。
それもハルヒの心を深く傷つけてしまったらしい。
男として俺は最低だった。
 
「・・・キョン君。」
朝比奈さんは今にも泣きそうな顔で俺を見ている。
古泉がいつになく真剣な顔で俺を見ると、
「正気ですか!?男性であるあなたが女性に手をあげるなどとは!」
流石の古泉も今回の俺の行動には怒っているようだ。
古泉は真剣な顔で続ける。
「これは涼宮さんの性格や能力以前の問題です!あなたは涼宮さんの心を深く傷つけた!」
わかってはいるんだ古泉。だがあのときの俺は止めようがなかった。
「手をあげる気なんてなかったんだ・・・」
「それでもあなたが涼宮さんに手をあげてしまったのは事実です。すぐにでも謝るべきでしょう!」
「ああ、わかってる。」
泣きそうな顔の朝比奈さんは、
「ごめんなさいキョン君。・・・あたしのせいで。」
「朝比奈さんのせいじゃありませんよ。悪いのは俺なんです。」
「わ、私が言うのもなんなんですが涼宮さんには謝ってほしいです。涼宮さんきっと傷ついてます・・・」
「はい。わかってます。」
俺はハルヒを追うため部室を出た。
急いで校門に向かい坂道を下りるがハルヒの姿はない。
もう帰っちまったのか…
俺は携帯を取り出すとハルヒの番号にかけた。
「おかけになった電話は電波の届かないところにあるか電源が入っていないためかかりません。」
聴こえてきたのはハルヒの声ではなかった。
自力で探すしかないな…
結局その後夜まで不思議探索ツアーで行った場所やSOS団が活動した場所を探したがハルヒを見つけることは出来なかった。
 
諦めて帰ろうとしたとき背後から、
「キョン君。」
俺を呼び止める声がした。
振り返るとそこにはいつもより大人びた格好をした朝比奈さんがいた。
いや違う。これはさっきまでの朝比奈さんじゃない。
「ふふ♪またお会いしましたねキョン君。」
それは今まで何度も助けてくれた朝比奈さん(大)だった。
「朝比奈さん。また何か厄介事でもあるんですか?」
朝比奈さんは優しく微笑むと、
「今まさにキョン君が遭遇してるじゃないですか。」
ああ、そうか。この朝比奈さんもそれを体験済みなのか。
「キョン君。詳しくは禁則事項なので言えませんが明日世界にとってとても良くないことが起こります。この時間の私はそれに気づきません。そして長門さんでさえも。」
朝比奈さんは俺の手を取ると長方形のお守りを渡してくれた。
「このお守りはあなたを守ってくれます。今日は肌身離さず持って寝て下さい。」
「詳しくは教えてもらえないんですね。」
「ごめんなさい禁則事項です。ほんとはもっと早い時間に来るべきだったのですがどうしてもこの時間軸より前に遡行することができませんでした。」
「ハルヒの力ですか?」
「はい。とにかく明日涼宮さんに素直に謝ってあげて下さい。」
「わかってます。」
朝比奈さんはニコリと笑うと、
「それでは私は戻ります。涼宮さんのことを大切にしてあげてね。」
そのまま足早に俺の前から姿を消した。
とりあえず帰るか。
すっかり暗くなった空を見上げて俺は家路についた。
 
俺は家でシャワーを浴び、朝比奈さん(大)の言うとおりお守りをポケットに入れたまま床についた。
 
翌日になると俺はメシも食べずにいつもより早く家を出た。
早くハルヒに謝りたい。
俺のしちまったことは許されることじゃないかもしれないが、もしハルヒが許してくれるなら俺はなんだってする。
教室に着くとまだ誰もいなかった。
俺は自分の席に座りハルヒを待つことにする。
どうやってハルヒ謝ろうか?
ハルヒは許してくれるだろうか?
俺にはハルヒを待つ1秒1秒がとても長く感じた。
どれくらい経っただろうか。
クラスに人が増え始める。
俺は教室の扉を見つめながらハルヒを待った。
予鈴が鳴りほとんどのやつらが席につき始めたときあいつはやってきた。
ハルヒは俺の顔を見ると俺の後ろの席に座った。
今俺の心臓は緊張で爆発寸前だ。
だがこのまま放っておくわけにはいかない。朝比奈さんとも約束したしな。
俺は勇気を出してハルヒに話しかけた。
「な、なぁハルヒ。昨日のことなんだが。お前に謝りたいんだ。」
ハルヒは眠たそうな顔で、
「なに?昨日のこと?どうゆうこと?」
良かった。
一応口は聞いてくれるみたいだ。
「昨日は俺もどうかしてたんだ。あんなことするつもりじゃなかった。悪いのは全部俺だ。本当にすまん。」
ハルヒは、
「だから昨日のことってなによ。なんで謝ってんのよ!あんた寝ぼけてんの?それとも夢であたしに変なことしたんじゃないでしょうね?」
「い、いやだからお前の顔に平手打ちをしてしまったことだ。許してくれとは言わん。お前の気の済むまで俺を殴ってくれても構わん。」
ハルヒは俺を睨みつけると、
「あんた夢の中であたしにそんなことしてんの?あたしになんの恨みがあんのよ!」
夢?さっきからなに言ってるんだハルヒは。
「夢じゃないだろ!」
「あたしはそんなことされた覚えないわよ!もしあたしにそんなことしたら死刑にしてやるから!」
覚えがないだって?
俺が叩いたせいでハルヒの記憶が飛んじまったのか?
「夢でもあんたに平手打ちくらったなんて気分悪いわね。放課後たっぷりお仕置きしてあげるから部室から逃げるんじゃないわよ!」
「俺はSOS団破門じゃないのか?」
「なに?あんた辞めたいわけ?いい度胸じゃない!あんたの罰ゲームが増えたわ!」
さっきからハルヒと話が噛み合わないのは何故だろうか?
ハルヒは昨日のことを忘れようとしてくれてるのか?
まぁいい。ハルヒが許してくれるならどんな罰だって受けてやる。
「放課後部室に行っていいんだな?」
「当たり前じゃない!来なきゃ死刑よ!」
 
俺とハルヒがそんな話をしていると担任の岡部が現れHRが始まった。
岡部の話を聞いてると話してる内容が昨日と同じである。
ハンドボールのやりすぎでとうとうボケたのか?
「なぁハルヒ。岡部のやつ昨日と同じこと言ってないか?」
頬杖をついたハルヒは、
「知らないわよ。いつも聞いてないから。」
それもそうか。
まぁいい。ハルヒの機嫌は悪くないしな。
 
そして岡部の話が終わると授業が始まった。
一時限目は昨日と同じ数学だった。
数学?今日は物理のはずだ。
時間割に変更でもあったのか?
だが授業を聞いてると内容が昨日と全く同じだった。
ハルヒの不可解な言動といい、岡部の話といいさっきからおかしいぞ?
昨日の出来事はハルヒの言うとおり夢だったわけか?
いや、違う。
俺のポケットには確かに朝比奈さん(大)から貰ったお守りがある。
朝比奈さんは俺に気づかせるためにこのお守りを持たせてくれたのか。
じゃあ一体どういうことなんだ?
俺だけが昨日にタイムスリップしちまったのか?
長門なら何かわかるかも知れない。
俺は午前の授業が終わると急いで部室に向かった。
 
俺が部室のドアを開けると昨日同様本を読んでいる長門がいた。
俺は座っている長門の両肩を掴み、
「一体これはどういうことなんだ長門!お前ならわかるだろう!」
長門は俺を見ると、
「あなたの言ってることは理解できない。」
俺は絶望した。
いや、待て。昨日の朝比奈さんの言葉を思い出せ。
確か長門さえも気づかないと言っていた。
じゃあ何故俺だけ?
すると部室のドアがノックされた。
開いたドアの向こうにはやはり古泉がいた。
俺は古泉に向かって、
「おい古泉!今日は何日だ!」
古泉は微笑面で、
「今日は10日ですよ。今日もいい天気ですね。」
 
やはりこれは昨日だ。
もはや頼みの綱はこの2人に昨日のことと朝比奈さん(大)のことを話すしかない。
「古泉、長門。信じられないかもしれないが聞いてくれ。」
俺は二人に全てを話した。
「ってことなんだ。信じてくれるか?」
長門は俺を見て、
「あなたは嘘をつかない。私は信じる。」
よかった。
「ありがとう長門。それとこれがなんだかわかるか?」
俺はポケットから朝比奈さん(大)から貰ったお守りを長門に見せた。
長門はお守りに手をかざすと、
「この物体には時空振動に対しての防御シールドが展開されている。これを持っているといかなる時空振動の影響も受けない。」
 
…なるほど。
これが朝比奈さん(大)のお守りの正体か。
どうりで俺だけ昨日の記憶があるはずだ。
俺と長門の話を黙って聞いていた古泉が、
「あなたの話は本当でしょう。涼宮さんの力によって時空操作が行われたに違いありません。」
「古泉お前にはわかるのか?」
「ええ、8月の時間ループのことを思い出して下さい。いまおそらくあの時と同じことが起きてるんですよ。」
「なんでこんなことになったんだ?」
「簡単なことです。涼宮さんもあなたと同じように自分の行為を後悔していたのですよ。それにあなたに平手打ちされて気づいたのです。だから時間を戻せないかと考えてしまい、それが現実に起こってしまったのです。」
 
…そういうことか。
だが俺が謝りたいのはこの時間のハルヒじゃない。昨日のハルヒに俺は謝りたいんだ。
「もとに戻すことはできないのか?」
すると長門は、
「・・・可能。私が涼宮ハルヒの力の仲介となり時空操作を行う。」
「できるのか?じゃあやってくれ!」
「あなたにとっての昨日の何時に戻せばいいのか教えてほしい。」
何時?確かあれは12時を30分ほど過ぎたころだ。
「12時30分頃だ。頼む長門。」
長門は少し沈黙すると、
「了解した。これよりあなたの記憶の中にある時間に合わせて時空操作を行う。」
長門は立ち上がり手を上にかざした。
古泉が、
「むこうの僕にもよろしくお願いしますね。」
と微笑んだ。
長門は、
「あなたのいるべき時間はここじゃない。あなたはあなたの世界に帰るべき。あなたには帰る場所がある。」
「ありがとな。長門。古泉。」
「目を瞑って。」
 
俺が目を瞑ると頭の中が回転したように感じ、光の中へ飛び込んで行った。
俺が目を開けると目の前にはハルヒがいた。
ここは部室。
ハルヒは走って部室を出ていった。
なるほど…ドンピシャだぜ長門。
前に見たときは気づかなかったがハルヒはあの時怒っていたのではなく泣いていたんだ。
追わなければ。
これでハルヒを見失ってしまったら時間遡行してきた意味がなくなる。また同じことの繰り返しだ。
俺は急いでハルヒのあとを追った。
ハルヒに謝りたい。ただそれだけなんだ。
俺の前を走るハルヒは1年5組の教室に飛び込んでいった。
あの時ハルヒは教室にいたのか。街で発見できないはずだ。
俺は覚悟を決めて教室に入った。
 
ハルヒは自分の席に腕をついて顔を伏せている。
「・・・ハルヒ」
ハルヒはなおも顔を伏せている。
「ハルヒ。俺が悪かった。お前の気持ちも考えずに手を上げちまったことを謝る。すまん。」
ハルヒはなおもうつむきながら、
「・・・ぇっぐ・・あ・・あんたは私のこと迷惑だと思ってるんでしょ?」
ハルヒは明らかに涙声だ。
「確かに毎回お前に振り回されて迷惑することもある。だがお前を嫌いになったことなど一度もねぇよ!」
「・・・ぅっぐ・・・・ホントに?」
「ああ。お前が俺たちを勝手に振り回してるのになぜ俺たちがお前と一緒にいるかわかるか?」
ハルヒは黙りこんでしまった。
「それはなハルヒ。お前のことが好きだからだよ!俺も古泉も長門も朝比奈さんもみんな好きだから一緒にいるんだ。」
ハルヒは顔を上げると立ち上がり俺を見た。
やはりハルヒの目には涙が流れてる。
俺のしちまったことは重大だな。
「・・・その言葉信じていいの?」
ハルヒは涙を流しながら真剣に俺を見ている。
「同じSOS団だろ?団長なら団員の言葉を信じろよ!まぁ今の俺はお前に破門されちまったから団員じゃないがな。」
ハルヒは涙を服の袖で拭うと、
「有希とみくるちゃんと古泉君の3人に免じて破門だけは撤回してあげるわ。」
「ごめんなハルヒ。今の俺をお前の気の済むまで好きに殴ってもらっても構わん。これからどんな罰ゲームでも受ける覚悟はできてる。」
ハルヒは俺に近づきながら、
「そんなことするわけないでしょ。あんたを殴ってもあたしの気はおさまんないわよ!」
  
「じゃあどうしたらお前の気が済むんだ?俺に出来る範囲ならなんでもするつもりだ!」
「・・・なんでも?それは本当ね?」
「ああ。男に二言はねえ!」
ハルヒは俺のすぐ前まで来て俺の顔を見る、
「だったらあたしのこと抱きしめなさい!」
抱きしめる?なんでそんなこと。
「なんでも言うこと聞くんでしょ?早くしなさい!」
ハルヒの考えてることはよくわからんがそれでハルヒの気が済むなら…
 
俺はハルヒを抱きしめた。
 
今俺の胸の中にいるハルヒがどんな顔をしているのかわからない。
怒っているのか、泣いているのか、笑っているのか、照れているのか。
だがハルヒがどんな顔をしていたとしても俺は全てを受け入れるつもりだ。
 
そのまましばらく沈黙が続きハルヒが俺の胸から離れると
「今日はこれで許してやるわよ。そのかわり今度からあんたにはいっぱい償ってもらうからね!」
「わかってるよ。」
その後のハルヒとの会話は覚えていない。
俺たち二人は部室に戻り、他の団員に和解を伝えた。
 
なんとか全て丸く納まり俺たち5人は今下校のため坂道を下っている。
俺がハルヒに謝れたのはお守りをくれた朝比奈さん。状況を理解して俺に教えてくれた古泉。俺のことを信じてこの時間へ送ってくれた長門。
この3人のおかげだ。
この3人はそのことを知らないだろうが…
「朝比奈さん、古泉、長門。・・・・・ありがとな。」
朝比奈さんは頭に?マークを浮かべて、
「なんのことですかぁ~?」
古泉は得意の微笑を浮かべて、
「おや?僕に料理を教わる気になったのですか?」
長門は不思議な顔で俺を見つめていた。
 
「じゃあ僕たちはこの辺で。」
朝比奈さん、古泉、長門はそれぞれ違う方向に帰っていった。
残った俺とハルヒは二人で街中を歩いている。
俺たちは途中で見つけた雑貨屋に何気なく入った。
雑貨屋の中を歩き回っているとハルヒが足を止め、ある商品を見ている。
そこにはピンク色のリボンつきのカチューシャが飾ってあった。
そういえばハルヒはカチューシャが好きだったな。
「なぁハルヒ。今日のお詫びにこれをお前にプレゼントするよ。」
 
ハルヒはいらないと言っていたが俺はすぐさま購入し、ハルヒに無理やり押しつけた。
ハルヒは戸惑いながら、
「あ、あんたが勝手に渡してきたんだから礼なんて言わないわよ!」
「礼なんていらんよ。俺のお詫びだ。ここでつけていけよ。」
「い、嫌よ!あたしはこっちのほうが気に入ってるの!」
と頭を指差す。
まぁなんでもいいさ。
ハルヒが俺を許してくれたみたいだからな。
俺の背中を後押ししてくれた朝比奈さん・古泉・長門。
そして目の前にいるハルヒ。
改めて思ったよ。
みんな俺にとってかけがえのない存在だってことをな。
今なら胸を張って言えるぜ。
「俺はSOS団団員その1だ!」
ってな…
 
 
 
 
◆エピローグ◆
日曜日の話だ。
俺たちSOS団は今日も駅前に集合し不思議探索を始める予定だった。
だが当日になって朝比奈さんと古泉と長門が揃って欠席した。
俺は仕方なく駅に向かうとハルヒがすでに待っていた。
ハルヒは意外と機嫌は悪くなく笑顔で、
「さ~て今日の欠席の罰ゲームは何にしてやろうかしら!」
またなにやらよからぬことを考えてるらしい。
「さぁ行くわよキョン!」
俺の手をひいて歩くハルヒの頭には俺がプレゼントしたピンク色のカチューシャが掛かっていた。
 
「…似合ってるぜハルヒ。」
 

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