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第十二章 決意
 
家まであと少しというところで、携帯が震えた。
 
着信:涼宮ハルヒ
 
「あ、キョン?新しいクラスはどうだった?何か不思議なことはあった?」
いきなりそれかよ。ああ、不思議なことは有ったぞ。
「え!ホント?何?担任がサスカッチとかヒバゴンだったとか?」
お前な、それは一体どこの学校だ?大体、サスカッチやヒバゴンから何を教わるんだ俺は?
「冗談よ。で、不思議って何なの?早く教えなさい!」
ああ、実はな……
俺は今日のことをハルヒに話してやった。
Sクラスという進学クラスになったこと。そこのクラス委員が、俺たちが1年の時にカナダに転校していった朝倉だったこと。そして……佐々木が同じ学校、同じクラスに転校してきたこと。
最初のウチは「うんうん、それで?」とか聞く気満々で先を促してきたハルヒだったが、朝倉の話あたりから徐々にトーンダウンし始め、佐々木の話あたりからは「……ふぅん」「……そう」と、相づちしか聞こえなくなってしまった。
 
「……何とか上手くやっていけそうじゃない」
ああ、そうだな。特に勉強が出来る知り合いが2人もいるんだ。受験勉強の方は大丈夫だぜ!
「……」
どうした?
「何でもない」
そうか。ところで、そっちはどうなんだ?あれから何か、特別なことがあったか?
「……あたしもね、特進クラスにしたの。受験もあるしね」
9組か。古泉と同じクラスになったって事か?
「そ。有希も一緒なのよ」
長門もか。なんだ、SOS団全員が同じクラスになったって事かよ。
「そうね。あと、国木田や阪中さんも一緒よ」
へえ、あいつらもか。待てよ、そうすると谷口は……
「ああ、あのバカならそのまま3年5組に上がったわ。『やっとこれで涼宮との腐れ縁も断ち切れた~~』
とか言ってたから、ちょっとお仕置きしておいたけど」
おいおい、お手柔らかに頼むぜ。あんな奴でも、一応俺の友人ではあるんだからな。
「分かってるわよ……ねえ、キョン」
なんだ?そんな怖い声を出すな。
「あたしの目の届かないところだからって、変な気起こしちゃダメよ?」
何言っているんだコイツ。変な気って何のことだ。意味分からんぞ。
「何でも良いから!約束しなさい!」
へいへい。何だかよく分からんが、約束するよ。
「……よろしい。じゃ、またね」
 
携帯を切る。と、すぐにまた携帯が鳴り出した。
 
着信:古泉一樹
 
「涼宮さんとお話しされていたようですが」
ああ。何故分かる?それより電話を掛けるときは、まず『もしもし』から始めるのがマナーだぞ。
「これは失礼しました。では改めまして『もしもし』」
……冗談はやめろ。それより何だ。
「先ほど、涼宮さんと話されていた内容を教えていただこうかと思いまして」
別に話してもいいが、一応プライベートな会話だぜ?その理由を教えてくれても良いよな?
「閉鎖空間が発生しました」
何?ずいぶんと久しぶりだな。
「ええ、先回の大量発生時のあれ以来です。規模はそれほど大きくは無いようですが」
そうか。お前は行かなくて良いのか?
「今回は仲間が対処するようですので、大丈夫です。それで、電話の件ですが」
 
俺はさっきのハルヒとの会話を古泉に伝えた。別に隠すことなど無かったし、それほど重要な内容であるとも思えなかったしな。
 
「……それは……何てことだ」
ぼそりと呟く古泉に、ただならぬ違和感を感じた俺はどういう事かを問いただした。
 
「いえ、長門さんからあなた用のTFEIが用意されると聞いてはいたのですが、てっきり喜緑江美里だとばかり思っていましたもので」
それは分かる。俺だってそう思っていたからな。
「僕は朝倉涼子というTFEIには面識がありませんが、どのような……ああ、これはこちらで調べさせていただきます。それよりも、佐々木さんなのですが」
ああ、俺もびっくりしたぜ。偶然とはいえ、こんな事もあるもんだと思ったよ。
「結果的に見ればそうかもしれませんが、こちらとしてはそうも言ってられません。おそらく閉鎖空間の発生頻度が、昨年に比べて上がることは間違いないでしょうね」
そうか、ハルヒは俺が居ないって事で、イライラが溜まりやすくなる可能性があるな。俺も来年にはそっちに戻るつもりだから、それまで悪いがハルヒのご機嫌取りでもしてくれ。
 
「微妙に本質を外していると言うところがあなたらしいと言えばあなたらしいのですが……分かりました。今年は涼宮さんと同じクラスですし、何とか凌いでみましょう」
頼むぜ。長門も同じクラスなんだろ?二人がかりなら何とかなるんじゃないか?
 
「そうですね。僕もあなたと同じ立ち位置になれるよう、頑張りますよ」
俺の立ち位置ってのはハルヒの雑用係その1、だぜ。副団長様が何を抜かすかね?
 
「はは、そうでしたね。では、また」
 
携帯を仕舞い込み、既に到着していた家に入る。しかし俺は家の前で何を20分も携帯で話しているのかね?
部屋に入った俺は、未だに片付かない荷物を紐解く気力など無く、そのままベッドへと倒れ込んだ。
 
ふとベッドの脇に目をやると、でかでかと「SOS団」と書かれた段ボールが目に入った。引っ越し直前にハルヒ達がくれたものだ。「新学期が始まるまで開封禁止!」との、団長様の有り難いお言葉に従って、今日まで開封していなかった。律儀だね、俺は。
しかしまあ、もう開けても良いだろう。何せ、今日から新学期なんだからな。
段ボールを開けると名前が書かれた小包4つ、それぞれに添えられた封書が4通出てきた。結構厳重だな。
 
長門有希、と綺麗な楷書体で書かれた箱を開けると、中からは薄めの新書版が何冊か出てきた。
「SFはどこまで実現するか」
「SF相対性理論入門」
「相対性理論と宇宙旅行」
……これは何かの解説本か?
同封の手紙を開くと、シンプルな紙の真ん中にきれいな楷書体で「ユニーク。読んで」と一言だけ書かれてあった。
……長門よ。これだけじゃ全く意味がわからんぞ?一体俺に何をさせたいんだ?
 
 
朝比奈みくる、とかわいらしい文字で書かれた箱には、ティーセットが一式入っていた。ああ、朝比奈さんらしいな。ブランドはHERMES??どこのブランドだろ?有名な所なんだろうが、よく分からん。後でお袋にでも聞いてみよう。
しかし、朝比奈さんからの手紙にはそんな俺の心に冷や水を掛けるようなものだった。
 
「キョンくんへ
 
あなたがこの手紙を読んでいるとき、おそらく私はこの時間平面には居ないでしょう。
既定事項をクリアするために、一時的に元の時空へ帰らなければならないからです。
今はその内容は明らかには出来ませんが、きっと話せるときがやってくると思います。
私は「家庭の事情で、一年間休学」することになっています。これは涼宮さんたちにも伝える予定です。
長門さんや古泉くんはおそらく察してくれるでしょう。鶴屋さんにはもう話してあります。
だから、キョンくんも私の話が出たら、上手く話を合わせて下さいね。
キョンくんはそちらで受験を頑張って下さい。あなたの頑張りが、私たちの未来への道を開くことになるんです。
 
また、会える日を願って。
 
朝比奈みくる」
手紙を読み終えた俺は、ああ、それであれから何度朝比奈さんに掛けても電話が繋がらなかったのか、などとどうでも良いことを納得した。既定事項か。そういえば、以前この引っ越しの話を部室でしたときもそんなこと言ってたな。
 
 
古泉一樹、と書かれた比較的大きな箱を開けると……そこには最新型のノートパソコンの箱が鎮座していた。
っておい、贈り物にしては高額すぎないかこれ?慌てて、同封の手紙を取り出す。
 
「このパソコンは『機関』からのほんの気持ちと思ってください」
 
それしか書いていなかった。全く、長門と言い古泉と言い手紙の書き方がなってないぞ。
少しは朝比奈さんを見習え。
 
ため息をついた俺は、残った最後の箱に手を掛ける。
マジックででかでかと「団長」と書かれた小さな箱は、他の3人の箱に比べてもかなり小さい。
振るとかさかさ音がする。何が入って居るんだろう?変なものは入っていないだろうな?
箱を開けると、有る意味見慣れたものであるがそれ単体で見ると新鮮なものがあった。
 
リボン付の黄色のカチューシャ。
 
それはハルヒのトレードマークであり、この2年間ハルヒと会う度必ず俺の目に入ってきていたものだ。
添えられていた手紙を読んでみた。
 
「キョンへ
 
キョンが転校するなんて、考えたこともなかった。
これからもずっと、あたしの側にいてくれるものだと思っていた。
でもそれは、あたしの勝手な思いこみだったんだね。
あの日家に帰ってから、私はずっと泣き通しだった。
悲しさ半分、うれしさ半分って所ね。
もちろん、キョンからあたしに告ってくれたのは嬉しかった。
あの時の言葉はウソじゃないわ。
嬉しくて、嬉しくて。本当に、舞い上がってしまいそうだった。
キョンがあたしの志望大学を受けてくれる……あたしの所に戻ってきてくれるって聞いたときも、夢じゃないかと思ったわ。
でもね。
2年間キョンのすぐ側にいたあたしが言わせてもらうけど、今のキョンの成績じゃ、どうやってもアタシの志望大学に現役での合格は無理だと思うわ。あの時は「1年間頑張れば」なんて言ったけど、今のキョンの成績じゃね。奇跡でも起きない限り、無理。
だから、キョンは自分に合った大学に行きなさい。どこの大学でも良いわ。
あんたが行きたいと思ったところにね。
ただし!その際は必ずあたしに相談すること!
それを肝に銘じて、受験勉強頑張りなさい!以上!
 
追伸
同梱のカチューシャは、あたしからのお守りだと思いなさい。
これはあたしが北高受験の時に付けていた、持っている中では最も古いものよ。
必ず御利益があるはずだから、キョンは毎朝毎晩、これに向かって念を送ること。
そうすれば、必ず合格できるから、勉強机の側にでも置いておきなさい」
よく見ると、少し色がくすんでいるような黄色のカチューシャ。なるほど、ハルヒの思いが詰まった最古参のもの、か。古泉曰く「神様」のハルヒのものだ、確かに御利益はあるだろうな。
俺はそれを、勉強机のライトに引っかけた。
 
SOS団メンバーそれぞれの手紙を纏め、机の引き出しに入れた。
 
Sクラス。朝倉涼子。受験勉強。佐々木。大学進学……そしてハルヒ。
受験勉強をしなければいけない環境に追い込んだのは自分自身だ。分かっているさ。
楽しかったこの2年間の出来事。殆どがハルヒが原因で、俺がとばっちりを食らって走り回るようなことばかりだったとはいえ、一生忘れられないような出来事ばかりだった。
高校最後の一年は、その楽しかった2年間のツケが一挙に回ってきたような感じの、俺にとってはかなり厳しい受験戦争になりそうだ。
この一年、とりあえずこの一年を頑張れば、またあいつらと……ハルヒと同じ時を過ごせるんだ。その希望に賭けるしかない。
 
……ふと、ハルヒの手紙を取り出して、財布に挟み込む。こうやって持っていれば、ハルヒの神様パワーのご利益があるかもしれんからな……財布の中身は減っていくかもしれんが。
 
神様、仏様、ハルヒ様。来年、志望大学に合格できますように。
 
 

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