「もちろん、去年学校祭で行った映画撮影は覚えてるわよね?その時の主役女優と男優を答えなさい、キョン!」
「朝比奈さんと古泉だろ。」
「そう!有希も大事な役だったけど、ちょっと刺激が足りないのよ!だから、今回は脇役だった者に大チャンスを与えようと思ってるわ!」
 
今回は、って…やはりまた何かするつもりなんだろうな、コイツは。
 
「で、何をする気なんだよ。」
「演劇よ!学校祭で演劇をするの!」
 
反論はしなかったさ。無意味な抗議ってことはもう分かりきってるからな。ハルヒはホワイトボードに何かをいきなり書き始め、演劇の題名を高らかに宣言した。
 
「その名も…『白有希姫』!!!」
「…やれやれ。」
 
白有希姫。童話『白雪姫』の事だろう。
 
「今時白雪姫の話なんか平々凡々に演じてどうする。何の楽しみもなさそうだ。」
「普通にやるわけないじゃない!アレンジよ、ア・レ・ン・ジ!!」
 
ああ、心配だ。
 
「大まかな配役を書いてくから、よーく見てなさい!」
 
ハルヒはホワイトボードに大きく『白有希姫役→有希』と書き上げた。
 
「頑張ってね、有希!」
 
長門は2ミリほど首を傾けている。分かってないんじゃないのか?
 
「続いて、王子役!!」
 
…まさかとは思っていたが、そのまさかだったね。
ハルヒが『王子役→キ』まで書いたところで俺はなんとしてでもハルヒを制止する。
 
「無理だ!!」
「無理じゃないわよ!」
「いーや無理だ!!」
 
『王子役→キョン』、ホワイトボードには確かにそう書かれていた。
 
「俺にそんな器用なことができると思ってるのか?」
「人生に絶対はないの!あんたでもやればできるわよ。」
 
できないから言ってるのだよ涼宮くん。
 
「じゃあ次は魔女役。これはあたしがやったげるわ、総監督も兼ねてね。」
 
お似合いだ、いい配役センスをしてる。
 
「キョン黙れ!あたしの演技を見て度肝抜かしてやるんだから!」
 
違う意味で度肝を抜かせないように頼むぞ、いきなり脱ぐとか。
 
「次、七人の小人役なんだけど…」
 
この女、無視しやがった。
 
「今回は申し訳ないけど、みくるちゃんと古泉くん、この役を頼むわ。」
「ええ、お安い御用です。」
「分かりました。」
 
朝比奈さんは脇役を命じられてほっとしている様子。古泉はいつも通りだ、言うまでも無いだろう。
 
「あと5人必要なのよね。鶴屋さんと谷口と国木田を入れてあと2人…」
「あいつらも入れる気なのか?鶴屋さんはOKしてくれるだろうが…谷口や国木田はどうだろう。」
「あたしがなんとかするわよ。キョン、明日の放課後、谷口と国木田を連れてくる事、いいわね?」
 
とりあえず承諾しておこう。
 
「あとみくるちゃん、鶴屋さんをお願いね。」
「分かりましたぁっ。」
「台本は今日の夜、責任持ってあたしが書いてくるから!じゃあ今日は解散!」
 
今日のところはまとまったみたいだな。これから学校祭までの時間、ずっとこの演劇とやらの稽古を続けなければならないのだろうか…?
 
 
次の日、朝のホームルーム前にわざわざ谷口の席まで行って例の件を切り出す。
 
「なあ谷口、ちょっと頼まれてくれないか。」
「…いや、やめておこう!」
「まだ何も言ってないだろ、頼むよ。」
「お前の頼みなんて涼宮絡みに決まってる!俺は断じて拒絶する!」
 
まったくコイツは…いい先入観をもってやがる。
 
「どうしたの、二人とも向かい合って話し込んじゃって。」
 
話に割って入ってきたのは国木田だ。
 
「なあ国木田、ちょっと頼まれてくれないか!」
「やめておけ国木田、どうせ涼宮絡みだぜ。」
 
ほんとに頼むよ谷口、この任務を失敗なんかしたらきっと俺は死刑に処される。これは俺の命がかかってるんだぞ。
 
「あたし絡み…じゃあ何か悪いことでもあるの?」
 
総監督様のお出ましだ。谷口はライオンに睨まれたシマウマのような目でハルヒを見ている。
 
「谷口に国木田、あんたら放課後に文芸部室に来て。異論は認めないから。」
 
この言葉だけで二人に承諾をせざる終えない状況を作ったハルヒはもはや怪物だ。ウルトラマンにやられる怪獣役でもやるといい。
言うべき事だけ言ってハルヒは自分の席に戻る。
 
「ったくどうしてくれんだよキョン。俺の有意義な生活が半分削られたも同じだぞ。」
「まぁそう言うな。もしかしたら、お前のAマイナーランクの綺麗な姿が見られる可能性がある。」
「Aマイナーだと?…長門有希か!」
 
こいつはランクを付けた奴の本名全てを覚えてでもいるのか?喜べ、俺より無駄な才能を持ってるぞ、谷口。
 
「それで、結局何するつもりなの?」と国木田。
「演劇の稽古らしい。」と俺。
 
谷口がハルヒのようなアヒル口で吐き捨てる。
 
「演劇だぁ?またお前らは唐変木な事を…」
 
俺だって賛成はしなかったさ。
 
「でも楽しそうだね、演劇なんて。」
「お前は本当の涼宮の怖さを知らないからそんな事が言えるんだ!どうなっても知らないからな!」
 
それについは俺も同意だ。
 
「僕、少しだけ放課後が楽しみになってきたよ。じゃあ、もうホームルーム始まるから戻るよ。」
 
珍しい奴も居たもんだ、と国木田に感心し(ていいものか)つつ俺も席に戻る。
 
 
そして放課後。いつもの面々に加えて新しい顔が部室に揃う。
 
「いっやぁー劇やるんだってキョンくん!みくるから聞いたよー。」
 
やはり来たこの天然の先輩。受験を控えてのこの心の広さには感服するね。
だが、部室の何処に目をやっても団長様の姿が見当たらない。
 
ハルヒ以外のメンバーが揃ってから10分くらい経ったあたりで、部室のドアが開く。
 
「いやあ皆さん!今日はよく集まってくれたわ!」
「結構遅かったな」
「台本を印刷してたの。忍び込むのに一苦労だったわ。」
 
毎度ながらコイツの行動には大胆さが溢れている。
 
「でもまだメンバーが揃ってないのよ。」
「まだ他にもメンバーが居るのか?」
「そ!そいつらを引き連れてくるから、皆待ってて。」
 
また待たせるつもりか。谷口がパイプ椅子に座って我慢している姿が見えないのか?別に怖くないけど。
 
「あんたも行くのよ。それとみくるちゃんと…有希も!」
 
…嫌な予感がする。
 
 
移動時間約3秒。向かって着いた先はコンピ研の部室だ。
俺が片手にいつしかの使い捨てカメラが持たされている事をみると、もう展開を察するには十分だ。
ハルヒがドアを開けようとするのを制止しない手はない。
 
「待て、もしかしてまたあの手を使う気じゃないだろうな?」
 
分かってはいたが一応訊いておく。
 
「入れば分かるわよ。」
 
俺の制止をもろともせず、ハルヒは部室のドアを開く。
 
「たっのもおー!!今回はちょっと頼みごとがあってお邪魔しましましたー!!」
 
耳に強く残る声だ。ビクビクッとコンピ研メンバー5人がこちらを見る。
その中にはかつての部長も居た。世代交代をしたはずだが、実のところ今はたまに部活に顔を出して後輩達の指導をしているらしい。
なんと部活想いな部長だろうね。
 
「またきみか!!」と当然の如く部長。
「学校祭で行う我がSOS団の活動に協力して欲しいの、いいでしょ?」と団長様。
 
まぁここでOKを出す奴が居たら、そいつはよっぽどのアホか隠れハルヒファンだ。もちろん部長は例外である。
 
「何をする気なんだ。」
「演劇。あんたたちには七人の小人役その3~その7をやってもらうわ。」
「断る!」
 
だろうね。
 
「そんな事言ってていいのかしらーっ…!」
 
ハルヒは部長の真ん前に朝比奈さんをセットする。密かに長門は部長の後ろにセットし、それと同時に俺はカメラを構えた。
朝比奈さんが怯えきってる事が彼女を見なくても手に取るように分かる。
 
「てやっ!」
 
ハルヒは部長の手首を持って、朝比奈さんの胸へと一直線に叩きつけようとするが、部長も抵抗する。
 
「そう何度も同じ手を喰らうかっ!」
 
部長はもう片方の手でハルヒが掴んでいる手を抑える。…なんなんだこの状況は。
 
「甘ーい!!」
 
とハルヒが叫び、ハルヒの余った左手が部長の顔面を掴み、後ろに倒す。
 
「うわあっ!?」
 
普通の女子高生の場合なら、このまま部長の後頭部に胸が押し付けられたはずだろうが、長門の場合は違った。
ダンッ!という音と共に俺はシャッターを切る。まるで堅い腹筋に部長の後頭部が直撃したかのような音だった。…確かに当たったのは胸部のはずだったのだが?
それにしても痛そうだ。
 
「も、元部長ー!!」
 
コンピ研の奴らの悲しみの訴えが重く突き刺さる。ほんとすいません、コンピ研。
 
 
そのままの成り行きで見事コンピ研メンバーを獲得。貴重な勉強時間を削らせてまで部長を来させる事になった。もう一回、ほんとすいません。
長門の不機嫌そうな顔には少し驚いたが、そこらへんは胸の奥に秘めておくことにするよ。
 
 
文芸部室で台本が配られ、ようやく稽古らしいものができるといったところまで進んだ。
さあて、これからどうなることやら…全く見当がつかない。
 
 
台本の1ページ目。『白有希姫』と大きく書かれたページをめくると、それぞれの配役が書かれていた。
まとめついでに紹介しておくか。
 
総監督 あたし
 
白有希姫役→有希
 
王子様役→キョン
 
魔女役→あたし
 
魔女の手下その1→鶴屋さん
 
魔女の手下その2→国木田
 
七人の小人その1→みくるちゃん
 
七人の小人その2→古泉くん
 
七人の小人その3~その7→コンピ研
 
魔法の鏡役→谷口
 
 
…魔女の手下なんか白雪姫に出てきたっけか?俺の心配は募るばかりだ。

 

 

 

 

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