どうでもいい事だが、俺は部室内で行うオセロ、将棋、チェス、囲碁で負けた事は一度もない。
だがそれは古泉やら朝比奈さんやハルヒとの対戦での成績である。これじゃあ自慢にもならない。
そこで俺はやってみたくなったのだ。長門との勝負を!
いつものようにオセロを始めようとする古泉を制止して俺は長門に話しかける。
「長門…ちょっと勝負してみないか?盤ゲーで。」
「……いい。」
よし、とりあえず挑戦権は得る事ができたぞ。実に順調である。
少し寂しそうな顔をする古泉は無視して長門を俺の向かい側に座らせる。
「何がいい?オセロか?囲碁?将棋やチェスもあるぞ。」
「…あなたが選んで。」
「そうだな…じゃあ、将棋にするか!」
少しノリノリな俺と真剣に取り組もうとしている長門。他の者からの注目を浴びて、俺らの勝負は始まった。
長門の計算し尽されたかのような戦術で序盤は俺の防戦一方だったが、中盤からなんとか五分五分の辺りまで流れを引き戻す。
「なんと高レベルな戦いでしょう…」
「お、お二人ともすごいですぅ…」
フフフッ、そうだろう。観客の声にちょっとした優越感を感じつつ、俺は淡々とコマを指していく。
と、その時!長門のか細い手から放たれた神の一手が俺を驚愕させる!!
観客の素人の目でも分かっただろう。この一手の凄まじさってやつが。
少しニヤッとした長門の顔が尺にさわり、俺は知恵を振り絞って考える。どうやってこの状況を覆す…!?
段々と観客の目が同情の目と変わってきている。「キョンくんもう勝負は見えてますよ」とか「もう諦めた方が」とかいう目になっている。
だが俺は負けない!!そう、負けられない!!
パチン!と指した俺の一手は、この圧倒的状況を見事覆す事ができ……るはずもなく、平凡な一手を指しつつ、ただただゲームは終盤へと移っていく。
そろそろ俺も限界か…!と思った瞬間、長門が追い討ちの言葉を発する。
「…これでとどめ。」
その長門の一手は俺や観客の度肝を抜いた。まさか…これは…!?
「なあーんだ、有希、二歩じゃない!」
…説明しよう、二歩(にふ)とは、将棋でのひとつのルールであり、歩兵を同じ縦列に指してはならないというものだ。
これをした場合、相手は失格負けとなる。
「…………………………。」
いつもより長い長門の三点リードが俺の歓喜の気持ちを高ぶらせる。
どんな形であれ俺は勝ったのだ!SOS団全員に盤ゲーで!しかもその内には神やら宇宙人やら未来人やら超能力者が含まれている!この達成感は他のどんなものでも代役できまい。
「…うかつ。」
長門のしょんぼりとした姿はなんとも愛くるしく何処となく可哀想だったが、今の俺のテンションは凄まじいものがある。
「さすがねキョン!SOS団の一人の団員なだけのことはあるわ!あんたには賞をあげる!」
「賞?」
するとハルヒは画用紙にマジックペンで何かを書き始めた。
「ほら!キョンにしては中々盤ゲームが強いで賞!これをあんたに捧げるわ!」
…ほほう、それは光栄だね。
いや冗談じゃなく、ハルヒが俺の栄光を讃えてくれるとは思ってなかったし、正直嬉しかった。
俺はこの賞が「キョンにしてはかなり盤ゲームが強いで賞」程度にできるように、極力頑張っていくとするよ。
end