SOS団の部室。いつものようにいつものメンバーが集まっている。
朝比奈さん。可愛らしいエンジェルは実は未来からやって来た未来人
隅っこで本を読んでる長門は、対有機生命体なんちゃらかんちゃら……まあつまり宇宙人だ。
目の前でニヤついているオセロの対戦相手は古泉一樹。特殊な場所でだけだが超能力者だ。
そして我等が団長涼宮ハルヒ。世界を変える能力を持っていて、古泉曰く「神」だそうだ。
 
 
俺だけが、何の能力も持っていない。
 
まあ特別な能力を持ちたいとか思うわけでは無いし、普通の人間で居たいと思うのだが、
それでもこのメンバーの中にいると気後れすることもなくも無い。
俺みたいな普通の人間がここに居ていいのか……ってな。
 
こんな妙な疎外感を感じてるのは、きっと俺だけだろうな。
 
 
――――――――――――――――
 
私は部室の隅でいつものように読書をしている。
彼と古泉一樹はボードゲームに興じている。戦況が有利なのだろうか、彼は得意げな笑みを浮かべる。
古泉一樹は不利ながらも、笑顔を崩すことは無い。
一方で朝比奈みくるは涼宮ハルヒにお茶を差し出した。控えめな笑顔で。
涼宮ハルヒはそれに笑顔で答える。とてもまぶしい笑顔だ。
 
 
私だけが、笑顔を持っていない。
 
私の任務は涼宮ハルヒの観察。特に笑顔という表情を利用する必要は無い。
それでも、私だけが笑顔の作り方を知らないことは、私にエラーを蓄積させる。
彼らの笑顔が、とてもうらやましく感じる。
 
このような疎外感を感じているのは、きっと私だけ。
 
 
――――――――――――――――――
 
僕は今、彼とオセロの勝負をしています。
例によって僕は劣勢です。彼は得意げな笑みを浮かべています。
彼はあまり表情を表に出す方ではありませんが、自分に素直な方です。
長門さんも無表情ですが、自分の意思はしっかりしていて、行動力もあります。
朝比奈さんもとても素直な方ですし、涼宮さんは言わずもがな。
 
 
僕だけが、自分を偽っている。
 
以前彼にも話しましたが、今の僕は涼宮さんの理想に合わせた偽りの姿です。
もちろんSOS団の活動を楽しんでいるということに偽りはありません。
しかし自然な姿でいる涼宮さん達といると、一種の後ろめたさを感じることも事実なのです。
 
こんな疎外感を感じているのは、きっと僕だけでしょうね。
 
 
――――――――――――――――――――
 
私はみなさんに差し上げるお茶をくんでいます。
メイド服を着てみなさんにお茶をあげることが、私が私でいられる手段なんです。
長門さんや古泉くんは、問題が起こった時自分の能力や判断力や頭の良さで、みなさんを助けます。
キョン君は何の能力も持っていない普通の人間ですが、涼宮さんの「鍵」としてここ1番で活躍します。
涼宮さんはその行動力とカリスマ性でみなさんを引っ張っていくことが出来ます。
 
 
私だけが、何も出来ない。
 
未来人なんて肩書きだけ。いざと言うときには腰が抜けて立つことも出来ない。
何も能力を持っていないキョン君よりも、足手まといになることもしょっちゅう。
だから私はお茶をくむんです。こんなことぐらいでしか、皆さんのお役に立てませんから……
 
こんな疎外感感じてるの、私だけですよね……
 
 
――――――――――――――――――――
 
今日もあたしは団長机に座って、団活に励んでいるわ。
ここに座っているとみんなの様子が良く見える。
だから気付いてるのよ。みんなが私に何か隠し事をしてるってこと。
よく私にバレないようにとヒソヒソ話してるし、よく私以外の4人で集まっていることも分かってる。
きっと4人は何か重大な秘密を知ってるのよ。
 
 
あたしだけが、何も知らない
 
問い詰めるのは簡単。団長の権限を使えばきっと聞き出せるわ。
でもそれはしない。なんとなく分かるわ、きっとその秘密はあたしについての何か。
そしてそれを私が知ってしまったら、今のSOS団はなくなってしまう、そんな気がするの。
それは怖いし、嫌だ。だからあたしは、何も気付いていないフリを続けてる。この団を壊したくないから。
 
こんな疎外感を感じてるのは、あたしぐらいでしょうね。
 
 
――――――――――――――――――――――
 
放課後のSOS団部室。それぞれがいつものように活動をしている。
 
「はは、古泉、悪いが今日も俺の勝ちは濃厚なようだな。」
「参りましたね、今日こそはと思っていたのですが。」
 
得意げに笑うキョン。一方の古泉は、苦笑いに近いが、それでもいつもの笑顔を崩すことは無い。
 
「涼宮さぁん、お茶ですよぉ。」
「あ、ありがとみくるちゃん!」
 
ハルヒにお茶を渡すみくる。それをハルヒは笑顔で受け取り、一気のみをする。
 
「おいハルヒ、そんな一気のみしてヤケドしないのか?」
「ふっふーん、私の舌は鉄人なのよ!」
「意味がわからん。それにもっと味わうべきだ。そう思うよな?長門。」
「……そう。」
 
長門は本から視線を離すことなく答える。
 
「ちょっと有希!何キョンの味方してるのよ!」
「け、ケンカはやめてくださぁ~い」
「おやおや。」
 
いつも通りの光景。しかし彼らはそれぞれが密かに疎外感を抱いている。
そして彼らは知らない。自分以外のメンバーも全員、それぞれが疎外感を感じながら過ごしているということを……
 
終わり

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2020年08月25日 00:30