「さっそくだけど、あたしの名推理を披露するわ!」
 
腕に「名探偵」という腕章をつけたハルヒがそう宣言した。
 
「まず状況を整理するわね。古泉君は今来たばっかだし。」
「そうして頂けると、ありがたいです。」
「あたしとキョンは一緒に部室に来た。でも鍵がかかってたのよ。
 中でみくるちゃんが着替えてるのかと思ったけど、返事が無かった。
 だからキョンと一緒にスペアキーを取りに行ったのよ。そうよね?キョン。」
「ああ、そうだ。」
「でも職員室の前でみくるちゃんと会ったの。だから不思議に思ってね。
 あたしとキョンとみくるちゃんの3人で部室に入ったら、コレよ。」
 
ハルヒは無惨な姿になったパソコンを指差した。
 
「それで鍵は部屋の中に落ちていたわ。つまりこの部屋は密室だったってワケ。
 でも窓は開いてたから、恐らくそこから脱出したと思われるわ。
 ロープも下に落ちてたしね。」
「で、でもぉ、ロープで降りたりしたら目立つんじゃぁ……下は人が多い場所ですしぃ。」
「下に逃げたとは限らないわ。犯人は、横に逃げたのよ。」
「横、ですか?」
「そうよ。横の教室は今は使われてないわ。
 それを利用して、この部室の窓と隣の部屋の窓にロープで道を作ったのよ。
 そしてそのロープを使って隣の部屋に逃げた……そんなとこね。」
「では、この事件の犯人は?」
「私達に恨みを持つ外部の人間ね。まだ特定は出来ないけど、コンピ研部長とか怪しいわね!
 あとは締め上げて吐かせれば……」
「そこまでだ、ハルヒ。」
 
俺はハルヒの「名推理」を遮った。もうこれ以上、コイツに推理させるワケにはいかない。
それは、犯人の描いたシナリオに乗ってしまうことになるからだ。
 
「何よ、せっかくいいところだったのに!文句あるわけ?」
「ああ。このままだと間違った結論に導かれてしまうからな。
 このトリックには無理がある。例え隣の部屋だとしても見られたらどうしても目立ってしまうだろ。
 それに、ロープ伝いに隣の部屋に移動なんてよほど運動神経が良くなければ危険すぎる。
 少なくとも、コンピ研部長には無理な話だ。
 お前の推理は間違っている。……いや、あえて『間違えた.』」
「……何が言いたいのよ。」
 
ハルヒがそう言ってきた。分かったさ、そういうなら言ってやる。
俺は『犯人』を指差した。
 
「この事件の犯人は、ハルヒ、お前だ。」
 
俺は他のヤツらの顔を見た。
朝比奈さんは気絶するんじゃないかと言うほど驚いた顔をしている
逆に古泉はそうでもない。ある程度予測はついていたんだろう。
長門は、まあいつも通りの表情だ。
 
「な、何バカなこと言ってるのよ!」
 
そしてハルヒ。平静を装ってはいるが、明らかに動揺している。
 
「思えば始めからおかしかった。お前が俺の掃除を待つ、なんてな。
 だが今考えれば納得だ。お前は待たなければならなかった。
 何故なら、俺と一緒にパソコンを『発見』しなければならなかったからだ。一人で見つけちゃ意味ないんだ。
 部屋が密室状態だったと証言してくれるヤツがいないとな。」
「そうよ!密室だったじゃない!それはどう説明するのよ!
 アンタが言うには、あたしの説明したトリックはダメなんでしょ?」
「ああ。もっと単純な方法さ。お前は普通に、鍵をかけて外に出たんだ。
 そのまま鍵を所持しておく。スペアキーを取りに行った時も、実はお前は鍵を持っていたのさ。
 そして部室に入り壊れたパソコンを発見する。そのインパクトに俺と朝比奈さんが注意をひかれている隙に、
 お前はそっと鍵を部屋の中に落とし、自分でそれを発見した。
 そして自らが『名探偵』となって、間違った結論へ導こうとしたんだ。
 あのロープは、お前があらかじめセットしておいたものだな?」
「ち、違……」
 
否定はするが、もはや態度で分かる。間違いなく犯人はコイツだ。
何故俺がこの真相に気付けたか、それは古泉のおかげだ。
何よりもハルヒを優先する古泉が遅れる理由なんて一つしかない。そう、閉鎖空間だ。
恐らくハルヒはパソコンを壊してしまったことでストレスを溜め、閉鎖空間を発生させた。
更にこのトリックを成功させられるかどうかで不安になり、古泉の仕事を長引かせた。
古泉にはご苦労様としか言い様が無いな。
 
そして俺は、最後のひと押しをする。
 
「まだ否定するのなら、職員室に確認をとっても構わないぜ?
 お前が昼休み、鍵を取りに来なかったか、ってな。」
 
ハルヒはその言葉を聞くとうつむいた。……これで終わり、か。
 
「そうよ!あたしが壊したのよ!
 昼休みここに来たらコードに足ひっかけてね!悪い!?」
 
おお、開き直った。
 
「まあそれは自業自得だから悪くないがな、誤魔化そうとしたのは頂けない。」
「しょうがないでしょ!団長がこんなミスしたなんて知られたくなかったもの!」
「それであわよくばコンピ研のせいにして新たなパソコンを、ってか。」
「う……」
「みんなはどう思う?」
 
俺は他の3人に意見を求めた。
 
「……良く無いと思いますぅ。涼宮さんがこんなことするなんて……」
「コンピ研に何の罪も無いはず。無実の罪を押しつけようとした涼宮ハルヒは、私の概念では、悪。」
「今回ばかりは賛同しかねますね……涼宮さんに非があると言えるでしょう。」
 
それぞれ批難の言葉をかける3人。まともな反応で良かったぜ。
これで世界のためだとか言って俺が悪者にされたらキレてたところだ。特に古泉がやりそうだったからな。
いくら世界を変える能力を持つ人間だからと言って、なんでも許されるワケじゃない。
今回のことはきっちりとけじめをつける必要がある。
 
「パソコンはお前が全額負担しろ。そんでコンピ研の連中に謝りに行ってこい。今までのことも含めてな。」
 
 
で、その後ハルヒを連れて、コンピ研に謝りに行った。
ヤツらはなんのことだかさっぱり分からんという顔をしてたがな。まあ巻き込まれたことも知らんだろう。
古泉曰く、閉鎖空間は発生しなかったということ。
反発では無く、ちゃんと自分の非を認めているからだとかなんとか。
俺の行為が世界を滅ぼすことにならずにすんで良かったぜ。
 
そして帰り道、俺はハルヒと二人で歩いている。
 
「ねえキョン」
「なんだ?」
「まだ、怒ってる?」
 
ハルヒがしおらしく聞いてきた。こういうハルヒも貴重だが、やはりいつものテンションが無いと物足りない。
……そろそろ許してやるか。また古泉の仕事が増える前にな。
 
「もう怒ってねーよ。ちゃんと罰も受けたからな。」
「ごめんなさい……」
「もういいから、明日からはいつも通りになってくれ。
 しおれてるお前もなかなかレアだが、やっぱいつもの方がお前はいいと思うぜ。」
「……うん、分かったわ!」
 
今日はやけに素直だな。まあどうせ明日からは引っ張られる日々が戻ってくるんだろうが……
それならそれで構わないさ。だが、今回のようなことはこれっきりにしてくれよな?
 
終わり

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最終更新:2007年10月04日 01:30