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放課後の部室、無人の室内。
他の団員は爆睡していたらしい俺を置いて帰ってしまったようだ。
キョン「…なんて薄情な奴らだ。」
口ではそう呟きながら、おそらく起こすのを躊躇う程の幸せな寝顔をしていたのだろう、そう納得していた。
体を起こした俺の目に止まったのは1冊の本。
 
キョン「…漫画?」
 
『RozenMaiden』、そう銘打たれた本の表紙には赤いドレスを着たかわいらしい女の子が写っている。
 
誰がこんなもんを?
と言いつつも俺は即理解していた。
ハルヒは不思議と混乱を、朝比奈さんは癒しとお茶を、長門は本と安心を、古泉は要不要問わずの知識を、そして三井はとっておきの飛び道具を、
ならばこれは、
 
キョン「…長門が漫画?」
 
イメージが違うな、一瞬そう思ったが長門の事だ、何か重要な意味があるのかもしれない。
キョン「帰ったら読んでみるか。」
本を鞄にしまい込み俺は部室を後にした。
 
自宅に帰ると、べットを占拠する希少種をどかす代わりに寝転がり例の物を読み始めた。
漫画を含め読書をする習慣がほとんどない俺だが、これはなかなかに面白い。
生きた人形に導かれ戦いに巻き込まれていく少年を描いたストーリー、巻き込まれ型という点ではいたく共感を覚えてしまう。
そして、1刊の最終ページに挟まれてるのは今となっては見慣れたあの栞。
やれやれ…、今度は何が書かれてるのか。
一抹の不安を押し込め栞を裏返し、そして見た。
 
『まきますか、まきませんか』
 
…そうきたか。
きっとこれは長門流のギャグなんだろうな。印を付けて返してやれば長門もきっと喜ぶだろう。
少し気になったんだが、「まきます」「まきません」に丸をつけるならわかるが「まきますか」に丸を付けるのはちょっと変じゃないか少年JUN。
いやそんなことはどうでもいいか。
 
俺の答えは当然YES。まきますだ。
栞に丸をつけ本に戻した俺は簡単に着替え部屋を出る。
妹「あれ~、キョン君どこ行くの~?」
キョン「ブッ〇オフだ」
疑惑の目を向ける妹をよそに俺は自転車に跨がった。
 
翌日
キョン「…まさか決着がつかずに終わるとは…。」
 
徹夜で全8刊を読み終えた俺は落胆の境地にいた。8刊の薄さには驚愕、動揺、憤慨、様々な感情が入り交じる。
そしてこの後すぐ分かる事だが、どうやら同じ感情を抱いた人間がごく身近にいたらしい。
 
いつも以上の眠気に堪えなんとか授業を終えた俺はそそくさと部室に向かった。
いつも通りにパイプ椅子に座り分厚いハードカバーに目を走らせる長門に漫画を返す。
 
キョン「面白かったぞ長門、続きが気になって古本屋で全巻揃えちまったよ。
    まぁラストはちょいと不満だが…。栞にも〇つけといたからよ。しかし意外だな、長門は漫画も読むんだな。」
 
長門との付き合いももう長い、…そう、なり、…たまに、なり何か返答があると思っていた。だが…、
 
長門「………………。」
無言の長門。瞳に浮かぶのは…今の俺ならば分かる、クエスチョンマークだ。
 
キョン「…お前じゃ、ないのか?」
長門「……。」コクリ。
ミリ単位で頷く長門。
じゃあ誰が…。
 
遅れてやってきた朝比奈さん、古泉からも違うとの返答。
……ならハルヒが?あれを?
 
ハルヒ「ヤッホー、遅れたわ!!」
と、騒がしく扉を開けちょうど現れたハルヒに問いかけようとしたその時、
 
ハルヒ「みくるちゃん!!…いや、やっぱやめ。キョン、紅茶を入れて頂戴。」
………やはりこいつか。
 

キョン「やっぱりお前かこれは。」
 
ハルヒ「あれ、アンタも読んでたの?ハカセ君家にあったからカテキョの合間にアタシも読んでたのよね。
    でもあのラストは有り得ないわ、出版社に乗り込んでやろうかしら!!幻冬社だったっけ?
    あ、さっさと紅茶を入れて頂戴。お湯の温度はわかってるでしょうね!?」
 
キョン「お茶の事なら和洋問わず朝比奈さんに任せた方が賢明だ。そうか、これはハカセ君のだったか、面白かったと伝えておいてくれ。」
 
ハルヒ「何言ってんの?アタシが又貸しなんてセコい真似するわけないじゃない。」
 
キョン「…お前じゃない?昨日部室に置いてあったんだが…。」
 
ハルヒ「ここに?私じゃないわ。みんなも違うの?有希も?」
 
困惑する団員一同。だが俺は、いやおそらくハルヒ以外の全員は誰の仕業か気付き始めていた。
長門が本を閉じるパタリという音を合図に席を立つ団員達。帰り道で古泉が口を開く。
 
古泉「自分がおもしろいと思った本をあなたにも読んでもらいたい、そう思ったんでしょう、かわいらしいじゃないですか。」
 
キョン「…反論する気にもならねぇよ。」
 
俺も古泉も甘く考えていた。いや古泉は原作を読んでいないのだから仕方がない、俺だけは気付くべきだったんだ。
 
『決着していないアリスゲーム』
その事実に。
 
扉を開けた俺の部屋の床に横たわっていたのは、予想外か予想通りか、豪華な装飾を施されたスーツケースだった。
 
あいつがあの結末に納得してる訳はなかったな、原作者に代わってアリスゲームを決着させる気か。
…アイツらし過ぎてため息が出る。
まぁこうなったからには受け入れよう、もう慣れた。問題は…、
 
キョン「白薔薇、黒薔薇はできれば遠慮したいところだな、白は特に…。」
 
ハルヒの紅茶を~のセリフから察するにアイツは真紅確定だろう。お互い命令タイプなだけに相性は悪そうだが…。
落ち着け落ち着け、たかだか7分の2じゃないか、当たりっこないさ、これの中身は翠中身は翠中身は翠中身は…………えぇいままよっ!
 
キョン「………………は?……俺?」
 
スーツケースで眠っていたのは紅茶大好き第5ドール、真紅だった。
 
同時刻・朝比奈宅
雛苺 「うにゅ~が食べたいの~。」
 
みくる「あ、あの、未来から来たんですか?私に何か伝えるとか…、うにゅ~っていうのがなにか重要な…。」
 
雛苺 「うにゅ~なの。」
 
みくる「うにゅ~、ですかぁ…?」
 
 
長門宅
長門 「…………。」
翠星石「…な、なんかしゃべりやがれですぅ…。」
 
長門 「…………。」
翠星石「…あの……。」
 
長門 「……………。」
翠星石(こ、これが今流行りの画面越しでしかコミュニケーションを取れないという、噂の現代っ子ですか…カレー美味しいけど…。)
 
古泉宅
古泉 「なるほど、つまりそのアリスゲームというのに勝利するのがあなたの使命だと。」
 
蒼星石「…そうです。他のドール達も同じです。」
 
古泉 「ですがあなたは戦うことに肯定的ではないようですね。」
 
蒼星石「それは…その通りです、姉妹で争い合うなんて…。」
 
古泉(…おそらく彼のところにも行っているはず、さてどうお考えでしょうか。)
 
 
ハルヒ宅
ハルヒ「…で、アンタ強いの?」
 
金糸雀「最強の名を欲しいままにしているかしら。マジカル頭脳パワーで言えば所ジョージかしら。」
 
ハルヒ「嘘言いなさい、アタシ原作読んだから知ってるわ。正直微妙じゃない、てかほとんど戦わなかったじゃない。」
 
金糸雀「…か、カナは三日会わないだけで別人の様に成長するのかしら、刮目せよなのかしら。」
 
ハルヒ「ホントでしょうね?アタシはやるからには負けるのは御免なの。途中でやられたりしたらそのバイオリン売っ払ってコントラバスに買い替えてやるから。」
 
金糸雀「そ…それはカナには荷が重すぎるかしら…。」
 
――――――

キョン「…とても人形には見えないなコレは。」
肌の質感、髪の手触り、まさに人間そのものだ。
キョン「おっとイカン、ベタベタ触ったらネジ巻いた瞬間に1バイオレンスくらっちまう。」
 
ふ…真紅よ、俺をJUNの野郎と同じだと思わないでもらおうか。悪いが主導権は俺が握らせてもらうぜ。
まずネジを巻く前にやる事があるな。一旦下に行き準備を済ませた俺はいよいよネジを巻き始めた。
ゆっくりと開いていく、碧色の瞳。
 
真紅「…あなたが私のミーディアム?私の名は真紅、ローゼンメイデン第5ドール、真紅よ。あなた、名は?」
……本名を答えるか、いや、本名を呼んでくれるのが人形だけなんてあまりにも悲しすぎる…。
 
キョン「キョン、とでも呼んでくれ。」
真紅「ふぅん、地味な名前ね。早速だけどキョン、」
キョン「紅茶だ。」
真紅「!!」
 
先手はもらった…!まだ俺のターンの様だな。
キョン「湯の温度は95度、時間にも気を配ったつもりだ。高い茶葉ではないがそこは経済状況を察してくれると助かる。」
真紅「…人間にしては中々気が利くじゃない。あなたは私のネジを巻いた、なら誓いなさい。私の」
キョン「ローザミスティカだな。あぁ護ろう。」
真紅「!!!」
 
フッフッフ……ペースは掴んだ。
 
真紅「……予知能力のあるミーディアムは初めてだわ。」
キョン「まさか。俺には特殊な力などない、掛値なしの一般人だ。」
 
―――

キョン「寝起き早々であれだが一つ、聞いていいか?」
真紅「何?」
キョン「ここに書かれている内容は事実なのか?」
 
漫画を受け取りパラパラとページをめくる真紅。ごくわずかな変化だが、日頃の長門観察のおかげか俺にはわかった。
 
真紅「……事実よ。」
――瞳に浮かぶのは哀しみの色。
 
真紅「なぜこんな記録がこの世界にあるのかはわからないけれど。私達が渡り歩いて来た数多の世界、数多の時代、その中の一つでしかないのだわ。」
 
でしかない、と思っていない事は表情を見れば分かる。
それでも聞かずにはいられなかった。
 
キョン「どうなった。その…8巻の後。」
真紅「……質問は一つなのでしょう?あまり詮索するものではないわ、キョン。」
キョン「…そうだな、悪かった。」
 
おそらくは団員の元に届いているであろう真紅の姉妹達、勝つのが誰にせよ決着はつけてやらないとな。
―――そうだろ、ハルヒ。
 
ヴー、ヴー、ヴー。
携帯電話の着信音、マナーモードにしっぱなしだった為真紅との話に夢中で気付かなかった。
 
真紅はというと、抜き打ちで部屋を訪れた妹に優しく拉致された。
人形が動き、話すという事実に1ミリの疑問も持たない。
こいつはきっと将来大物になるだろう。
 
着信履歴は古泉、ちょうどいい、こっちも話がある。
古泉 『もしもし』
キョン「俺だ。用件は人形だな?お前のとこには誰が来た。白ならば悪い事は言わん、家中の鏡を叩き割って即逃げろ。」
古泉 『白、というのが誰かは分かりませんが。私の所に来たのは蒼色の方です、蒼星石、と自己紹介を受けました。』
キョン「蒼星石か、当たりだ古泉。ドール達の良心、一番の良識人形だ。接し方さえ間違えなければの話だが。」
古泉 『えぇ、理知的で大変話しやすく安心しています。あなたの所には?』
キョン「真紅。若干物腰柔らかで丁寧口調の金髪碧眼ハルヒを想像しろ。」
古泉 『なるほど相性は良さそうだ。重ねて安心しましたよ。』
キョン「言ってやがれ。…で、聞いたか?アリスゲームの事は。」
古泉 『大まかな所は。ですが蒼星石さんは、』
キョン「戦う意思はあるが乗り気ではない、そうだな?」
古泉 『えぇ、真紅さんはどうなのですか?』
キョン「口には出さないがおそらく同意見だろう。俺個人としては決着を付けさせてやりたい。
    血を分け…てはいないだろうが姉妹同士で争うなんざ見ていてあまり気分のいいものじゃない。
    何より決着しなくて一番困るのは俺達、特にお前だろう?」
古泉 『その通りです。一度集まった方がいいようですね。涼宮さんは除いて。』
キョン「何の連絡もないところを見ると明日いきなり披露して驚かせる腹だろう。とりあえず俺は長門に連絡する。お前は一度原作に目を通しておけ。」
古泉 『了解です。しかしあれですね、涼宮さんは学校に人形を持ってくる気でしょうか?』
キョン「………俺から連絡しておく。」
古泉 『ええ分かりました、ではまた。』
 
俺はいったん電話を切り、長門の番号をコールした。
 
トゥルルル・・・
???『はい、警視庁捜査二課第4係。』
キョン「……あいにく俺の知り合いに詐欺事件担当の人間はいない、誰だ?」
???『人に名前を聞くときはテメーから名乗りやがれです。』
 
…翠星石か、安心した。まぁ長門が人形に遅れをとるとは思わないが。
 
キョン「長門の知り合いの、…キョンだ。代わってくれ。」
翠星石『小一時間待ってろですぅ。(おーいシャイ人間ー、シャイ人間ー!!ヒョンとか言う奴から電話ですぅー!!)』
長門 『…もしもし。』
キョン「…意外と仲良くやってるんだな。」
長門 『…それなりに。』 翠星石『(彼氏か?ん?なんとか言えですぅシャイ人間。)』
キョン「事情は聞いているか?アリスゲームやら人形師ローゼンやらそこら辺の。」
長門 『把握はしている。』 翠星石『(無視とはいい度胸ですぅ。無口キャラがもてはやされる時代は終わりを告げたですぅ。)』
キョン「やはり涼宮絡みか?」
長門 『半分は。』 翠星石『(これは手強い…でも必ずお前を社会に適合する人間に育ててやるですぅ。グランパの名にかけて)』
キョン「半分?半分は別の意思だってのか?まさかお前狙いのあいつらか?」
長門 『違う。別の意思を感じる。詳細は不明。』 翠星石『(一人で寝るのは寂しいだろうから待っててやるです。早く切れですぅ。)』
 
…ならおそらくはローゼンの意思というやつか。長門とその親玉の情報網をすり抜けるとは…。
 
キョン「分かった。とりあえず明日学校で話し合おう。なんとかなだめて学校には連れてこないようにな、騒ぎになる。」
長門 『分かった。』
ツー、ツー、ツー、
 
次は朝比奈さんだな。ただただオロオロしている事だろう。
 
みくる『はーい、あ、キョン君、どうしたんですか?』
 
キョン「こんばんは、朝比奈さんのところに小さな人形は届いてますか?スーツケース入りの。」
 
みくる『人形?女の子ならいますけど。…え、この子人形なんですか?動いてますよ?』
 
実に癒される。タイムマシンのある未来でも動く人形は開発されていないのだろうか。家政婦ロボットとか。
 
キョン「肘のあたりを見れば分かりますよ。他の団員の所にも別の人形が来ています。」
 
みくる『そうだったんですかぁ。私の所は雛苺ちゃん。いちご大福食べて、さっき寝ちゃいました。』
 
似合いすぎる。朝比奈さん×雛苺。なんて凶悪な可愛さだ。
 
キョン「よくいちご大福だって気づきましたね?うにゅーとか言ってませんでした?」
 
みくる『お茶菓子用にたまたま買ってあったんです。明日部室に持って行くつもりで。』
 
キョン「そうですか。とりあえず明日は雛苺には家で留守番するよう説得してください、騒ぎになってしまうので。放課後人形を連れて集合という事で。」
 
みくる『う~ん、なんとか頑張ってみます。』
キョン「はい、それではおやすみなさい。」
 
さて、次はハルヒだな。俺の予想は、アイツには水銀燈ってところか、なんとなくだが。アイツなら互角に渡り合いそうだ。
 
トゥルルル・・・
ハルヒ『ハイ、珍しいわねアンタから電話かけてくるなんて。何の用?アタシいま教育に忙しいんだけど。』
 
教育?
キョン「お前、明日学校に人形連れてくるつもりだろう。」
 
ハルヒ『…アンタ盗聴でもしてんの?返答次第では全身あらゆる関節はずすわよ。』
 
キョン「アホな事ぬかすな。家にも来たからお前にもと想像しただけだ。」
 
ハルヒ『アンタんとこにも来たの!?誰?水銀燈?あれが一番カッコいいのよね!ウチの金糸雀と交換しなさい!!』
金糸雀『(い、いないところで言って欲しいのかしら…。)』
 
キョン「真紅だ。お前に金糸雀とは果てしなく意外だぜ。他の団員のところにも来てる。とにかく学校には連れてくるなよ?
    授業中部室に隔離しようとか考えてるんだろうが、おとなしく待ってるような奴らじゃないだろう。」
 
ハルヒ『いいわよ、みんなのとこにも来てるんじゃ驚かしようがないもんね。でも真紅もいいわねぇ、交換しなさい!!』
金糸雀『(うぅ…、くじけそうなのかしら…。)』
 
キョン「断る、こっちはそこそこ仲良くやってるんでな。あんまりいじめてやるな。とりあえず明日は金糸雀は置いて学校に来い。」
ハルヒ『わかったって言ってるでしょっ!!んじゃ明日ね。』
キョン「あぁ。おやすみ。」
 
ふぅ、とりあえず白は当たってない様でほっとしたぜ、しかしハルヒに金…
 
――何だ。何か違和感がある。
 
…部屋を見渡しても特におかしな所は無い。ベッドの下…綺麗なもんだ、何もいない。
窓ガラスに反射するのは変わらぬいつもの間抜け面…、じゃないっ!!
キョン「真紅っ!!」
 
派手にガラスが砕ける音、電灯も破壊され視界不良の室内、見えるのは輝く赤い瞳のみ。
(ダメだ、真紅がいなけりゃ話にならん。)
幸い扉は俺の方が近い、行くしかない。
 
キョン「…くっ!!」
水銀燈「遅いわぁ。」
真紅「あなたもね。」
 
水銀燈「!!」
 
俺にめがけて飛んできた黒い羽がもれなくはたき落とされている。気づいてくれたか。
 
真紅「派手な浸入ね、夜なのだからもう少し気を使いなさい。」
水銀燈「あらぁ、残念。この部屋鏡がないものだからこんな方法しか無かったの。あなたもう少し身だしなみに気を使いなさぁい。」
キョン「余計なお世話だ。やはりお前も来ていたか、誰と契約した。」
水銀燈「内緒。でもすぐに会えるから安心しなさぁい。今日は挨拶程度だからそろそろ失礼するわぁ。」
真紅「待ちなさい!」
 
追う真紅よりも一瞬早く、黒い翼は闇に消えていった。
 
キョン「悪い、助かった。」
真紅「いいわ、あなたに死なれては私も困るもの。そんな事よりあなた、どうして黙っていたの!!?」
キョン「…は?何をだ。」
真紅「猫よ!!あの汚らわしい生物よ!!」
 
……そういえばそうだった。こいつは猫がダメだったな。さて、どうする。
――やるしかないか。
 
キョン「聞け、真紅。」
真紅「何よ!?」
キョン「昔ある所に、天才の名を欲しいままにしたぬいぐるみ職人がいた。」
真紅「……は?」
キョン「その男はぬいぐるみ以外にとても好きなものがあった。そう、猫だ。
    ある日、新しく購入した猫図鑑を眺めていた男はある猫と出会う。
    メスしかいないはずの三毛猫、その中においてわずか1/30000の確率で現れるという、伝説のオスの三毛猫だ。」
 
真紅(…ゴクリ)
 
キョン「男は魅了された。欲しい、どうしても欲しい。オス三毛猫の魅力の前では今まで愛でてきた猫達が霞んで見えた。
    男は悩んだ、一体どうすればオス三毛猫をこの手に抱ける。どうすれば…。…そうか!」
真紅「……。」
 
キョン「―――オスの三毛猫を作ればいい、私の手で―――」
 
真紅「!!」
キョン「その日から、猫のぬいぐるみ作りに打ち込む日々が始まった。何年も何年も三毛猫のぬいぐるみを作り続けた。
    100体、200体、何百もの失敗を繰り返した末のある日、一匹の猫がにゃあ、と産声をあげた。
    奇しくもそれは、ぬいぐるみ職人シャミが猫を作り始めてからちょうど1000体目、それが我が家の飼い猫、
    ――――シャミシリーズ第千ドール、シャミセンだ。」
 
真紅「ぬいぐるみだっていうの?…あれが。」
キョン「その通り、それにアイツは極めて大人しい。家の妹よりもよっぽど大人だ。」
真紅「…なんて技術なの‥。でもそう、ぬいぐるみなら安心ね。」
…え、嘘だろ?
 
真紅「あら、9時を7分も過ぎてしまったわ。おやすみなさい、キョン。」
 
…信じたよオイ。
 
 
翌日。
 
キョン「よ、ハルヒ。うまく説得できたみたいだな。」
ハルヒ「わけないわ。プレーンオムレツ三つであっさり納得したわよ。家でテレビでも見てるんじゃないかしら。」
キョン「そりゃよかった。ちょっと長門のとこにも行って来る。あいつんとこには翠星石だ、うまく説得できたかどうか…。」
 
―――――――
 
キョン「おーい、長門。どうだ、人形は家で大人しくしてるか。」
 
長門「…問題無い。」 翠星石「…問題無い。」
 
キョン「そうか良かった……ってオイィッ!!バッチリ失敗してんじゃねーか!!」
 
長門「斜光フィールドで保護している。あなた以外には見えていない。」
翠星石「??…チャコールフィルターは解散している。あなた以外には見えていない。」
 
キョン「…失言だ、全国のファンに謝罪しておけ。それで、ホントに大丈夫なんだろうな?」
 
長門「私の傍を離れなければ。」 
翠星石「そいつぁ約束出来かねるです。内に秘めたる好奇心という名の宝石(ジュエル)を抑えるのには翠の両手ではあまりに小さすぎたのさ…、です。」
 
キョン「……放課後までなんとか持たせてくれ。放課後俺の家で落ち合おう。」
長門(…コクリ) 
翠星石「あんな地味なののどこがいいですかシャイ人間。あの顔はせいぜい係長止まりの顔ですぅ。」
 
―――シバく、絶対にシバく。
 
放課後自宅
 
金糸雀と雛苺に纏わり付かれ迷惑顔の真紅、双子はちょっと危ない色の空気を醸し出している。
…5体も揃うとさすがに壮観だな。
 
ハルヒ「…緊迫感ゼロね。顔合わせた瞬間にガチの殴り合いかと期待してたのに。こいつら戦う為に現れたんじゃないの?」
キョン「期待すんなそんなもん。しかし目的がハッキリしないって点では同感だな。おい、ドールズ。」
 
十の瞳がこちらを向く。
 
キョン「お前らアリスとやらになる為にローザミスティカを集めるのが一応の目的だよな?
    戦いが嫌だって気持ちはよく分かるが、それならどう解決をつけるつもりなんだ?」
 
真紅「……。今は心理戦よ。」
翠星石「……。油断を誘うと共に急所の探り合いですぅ。隙あらば頚椎もらうです。」
金糸雀「…そ、そうそう。すでに戦いは始まってるかしら。」
蒼星石「……そうだね。」
雛苺「……なの。」
 
長門「……………。」
…こいつら何か隠してやがるな。
長門を見る限り即どうこうなる感じでもなさそうだが。
 
キョン「はぁ…。まあ今日のところはそれでいい。係わっちまった以上は協力してやるさ。お前らはどうだ。」
 
古泉「出来るだけの事はさせて頂きますよ。」
みくる「わ、わたしもです。」
長門(…コクリ)
ハルヒ「白いのが来たらアタシとカナを呼びなさい。秒殺してやるから。アンタ達の相手はその後ゆっくりしてやるわ。」
金糸雀(…目が本気かしら…。)
 
キョン「早速だが昨日水銀燈に襲われた。平日でも人形と離れるのはお互い危険だろう。早朝に登校して部室にいてもらうしかないだろうな。」
ハルヒ「…面倒ねぇ。ま、それでいいわ。カナもいいわね?こん中で言えば生まれた順番はカナが1番早いんだからちゃんとみんなをまとめんのよ?」
 
金糸雀「…そんな設定すっかり忘れてたかしら…。」
翠星石「やってみやがれです。」
真紅「まとめ返してやるわ。」
 
……不安だ。
 
翌日早朝。
 
大きめのリュックに真紅を隠し、いつもより1時間も早く家を出た。
 
真紅「髪が乱れるわ。」
キョン「もうすぐ着く、その紅茶の飴でも舐めててくれ。」
真紅「全く…こんな飴一つで、……っ!(…これは!!)」
 
…大人しくなったか。
地獄の坂を登りきりやっと学校に到着した俺を待っていたのは、今ではすっかりおなじみ、下駄箱から滑り落ちた手紙だった。
 
―――そうだった。
人形のインパクトが強すぎて忘れかけていたが、トラブルの種は身内にも蒔かれているのだ。
…俺の旧型CPUではマルチタスクは不可能なんだが。…まぁそうも言っていられないか、外ならぬ朝比奈さんの頼みだ。
 
部室に真紅(飴に夢中)を置きトイレにかけこんだ俺は手紙を開いた。
 
『今日のお昼休み、生物室に来て下さい。みくる』
 
…直接指令が書かれてるかと思ったが。それほど重要な指令だという事だろうか。まあいい、考えても始まらん。
教室に着いた俺は自席に着き、削られた睡眠時間を取り戻す旅に出た。
 
昼休み
――我ながらよく寝たもんだ。朝ハルヒに叩き起こされたのは覚えてるんだが…。
部屋から出したら3食豆腐しか食べさせないと脅しといたから大丈夫、とかなんとか言ってたような…さっぱり意味がわからん。
当のハルヒは教室には見当たらない、ちょうどいい、行くか。
 
―――。
生物室で待っていたのは、予想通り朝比奈さん(大)。
 
みくる「こんにちは、キョン君。」
キョン「こんにちは。またいつかに跳べばいいんですか?」
 
みくる「はい、そこである事をしてほしいの。跳ぶ時間はもうすぐやってくる昔の私に伝えてあります。」
キョン「…それも規定事項?」
みくる「はい。その意味にもやがて気付きます。…ごくごく近い未来に。」
 
キョン「…今回は何のヒントもなしですか。」
みくる「そうね、じゃあ一つだけ。扉はいろんな場所に開いています。閉鎖空間もそう、パソコン部の部長さんの部屋もそう、いろんな場所に。
    その扉はね、過去と未来を繋ぐだけではないの。…こんなところかな?」
 
キョン「…とりあえず納得しておきます、いずれ理解できるのなら。」
みくる「ありがとう、キョン君。…それじゃあまたね。」
 
…前と香水が変わってるな。薔薇の香りを残し、朝比奈さん(大)は去っていった。
 
そのすぐ後。ノックが2回。
 
みくる「キョン君いますか―?」
 
キョン「はい、開いてますよ。」
みくる「よかったぁ。実はまた指令が届いてしまって。今から一緒に2年半前に行って欲しいんです。」
キョン「いいですよ、外ならぬ朝比奈さんの頼みです。で、2年半前のどこへ?」
 
みくる「うーん、それがよく分からないんです。ある程度栄えた都市であればどこでもいいって…。」
キョン「?そんな指令がありえるんですか?…で、そこで一体何を。」
 
みくる「その時間にインターネット上で開催されている童話投稿サイトのコンテストにそれぞれ考えた童話を投稿してください、
    …って書いてあります。あっ、優勝賞金50万円だって!すごーい!!」
 
キョン「は…童話?」
あいかわらず訳が分からない指示だ…。ま、仕方ない。なんせ相手は規定事項様だ。
 
みくる「うーん、童話かぁ。童話…。」
キョン「まあとりあえずその時間に行きましょう。難しく考えないでも大丈夫ですよ、投稿しろとは書いてあるが優勝しろとは書いてない。」
 
みくる「あ、そうですね。えーと場所はどこがいいかなぁ、えーと、…京都に行ってみたいんですけどいいですかキョン君。」
キョン「えぇ、構いません。」
みくる「やったぁ、じゃあ目をつぶってキョン君。」
 
―――地面が消える感覚、何回跳んでも慣れそうにない。うー、気持ち悪ぃ。
気を失いかけた次の瞬間、
 
みくる「着きました。ちょうど2年半前、えーと場所は、あれ?京都駅に着くはずだったのに…。
    京都府宇治市木幡大瀬戸32番地?どこだろここ…。」
キョン「まぁ探せば駅とか見つかりますよ。先にネカフェにでも入って指令を済ませましょう、宇治茶はその後で。」
みくる「な、なんで宇治茶だってわかったんですかぁ?」
 
あぁ、癒される。
 
結論から言うと、その時間旅行中に特記するような事態は起こらなかった。
ネカフェで席に着いた俺達は、いや席ではない、「カップル席」だ。いいかもう一度言う、「カップル席」だ。
「カップル席」についた俺は目的のサイトを探し出し、ものの15分で投稿を終えた。
 
みくる「すごいですねキョン君、こんなにすぐ書けるなんて。私まだ何にも考え付かなくて…。」
キョン「ゆっくり考えてください。あ、そうだ朝比奈さん、質問なんですが。
    例えば今俺がネット上に未来に起こる出来事を書き込んだりするのはまずいんですか?」
みくる「うーん、内容にもよるけど書き込む程度なら特に問題は無いはずです。説明はうまくできないんですけど…。」
キョン「ほーう、それは面白い…。」
アメリカにはジョン・タイターとかいうのが降臨したんだったな、なら俺は…いやダメだ、いつハルヒの目にとまるとも限らん。
 
その日2ちゃんねるという巨大掲示板に、ジョン・億次郎という未来人が現れ向こう2年半に起こる出来事を次々と予言していったという。
 
たっぷり3時間パックを消化し、朝比奈さんは投稿を終えた。
どんな話かは最後まで見せてはもらえなかったが。朝比奈さんなら日常生活をそのまま綴れば立派な童話が出来上がるだろう。
その後軽く京都散策をし、宇治茶を土産に元の時間に戻ってきた。跳んだ時間から5分も経っていない。
 
みくる「ありがとう、キョン君。放課後このお茶煎れるから楽しみにしててね。」
キョン「ええ、ではまた部室で。」
 
放課後部室
 
そこには予想に反し大人しく座って待っている5体の人形の姿があった。
 
キョン「何食ってんだこいつら。」
ハルヒ「今朝アタシが作ったオムライス。放課後まで大人しくしてられたらあげるって言っておいたの。
    小さいとはいえ5人分ともなると重いったらなかったわ。」
 
真紅「このお米、微かに紅茶の香りがするわ…!」
雛苺「ヒナのだけケチャップじゃなくて苺ソースなのーっ!!」
 
なんだかんだで結構可愛がってるんだな。金糸雀の衣裳もよく見りゃ昨日と違う。
朝比奈さんのコスプレ衣裳にあれだけ情熱を注ぐこいつだ、リアルな着せ替え人形でしかも動いて話すとなりゃたまらないものがあるんだろう。
 
キョン「長門は荷物そんだけか?翠星石はどうやって持ってきたんだ。例の斜光なんとかか?」
 
すっ、と長門が指差す先、コスプレチェック用の鏡?
長門「通って来た。」
 
キョン「…おい真紅、そんなんできるのか。」
真紅「目的地のイメージがはっきりしていれば可能よ。話したじゃないの。」
 
…聞いてねぇ。

翌日
キョン「朝比奈さん、その衣装は…。」
みくる「雛苺ちゃんがどこからか持ってきて。ちょっと派手かなぁとは思ったんですけど…。」
雛苺「おそろいなのっー!」
キョン「最高です。もし家に来たら0.1秒で契約を決断するでしょう。」


ハルヒ「……。」

蒼星石「キョン君、早く続きをやろう。」
キョン「ああ、悪い悪い。てかなんでこんなに将棋強くなってるんだお前は。」
古泉「僕と何十回も対局しましたからね。」
キョン「お前相手じゃ何回打っても強くはならんだろう。」

…それともやはり隠してるだけで実は強いのかこいつ…?

蒼星石「フフ、キョン君と遊ぶために研究したんだよ。」
キョン「…なんだそりゃ。」

ハルヒ「…………。」

真紅「キョン、抱っこして頂戴。」

ハルヒ「…!?」

キョン「ちょっと待ってろ。今対局中だから。」

ハルヒ「…帰る。」
キョン「?なんか用事かハルヒ。」

ハルヒ「うるさいっ!!」
――バタンッ

キョン「…どうしたんだあいつ?」
真紅「あの本を取りたいわ、早くして頂戴。」
キョン「…はいはい。」

―ピリリリリリリ

古泉「…おやおや、これは久々ですね。――ハイ、ええ分かりました、すぐに。」
蒼星石「…!」
キョン「…おい、まさか…。」
古泉「えぇ、どうやら発生したようですね。最近は落ち着いていたんですが。」
キョン「…まさか今の゛抱っこ゛じゃないだろな。…相手は人形だぞ?」
古泉「ただの人形ではありませんからね、涼宮さんのフォローはお願いします。」

蒼星石「マスター。」
古泉「――ええ、手筈通りに。」
キョン「?」

蒼星石「翠星石、ちょっと手伝って欲しい事があるんだけど。」
翠星石「今対局中なのですよ。今日をもってネット囲碁界の神はsaiではなくsui…」
蒼星石「いいから来て!」
――カチカチッ
翠星石「あっ、何するですか蒼星石!」


キョン「あいつらまで一体何を…。」


――――――

古泉「遅れてすみません、…なかなか派手に暴れていますね。」
機関員1「久しぶりだからな。…さて、さっさと片付けるか。」

古泉「少しだけ待ってもらえませんか。おそらくもうすぐ動きが止まるはずなので。」
機関員2「なんでそんな事がわかる。」

古泉「実は今回ある助っ人をお願いしていましてね。」


――――

蒼星石「…見つけた、これが金糸雀のマスターの樹…。」
翠星石「こんなの探してどうするですか?…まさか切断…!?」
蒼星石「フフ…これで金糸雀は脱落…って違うよ!
マスターから頼まれたんだ。『僕がアルバイトに呼ばれる時にはおそらく涼宮さんの心の樹に雑草が絡み付いてるはずだから刈り取っておいて欲しい』、って。」

翠星石「…確かにものすごくオフェンシブな雑草があるですね…。」

蒼星石「何か嫌な事でもあったのかな。結構楽しそうに見えたんだけど。
――ジョキン、これでよし、と。」

翠星石「翠星石はやる事ないじゃないですか…。」
蒼星石「…い、いや樹が元気無かったらじょうろも使ってもらおうかと思ってたんだよ。
――まぁいいじゃない、2人だけで話すのは久しぶりだし。」

翠星石「そ、そうですね、たまにならいいですよっ…。」


―――――

古泉「(うまくやってくれた様ですね。)」
機関員1「本当に止まったぞおい…。」
機関員2「お前…超能力でも目覚めたか?」

古泉「フフ、…さて、ゆっくり片付けるとしましょうか。」


―――――


キョン「おい、ハルヒ!何怒ってんだよ!」
ハルヒ「怒ってないわよ!ついてくんなっ!」


…怒ってんじゃねーか。


キョン「待て、そんな引っ張ったら金糸雀がかわいそうだろ。お前のペースで歩くな、歩幅を合わせろ。」

―グイッ


ハルヒ「…なんでアンタまでカナと手繋いでんのよ。」

金糸雀(…な、なんか親子連れみたいかしら。)

キョン「お前の家までだ、ゆっくり歩け。」

ハルヒ「…分かったわよ。」

金糸雀(…ひょっとしてちょっとイイ感じかしら?)

 
下校時。
あれから1週間、鏡を通じて登下校する日が続いている。
あの坂を上る必要が無いってだけでここまで晴れやかな気持ちになれるとは。
なにより朝始業直前まで寝てられる。こんな裏技があるなんてな。
 
今日も次々と鏡に吸い込まれていく団員&ドールズ。
 
鏡の中にはどこまでも続く海が広がっている。
確か無数の記憶がどうとかいう話だったな。
先を行った団員達の姿はもう見えない。
 
――その時。
 
どこか暖かさを感じさせていたフィールド内の空気が、一瞬にして凍りついた気がした。
どこからか響く、温度の無い声。
 
???「可哀相なお姉さま。…今度は誰に壊される?」
 
何だ?
 
真紅「キョンっ!!」
真紅に突き飛ばされ、空中に放り出される俺の体。
次の瞬間目に写ったのは、蜘蛛の巣状に広がった荊に捕らえられた真紅の姿だった。
 
いつのまにこんなもんが!?
 
キョン「真紅っ!!」
真紅「逃げなさい!!自分の家をイメージして!早く!!」
 
雪華綺晶「…今度は誰に奪われる?…それは、」
 
白薔薇が真紅に向かって動き始めたその瞬間、
突如現れた2つの影が白薔薇と交錯した。
 
???『『私♪』』
 
雪華綺晶「!!?」
ザシュッ、という音と共に当たりがもやに覆われる。
 
キョン「今度は何だ!?」
 
ゆっくりと晴れていく爆煙。
徐々に見え始めた白薔薇の体に、深々と突き刺さる2本の楔。
 
――黒い翼と、アーミーナイフ――
 
水銀燈「あらあらぁ、いい格好ねぇ真紅。」
朝倉「お久しぶりね、キョン君。」
 
…朝倉涼子…!!
キョン「お前が契約者だったのか…!」
真紅「水銀燈…。」
 
雪華綺晶「…フフ…少し分が悪そう。また改めて伺いますわお姉さま…。」
 
白薔薇の体が海原に溶けていく。
姿が見えなくなると同時に、真紅を捕らえていた蜘蛛の巣は消えていった。
 
水銀燈「追うわよ涼子。」
朝倉「ほっときなさい、向こうから来るって言ってるんだから。」
 
キョン「…なかなかお似合いのコンビだな朝倉。一体どうやって復活した?」
朝倉「…復活、ね。できたらよかったんだけど。残念ながら違うわ。」
キョン「何?」
朝倉「あなたの人形から聞いてない?ここは記憶の海。あなた達の記憶の中に残る朝倉涼子、それが私。私はこの空間でしか存在できないの。」
 
キョン「記憶なんぞとも契約できるのか。…まあいい。助けてくれたようだが、俺達に危害を加える気は無いんだな?」
 
朝倉「うーん、どうかな?この娘がそうしたいなら付き合うつもり。今はそんな気は無いみたいだけど?」
水銀燈「適当な事言わないで。行くわよ。」
朝倉「あら、怒らせちゃった。またねキョン君。」
 
真紅「私達も行きましょう、キョン。」
キョン「…ああ。」

――――――
 
キョン「…というわけだ。鏡を通じて登下校するのはやめておけ。」
古泉『分かりました、みなさんにも連絡しておきます。』
キョン「あぁ、頼む。」
 
古泉との電話を終えた俺は、どこか放心した様子で窓の外を見つめ続ける真紅に声をかけた。
 
キョン「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?」
真紅「……。」
キョン「現にああして襲われたんだ。お前と契約した以上、何も知らないってわけにはいかない。」
真紅「……。明日話すわ。放課後あの部屋で。」
キョン「…ああ、分かった。」
 
放課後文芸部室
キョン「ハルヒと金糸雀はどうしたんだ?」
蒼星石「さっき二人でどこかに行ってしまったけど。」
キョン「たく、こんな時に…。」
まぁいないのなら仕方ない。古泉的にハルヒに聞かれちゃまずい話も出てくるかもしれないしな。
 
キョン「真紅、始めてくれ。」
 
真紅「…ええ。まず始めにキョン、あなたに一つ嘘をついていたのだわ。」
 
キョン「…なんだ?もう今更だ。大低の事は受け入れてやる。話してみろ。」
 
真紅「……今私がいる世界、その4つ前にいた世界の話よ。」
 
真紅が語り始めた物語、それは不思議には慣れ過ぎたはずの俺や団員達でさえ言葉を失う内容だった。
 
真紅「才能のある男の子がいたわ、ちぎれた薔薇人形の腕を繋ぎ合わせる事さえ出来る程の、とても才能ある男の子。
   それは7体のローゼンメイデンが同時に存在した時代、…最初で最後のね。」
 
キョン「今は違うのか?」
 
真紅「途中で口を挟むのはやめなさい、…続けるわ。」
翠星石「…黙って聞きやがれです。」
真紅「突然現れた7体目のドール、実体のないそのドールはそれぞれのミーディアムを狙い、私達を追い詰めていった。 
   罠に嵌まり絵画の中に閉じ込められた私達。…契約を解いた私と翠星石、契約者を奪われた水銀燈…とても相手にならなかったわ。
   その時は逃げ切った金糸雀も、ミーディアムを捕らえられ同じ結末を辿った。先に倒されていた蒼星石、体を奪われた雛苺。
   …あの時私達薔薇人形は全滅したの、第7ドールの手によって。」
 
全滅?だが現に今…、
 
真紅「私達が目を覚ましたのは戦いから20年後。」
 
キョン「…20年?」
 
真紅「そう、そしてここからは先の話は、私達ではなく彼の記憶の内容よ。」

――――――
 
真紅「ジュンが駆け付けた時、全ては終わった後だった。バラバラにされた私達、その悲惨な光景に彼は再び心を閉ざしたの。
   彼には人形を修復する技術があった。Nのフィールドをさ迷うパーツをかき集めれば、直す事も出来るかもしれない。
   でもローザミスティカが無ければドールは動き、話す事は出来ない。第一ドール無しではフィールドに入る事など…。
   そんな思考のループを繰り返し、希望と絶望を繰り返す日々。でもある日突然、彼は一つの考えに行き着くの。
   
   ―――修復ではなく、新たな人形達を自分自身の手で作り出す。という考えにね。」
 
……。
……ちょっと待て。
 
真紅「記憶の中に生きる私達を生み出す為、彼は研究を重ねたわ。
   でも5年が過ぎ、10年が過ぎ、どれだけ試作を重ねても、人形が動き出す事はなかった。」
 
この話…
 
真紅「そして20年と2ヶ月が過ぎたある日、ついに限界が来たの。数多の人形に囲まれた自室で彼は意識を失った。
   その時よ。彼が倒れたその瞬間、私達は目覚めたの。」
 
…まさかあれは…


――その時間にインターネット上で開催されている童話投稿サイトのコンテストにそれぞれ考えた童話を投稿してください。――
……あの指令。
 
 
――すごいですねキョン君、こんなにすぐ書けるなんて――
即席で童話を作る才能なんて俺にはない。さっさと目的を済ませようと俺が書いた話。前の晩、真紅に話したホラ話。
 
 
その時ネット上に半永久的に保存されたであろう俺の投稿。
そして絶望の淵で部屋に篭もりパソコンと向かい合うだけの生活を過ごしていた少年。
 
 
――でもある日突然、彼は一つの考えに行き着くの。――
 
…読んだんだ、あれを。
 
 
―――オスの三毛猫を、『作ればいい、私の手で』―――
 
 
……そういう…事か。
 
これだったんだ、あの指令の意味は。
再び人形達が生まれるためには俺があの時間に跳ばなければならなかった。
…いや違うな、俺がいなくてもいずれ自分自身で気づいたのかもしれない。でもそれでは間に合わなかったのではないか。
時間がどう流れているかは分からないが、その小さなズレが未来を大きく歪ませる可能性は無いとはいえない。
人形達は今この時間、SOS団の元に現れなければいけなかった。
全てを解決するために。
 
 
だがちょっと待てよ?
俺の投稿が2年半前、それを見てから人形が完成するまで20年?
……まぁいい。全て終わったらゆっくり聞かせてもらう。真紅の話の途中だった。
 
 
真紅「2日間病院のベッドで過ごした後、彼は息を引き取った。
   その時覗いた記憶の中の私達人形は争う事などなく、狭い家の中で少年時代の彼と駆け回っていたわ。
   …でも彼は結局、動き出した私達を目にする事は出来なかった。」
 
…文字通り命と引き換えに、か。
 
そして、真紅がついていたという嘘。
今の真紅達は厳密に言えば、――“ローゼン”メイデンではない――
 
真紅「――私達の生みの親はローゼンではない。記憶の共有はあってもアリスになる事への執着は失われていたの。
   それでも、私達はお父様に会わなければならない。アリスゲームの本当の意味を、真意を問いただすために。」
   
キョン「…第7ドールはお前らを倒してアリスとやらになったのか?」
 
真紅「私達を襲ってくるという事はおそらくまだなのでしょうね。そしてあの娘はローザミスティカではなく、
   ミーディアムを奪う事でアリスに近づこうとしている。」
 
アリスか。確か無垢で穢れの無い超美少女とかそんな感じだったな。
今の時代ならとんだ妄想親父と後ろ指を指されること必死だろうが。なんなら長門を会わせてやろうか、条件にはピッタリだ。
まぁあれだ、7体目が契約者を狙うなら、
 
キョン「身に降る火の粉はなんとやら、だな。」
真紅「7体のドールが一斉に目覚めた今こそ、決着をつける。」
 
次の瞬間、景色がグニャリと歪んだ。
 
???「ふふふ…やってみなさいな。」
 
キョン「…来やがったか。」
グニャグニャに歪んだ文芸部室。朝比奈さんとの時間旅行の時に目を開いたらこんな感じなのかもしれない。
 
真紅「後ろに隠れて!」
声を張り上げる真紅に対して、俺は努めて冷静に答えた。
 
 
キョン「真紅、実は俺達もお前らに隠していた事がある。」
 
真紅「後にしなさい!話なんてしてる場合じゃ」
キョン「いいから聞け。こいつらは、つまり俺以外の団員は世間一般でいうところの普通の人間じゃない。」
 
真紅「何を言って…」
 
雪華綺晶「また…バラされに来たのでしょう?」
団員+ドールズを囲む巨大な蜘蛛の巣状の白荊。
 
真紅「いけない!!」
キョン「長門っ!!」
 
真っ直ぐに突き出した長門の細腕が、巨大蜘蛛の巣を捉えた。
長門「空間座標確認、」
 
そして、
朝倉「ついでだし手伝おうかしら。」
キョン「朝倉!?」
 
長門&朝倉『『――情報連結解除、開始』』
 
雪華綺晶「!?」
風が流れるような音と共に辺りを覆い尽くしていた蜘蛛の巣が光の砂になり溶け消えていく。
 
蒼星石「……?」
大鋏で荊を刈り取ろうと飛びかけていた蒼い子が驚きに固まっている。
そして怯える、朝比奈さんと雛苺。…朝比奈さんはそろそろ慣れて下さい。
 
翠星石「…シャイ人間…今の何です?」
 
長門「……それは、禁則事項……なのだわ。」
 
みく・紅「なっ…!」
キョ・翠「ブッ!」
 
 
真紅「…わ、私の物真似なんていい度胸ね。それにしても、禁蘇駆磁光…なんて恐ろしい技なの。」
翠星石「…とんだトゥー・シャイ・シャイガールですぅ。」
 
吹き出しちまった、まさか長門がボケるとは。
それに朝倉、毎回毎回カッコいいタイミングで出てきやがって。
 
だが、当の長門はどこか様子がおか…
 
――ふらっ、
 
キョン「…おいっ、長門!!」
倒れかけた長門を受けとめる。呼吸が浅い…それに何だ、この体の冷たさは…。
 
雪華綺晶「…ふふ、まず一人。」
 
…ちっ、こいつが!!
キョン「おい真紅!攻撃す…」
 
こちらを向いた真紅の顔は蒼白に染まっていた。
 
 
…そうかこの状況は、このアホが…
 
真紅「…キ、キョン、契約を…」
 
キョン「解いてどうする。逃げるか?」
 
真紅「!」
 
キョン「あれから4つ世界を渡って来たとか言ったな。契約者が危機に陥る度にそうやって逃げ出してきたのか?
    口では7番目を倒すと言いながら!ローザミスティカを護れと言いながら!!」
 
真紅「それは…」
 
古泉「…っ。」
蒼星石「マスター!!」
 
雪華綺晶「…ほぅら、二人目。」
 
…くっ、古泉まで!やはりここじゃ力は使えないのか…!?
 
キョン「真紅!!お前は後悔した事はないのか!?契約を解かずに闘っていたら、1度でもそう考えた事はなかったか!!」
 
真紅「!!」
 
キョン「俺は長門を守らなきゃならない、一応古泉の野郎もだ!手を貸してくれ!!」
 
真紅「……。」
 
雪華綺晶「お話は、終わった?スゥーウィ。」
 
キョン「真紅っ!!」
 
真紅「ホーリエ!!」
 
派手な衝撃音、そして閃光。
 
キョン「…やっとやる気になったか。俺の体力なら好きなだけ持っていけ、死なない程度にな。」
 
真紅「ええ、そうするわ。二人のミーディアムと後ろに下がっていて。水銀燈、手を貸して頂戴。」
 
水銀燈「私一人で足りるのだけど。…まぁ、いいわ。後ろから来なさい。」
 
空中で複雑に交錯する紅・黒・白、3色の花びら。
 
よし今の内に…、
キョン「しっかりしろ長門、古泉!」
朝倉「睡眠時の状態に近いわね、それに衰弱が激しい。有希…。」
翠星石「シャイ人間…しっかりするです…!」
蒼星石「マスター…!」
 
長門「…朝倉涼子、手伝って。」
朝倉「……。やめなさい、それ以上消耗したら死ぬわよ。」
長門「構わない。」
朝倉「…あーもう、わかったわよ。」
 
キョン「おい、お前ら一体何を…」
 
長門&朝倉『………』
…ん?
 
長門&朝倉『…………………』
これは…
 
翠星石「…なんです…、もっとはっきり喋りやがれですぅシャイ人間…!!」
 
 
――ヒュンッ、
 
ん?
なんだ…白荊…!?
…まさかあの二人を相手しながら…マジか!?
 
真紅「…!?キョン!!」
…なんだ、この眠気…マズ…い…
 
雪華綺晶「…三人目ね。」
 
長門「…………。終わった。」
 
その時、どこかで扉を開くガラッ、という音がした。
 
扉?
…あぁそうか。長門と朝倉がこじ開けたのだ、この歪んだ空間を。
 
???「おりゃーっ!!!」
 
ドロップキック一閃。
目の前まで迫っていた白薔薇の姿が一瞬にして俺の視界から消え去った。
 
…来たか。
 
ハルヒ「アンタ何勝手に人んち部室を異空間化してくれてんのよ。そーいう事はね、アタシのいる前でやりなさい!カナッ!!」
 
金糸雀「はっ、はい!」
慌てたようにバイオリンを奏で始める金糸雀。
バイオリンは全くのド素人の俺でも上手いか下手か位は分かる。…これはなかなか、
 
ハルヒ「G線もっと押えるっ!!」
金糸雀「はいぃ!!」
 
ゲーセン?
ったく、教育なら後にしろ…んな事してる場あ
 
――ドッゴォオーーーーンッッ!!!!――
 
ドールズ「………は?」
 
ハルヒのドロップキックの比ではない衝撃、突然吹き飛ぶ雪華綺晶。
 
キョン「……今の、金糸雀が…?」
ダイナマイトが至近距離で爆発したような(見た事はないが)原作とは桁違いの破壊力。
…またハルヒパワーか?
 
真紅「なんなの今の…あの子にあんな事できたなんて…。」
水銀燈「…あ、あの子ちょっと前まで空気扱いだったじゃないの…。」
翠星石「…殺人バイオリンですぅ、早急に法規制するべきですぅ。」
 
金糸雀「……今の、カナが…?」
 
ハルヒ「そーよ、それでいいのよ!やればできるじゃないのカナ!!
    それに比べてアンタ達っ!!なにボサーッと突っ立ってんの!!!」
 
ドールズ(ビクッ!!!)
 
ハルヒ「逃がすなっ!!!!」
 
…やれやれ。
 
水銀燈「そろそろイキなさい!!」    朝倉「フフ、殺してあげる♪」
金糸雀「もらったかしらっ!!」     ハルヒ「おぉりゃぁーーー!!!」
翠星石「ブッ飛びやがれですっー!!!」 長門「………、…、……、………。」
蒼星石「行くよマスター!!」     古泉「もう、必要なさそうですが。一応動いておきましょうか。」
真紅「キョン、根こそぎ体力もらうわよ。」キョン「根は残せ、死ぬだろうが。」
雛苺「どっか行っちゃえなのー!!」   みくる「あ、あの私やる事が…。」
 
雪華綺晶「…くっ!!」
 
真紅「薔薇の竜!!!!」
 
 
――
――――
――――――――。 
 
数日後
 
朝比奈宅
みくる「いつでも遊びに来てくださいね、雛苺ちゃん…。」
雛苺「みくるー…。絶対来るの。すぐ来るなの…。毎日来るなの…。」
 
みくる「雛苺ちゃん…」
雛苺「みくるー…」
みくる&雛苺『ふ…ふぇ…うわーん…。』
 
 
長門宅
翠星石「もっと自分から話しかけないとダメですよ、シャイ人間。円滑な人間関係は毎日のコミュニケーションからです。」
長門「…努力する。」
 
翠星石「…努力する。
    暗い!!もっと明るくしやがれです!!あのカルビとかいう女からヒョンの野郎を奪い返すです!!」
長門「…努力する。」
 
翠星石「…これはかなりの教育が必要ですぅ…。次会う時には週8のペースでトークを叩き込んでやるから覚悟しとけです。」
長門&翠星石『……そう。』
 
翠星石「暗い!!全くあきれたシャイ人間…」
 
長門「カレー」
翠星石「へ?」
 
長門「作って待っている。」
 
 
第?????世界
朝倉「少しはお役に立てたかしら?」
水銀燈「ふん、いないよりはマシって程度にはね。」
朝倉「…まったく。で、これからどうするの?」
水銀燈「決まってるじゃない。残りを壊しに行くのよ。」
朝倉「…はぁ。私が言えた義理じゃないけど、その性格直した方がいいわよ。あとその目つき。」
水銀燈「常にナイフ持ち歩いてる様な奴に言われたくないわ。」
朝倉「アハハハ、それもそうね。ま、たまには会いにきて、この中すごくヒマなの。」
水銀燈「…そうね、考えておくわ。」
 
 
古泉宅
蒼星石「そろそろ行くよ、マスター。」
古泉「そうですか。他の人形達にもよろしくお伝えください。」
蒼星石「うん。マスターのいろんな話、すごく面白かった。特に金糸雀のマスターの話。僕達の世界よりずっと不思議だ。」
古泉「僕も楽しかったですよ。またいつでもいらしてください。次に会うときまでに話の種も増えているでしょうから。」
蒼星石「うん、必ず。じゃあ、またねマスター。」
 
 
ハルヒ宅
金糸雀「ハルちゃん…。」
ハルヒ「なんかあったらすぐ呼びなさい。団員全員でブッとばしに行ってあげるから。」
金糸雀「ハルちゃぁん……。」
ハルヒ「泣くんじゃないの!会おうと思えばいつでも会えるわよ。」
金糸雀「うん…。また来るかしら…絶対また来るかしら…!」
ハルヒ「次来る時まで毎日バイオリン練習しとくのよ?もっとうまくなったらピアノで合わせてあげる。」
金糸雀「…うん、頑張るかしら…!ありがとうハルちゃん…。」


?????
雪華綺晶「…お礼を言います、マスター。あなたのおかげで、私はアリスになる事ができた。」

???「…………。」

雪華綺晶「あなたはもう、目覚める事は無いけれど…どうか、よい夢を…マスター。」


―――


???「ふふ…可愛い寝顔。」

雪華綺晶「…………。」


???「お礼を言うのはこちらの方です。あなたのお陰で、涼宮さんの退屈は晴れてくれた。
だから今は、ゆっくりと休んで下さい。…せめてその傷が癒えるまで、」

雪華綺晶「………。」


喜緑「――偽りの夢に抱かれて、お眠りなさい…雪華綺晶――」

―――――― 

キョン「最後に一つだけいいか。」
 
真紅「何?」
 
キョン「新しく生まれてから4つ世界を渡り歩いたと言ったが、必ず過去から未来に飛ぶのか?」
 
真紅「時間の流れなんてあってないようなもの、前にいた世界と今いる世界が地続きのものとも限らない。別の世界とを繋ぐ扉は至る所に開いているの。」
 
キョン「分かったような分からないような…。」
 
真紅「けど…そうね、前いた世界で見た映像には21――年と表示されていたわ。」
 
キョン「この本に描かれているのはいつだ?ジュンがいた年代は。」
 
真紅「確か、20××年だったかしら。」
 
…やはり、行き着くのはそこか。
 
――3年前。
 
跳ぶ前後の世界が地続きとは限らない。
だがジュンが俺の童話を読んだであろうこと、そもそもこんな本がこの世界にあること、
それを考えればこことジュンの世界は確かにどこかの扉とやらで繋がっているのだろう。
 
そしてもし、地続きの世界であるとするなら。
ジュンは今この瞬間も一人どこかの部屋に篭もり、新たな人形を生み出す途中なのだろうか。
 
真紅「そろそろ行くわ。世話になったわね、キョン。」
 
キョン「妹も淋しがるだろう。いつでも会いに来い、部屋に鏡を用意しておく。」
 
真紅「紅茶も用意しておきなさい。」
 
キョン「ああ、上等な葉を仕入れておく。それと真紅、」
 
真紅「何?」
 
キョン「俺達に手に負えそうにない厄介事が起きたら、手伝いに来てくれ。」
 
真紅「ええ、そうね。全員で駆けつけるわ。この薔薇の指輪にかけて。」
 
 
 
 

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