退屈な授業を終え、もはや習性と化したように俺は文芸部室へと足を運んだ。
中から聞こえるドタバタと騒がしい音は、またハルヒが朝比奈さんに襲いかかっているからだろうか。
そんなことを考えつつ、ドアをノックすると返ってきたのは

「どうぞーッ!」

意外にも切羽詰まったような古泉の声。一体こいつはなにをしているのかね?

「おいなにやっt…」

扉を開けつつ尋ねようとしたが、あまりの光景に絶句した。
なんてことだ、長門が古泉に襲いかかっている。
変な意味ではなく、長門は古泉に馬乗りになり引っ掻き、古泉は必死に顔を庇っていた。
変な意味の方だったら俺は古泉をどつき回していただろうね。
だが目の前の光景はまさに修羅場であり、さすがに古泉がかわいそうなのでとりあえず止めた方がいいだろう。

「長門、一体どうしたんだ」

肩を掴むと、長門は俺を見上げ、
「ふにゃあ」
すり寄ってきた。なんなんだこれは。まるで猫じゃないか。猫耳っぽいのついてるし。
内心ちょっと嬉しいが、長門にしては奇抜すぎる行動に俺は呆気にとられた。

……

「恐らく涼宮さんが望んだからこうなったのでしょう」

俺の正面で腕に痛々しい傷をこさえた爽やか超能力者が解説を始めた。

「昨日の帰りに涼宮さんが言っていたことを覚えていますか?」

昨日の帰り?ああ、たしか、
『有希にはまだなにもコスプレさせたことがないわね。今度は有希に猫耳つけて物真似でもしてもらおうかしら』
とか言っていたっけか。

たったそれだけのつまらない発想からこんな迷惑なことになっているのか。
ちなみに長門は今、俺の膝枕で丸くなり寝息をたてている。
内心、かわいすぎてたまらないのは内緒だ。でも、長門ならなんとかなったんじゃないのか?

「これは僕の推測ですが、恐らく統合思念体は涼宮さんの影響が最も観測の容易なポイントに現れたのを喜ばしく思ったのでしょう。
それで修正のプロセスにロックをかけたのではないかと」

なんてこったい。

「対策としては、他のTFEI端末に協力を仰ぐか、又は涼宮さんをなんとかするかでしょうね。
ただし前者は言うまでもなく期待できません。」
ハルヒをどうにかするってもなあ。だいたいこの状態の長門をあいつに見せていいものk…
「全員揃ってるー!?会議を始めるわよー!」

来やがった。勢いよくドアが開き、『あいつ』が現れた。

その瞬間、寝ていたはずの長門が飛び起きた。何故かその目は爛々と光っているように見える。

「あら、有希寝てたの?…ていうかキョンの膝枕で…ちょっとキョン!!あんた有希に何したの!?」

何もしてねーよ。そんな弁解も虚しく、我らが団長ハルヒはずかずかと歩み寄ってくる。
つーか今の長門をこいつに見せるわけには…

「うにゃあ!」
「きゃっ!?」

長門がハルヒに飛びかかり、そのまま押し倒した。

「ちょっ何ッ有希どうしたの!?やめンッ…あ…」

長門はハルヒの頬を舐めている。飼い主にじゃれつく猫に見えなくもない。やたら扇情的ではあるが…。
このままではまずいので長門を止めにかかろうとしたが、その前に長門はハルヒの服に手を入れだした。

「有希っやめてくすぐったいっ…」

ハルヒと目があった。

「……!見るなバカァッ!!」

顔を真っ赤にしたハルヒの怒号に追い立てられるように俺と古泉は部室を飛び出した。

さて、これからどうしたものか…。目の前のハンサム面とほぼ同時に溜息をついた。
部室からはまだ悩ましげな声が漏れている…

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最終更新:2020年03月12日 13:27