「いやいや、きのうはお疲れ様でした」

ここは放課後の部室。


今ここにいるのは僕と長門さんの二人、そして三人目の彼が入ってきました。


「全くだ。二度と行きたくないと思ってたんだが」


疲れ切った表情で彼は答えます。今日はいつにも増して疲れているようです。
実は昨日の夜、またしても大規模な閉鎖空間が発生してしまったのです。
今回も彼の「勇気ある」、とでも言うべきなんでしょうか。
行動のおかげで事なきを得たわけですが。
彼がもう少し素直になれば、二度とあんな空間に行かなくてもいいと思うのですが…
ああ、どちらにしても彼は同じことをする羽目になりそうですね。


「お疲れのようですね。何かお手伝いできることなら何でも」


「…そうだ古泉、そのことでちょっと質問なんだが…」


「何でしょう。何なりとお聞きください」


「閉鎖空間に行ってる間、俺はこの世界から見てどうなってるんだ?
 記憶やらを共有してるのはわかるが、その間元の世界の俺は
 体ごと消えちまってるのか、それとも…何だ、こう…夢を見てるみたいに、
 精神だけが向こうの世界に行っちまってるのか。閉鎖空間にいる俺は俺なのか?」

そういえば考えたことがありませんでした。

閉鎖空間に行く時はいつも緊急事態でしたから。
しかし僕自身、興味を惹かれる問題ではあります。


「残念ながら、僕には分りかねます。あなたや涼宮さんはおろか、
 『機関』の人間が出入りするところも見たことがありませんから。
 自分で自分の姿は見えませんしね。こういうことは長門さんのほうが知っていそうですが」


「どちらとも言えない」


長門さんが口を開きました。


「あなたの言う通り、身体ごと次元断層に取り込まれる場合もあれば、
 身体を残し、あなたの言うところの『精神』だけが取り込まれる場合もある。
 次元断層の創造者や入り込む者の意思がある程度影響していると思われるが、
 明確に断言することはできない」


「長門にもわからないなら、しょうがないか」


そういえば珍しいことですね、彼が自分から閉鎖空間の話を切り出すのは。


「何か気になることでも?」


「いや、何となく思っただけだ」


まあ、あの空間は訳のわからないことばかりですからね。
彼がそうした疑問を持っても何の不思議もありません。




それからしばらく経ったある日のことです。


「じゃじゃーん!重大発表ーっ!!」


いつも以上にご機嫌そうな涼宮さんが、約一名の男子生徒を引きずるようにして部室に入ってきました。
彼のほうはいつものようにあきらめの境地に達しているようです。


「発表って、何かあったんですかあ?」


朝比奈さんのその問いに、涼宮さんは何も言わずに満面の笑みを浮かべるだけ。
全員が揃った部室の団長席の前に仁王立ちする涼宮さん。


「いい?聞いて驚かないでよ?」


部屋全体をゆっくり見回し、我々三人の視線を自分に集中させた後、
床に座った彼の手を掴んだまま、こう発表しました。




「実はね………赤ちゃんが出来たの!」



…ああ、そういうことでしたか。


「え?キョンに決まってるじゃない。

 冗談なんかじゃないわよ。あたしも最初は夢だと思ったんだけど…」




本当にあなた方は…
まったく、しょうがない人たちですね…


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