高校に入学して2回目の夏。俺達はまた例の機関所有の孤島に合宿に来ていた。その2日目の話だ。
孤島の別荘から伸びる三叉路、俺はそこで途方に暮れていた。向こうから古泉が走って来る。
「駄目です……島の東側では見付ける事が出来ませんでした。」
その顔には普段の余裕の微笑みは無く、焦燥に満ちている。さっき国木田が北側を探したが居なかったらしいし…俺が調べた南側も人影なんてまるでなかった。
「後は新川さんが捜索している西側だけですか……これはいったん別荘に戻って情報を整理した方が良いですね。」
「それしかないな……分かった。」
 
やれやれ、なんだよこの状況は…また機関絡みか?
 
 
午前7時過ぎに目を醒ました朝比奈さんによると、既にハルヒは居なかったらしい。その時は朝比奈さんは、天気も良いし朝の散歩にでも行ってるのだろうと気にしなかったらしい。
しかし朝食時になってもハルヒは戻らなかった。おかしい……不穏な空気が流れ始めたダイニングに、昨日から体調が優れず寝ている森さんを起こしに行った国木田が……血相を変えて帰って来た。
森さんが居ない。
 
国木田はそう言うと新川さんや多丸兄弟に心当たりがないか聞いていたが、誰も森さんの所在が分からないと言う。
かくして俺達は手分けしてハルヒと森さんを捜索する事になったんだが…この小さな孤島を3時間も捜したが手掛かり1つ掴めなかった。
 
 
「新川さん、どうでしたか?」
別荘の入り口では新川さんが俺達を待ってくれていた。
「残念ながら西側にも人影はありませんでした。」
「先ほど彼が南側を捜した時に専用ハーバーにクルーザーが在ったようですから。島には居るはずなんですが…」
「そうですな…森もあのお嬢さんもクルーザーを操舵出来ないはずですからな。」
「しかし、これだけ捜しても居ないとなると……長門さんに協力して貰うしかないですね。」
そうだな……別荘に入った俺達はホールで待っていた長門達と合流しダイニングで作戦会議をする事にした。国木田はやはり森さんが心配らしくまだ別荘の外を探しているらしい。
「長門さん単刀直入にお伺いします。涼宮さんの現在地が分かったりしませんか?」
長門はいつもの様にミクロン単位で首を傾げ、暫くして分からないと答えた。どうやら洒落にならん事態かもしれんな。
 
 
しかし…ハルヒだけ居なくなったなら散歩がてら外に出て、森さんもいないだけに森にでも入って未だに迷っている……(すまん、なんでもない)なんて言うギャグ漫画的なオチもありだが……森さんまで居ないっていうのはどういう事だ?
また機関お得意の推理ゲームってやつか?確か以前は裕氏が圭一氏を殺して……みたいな流れだったしな。どうせまたそんな感じなんだろ
「それなら、森さんと国木田君にしますよ。あの2人なら痴情のもつれと言う名のサスペンスの王道が使えますからね。」
それもそうだな。もっともあの2人が痴情のもつれを起こす関係までいっているかは知らんないけどな。
「痴情のもつれ…森と国木田君……まさか……」
新川執事が何かに思い至ったように呟いた。
「どうした新川?」
圭一氏が新川さんに先を促す。新川執事は少し思案する様な仕草を見せたが、意外に短かく言った。
「はい。涼宮のお嬢さんは森に連れ去られたのではないかと。」
………そりゃ安直すぎないか?少なくとも森さんには動機がないじゃないか?
「我々機関の人間は涼宮さんによって無理矢理異業の能力を持たされたてしまった者達です。それだけでは動機になりませんか?」
古泉、お前の言いたい事は分かる。しかしだな、森さんは以前現状維持を望んでいると言ったんだぜ?それを今更ひっくり返すか?
「今だからあるのですよ…そうでしょう新川さん?」
 
 
「はい、森は機関の事を国木田君にうち明けるかどうかを酷く悩んでおりましたからな。」
しかし…たったそれだけの理由でハルヒを誘拐してどうにかしちまおうと思わんだろ……俺にはあの実は中身が黒そうな年齢不承な美人メイドさんが、色恋沙汰程度でトチ狂う様には思えないけどな。
しかし、国木田はまだ外を探してて正解だな、さすがに今の話を聞いたら混乱するだろうしな。
「取り敢えず捜索を再開しましょう…まさかの事態は……流石に僕も避けたいですからね。」
 
 
まさかの事態なぁ…もしそんな事が起きてもあのハルヒだぜ?いや、でも森さん相手だと厳しいかも知れんって別に俺は心配してるワケじゃないからな!しかし…なんで落ち着かない気分になるんだ?
 
取り敢えず別荘の周りを徹底的に探す事にした俺と古泉は別荘の倉庫の中を探していた。
「あれは……」
どうした古泉?ってあれは……
 
倉庫の床に、いつもハルヒが着けているリボン付きの黄色いカチューシャが落ちていた。
 
ドクン
 
心拍数が一気に跳ね上がる……まさか…嘘だろ?!
「おい、古泉……これは…」
「僕もここに入ったのは初めてですから、なんとも言えませんが…この倉庫を重点的に探すしかないでしょう。」
 
という訳で古泉と2人で倉庫の中を探し出したんだが…俺は気が気じゃ無かった。
最悪の事態ばかりが頭をよぎり、全身から嫌な汗が吹き出し、喉がカラカラになる……クソっ!ハルヒ…無事でいてくれ…等とガラにも無いキャラで倉庫を探していると…何故か古泉の野郎がいつものいけ好かない微笑みでこっちを見てやがる。
「なんだよこんな時に…」
「いえ、先程までとは随分様子が違いますので…どうしたのかと。」
「だってお前、これは洒落にならんだろ?」
俺はハルヒのカチューシャをニヤケ面に突きつける。
「仮に森さんが涼宮さんを誘拐したとしたらこんなヌルい手掛かりは残さないでしょう?」
そりゃあそうかも知れんがな…嫌な予感がするんだよ。そうだな…お前が森さんの立場ならどうする?
「そうですね…追い詰められれば、涼宮さんを亡きものにする。という選択肢に辿り着いしまうかも知れませんね。」
などと洒落にならんた事を言った後、失礼貴方への配慮を忘れていましたと苦笑しながら付け加えて、また倉庫の中を探す作業に戻った。……俺はそんな酷い顔をしていたのだろうか?
因みに倉庫はかなり広かった。長門が住んでるマンションの一室とまでは言わないが、学校とかによくある体育倉庫の比じゃなかったな。まったく、よくもハルヒのカチューシャを見つけられたもんだと古泉に関心してやらん事もない。
しかしハルヒを亡きものに発言は許せんな。
って論点ずれてるな俺…これじゃ俺はまるで俺はアイツを…いや、違う!違うぞ!断じてそれはない!いや、あってたまるか?!そうだ、あいつは確かに見た目は可愛い、美人だと思うな。
しかし、しかしだ…その中身に難が有りすぎる。複雑奇怪で自己中心的で人の話を聞かないんだからな…まぁそれさえも今では心地よい訳であり朝比奈さんのお茶に勝るとも劣らない俺の癒しの……ってあれ?何か思考がずれてないか?
オーケー落ち着け俺。ただハルヒが心配だから思考が狂っているだけであってそれ以外の何物でもない!そうだよな、俺は別にあいつに特別気があるだなんて…
「心配で思考が狂うとは…そこまで涼宮さんを大切に思っているのですね。」
あぁ…そうさ…俺はきっとあいつが大せ…って古泉!お前やっぱり人の思考を覗けるのか!?
「………全部口からだだ漏れなんですが……。んふっ…まぁ良いでしょう、あなたの涼宮さんへの気持ちは分かりましたから捜索を再開しませんか?」
 
…何か好き勝手言われてる気もするが取り敢えず今はハルヒと森さんを探すのが先決だからな、古泉の妄言は華麗にスルーしておいてやろう……後で言及させてもらうぞ……っておぉぅ?!
先程説明したが、此処は無駄にだだっ広いが、物が乱雑に置かれた倉庫だ。俺が油断してダンボールに躓くのは差し当たって何の問題も無い……がその後が最悪だった。
躓いてよろけた俺は必死にバランスを保とうと、天井から垂れ下がっていたロープを掴んだのだが…
ガゴッ!……ガタンッ!
 
って隠し階段!?
 
助けを求めようと古泉を見たが…あの野郎電話してて、こっちに気付いてねぇぇぇぇぇ?!
哀れ俺は足元の床が動いて現れた下りの階段を転げ落ちた。
 
くっそ、痛ってぇなぁ…どうやら階段はあまり長い距離を降りる物では無かったらしく、俺に怪我は無いが…ったく、忍者屋敷かよここは?
まさかハルヒに合わせて改築でもしたのか?とことん傍迷惑なヤツだなアイツも、しかしこんな地下まで作ってあるって事は、今回も機関のサプライズイベントだなこりゃ。目の前に「ここは怪しいですよぉおぉぉお!」って絶叫してる様な扉もあるし間違いはないだろ?
さて今回はどんなイベントなのかね?なんて軽い気持ちでドアノブを手にした俺に聞こえてきたのはハルヒの悲痛な俺を呼ぶ声だった。
 
「ハルヒっ!?」
 
絶叫しながら扉を開けた俺の目に飛び込んできたのは、今まさに森さんに胸を刺されたハルヒだった………
 
 
 
「あら…一足遅かったみたいですね…」
残酷で凄惨な笑みを浮かべたメイド姿の悪魔は俺に振り返るとそう言いながら、俺に見せつけるようにナイフをぐりぐりと捻り引き抜く。
ハルヒ体がビクンと痙攣し胸元から鮮血が吹き出し床に崩れ落ちる。
残酷な笑みを浮かべたメイドに返り血が真っ赤に染める。
「フフッ…アハハハハハッ!ハハハハハハハハッ!」
部屋に彼女の壊れた様な哄笑が響く。
あまりにも凄惨で狂気じみた光景に、俺はその場から一歩動けなかった。
「あらあら情けない人ですね…てっきり飛びかかってくると思ったのですが……そんなに私が恐ろしいのですか?」
森さんは俺を挑発するように嘲笑するが、俺の体は麻痺したように全く動かなかった。
「ふふっ…まぁ良いでしょう後は国木田君を快楽に堕として奴隷にすれば全て終わりですものね。」
メイドの姿の悪魔は舌なめずりをしながらそう言うと、俺が入ってきたのとは別の扉から去って行った。だが、今の俺にはそんな事は関係ないそれよりも……
「ハルヒっ!」
俺は凄惨な光景に萎える俺の足を気力を総動員して何とか動かし、ハルヒを抱き起こした。
よく見ると抵抗出来ない様に後ろ手に縛られ、足も拘束されていた……ハルヒの体はまだ暖かだった…今も胸部からは赤い液体が流れ出て俺とハルヒを染めて行く…
 
嘘だろ…こんなのってありかよ?俺はまだこいつに何にも言ってないんだぜ?って何を言うつもりなんだよ俺は?違うな……もう止めようぜ、自分でも見苦しいだろ?
「なぁ…ハルヒ…ごめんな…こんな風になるまで気付かなくて…最悪だよな…失ってから気付くなんて…ハルヒ…俺お前の事が好きだったみたいだ。」
失ってから気付くなんて言葉はあるが、俺はどうなんだろうな?気付いてたのに知らないフリをして居ただけなのかもな。
「ハルヒ…ごめんな、こんな大馬鹿野郎で……」
唇を半開きにし、目を閉じたハルヒに俺は唇を重ねる。あの時以来のキス、現実世界のそれの味は何だかしょっぱかった。
そしてゆっくりと、どちらからとも無く、舌をおずおずと絡め深く口付け、唾液を交える…あぁ…キスってこんなにゾクゾクするモンなんだな……
 
……あれ?ちょっと待て、今おかしく無かったか?「そしてゆっくりと、どちらからとも無く、舌をおずおずと絡め深く口付け、唾液を交える」って何だ?
ハルヒは例の狂気のメイドさんに胸を刺されて今も血を流してて…まぁどう考えても舌を絡められる筈はない。俺は少し冷静になって考える為に唇を離しハルヒの顔を見る。
少し瞳を潤ませ、唇を半開きにし頬を少し紅潮させている。「キョン…もっとちゃんと…」と言いたげな物足りなさを訴える艶めかしい表情…ってまてい。
取り敢えず考えてみよう。
 
 
1ハルヒは今さっき胸を刺されて崩れ落ちた。
2今は瞳を潤ませて俺を見つめている。
3血がこんなに溢れてるのに血臭がしない。
4長門に朝比奈さん、古泉含む機関の面々がでっかい「ドッキリでしたw」って書いたデカいプラカードを持って乱入してきた。
さて問題です!これはどういう事でしょう?
A機関のサプライズ
B機関のサプライズ
C機関のサプライズ
D機関のサプライズ
どれも違うな答えは
Eハメられた、だ!
ファイナルアンサー?
ファイナルアンサー
…………………正解。
あぁあぁああああああああぁあぁあぁぁ!!1!!1!1!
 
「ごめんねキョン…どうしてもアンタの気持ちを知りたくて……」
しかしだな物事には限度があるだろ?いや…こいつに限度なんてないか……まぁ元はと言えばいつまでも自分の気持ちに気付かなかった俺が悪いんだろうな……俺こそごめんな……ハルヒ。
「何泣いてんのよ?ここはやって良い事と悪い事があるだろ!って怒るトコじゃないの?」
「……うるさい。良いんだよ…俺はお前が居るだけで嬉しいって喜びを噛み締めてるんだからな。」
「何恥ずかしい事言ってんのよ……バカキョン……でもね、あんたのそんなトコもその…すっ好きよ。」
ハルヒのバカキョンがこんなに嬉しいなんてな…恋愛は精神病ってのはこいつのセリフだが……俺のはかなり重いらしい。
 
「さて皆さんは我々はお邪魔なですし別荘でゆっくりしましょうか?」
「そうね……血糊とは言え流石に気持ち悪いわ。」
「しかし青春ですなぁ。」
「しかしたった1年で別荘をここまで改築するとは思わなかったよ。」
「じゃあ、みんなもどろうか?」
「それでは皆様お疲れ様でした。」
「「「「お疲れ様でした~」」」」
古泉の号令に従って機関の面々はゾロゾロと扉を出て俺が転げ落ちた階段を登って去っていった。
「取り敢えずおめでとうかな?じゃあキョン、僕達も別荘に戻るね。」
「ぐすっ…良かったですぅ……本当にキョン君も涼宮さんも…」
「………お幸せに。」国木田、朝比奈さん、長門も俺とハルヒに賛辞を述べ部屋を後にした。
「じゃあ、涼宮さんとごゆっくり……そうそう、ここと隣は自由に使って下さって構いませんから明日の朝出発前にまた来ますね。」
そう言い残して古泉が最後に扉をでた後、ガチャリと何かが閉まる嫌な音がした。ひょっとしなくても俺達閉じ込められた?
「あっ大丈夫よキョン。隣の部屋になんでもあったから。」
……え~とハルヒさんそう言う問題じゃないような……
「流石にあたしも血糊が気持ち悪いし、シャワー浴びてくるわね。」
そう言うとハルヒは自分で縄を外し隣の部屋へ消えてしまった。何か色々置いてけぼりなんだが……そう言えば俺も血糊塗れだな…あいつの後でシャワー浴びるか。
ハルヒを追って入った隣の部屋はまるで高級ホテルの一室の様な部屋だった。金かけてるな機関。
 
だがしかし、お互いの気持ちを告白したばかりの男女にこれは早くないか?俺の考えがおっさん臭いのだろうか?
俺が1人悶々としているとハルヒがシャワーから出てきた。しかもバスローブ一枚で……
「サッパリして気持ち良かったわよ?あんたも入って来たら?それ気持ち悪いでしょ?」
俺の血糊でベトベトの服を指差して笑う。
お前…意味分かって
「うっさいわね、分かってるわよ!決心もしてる。だから…行ってきて。」
ハルヒがじっと俺を見つめてくる。どこか不安そうな、でも強い意志を秘めた瞳で……やれやれ、そんな目されたら断れないだろ?
 
 
 
さて……どうするんだこの状況は?俺はシャワーの温度を水並してに浴びながら、まるで滝に打たれる修行僧の様に目を閉じ考え込んでいた。
確かに俺も健康的な一般男子校生だし性欲もある。好きな少女と肉体的に結ばれるなんて、正に夢の様な状況だ。
だが……それでいいのか?俺はあいつの不安混じりの決意を秘めた表情なんて見たいんじゃない。俺がいつも見ていたいのは…朝日を反射する海よりもキラキラと輝くあいつの笑顔のはずだろ?
なら…答えは決まってるだろ?スマンな……古泉せっかくここまでお膳立てを整えてくれたのにな……
「で……良かったの?もうあんなチャンスないかも知れないわよ?」
良いんだよ。それともそんなにしたかったのかエロハルヒ?
「ばっ?!バカ!!エロキョンに言われたくないわよ!アタシ知ってるのよ?あんたが昨日一睡もしてないの。」
ほうほう…お前も寝てないのか奇遇だな。
「何がお互いの昔話をしないか?よ格好つけ過ぎよ…」
 
全く…顔を真っ赤にしながら強がっても説得力ないぜ?
帰りのフェリーの中結局最後の一線をこえられなかった俺とハルヒは2人で海を眺めていた。
正直ちょっと残念な気もするが後悔はしていない。告白とキスが同時になっちまったしな…その分他は遅くても構わないだろうさ。
「なぁ…別れ際に森さんと何を話してたんだ?」
「だ~め、女同士の秘密なのよ!まっ、何で別荘の掃除のために国木田が森さん達と一緒にもう一日残ったのか考えなさい。」
何となく分かるような分からんような…まぁいいか、新学期に国木田から聞いてみれば良いことだしな。
それよりハルヒ…
「んっ?何よ…改まっちゃって…」
「あ~その何だ、ちゃんと言って無かったらからな…そのだな、俺とつ、つつつきあっ」
「あ~はいはい、分かってるから無理しなくて良いわよ……ホっントに昨日の事と言い、妙な所で硬いのよねあんたは…」
ハルヒは俺の大好きな大胆不敵な笑顔でこう言った。
「まぁ、そんな所もバカキョンらしくてアタシは大好きだけどね。」
やれやれ、バカ呼ばわりされて顔がにやける俺も相当重い病気だな。
まぁ、なんだ…俺もお前のそう言う気の強い所嫌いじゃないし、その笑顔が何より大好きだぜ…ハルヒ。
 
 
森園生の電子手紙エピローグ2
番外編涼宮ハルヒの誘拐
終わり。


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