今日までの出来事が全て、夢だったらいいのになって何度も思った。
だから、書いてみた。書いて夢になると信じて。
 
ほら、よく漫画の中の夢にあるじゃない?
私の目の前に食べきれないほどのお菓子が積み上げてあって、
それに手を伸ばし、まさに食らいつこうというところで、
無粋に起こされて目を覚ますの。
 
それはとてつもなく長い長い夢で、
私は1年以上も眠っていたことになっている。
 
そう。
私は、退屈の野球試合のあと、有頂天に駆け出して、
赤信号の横断歩道に踊り出して、バイクにはねられてしまった。
それでずっとずっと1年以上も意識が戻らなくて、
ようやく、目が覚めるの。
 
まぶたを開けた時、そこには病院の天井が飛び込んでくる。
それから、ずっと看病しててくれたキョンが覗き込んでくれて…。
あははは。さすがにこれは出来すぎか。
 
でも、いいよね?
こういうことにしてもいいよね?


 
生まれてきて、ごめんなさい。
 
私は、マンションの非常階段にぽつんと、たたずんでいた。
……夢の記憶は残ってる。
そうだ、私はベランダから出たんだ。
…扉の鍵は閉まってるから、……またベランダから入らなきゃ。
はぁ、…………ん、…………。…………わ、
足がずるっと滑って、浮遊感。
そして、頭部に言いようの知れない激痛が走った。
そのあまりの痛みに、私は悪夢の霧が晴れる………。
…私は非常階段から自分の部屋のベランダに戻ろうとして足を滑らせて、…2~3階下のエレベーターフロアの出っ張った屋根の上に落ちたのだ。
私のフロアは8階。
こんなところで受け止められるなんて、思わなかった。
落ちたとき、ちょうどコンクリートの角で頭を打ったらしく、ものすごい激痛と、熱い血が零れているのがわかった。
………………不思議な安堵感。
鬼も有希の亡霊も、キョンの恨みも何もない。
…生まれたままの赤ん坊のような、……何もないがゆえの、安堵感。
…今日までの記憶が次々蘇る。
キョンとの出会いが蘇り、私は目から涙を零す。
どこで、間違っちゃったんだろう……?
私の人生は、どこで選択肢を間違えたんだろう?
そう、私はもう知ってるよ、キョンが思いださせてくれた………。
私ね、キョンがきっと帰って来るって信じて、……ずっと待ってるよ。
妹はちゃんと私が面倒を見て、待っててあげるから。
妹と二人でね、大人しくキョンが帰って来るのを、待っている。
キョンの大事な妹を、他の誰でもない、私に預けてくれた。
私、……そんな意味だって、わかってなかったんだね。
大丈夫、今度は大丈夫だよ…。
 
キョン、…大好き。
有希、………ごめん。
みんな…、ごめん。
有希には、特にごめん。
…………こんな死に方で責任、取れるかな。
全然だめだよね、なっちゃいない。
キョンにもう一度頭を撫でて欲しい。
キョンの、やれやれ、がもう一度、聞きたい。
ごめん、贅沢だよね。
…もう未練ないよ。
あとは口で謝ってもしょうがない。
私は横に転がり、さらに地上を目指す。
頭から。
さあ思い切り私の頭を砕いて。
そして私を見合う地獄に連れて行って。
どうして生まれてきたんだろう、どうして生を受けたんだろう。
生まれなければ良かった。
生まれなかったらこんな思いをしなかった。
こんな意味のない生に、誰がどんな意味を求めたんだろう。
私が生まれなければ、誰も不幸にならなかった。
 
こんな私にやさしくしてくれて、ありがとう。
こんな私に恋を教えてくれて、ありがとう。
こんな私に、こんな私に、……。
みんなにごめん。
本当にごめん。
ごめんね。
もしもね、私、キョンにもう一度同じチャンスがもらえるなら。
もう絶対に選択を、間違えないから。
…本当だよ。
あ、…地面だ。
じゃあね。
大好き。
…やれやれ。
え?


 
―ひぐらしのなくハルヒ―

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2020年07月21日 13:15