月曜日。それは、俺にとって充実した休日を明けた後すぐやってくる悪魔で、その日一日は非常に気分が悪い。というか眠い。
 お前らもそうだろ? もし月曜日にピンピンして学校に来れる奴がいたらその神経を俺に分けてくれると非常に助かる。
 
 何故月曜日についての憂鬱な話をしているかというと……事の原因は日曜の不思議探索の日にあった。
 朝から少しダルかったんだが、休むとなったらハルヒが何を言うか分からないしな。義務化している事に多きな不満を持ちつつ行って見たらこの有様だ。
 俺は風邪を引いたらしい。ここしばらく熱など出していなかったからいつも以上にダルく感じるね。
 立ち歩く事さえ困難になった俺の体は、今ベッドで横たわって母の作るおかゆを待っている。もちろん、学校なんて行けるはずがない。
 ああ、次に俺が登校する日にはハルヒの雷が落とされるだろう…今のうちに携帯で謝っとくのも一つの手かな。
 そんな事を考えつつ俺はベッドの上で朝食を済ませ、静かに寝たのだった。
 
 
 
 ……どのくらい寝たかな。もう眠気はほとんどないから結構な時間寝たのだろう。
 突如部屋のドアが開く、音がした。誰が来たと思い俺はとっさに寝ているフリをする。なんでだろうな、別に寝たフリなんかしても意味がないというのに。
俺は部屋に入ってきた人物がベッドの真横に立つ気配を感じ取った。……なんだ、この微妙な緊張感は。
 次にビニール袋を漁る音が聞こえる。このまま目を開ければ誰なのかを確認する事は容易いが、それでは面白くないと思って少し推理してみた。
 いつかの過去に呼び出した脳内人格達を緊急収集して会議を始める。
 一人目が「これで谷口だったら笑えるな。」と腕と足を組み微妙しながらそう言った。だがそれが一番考えやすいし理解しやすい。
 学校のプリントを届けに来たとかそんなもんだろ。他の人格達もだいたいは同じ意見のようだが、最初に有力な意見が出てしまうと会議が面白くない。
 そこで二人目が言った。「でも、なんでビニール袋を持ってるんだ?」ふむ……確かに。もし谷口が気を利かせてリンゴを買って来てくれたとしても谷口がリンゴの皮など剥ける筈が無い。
 ナンパ成功率がほぼ0パーセントほどの、不器用なミジンコだからな。だったら谷口説は却下か?
 「もしかして朝比奈さんかもしれないぞ。」と期待の表情100パーセントで三人目が言った。朝比奈さんなら差し入れを持ってきても納得する。わざわざ俺の家まで来るとは考えがたいが…。
 すると四人目が言い放った。「それなら長門や古泉、国木田だって有り得る。」うーむ…可能性はゼロじゃないな。
 「もしかして鶴屋さんかもしれないぞ!」「いや、俺に恨みを持った奴が俺を襲いに来たのかもしれない……」数々の意見が飛び交う。なんだか会議が混雑してきたぞ…
 が、ガヤガヤと騒いでいる人格達を【その】人物が制止させた。
「寝てる時までマヌケ面なのね…まったく。」
 敢えて会議で出さなかった意見の人物がそこにいた。やっぱりお前か。……そろそろ寝たフリも辛くなってきたから起きる事にしようかね。
「ん、おお、どうした……ハルヒ。」
 起きた時の動作も完璧だ。我ながら起きたフリも上手いな。
「起こしちゃった? ま、起きないなら学校に戻ろうと思ってたんだけどね。」
「何か用か?」
「あんたの看病しに来てあげたわ。……あ、か、勘違いしないでよっ、これも団長としての役目なのよ。」 
 ほーう、看病ときたか。こいつの看病というのは俺の風邪を悪化させるものではないだろうか。
「ほら、薬。」
 ハルヒは俺にどこの薬局でも売ってそうな普通の風邪薬を俺に突きつけた。が、俺が受け取る前に引っ込めた。
「なんだよ、くれるんじゃないのか。」
「ちょっと待ってて。」
 するとハルヒは部屋から出て行き、数十秒も経たずに戻って来た。他に家の奴が居ないようなのが救いだな。……あれ、どうやって家に入ってきたんだ、こいつ。
「開いてたわ。無用心な家ね。」
「悪かったな。」
 ハルヒは手にコップの半分にも満たない水を持って来て風邪薬――どうやら粉薬のようだ――を箱の中から取り出す。
 なるほど、俺が薬を飲む為の準備をしてくれたというわけか。なかなか気が利くじゃないか、涼宮くん。
「ほら、口開けて。」
「お、おい…」
「つべこべ言わずに口開けてなさい。」
 まさか薬を飲ませてくれるとはね……これは人生にまたと無いチャンスだろう。すまんねチミタチ。(一体俺は誰に話しかけているのだろうか)
 性格は最悪だがこんな美少女に風邪薬を飲ませてもらえるんだぜ? こんな事ならもう2、3日風邪が続いてもいいね。
 ハルヒは小さい透明のビニールの切り口を開ける。そうそう、そのピンク色の粉薬を俺の口の中に……って、何をしてるんだキミは。
「お前が薬を飲んでどうするんだよ。」
「ほあ、かんこくきあけけけ。」
 ほら、ちゃんと口開けてて……と言ったんだな、とりあえず言う通りにしておこう。
 ハルヒはコップの水まで自分の口に含む。どうやら飲んではいない様だが……何をする気なんだ?
 そのままその口を俺の方に向けて……俺の口へ迫り……お、おいお前まさか!
「んっ……ん……」ゴックン
「っふぅー……これで大丈夫ね。」
 何が大丈夫なものか。俺の心臓は異常なまでに鼓動の音を鳴らしているぞ。
「知らない? 口移しの方が薬って効くのよ。」
 知らねえ……わけでもないのが悔しい。だがこう、心の準備というやつがあるだろうが。まだ口の中に粉薬がザラザラしていて気持ち悪い。
「口の中が苦い……水くれないか。」
「あたしだって苦いわよ、我慢しなさい。」
「お前が勝手に口移しなんかするからだ。」
「……解かったわよ、今水汲んでくる。」
 やけに素直だった。ハルヒも恥ずかしがって焦ってる事があいつの頬の赤さから伺える。
 とりあえず俺はどんちゃん騒ぎしている心を静める時間を獲得したわけだが……数十秒でその貴重な時間は奪われてしまった。
「悪いな、ハルヒ。」
 コップの水の受け取ろうと俺は手を伸ばすが、この女はまた水を飲み始めやがった。今度は口には含まずにちゃんと飲んでいる。半分くらい。
「ほら、残しといてあげたから。」
「これを飲めってか?」
「何よ、なんか文句ある?」
「その……今お前が飲んだコップで俺が水を飲むということはだな」
「さっさと飲む!」
 俺が改めて、分かりやすくかつ理論的(ではないかもしれんが)に説明しようと思ったらこの女はまったく……。
 しかし飲めと言われても俺の理性は当然躊躇う。だがこの口の苦さは耐え切れないものがあるし、ここは飲むしかない。
 半分残った水を飲み干してハルヒにコップを戻す。無言で。妙に素直なハルヒはコップを受け取る。無言で。
「…………」
「…………」
 なんか話せよ……何故俺がこんな気まずい沈黙の時を過ごさねばならん。
「用はこれだけだったし、あたしもう帰るわねっ」
「学校に戻るんじゃなかったのか?」
「……あんたがいないとつまんないんだもん」
「そうか。」
「……こ、こらバカキョン!! 変なこと言わせんな!」
 自分で勝手に空回りしてるハルヒは可愛かった。いつもそんな感じで頼むよ。
「う、うっさいわね! とにかく帰るわ! 早く風邪治しなさいよ! じゃ、じゃあね!」
「おう、薬ありがとな。」
 バタン! というドアを閉める音は耳に響いて痛かった。だが俺はちゃんと確認したぞ、まだ袋の中にリンゴやら桃やらが入っていたことを。
 しかし今日はなんとも貴重なものを見れたな、あいつの赤面顔と慌てた様子。惚れたりはしないだろうな……俺。心配である。
 それにしても薬はここまで早く効果を発揮するのか、辛かったダルさは無くなっていた。
 明日には行けそうだぞ、ハルヒ。心配していたあいつの雷も落ちる事はないだろう……逆に反応が楽しみになってきた次第でもある。
 再びベッドで横たわる俺の脳の中ではまた脳内会議を開始しようかと迷っていた。議題はもちろん明日のハルヒの反応についてさ。
 だが結局会議の最中に「まずは風邪を完全に治すことが先決なんじゃないのか?」と優等生面した人格が言って会議は中止になり、俺は眠りにつくのだった。
 
 
 そう、ほろ苦く甘い月曜日の事だった。
 
 
おしまい
 


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