シチュエーション:不良3人(一人がバットで武装)に捕らわれた喜緑さんを助ける生徒会長

 


その1 実力行使で三人を追い払う生徒会長

 

「あ、何だてめえは? うぜえからとっとと消えな」
 汚らしい部屋の中に、罵声が飛ぶ。
 どうやら獲物を食すタイミングで邪魔が入ったことを憤っているようだ。
 俺はキザっぽくゲスな三人をにらみつけ、
「そうはいかん。このような状況を放っておけるような矮小な人間であるつもりはないのでね」
「へー、かっこいいじゃん。三人相手にやろうってのかよ?」
 彼女に馬乗りになっていた男が嫌らしい笑みを浮かべると、近くに無造作におかれていたバットを取った。
他の二人もメンチを切りながら、俺の方に寄ってくる。
 俺は無造作に眼鏡を外し、ポケットにしまうと、
「……いいだろう。三人まとめて相手してやる、来たまえ」
 俺はゆっくりと部屋の壁に背を向けるように立った。そこにバットを構えた男一人、後続にすでの二人がじりじりと迫ってくる。
 背中に遮蔽物がある場合、一度におそってこれるのはせいぜい二人が限界だ。
人間の心理にはパーソナルスペースというものがある。複数で殴りかかってくるにしても、それぞれある程度の距離を
持とうとするからだ。もっともこれでは退路もなくなってしまうが、もとより引くつもりなど毛頭ない。
 ――しかし、連中はもっと愚かな選択をした。一番最初に殴りかかってきたのはバットを持った男だったからだ。
「くたばれっ!」
 狂気に染まったツラでそいつはバットを振り下ろしてきた。だが、俺は焦ることなく紙一重でそれを交わす。
よけられたことに逆上したそいつは、オーバーなスイングでバットを振り回してきた。
これでは他の二人は巻き込まれることを恐れて手出しできない。こいつは最初から人数の差という有利な条件を放棄したのだ。
 めちゃくちゃに振り回すバットはことごとく空を切り、そのたびに部屋の中の花瓶・本棚・椅子・机にぶつかる。
一向に俺をホームランできないバット男はますます逆上した。こいつはだだをこねる子供が、物を破壊するときの動作と
全く変わらない。物を壊すとき、物が逃げることはない。だが、万一その物が逃げてしまい一向に破壊できないとわかったら、
バットをふるう人間はどういう気分なるだろうか。当然、破壊行為が成就できずストレスを解消できないんだから
ますます逆上する。
 言葉にもならない奇声を上げ、バット男はそれを振り回していたが、やがて息が上がり始める。
おいおい、この程度の素振りで根を上げるとは鍛錬が足りないんじゃないか?
 頃合いだな。そう判断した俺はバット男が大根切りのようにそれを大きく振り上げたタイミングで動く。
そいつの荒い鼻息が浴びるほどに接近し、軽くミゾの部分に拳を当てた。
 何をされたのかわからない男はバットを振り上げたまま、一時停止してしまう。
さて、こいつは次にどう動く? このまま俺の方に身体を動かせば遠慮なく拳をこいつの腹にねじ込ませてもらおう。
向かってくる物に対して、俺の拳の加速が加わればただではすまないぞ。
 しかし、バット男は意外なことにぱっと身を後退させた。得体の知れない何かを感じ取ったのだろうか。
技量はさておき野生の感は備わっているようだ。しかし、俺の仕掛けた罠は後退しても同じことだ。
 即座に俺もバット男が後退した方に身を進め、そいつの腹に拳をねじ込んだ。当然、こいつの引いている方へ力を加えるため、
向かってきたときに比べて威力は格段に落ちるが、目的はそこにはない。
「うおわっ!?」
 バット男は情けない悲鳴とともに床に仰向けに倒れ込んだ。自ら行った後退動作に、想定外の俺の力が加えられたため、
足をもつれさせてしまったのだ。
 俺は即座に倒れたバット男の胸板を思いっきり踏みつけた。そいつは発狂したような悲鳴を上げて、口からつばを飛ばす。
 これで一人片づいた。
 すっと振り返ると、他の二人が唖然と俺を見つめている。バット男だけでケリがつくものだと思っていたのだろうか。
 やがて、ようやく状況を飲み込んだ一人が俺に殴りかかってきた。なっちゃいない。まだ二対一だというのに、
一人ずつ飛びかかってくると無能にもほどがある。
 繰り出される拳。俺はそれをかわして、そいつの腕を握った。
 最初はこのまま腕を引っ張り転ばしてやろうかと思ったが、すぐ近くに部屋の壁があることに気がつき、
そいつの拳をそちらへと強制的に誘導してやった。メキャという鈍い音とともに、拳が壁に激突する。
すぐにそいつも悲鳴を上げて床を転がり回り始めた。今の衝撃程度で拳がつぶれるとは脆すぎないか?
 さて、これで二人片づいた。さて最後の一人は……と見たが、とっとと悲鳴を上げて部屋から逃げ出す姿が。
情けない上に、仲間を置き去りかよ。
 俺は床に倒れたまま、ずっと動かなかった彼女の元に駆け寄る。見たところ乱暴はまだされていなかったらしい。
きれいな姿のままを確認し、ほっと胸をなで下ろす。
「さすが会長ですね。この程度ならば一ひねりといったところですか」
「……こういったことは避けたかったんだがね。また古泉の奴に変な借りを作ってしまったからな」
 そんな言葉を交わしながら、彼女の身体を支えて起きあがらせる。彼女は服に付いたほこりを払いながら、
「安心してください。情報操作は得意ですから。わたしは会長の書記ですよ?」
 そうにこやかな笑みを浮かべた。
 
 


その2 迫力で三人を追い払う生徒会長
 
「あ、何だてめえは? うぜえからとっとと消えな」
 汚らしい部屋の中に、罵声が飛ぶ。
 どうやら獲物を食すタイミングで邪魔が入ったことを憤っているようだ。
 ……だが、欲望に染まった貴様らの怒りなど、今俺の脳内に悪性ウィルスのように蔓延している感情に比べれば、
クソの価値もない。
「彼女を離してもらおうか……」
 俺はつかつかと三人の元に近づく。だが、そのうちの一人が汚らしい笑みを浮かべながらバットを握ると、
そのまま俺の横腹を殴りつけた。
 全身の神経に激痛の信号が行き渡り、胃は震えのあまり胃酸をのどに向け逆流させ、手足はそのシグナルを拒絶するために
感覚機能を遮断させた。
 しかし、俺は膝をつくどころか殴られた場所を手で覆う気にもならない。逆にその痛みが俺の怒りをより純粋で
鋭利なものへと変化させてくれる。
 そして、言う。
「彼女を離せ……」
 俺が先ほどと同様の言葉を口にしたとたん、バット男は俺の脳天にバットを振り下ろした。
 
 ――一瞬、世界が暗転した。次に視界に閃光が走る。
 
「カッコつけてんじゃねえよ」
 バットを振り下ろした男は下劣な笑い声を上げた。背後の二人もニヤニヤといやらしい視線を向けた。
 俺は自分の視線が床に落ちていることに気がつく。そのとたん、自分に対しても苛烈な怒りがわき起こり、
その激情が身体をやるべきことへと動かす。
「――うおっ!?」
 バット男の情けない悲鳴。俺の手がするりと伸び、そいつの顔をつかんだからだ。
 急におびえた顔に変わったそいつは、反射的に俺の腹に膝を入れた。だが、さっきの頭への一撃で
神経回路のどっかがぶっ壊れたらしい。痛みどころか、身体のどこもそれに反応しない。
 俺はバット男の額に、自分のそれを触れさせ、
「もう一度言う。彼女を今すぐ離せ……!」
 そいつはヒッと短い悲鳴を上げた。ゆっくりとそいつの額から頬を伝って血が流れていく。
どうやらいつの間にか俺の頭から激しい出血が起こり、くっつけている額を伝わっていっているようだ。
 隣にいた男が、引きつった顔で何かを言ってきた。そいつの滑舌が悪ったのか、聴覚のどこかも狂っているのか、
内容は聞き取れなかったが、返す言葉は一つだけしかない。
「だまれっ!」
 俺の怒鳴り声に、そいつは顔面蒼白となりそれ以上何も言わない。もう一人もおびえた表情でただ震えるだけ。
 またバット男に俺は視線を戻し言う。
「彼女を離せ……!」
 そいつはもう涙をぼろぼろと流し、ただ俺の言葉にうなずくことしかできなくなっていた。
やがて俺の手を振り払い部屋から他の二人と一緒に逃げ出していく。
「…………」
 ぼたぼたと顔から血が流れ、床に血痕を広げていく。さすがに――限界――が近いな――
 ふと、目の前にハンカチが差し出された。とらわれていた彼女が立ち上がり、こちらにそれを差し出している。
「無茶をしますね。あなたなら、あの程度の者など簡単に蹴散らせたのではありませんか?」
「生徒会長という立場もあるんでね……。古泉の奴に変な借りは作りたくない」
 そう遠慮なくハンカチを受け取ると、傷口を押さえる。
 と、ここで彼女が俺の肩を取り、
「帰りましょうか」
 そう言って俺とともに歩き出した。
 
 助けに来た俺が助けた彼女に担がれるなんてなさけないよな、全く……
 
 


その3 知略で拳を使わずに三人を追い払う生徒会長
 
「あ、何だてめえは? うぜえからとっとと消えな」
 汚らしい部屋の中に、罵声が飛ぶ。
 どうやら獲物を食すタイミングで邪魔が入ったことを憤っているようだ。
 俺はキザっぽくゲスな三人をにらみつけ、
「そうはいかん。このような状況を放っておけるような矮小な人間であるつもりはないのでね」
「へー、かっこいいじゃん。三人相手にやろうってのかよ?」
 彼女に馬乗りになっていた男が嫌らしい笑みを浮かべると、近くに無造作におかれていたバットを取った。
他の二人もメンチを切りながら、俺の方に寄ってくる。
 汚らしい連中だ。こいつらがはき出す二酸化炭素にふれるだけで、身体のどこかが異常動作を起こしそうだぜ。
「あ? どうなんだよ。びびっちまったか?」
 バットを背中に担いだ男が挑発的に言う。だが、そんなものには反応せず眼鏡をゆっくりと外し、
ポケットにしまった。ちなみに内心では暴発寸前なのは秘密だ。
「確かに君たちの言うとおり、三人を倒すのは私がどれだけ武術に優れていても不可能だろう。
しかし、一人ぐらいは道連れにできる自信はあるがね」
「早々にギブアップ宣言かよ。口ほどにもねぇ」
 三人がけたけたと下品な笑い声を上げる。愚かな連中だな。はっきりと言ってやらないとわからないらしい。
 俺はわざとらしく口元に笑みを作ると、
「もう一度言うぞ。お前らの三人を倒すことはできない。だが、そのうち一人はきっちりと仕留める。
これについては約束しておこう。もっともその一人が君たち三人の誰になるかはわからないがね」
 ここまで言って、ようやく馬鹿三人組はその意味に気がついたらしい。すぐに笑顔が引きつった顔に変化して、
各々を見合う。
 こういった所詮身勝手で希薄な関係の集団の場合、一番かわいいのは我が身だ。
今、三人掛かりで俺と戦えば勝つことはできるだろう。しかし、やられる一人は自分かもしれない。
その恐怖に打ち勝ってまで戦えるか? どうみても、仲間の結束ために……とかいう連中でないことは一目瞭然だな。
「どうした? お前たちの方が圧倒的有利であることには変わりはないんだぞ? 早くかかってきたまえ。
俺は遠慮なく一人をなぶり殺しにさせてもらうがね。そうだな……目をつぶすか。安心しろ。死にはしない。
ただ、今後の一生を闇の中を生きていくことになるだけだ」
 できるだけ押し殺した声で、ゆっくりとゲスどもに語りかける。
「くっ……」
 バットを持った男は、おいそれと引けるかというように口元をゆがめ、バットを構えた。
そして、俺の方に一歩近づく――
 その時だった。背後にいた一人の男が突然その場から離れ、
「つ、つきあってられねえぜ。俺は抜けさせてもらうぞ。後は好きにしてろよ!」
 月並みの捨て台詞を吐いて、部屋から逃げ出していった。バット男の背後のもう一人もそれに続いて、
小さな悲鳴を上げて逃げ出す。
「おい待て! 逃げる気かよ!?」
 バットを持った男が悲鳴のような声を上げて呼び止めるが、二人は戻ってくる気配はない。
 俺はそれを確認すると、バット男の前に一歩踏みだし、
「これで一対一になったな。だが、お前はまだ武器を持っている。有利なのは変わっていないぞ。
どうした、早くかかってこい」
 ううっとバット男は呻く。しばらく恐怖と悔しさから出る歯ぎしりを続けていたが、やがて、
「くそっ、覚えてやがれ!」
 と、これまた月並みな捨て台詞を吐いて部屋から逃げ出していった。全くどうしてああいう連中の言動は似るのか。
心理学的に調査を行ってみれば興味深い結果が出そうだな。
 部屋の中には、俺と彼女だけになった。
 おそわれていた彼女は特に何の感情の変化もなく、ゆっくりと起きあがると、いつもの柔らかい笑みを俺に向け、
「ああいう連中を追い払うために拳は必要ない、ということですね」
「殴るだけが戦いではない。それに生徒会長という立場もあるのでね。こういった方法が一番望ましいのだよ」
 そう言って、俺は眼鏡をかけ直すと、彼女に微笑んだ。
 

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最終更新:2007年09月22日 23:55