古泉一樹が、去った。
 
残ったのは私と、バラバラになって地面に散らばったチケットだけ。
私はそのちぎれたチケットの欠片を1つ、手に取った。
古泉一樹との行動は彼に関するエラーの除去が主目的。
古泉一樹との関係はそれほど重要視される問題ではない。大丈夫。
 
「なあハルヒ、途中で会ったんだからわざわざ公園行く必要ないんじゃないのか?」
「何言ってるの!物事は始まりが大切なのよ!公園で待ち合わせって言ったら待ち合わせなの!」
 
涼宮ハルヒと彼がこちらに歩いてくる。彼らもまた、この場所を待ち合わせにしてたのだろう。
私達と同じように。……もう、私達は待ち合わせた意味を失っているけども。
 
「あ、有希じゃない!」
「長門、どうしてここに?……そうか、お前も待ち合わせか。古泉とか?」
 
二人が私に話しかけてきた。それに答えるために、私は二人の方向を振り返る
 
「え……?」
「おい、長門……?」
 
二人の表情が一変する。なぜ。
 
「なんでお前……泣いてるんだ?」
 
え?
私は頬に手を当てる。……頬を流れる水滴の存在を確認。
私の目からは、涙と呼ばれるものが流れ出ていた。
 
「ねえ、アレ古泉君じゃない!?」
 
涼宮ハルヒが指さした先には、既に離れた場所を歩いている古泉一樹の後ろ姿があった。
 
「キョン!アンタは古泉くんを追い掛けて!有希とはあたしが話をするから!」
「わ、わかった!」
 
彼は涼宮ハルヒの指示を受け、古泉一樹の元へと走り出した。
私は、涼宮ハルヒに真正面から見つめられる。
 
「有希、いったい何があったの?話してみて。」
 
話すべきかどうか一瞬迷った。でも、ここで話さなければ彼女の信用に関わる。
彼女に伝えても問題の無い範囲で話すことにした。
私が彼を好きだったこと、あなたが彼と付き合い始め、古泉一樹から「新しい恋をすべき」と言われたこと、
その相手に古泉一樹を選んだこと、そして先程古泉一樹に告げられたこと。
……結局ほとんどのことを話してしまった。
 
「……有希」
 
涼宮ハルヒが私の名を呼んだ。すると手を振りかぶり
 
パチン
 
……私の頬に平手打ちをした。
 
「……ごめんね。あたしにも責任があるわ。有希の気持ちに今まで気付かなかったからね。
 でも、それでもアンタがやったのは、古泉くんの気持ちを踏みにじる行為よ。」
 
古泉一樹の気持ち……
彼は言ってくれた。「本気であなたのことが好きだった」と。
なら私は……?
 
「アンタ、本当に古泉くんのことキョンを忘れるための道具としてしか思ってなかった?」
 
違う。
 
「古泉くんと数日間恋人として生活してきて、どうだった?」
 
古泉一樹との、数日間だけの恋人としての生活。
一緒に登下校して、手を繋いで、一緒に昼食を取って……
それらの行動を通じて、私が感じたこと……
 
「私は……」
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
「さて、じゃあ話してもらおうか。」
 
僕は今、彼と近くの喫茶店の中にいます。
長門さんと別れて歩いていたら、彼に呼びとめられました。
どうやら公園にいる長門さんに会ったようですね。
とりあえず落ちついて話が出来る場所がいいと、この場所に連れてこられたわけです。
 
「話すと言われても、何をお話すればよいのか……」
「とぼけるな。さっきの公園で何かあったのは知ってる。それを話せ。」
 
やはり知っているのですか。話さざるを得ませんね。
 
「ええ。長門さんとの交際を解消させて頂きました。」
「なんでだ。長門のことが好きじゃなかったのか?」
「……違いますよ。愛していました、僕はね。しかし長門さんは違う。
 長門さんの好意の視線が向けられていたのは僕では無く……」
 
僕は彼の目をまっすぐに見て言いました。
 
「あなたです。」
 
……彼はその事実に、いくぶんか驚いた表情を見せました。
気付いていなかったようです。まあそれが、彼らしい部分なのですが。
 
「俺、なのか?」
「ええ。彼女は僕ではなくあなたを好きだったのですよ。
 ですが、それと同時に彼女は理解していました。
 あなたと涼宮さんが相思相愛であること、そしてその方が世界にとっても望ましいことをね。
 だから僕に相談をしてきたんです。このエラーを解消するにはどうすればよいか、と。」
「それで、お前はどう答えたんだ。」
「僕自身恋愛には詳しくないですからね。
 一般的に言われている「新しい恋して忘れる」という方法を提示したのです。
 ………今思えば、これが間違いだったんでしょうね。」
「それで、その相手に長門はお前を指定したってワケか。」
「その通りです。言われた時は驚きましたが、僕自身彼女に惹かれていましたからね。
 しかし実際付き合ってわかりました。というより、思い知らされたという感じでしょうか。
 ただの忘れる手段としての恋が、これほど辛いということが。
 そして僕は耐えられなくなったので、関係を解消しようと言ったワケです。……以上です。」
「なるほどな……事情は把握した。」
 
そう言うと彼ははぁ……とため息を吐き、言いました。
 
「情けないな、お前。」
 
……厳しいお言葉ですね。しかし、返す言葉もありません。
 
「その通りです。僕はあなたの代わりになるのが苦痛で逃げ出した情けない人間ですよ。」
「そうじゃねぇよ。」
 
そうじゃ、ない?
 
「俺が言いたいのは、なんでそこで諦めてしまうかってことだ。」
「ですから、彼女の気持ちは僕には向いていないのです。」
「お前は長門のことが好きなんだろ?」
「ええ、それは自信を持って言えます。」
「だったら!なんでそこで諦めるんだ。あいつを振り向かせてみろよ。
 今は確かにお前に向いてないかもしれない。でもそれは今後のお前次第でどうとでもなる。
 人の気持ちは変わるもんだ。それは相手がヒューマノイドインターフェイスでも同じことだと思うぜ。
 なのにお前は戦う前から戦線離脱しようとしてる。そこが情けないと言いたいんだ俺は。」
 
彼女を振り向かせる……。そんなこと、考えもしませんでした。
 
「幸い、争う相手はこの俺だ。
 お前は俺より顔もいいし、頭もいいし、人間としてもデキてる。……癪だと思うがな。
 勝ち目の無い戦いじゃないはずだ。」
 
僕は彼が言うほど完璧な人間ではありません。
しかし、彼の言葉で吹っ切れました。これから自分がどうすべきかを。
 
「……その顔見ると、俺の言いたかったことが伝わったようだな。」
「ええ、感謝します。」
「そうかい。じゃ、戻るか。公園にハルヒと長門がいるはずだからな。」
 
ええ。一刻も早く、彼女に伝えなければいけないことが出来ましたからね。
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
僕は彼と一緒に公園に戻りました。涼宮さんと長門さんは、並んで立っていました。
 
「さ、有希。」
「ほれ、古泉。」
 
長門さんは涼宮さんに、僕は彼に背中を押され、僕達は向かい合う形になりました。
 
「えーっと……長門さん。先程は、すいませんでした。」
「いい。私の方こそ……ごめんなさい。
 結果的にあなたの気持ちを、踏みにじる真似をしてしまった。」
「もう、大丈夫ですよ。」
「でも、これだけは知っていてほしい。あなたのことをただの彼を忘れる道具だとは思っていない。
 あなたと過ごした数日間、とても楽しかった。」
「……ありがとうございます。そう言って頂けると、救われます。
 そしてこれからのことですが……やはり、恋人関係は解消するべきだと思うのです。
 前にも言った通り、偽りの関係は続けるべきでは無い。」
「……そう。」
 
彼女は俯いてしまいました。少し悲しそうに見えるのは、気のせいではないと思います。
 
「ですが、僕はあなたのことが好きです。今回の一件で、完全に諦めることは不可能のようです。
 ですから……僕は諦めません。」
「え?」
 
彼女は顔を上げて、僕をまっすぐと見つめます。
 
「僕はあなたを、振り向かせたいと思います。あなたの中にある彼に、勝ってみせますよ。
 彼にはもう、宣戦布告は済ませていますので。
 もしあなたの中で僕が、彼よりも大きな存在となったその時には、
 もう1度僕を受け入れてくれますか?今度は、偽りでない本当の恋人として。」
 
これは一種の告白です。最もOKをくれても恋人になるわけではありません。
それでも、僕はこの決意を彼女に伝えたかった。伝えなくてはならなかった。
 
「わかった。」
 
そう言った長門さんは相変わらずの無表情。
ですが、いつもよりも力強く頷いてくれた。そう見えたのは、僕だけでは無いはずです。
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
さて、ここで語り手は俺に移らせてもらおう。後日談を担当させて頂く。
 
あの後は、なんか知らんが4人でカラオケ行ってバカ騒ぎをすることになった。
元々はハルヒと二人っきりでデートするはずだったのに、なんでだろうな。
まあ俺も特に反対はしなかったし、楽しかったからいいんだが
ちなみにこれは俺の見間違いかもしれないが、隣の部屋に朝比奈さんらしき人が居たような気がする。
なんか意外なグループを結成していた。
谷口に生徒会長に新川さんに、顔は見えなかったが青髪長髪の女も一緒だったな。
声をかけようかと思ったが、何故だか異常に盛りあがっていて同時に異常な負のオーラも感じ取ったからやめといた。
うん、俺は間違ってない。間違ってないぞー。
 
 
そんでもって月曜日の放課後。
土曜日のゴタゴタなんかまったく引きずっていないという感じで、
いつも通り長門は本を読んでいたし、いつも通り古泉は俺にゲームで負けていた。
長門の本を閉じる音で、団活は終了となった。
 
ハルヒが鍵を返しに行くというので俺も付き合い、
門が閉まる直前の校舎を二人きりで歩いていた。
 
「でもアレよね、どうせならあのまま付き合っちゃえば良かったのに。」
「長門と古泉か?まあ古泉は、ちゃんとお互い愛し合った状態で恋愛したいんだろう。」
「それなんだけどね、私思うんだけど、有希は古泉くんが思ってる以上に古泉くんのことを……
 あ、噂をすれば。」
 
ハルヒが指差した先には、下駄箱で二人きりでいる長門と古泉だった。
古泉の手には、チケット?のようなものが握られている。
会話に聞き耳をたててみた。
 
「先日勢いで破いてしまいましたので、その埋め合わせとして。
 どうですか?今週の日曜日、あの遊園地に。」
「構わない。……楽しみにしている。」
 
そう答えた長門の表情は、とても嬉しそうに見えた。
……この二人がくっつくのは、案外そんな先でも無いかもしれないな。
 
終わり


|