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マクガフィン(MacGuffin, McGuffin) とは、作品の登場人物は非常に重要なものだと考えているにも関わらず、
観客にはほとんど説明されなかったり、説明されたとしても価値が疑わしいような「なにか」のことである。
マクガフィンという言葉はアルフレッド・ヒッチコックによって考案されたとされる。

 


 これは何だろう。
 長机の上には小さな箱が置かれている。
 いや、これって箱か?
 なんだかよくわからんが、とにかく立方体が置かれている。白い立方体だ。
 大きさは一辺が三十センチくらい。まだ触れてはいないので、重さはわからん。
 今、この部屋には誰もいないので、誰かに聞くこともできない。
 とりあえず、指で触ってみる。
 うん、箱だ。ごく普通の触感。
 ただ、何でできているのかはわからん。
 

 

 五分ほどすると、古泉が来た。とりあえず、聞いてみた。
「なあ古泉、これってなんだ?」
「マクガフィンですよ」
「マクガフィン?」
「ええ、スコットランドでライオンを捕まえるための装置です」
「ヨーロッパにライオンはいないだろ?」
「では、それはマクガフィンではありませんね」
 おかしな会話である。
「冗談ですよ」
 古泉は椅子に座り、オセロ盤を用意し始めた。
「なあ、これが何か気にならないのか?」
「なりますよ。でも気になったところで正体がわかるわけでもありませんからね」
 確かに。だが、気になる。これは誰のものだろうか。
「オセロでもしませんか?」
「今は遠慮しとこう」
 これが気になってしょうがない。

 


 さらに五分ほどすると、長門が来た。とりあえず、聞いてみた。
「なあ長門、これってなんだ?」
「マクガフィン」
「マクガフィンってなんだよ」
「イギリス人のジョージ・ルーカスが発明した新装置」
「ジョージ・ルーカスはアメリカ人だぞ?」
「だとしたら、それはマクガフィンではない」
 またこんな会話かよ。
「冗談」
 ……長門も冗談を言うのか。
「なあ、これが何か気にならないか?」
「別に」
 ……そうか。

 


 さらに五分すると、朝比奈さんが来た。
「朝比奈さん、これって何ですか?」
「マクガフィンですよ」
「マクガフィンってなんですか?」
「ドイツのザルツブルグで発見された謎の物体です」
「ザルツブルグはオーストリアですよ?」
「じゃあ、それはマクガフィンではないですね」
 ……またかよ。
「フフッ、冗談です」
 朝比奈さんも冗談を言うのか。
「朝比奈さん、これが何か気になりませんか?」
「気になりますけど……何なんですかぁ?」
「俺にもサッパリです」

 


 さらに五分すると、ハルヒが来た。
「なあ、ハルヒ。これって何だ?」
「そんなのも知らないの? マクガフィンよ、マクガフィン!」
「マクガフィンってなんだよ」
「スコットランドでライオンを捕まえる機械よ」
「ごめん、もうそれ聞いた」
 ハルヒはつまらなそうな顔で「なんだ、つまんないの」と言って、団長席へと座った。

 


 で、結局これはなんだろう。
 他にも何人かに尋ねてみたが、答えは未だに出ない。
 とりあえず、拾得物として警察にでも届けておこう。

 

 


 で、警察に届けてみたはいいが、正体がわからなくて警察も困っているらしい。
 拾得物の情報をインターネットで公開しなければならないのだが、正体がわからなければ情報として公開ができない。
 専門家に尋ねたくても、なんの専門家に訪ねればいいのかわからない。
 とりあえず、インターネットには公開されたものの、一ヶ月経っても正体はわからなかった。
 二ヶ月ほど経つと、ネット上でその物体が有名になってきた。
 巨大掲示板などではスレッドが立ったりしたらしいが、俺は見てないので知らない。
 どんどん騒ぎはでかくなり、テレビでも取り上げられたが、所有者が名乗り出る事は無かった。
 四ヶ月ほどすると、科学者たちがその正体を明かそうと、さまざまな装置を使って研究したが、答えは出なかった。
 六ヶ月すると、その物体は俺の手に戻ってきた。結局、所有者がいなかったらしい。
 本当にこれは何だろうか。誰もがそう思っていた。
 とりあえず自分の部屋に置いといたが、特に変化は無い。
 あの四人は、これを見て何故、「マクガフィン」という単語が出てきたのだろうか。
 マクガフィンという言葉が頭から離れないので、調べてみようと思った。
 調べてみると、「何の意味も持たない物体のこと」らしい。
 ここで俺は、四人にからかわれたということがわかった。
「これはお前たちがここに置いといた物だな?」
「今頃気づいたの?」とハルヒ。
「なんでそんなことしたんだよ」
「あなたがどんな反応をするか気になりまして」と古泉。
 呆れたよ。
「で、結局これは何なんだ?」
「わかりません」
 なんだそりゃ。

 

 


 数日後、古泉の方の機関で調べてもらう事になった。
 成分は不明。放射能は出てないので安心してよい、とのこと。
「結局、答えは出てないな」
「まあ、マクガフィンですから」
 次は長門が調べた。
 何がこの物質を構成しているかは不明だが、害は無い、とのこと。
「で、結局何なんだよ」
「マクガフィン」
 いつまで経ってもこの答えは出ない。
「で、これを置いたのはハルヒなんだろ?」
「そうよ」
「どこから持ってきたんだ?」
「その辺に落っこちてたのよ」
「その辺って?」
「校庭の隅っこ」
 こんな物が校庭に落ちてたのかよ。

 

 


 それからいろんな学者や教授がこの物質を調べたが、答えは出なかった。
 ある日、俺がその物体を振ってみると、中から音が聞こえた。何の音だかわからないが、何かが入っている。
 どこから開ければ取り出せるだろうか。
 とりあえずナイフとか包丁を突き刺したが、刺さらない。なんて頑丈なんだ。
 古泉の機関でエックス線やらCTスキャンやらで中身を調べたが、結局何かはわからない。
 皆でカナヅチやチェーンソーなどを持ち出して開けようとしたが、箱には傷一つ付かなかった。
「我々の機関に高出力レーザーがあります。それを使ってみては?」と古泉。
 というわけで、これを機関の人に渡すことにした。
 黒服の男が一人、俺のところへ来たので、俺はこの物体を渡した。
 すると箱を受け取った男は車に乗り、車を発進させた。
 車は二十メートルほど走ると、急に爆音と共に木っ端微塵になった。
 吹っ飛んだ箱は俺の足元に転がった。何が起きたのかわからなかったが、とりあえず拾った。
 それから数秒すると、アサルトライフルや拳銃を持った男たちが来て、俺を取り囲んだ。
 男の一人はこう言った。
「その箱を渡せ!」
 俺はまだ死にたくはないので、仕方なく渡すことにした。
 手渡すと、男たちはどこかへ消えた。
 なんなんだ、これは。
 俺はその場に立ち尽くすことしかできなかった。
 しばらくして、それを古泉に伝えると
「あれを奪われたんですか!?」
 ちょっとオーバーだな。
「オーバーなんかじゃありませんよ! あれを奪われたらどうなるかわかってるんですか!?」
 わかるわけないだろう。
「だから危険なんです!」
 なるほど。
「おそらく相手は、我々の敵対組織です」
「あんなの奪って何すんだよ」
「知りませんよ。とにかく奪い返さなければ大変な事になります」
「どう大変なんだ?」
「わかりません」
 ……それは大変だ。
「我々の方で特殊部隊を用意します。あなたは家に帰って休んでください」
 ああ、わかった。

 

 


 翌日、部室へ来ると、古泉が例の物体を持っていた。
「取り返したのか?」
「ええ、こっそり侵入して奪い取ったので、銃撃戦にはならずに済んだようです」
 そりゃ良かった。
「で、結局これは何なんだ?」
「わかりません」

 

 


 で、どういうわけか、これを家に持ち帰る羽目になった。なんでこうなったんだ?

 

 


 家でごろごろしながら、その物体を眺めていると、窓の外が急に暗くなった。
 窓の外を見ると、ヘリコプターが飛んでいた。それも近い。近すぎる。
 プロペラの轟音で窓が揺れる。
 ヘリコプターは俺んちのすぐ脇に着陸した。そして中から特殊部隊らしき人間が出てきた。
 これはまずいと思ったので、俺は箱を持って家から出ることにした。
 家から出る、と言っても家の外は特殊部隊がいる。裏口からこっそり出て行くことにしよう。
 裏口にはサンダルしかなかったから、仕方なくそれを履いて、音を立てないようにこっそりと歩いた。
 壁の陰からこっそりとのぞくと、特殊部隊は四人いるのが確認できた。幸いな事に、拳銃は持っていない。
 特殊部隊が向こうを向いている隙に自転車に乗って、全速力で走った。
 特殊部隊たちはまだ気づいていないようだ。あいつら、ヘルメットかぶってるから視界が悪いのか?
 五百メートルほど走ったところで、どこへ行くのか決めてないことに気づいた。
 残念な事に、携帯電話を置き忘れてしまったので古泉に救援を求める事ができない。
 とりあえず、俺は長門の家に向かう事にした。
「これはどういうことだ?」
「彼らがその物体を奪おうとしている」と長門。
 相変わらず、長門の部屋はサッパリとしているな。
「何のために?」
「あの箱の中身を知るため」
「中身はなんなんだ?」
「わからない」
「どうすれば開く?」
「わからない」
「どうすればいい?」
 無言である。
 試しにもう一度聞いてみる。
「どうすればいい?」
 十秒ほどしてから、長門は言った。
「その箱を守って」
 ……マジかよ。

 

 


 十分後、ハルヒを除く団員四人が、この部屋に集まった。
「僕も長門さんと同意見です」
「これを死守しろと?」
「ええ」
 こんな何だかわからない箱を守れと? その行動に意味はあるのか?
「その正体が永遠にわからなければ、無意味でしょうね」
「なんでそんなことをする必要がある?」
「マクガフィンですから」
 マクガフィンマクガフィン、ってお前本当にマクガフィンが好きだな。もういいよ。
「で、コレの中身は結局何なんだろうな」
「多分、開かないようにできてるのかも知れませんね。チェーンソーを使っても傷一つつかないのを見ると、レーザーでも開けられるか不安です」
 とりあえず、いろいろ試してみる事にした。
 まずは水に浸す。
「何も起きませんね」
「……ああ」
 次にお湯。
「変化無し……ですか」
「……」
 今度は燃やしてみた。
「燃えませんね」
「そろそろ消せ。火事になったら困る」
 さらに、暖房で暖めてみた。
「……」
「……なんか馬鹿馬鹿しくなってきたな」
 とりあえず、休む事にした。
「……飽きたな」
「でも、コレが奪われないように見張ってないといけませんからね」
 朝比奈さんと長門は、床に座ってボーっとしている。
「こんな話を知っていますか?」
「知らん」
「……まだ何も言ってませんよ。今から四年くらい前になりますかね、ある女性が道を歩いていると、向こう側から男が歩いてきたんです。
その男というのがですね、頭の上に水がいっぱい入った赤い洗面器を乗せてましてね」
 なんでだよ。
「気になった女性は男に聞いたんです。『なんで頭の上に洗面器なんか乗せてるんですか?』と」
 で、男はなんて答えたんだ?
「男はこう言いました」
 古泉が次の言葉を発しようとした瞬間、外から轟音が響いた。
 窓を見ると、黒いヘリコプターが飛んでいた。
「ブラックホークですね……」と古泉。お前はなんでそんなに冷静なんだ。
 ブラックホークは長門の部屋のベランダのすぐ近くを飛んでいる。近すぎて、乗員が何をしているかまで確認できる。
 後ろの乗員が機関銃を構えているのが見えた。
 古泉が「逃げてください!」と叫んだ瞬間、機関銃の銃口から弾丸が飛び出した。
 弾丸は窓ガラスを突き破り、俺たちに襲い掛かってくる。
 だが、長門が情報なんとかを使ったのだろう。鉛の玉は俺たちの一メートルほど手前で停止して、ポトンと床に落ちた。
 マトリックスのワンシーンを思い出した。長門は全ての弾丸を落とすと、攻撃の構えを見せた。
 それを見たブラックホークの乗員たちは驚いた顔であっという間に退散した。まあ、当然の判断だな。俺だってそうする。
 プロペラの音が段々と遠ざかっていく。
「ここはもう危険ですね。箱を持って逃げましょう」
「どこに?」
「ホテルの一室を用意してあります」
 ホテルかよ。
 長門のマンションから出て、黒塗りの車に乗り、ホテルへと向かう。
「なあ古泉、お前はコレが何だと思う?」
「……見当もつきませんね」
「俺は誰かのイタズラだと思う」
 古泉は「ほう」と言って興味深そうな目で俺を見た。
「誰か、とは?」
「あれだろ。神様」
「彼女だと言うんですか?」
 俺は横に首を振った。
「ハルヒじゃない。俺が信じている神様だ」
「あなたは神なんて信じてるんですか?」
「こんな世の中じゃ、神がいるとでも思ってなきゃやってらんねーよ」
 古泉はフフッ、と笑い、「そうかもしれませんね」と言った。
 準備のいいことにチェックインは済ませてあるらしく、ホテルに着くと、部屋に直行した。
 エレベーターに乗ったとき、古泉がこう言った。
「すいません、急だったものですから部屋が空いてなかったそうで、スイートルームになってしまうんですが」
「スイートルームがいやだと言う人間はこの世にいるのか?」
 俺がそう言った瞬間、視界が真っ暗になって、エレベーターは動くのをやめた。停電のようだ。まいったな。
 数秒ほどすると天井の小さい明かりがついた。が、エレベーターは止まったままだ。
「停電ですかね?」
「困ったな」
 朝比奈さんは怯えた様子で俺の右手にしがみついてきた。
「大丈夫ですよ、朝比奈さん。すぐに動き出しますって」
 動き出しはしなかったが、外側から何者かによって、ドアはこじ開けられた。
 その「何者か」は拳銃を俺に向けて言った。
「その箱をよこせ」
 よこせだって? こんなマクガフィンくれてやる。
 俺はその男に向かって箱を放り投げた。男はそれを手に取り、足早に去っていった。
「何をしてるんですか!」
「別にあんな箱、奪われたっていいだろ?」
「中身が何だかわからないんですよ!? もし中身が危険なものだったらどうするんですか!」
 大丈夫だ。
「何故です?」
「お前はあれが開けられると思うのか?」
「万が一ということもあります」
「たとえ開けられたとしても、中身は取り返すほどの価値のあるものかどうかわからん。このまま帰ろうぜ?」
 マクガフィンを捨ててしまっては話は一向に進まないのだが、俺としては早く帰って眠りたい気分である。
「一パーセントでも危険な可能性があったら、その可能性を排除する必要があるとは思いませんか?」
 俺は思わん。
 俺たちの間に朝比奈さんが割って入り、こう言った。
「とっ、とにかく部屋に行きませんかぁ?」
 その意見には賛成だ。

 

 


 スイートルームというものは映画で見るようなものほど広くはなかったが、俺が今まで宿泊したどの部屋よりも広いのは確かだ。
「どうやって取り戻すんですかぁ?」と朝比奈さん。
「彼らの本拠地の地図と設計図が入手できたらしいので、しばらくしたら届くと思います。おそらくあの箱はそこにあるでしょうから役に立つと思いますよ」
 どうしてそんな物が入手できるんだろうな。犯罪じゃないのか?
 俺がブラウン管に映ったNHKの『その時歴史が動いた』を見ている脇で、三人は作戦会議を始めたらしい。勝手にやってろ。

 

 


 マクガフィンという物体は、物語を盛り上げるためにあるそうだ。で、一度関わってしまった以上、それは捨てても登場人物に関わってくるのだ。
 実に忌々しい物体である。

 

 


 二十分ほどすると森さんが書類の束らしきものを持ってきたらしい。
 「らしい」というのは俺は奥の部屋でひたすらNHKを見ていたため、その姿がここからでは確認できなかったということだ。
 森さんは書類を置いて、帰ったようだ。古泉たちはそれを参考に作戦会議を進めた。
 できるだけ会話に関わらないようにしていたが、その会話は俺の耳に入ってきて、俺が『その時歴史が動いた』を見るのを妨害してくる。
「……で、ここに厳重な金庫があるわけです。金庫のドアまでには十二メートルの廊下があります。
 その廊下の床には圧力センサー、壁には赤外線センサー、さらにはサーモセンサーと音センサーまであります。
 驚くべき事にハエ一匹でも警備員が駆けつけます。しかも地上三十階、壁の厚さは二メートル、ここに入るのは至難の業です」
「どうやって入るんですかぁ?」
「難しいですね。長門さん、何か考えは?」
 長門の情報なんとかを使えば簡単だろう。と思ったが、声には出さなかった。
「それはできない」
 なぜ長門は俺の言おうとしたことがわかったんだろうな。
 他の二人は「何の話だよ」という感じの顔で呆然としていたが、長門が俺の方を向いていたのですぐに気づいたらしい。
「この地図の場所で情報操作を行うことはできない」
 何故だ。
「許可が下りない」
 なんとか思念体の?
「そう」
 ……こういう時に限って……。
「話を中断して悪かった。続けてくれ」
 俺は視線をテレビに戻した。ちょうどマッカーサーが飛行機から降りるシーンだった。
 で、そのマッカーサーの話に集中できないのはなんでだろうな。
「IDカードは偽造ができませんから警備員に変装するのも不可能です」
「えっと、ラジコンとかを使ったらどうですかぁ?」
 朝比奈さん、それじゃあ侵入はできてもセンサーは通り抜けられないでしょう。
「それだとサーモセンサーはクリアできても、他のセンサーは無理ですよ?」と古泉。
「じゃあ、ここから入るとか……」
 朝比奈さんはそう言って、設計図を指差した。ここからでは設計図の何を指差しているのかが見えない。
「天井のダクトですか、でもダクトは金庫の手前までしか続いてませんね。ダクトから出た瞬間に四種類のセンサーが同時に作動します」
 行き詰ってるな。
 もう我慢できん。俺が仕切ってやる。
「あのなあ、金庫は地上三十階にあるんだろ? 問題はそこじゃねえだろ」
 三人はまだわかっていないようだ。
「いいか? まず警備員が見張っている正面玄関に、大多数の人間が利用するエレベーターをどうやって通過するつもりだ?」
 俺は設計図を覗き込んだ。
「ああ、変装すれば誤魔化せるかもな。でも金庫は明らかに無理だ。諦めろ」
「諦めるわけにはいきませんよ」
 ……。
「……なんで金庫があるか考えてみれば、結構簡単に盗めるかもしれないぞ? 研究室は何階だ?」
「地下四階です」
 地下四階か。なら余計に簡単だな。
「今から作戦開始だ」

 

 

 

 というわけで、現在研究員を装って、古泉と二人でその研究室に居る。
 研究員はここの組織の人間を使うわけではないらしいので、IDカードを偽造する必要が無くてよかった。
「うまくいきますかね」と古泉が小声で話しかけてきた。
「今は黙れ」
 周りには本物の研究員も何人かいる。だいたい二十人くらいだろうか。
 ……そして、その内の一人が、例の箱を運んできた。やっぱり、俺の予想は正しかった。
 物体が机の上に置かれた瞬間、建物中に警報が鳴り響いた。研究員たちは何が起こったのかわからず、周りを見回している。
 長門はうまくやってくれたようだ。あとは朝比奈さんがうまくやってくれることを願うしかない。
 十秒後、警報が止み、全ての照明が消えた。すべて計画通りである。
 暗闇の中、研究員たちが軽くパニックに陥っている間に、机の上の箱を持ち、こう叫んだ。
「大変だ! 逃げろ!」と。
 その瞬間、部屋にいた二十人ほどの研究員は例外なく、たった一つしかない出口に殺到した。
 俺たち二人はその集団の中に紛れ込んだ。集団は自然と正面玄関へ向かっていき、自然に外へ出た。
 そして俺たちは古泉の機関が用意した車に乗り込んだ。
「あと一分で長門さんが来なければ作戦失敗ですね」と古泉。
「その心配は無いな」
 車の窓から長門の姿が確認できた。警備員の姿は無い。
「作戦成功だな」
 長門も車に乗り込んだ。全員無事である。
「さっさと退散しよう」

 

 


 さて、どういう計画だったか説明しよう。いや、そんなに複雑なものではないので安心して欲しい。
 まず、一時間前に遡ろう。

 

 


「まず、なんで金庫があると思う?」
「資金や情報を入れておくためではないですか?」と古泉。
「正解だ。じゃあ、ヤツらはあの箱をどうすると思う?」
「金庫に隠すでしょう」
「ハズレだ。俺だったら箱を開けようと思うね。開けるには包丁やナイフを使ったってしょうがない。
それなりの設備がある研究室が最適だ。中身が危険物だったときの対処もできるしな。というわけで、金庫に箱は無い」
 これが俺の推理である。
「じゃあ、どうやってそれを盗み出すか。研究室には研究員がいるし、部屋の外には警備員もいる。そいつらの注意を別の方向に向かせる必要がある。
天井のダクトは金庫の前まで通じてるんだろ? なら、ダクトから何かを落とせばいい。カイロとかが最適だな。サーモセンサーも反応するし。
で、センサーが反応して警報が鳴る。すると警備員たちは地上三十階に向かって全速力で向かう。
その次に停電を起こす。古泉、停電を起こしてから復旧するまでどのくらいだ?」
 古泉は書類の山の中からそれが書かれたものを探し出した。
「えーと、一分ですね」
「一分か……三十階から一分で正面玄関から出られる自信のあるヤツは?」
 いるわけないよな。
「長門、できないか?」
「できなくはない、ただ……」
 なんだ?
「疲れる」
「……我慢してくれ」
「努力する」
「よし、オーケーだ。その後は暗闇の中で箱を奪い、研究室の中で『逃げろ』と叫べば、自然に出ることができる」
 これで完璧。
「あの~、どうやって停電にするんですかぁ?」
 ……一番重要なところを忘れていた。
「……長門、どうすればいい?」
「建物の中の主電源を切ればいい」
「どうやって?」
 長門は設計図を一目見てからこう言った。
「電力は一つのコンピューターで制御されている。そのコンピューターのシステムに侵入すれば可能」
 ハッキングするってことか?
「そう」
 長門なら誰にも気づかれることなくハッキングできそうだが、長門は三十階のダクトにいるのか。
「パソコンでしたら、ここに一台ありますが?」
 古泉がそう言うと、長門はパソコンの前に立ち、キーボードが壊れそうなくらい凄まじい勢いでキーを叩き始めた。
 モニターには「電力システム」と書かている。もう終わったのか?
「ここをクリックすれば、全ての電力を切断できる」
「朝比奈さん、一時間したら、ここをクリックしてください」
「えっ、あっ、はい!」
 ……大丈夫だろうか。

 


 ……とまあ、こんな感じだ。まさかここまでうまくいくなんて、思ってもいなかったな。

 


 ホテルのスイートルームへ戻ると、朝比奈さんが待っていた。
「せ、成功しましたか?」
 俺はその質問に対して、笑顔を返した。
 すると、朝比奈さんも笑った。

 

 

 

 

 物語はここからだ。
 ホテルの部屋に一本の電話がかかってきた。他の三人はその時いなかったんだ。
「もしもし?」
 相手の男は変声機でも使っているような声で、こう言った。
「箱をこちらに渡せば、報酬をくれてやる」
 その一言で、すぐに相手が古泉の機関の敵対組織であることはわかった。
「報酬?」
「ああ、十億円でどうだ?」
 気がつくと、俺は箱を持って先程の建物へと向かっていた。

 

 


 こういう話を知っているだろうか。
 今から十数年前、不良ばかりの高校があった。
 生徒のほとんどが不良で、真面目なヤツなんていない。そんな学校だ。
 その学校で、とある先生が合唱会を行うことを提案したとか。
 それは毎年開催されたのだが、わずか三年目でほとんどの生徒が真面目に合唱をしていたそうだ。
 俺が言いたいことは、中途半端に真面目なヤツよりも、不良の方がやるときゃやる。ということだ。
 まあ、つまり、全然ヤル気の無いやつより、中途半端にヤル気のある奴のほうが厄介ってことだな。
 まさしく俺のことだ。

 

 

 

 ちなみに今の話は実話である。

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 僕が帰ってくると、彼は部屋にいなかった。
 スイートルームなので見つかりにくいということもあるかもしれないけれども、ここのスイートはそこまで広くない。
「朝比奈さん、彼は?」
「いないみたいです……」
 長門さんも彼を見ていないらしい。部屋のどこを捜してもいない。コンビニでも行ったのだろうか。
 ただ、この近くにコンビニは無い。彼だってそのくらいはわかっていると思う。コンビニ以外に彼が行きそうなところはこの近くには無い。
 帰ったのだろうか。我々に別れも告げず? おかしい。
 テレビは電源がついたままだ。その手前にある机の上には例の箱が……無い。その横にあるベッドの上にもトイレにも風呂場にもどこにも無い。
「箱はどこです!?」
 無い。
 彼が持ち出した? そんな馬鹿な。あの箱に一番興味が無いのは彼だったはずだ。
 その時、ベッドの横の電話が視界に入った。受話器がきちんと置かれていない。誰と電話を?
 ……まさか。
「長門さん、この電話の通話記録って調べられますか?」
「試してみる」
 長門さんはそう言うと、受話器を手にとって黙り込んだ。
「どうです?」
 僕がそう聞くと、長門さんは僕に受話器を手渡した。受話器を耳に当てると、誰かの会話が聞こえてきた。

 


『もしもし?』
 これは彼の声だ。
『箱をこちらに渡せば、報酬をくれてやる』
 こっちの声は、変声機を使ったような、機械的な音声だ。
『報酬?』
『ああ、十億円でどうだ?』
『……本当に払うのか?』
『ああ。信じる信じないはそっちの自由だ』
 その後、長い間があってから、彼はこう言った。
『ああ、いいだろう』
 そこで通話は途切れている。

 


「長門さん……これは本当に彼の声ですか?」
「間違いない」
 だとしたら、本当に困ったことになってきた。
 彼があの建物に辿り着く前に、止めなければ。
「長門さん、この通話はどれくらい前に?」
「今から一分十五秒前」
 ならば、まだそんなに遠くへは行っていないはずだ。もしかしたら、まだこのホテル内かもしれない。
「急ぎましょう!」

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 こんな箱ごときに十億円? 笑いが止まらん。アハハハハ。
 財布の中身を確認してからタクシーに乗っていくことに決めた。俺は世界で初めてタクシーを考えた人間を心から称えたいと思う。
 タクシーが発進するときに、窓の外に古泉と長門と朝比奈さんが見えた。もう気づいたのか。
 申し訳ないと思うが、俺はマクガフィンなんかよりも十億が欲しい。すまん。
 申し訳ないと思っていても、顔から笑みが漏れてしまうのは、十億円のせいだろうか。
 三人の姿は段々と遠ざかっていって、見えなくなった。

 


 交差点の赤信号で止まっているとき、パトカーの姿が目に入った。それも覆面パトカーだ。
 警官は拡声器を使ってこう言った。
「そこのタクシー、止まりなさい」
 窓から周りを見回してみても、他にタクシーは見つからない。俺の頭が正常ならばあの警官は、このタクシーに対して「止まれ」を命令しているのだと思う。
 タクシーの運転手は俺に「お客さん、何かしたんですか?」と聞いてくる。断じて俺は何もしてないぞ?
 タクシーが道路脇に止まると、パトカーはその前に停車して、婦人警官が降りてきた。
 その婦人警官はどこかで見たような顔をしていた。
 ええ~っと……そういえば、さっき地図とか書類とか設計図を持ってきた女性に良く似ている。っていうか森さんじゃん。これはまずい。
「ほら、降りなさい」
 俺ですか?
「そうよ、早く!」
 だが断る、と言いたいところだが、それはできない。森さんが手錠を持っているのが見えた。実に嫌な予感がする。
 仕方なく降りることにしよう。
「おまわりさん、どうしたんですか?」
「とぼけないでください」
 ……怖いな。
 俺は白い箱が自分の腕の中に納まっていることをしっかりと確認した。
 俺は家から出る時に玄関からではなく、裏口から出た。そのため、残念なことに履いているのはサンダルだ。
 森さんに気づかれないようにコッソリと足元だけを動かしてサンダルを脱ぐ。サンダルより裸足のほうが走りやすいよな?
 そして、俺は両手首に手錠を掛けられる前に全速力で逃げた。
 俺は徒競走はあまり速いほうではないのだが、追ってくる人間がいるとなれば話は別だ。タイソン・ゲイも真っ青な新記録を叩き出しそうな勢いで俺は逃げた。
 で、気がつくと目的地とまったく逆の方向に走っていることに気がついた。
 さて、ここでタクシーを拾っても、また同じ事の繰り返しになるだけだろうし、裸足だから相当怪しまれる。
 ……とりあえず、一旦帰るか。

 


 家までの道のりはあまりにも長すぎた。もう深夜なので通行人が少なく、怪しまれる事も少なかったが、足の裏が非常に痛い。
 とりあえず帰って来れたので、靴をスニーカーに履きかえて、例の組織に行くか。だが、どうやって行こう。
 タクシーは駄目だし、自転車は長門のマンションにある……徒歩か。まあ、十億円を手に入れることに比べたらたいしたことじゃないな。
 ん? 待てよ、これが罠ってこともありえるな。万が一のため、箱は部屋に置いていこう。箱を渡した途端に殺される可能性も否めないからな。
 俺も少しは賢くなったんではないだろうか。

 


 だが、賢くなったと言っても、それほどではない。交差点を曲がろうとした時に古泉の声が聞こえた。
 知らない間に近づいてしまったらしい。もしかして、行動を読まれてるのか? 十分にありえるから困る。
 遠くなので何を言っているのかはわからないが、それほど大きい声で会話しているわけでもない。姿はまだ確認できない。
 見つかる前にできるだけ離れようと思い、百八十度方向転換を行って、全速力で走ることにした。
 で、百メートルほど離れたところにある路地裏に逃げ込もうとした。
 だが、その路地裏から小柄な少女(暗闇でよく見えないが、女なのは確かだ)が現れた。
「……発見した」
 ……ヤバイ! 逃げなければ!
 長門は俺の腕を掴もうとしたが、俺はスルリと腕を引き、すばやく方向転換を行った後、全速力で逃走した。
 その路地から出ようとすると、真っ黒な車が二台か三台ほど現れて、俺の行く手を遮った。車の後部座席には朝比奈さんが座っているのが見えた。
 駄目だ。逃げ場が無い。
 そこに古泉も駆けつけて、俺にこう言った。
「馬鹿なことは考えないで、箱をこちらに渡してください」
 あんな何の価値も無い箱が十億円になるんだぞ。諦めろというのは無理な相談だ。
「断る。あんな箱、何の役にも立たないし、価値なんて無い。あれを守ってどうするつもりなんだ」
「それでは強行手段です」
 三台ある車の中から、黒服の男がライフルらしきものを持って現れた。
「俺を撃つつもりか?」
「ご安心を。ゴム弾です」
 なに!?
 この状況はまずい。まずすぎる。ゴム弾で撃たれても死にはしないと思うが(とは言っても、当たり所が悪ければまずいな)、撃たれたら逃げることは不可能だ。
「観念してください」
 俺は空を見上げた。
 歓喜の叫びを上げたかったね。十億円がもう目の前まで来ていたんだから。
 プロペラの音が辺りに響く。ヘリコプターは俺のちょうど真上まで来ると、縄はしごを俺のところへ下ろしてくれた。ルパン三世を思い出す。
「逃げる気ですか!?」
「ああ、当然だ!」
 俺は縄はしごを少しずつ上りながらそう言った。ヘリコプターは少しずつ上昇していく。
 ……縄はしごって、揺れてるとこんなに昇りにくいものなんだな。
 黒服の男たちがライフルを構えているのが見えた。おいおい、マジかよ。
「まだ撃たないで下さい! 彼が落ちたら大変です! ここは一旦退きましょう!」と古泉が男たちに叫んだ。
 これで十億は俺のものだ。

 


 一億円というのは約十キロあるらしい。ということは、十億円はその十倍の百キロあるということだ。どう考えたって、並の人間が一人で持てる金額じゃない。
 おそらく、銀行振り込みにしてくれるんだろう。……親に怪しまれるよな。いきなり通帳にゼロがいくつも増えてたら誰だって怪しむ。
 まあ、その問題は後で考えよう。

 


 ヘリコプターの中ってこんなにうるさいものなのか? 乗員たちが何を話しているのかよく聞こえない。
 俺はヘッドフォンにマイクがついたようなものを手渡された。ヘッドフォンは完全に耳を覆うタイプのヤツなので、騒音が随分とマシになる。
 乗員の一人はこう言った。
「箱はどこにある?」
「隠してある。その前に約束の報酬をくれないか?」
「駄目だ。箱が先だ」
「じゃあ、前金とかは?」
 男は十秒ほど黙り込んでからこう答えた。
「先に一億だけ銀行に振り込もう。箱をくれたら残りもやる。これでどうだ?」
 ……箱を受け取ったら殺すってことは……。
「安心しろ。俺たちの目的はあくまで箱の入手だけだ。お前を殺しても俺たちには損しかない」
「この箱に何の用があるんだ?」
「そのうちわかるさ」
 その男の顔は、どこかで見たことがある気がした。
「そのうち?」
「ああ、十年後くらいにな」

 


 俺がこの男の正体に気づくのは、このときからわずか数分後のことである。

 

 

「部屋の中にあるんだな?」
「ああ、取ってくる」
 家族を起こさないようにこっそりと家に入り、部屋の机の下にある白い立方体を手に取った。
 まあ、プロペラの音で目覚めなかった人間がこの程度で起きるとは思えんが。
 そしてまた、家族を起こさないように家を出て、男にそれを渡した。
「ありがとよ。後で振り込んでおくから確認してくれ。じゃあな」
 そう言って、男はヘリコプターに乗り込み、去っていった。
 これで何もかも一件落着か。
 で、俺は顔を洗ってから寝ようと思ったわけだ。
 洗面台の鏡を見て、あることに気がついたんだ。

 


 俺の顔が、さっきの男の顔にそっくりなことに。

 


 男の言った言葉の意味がわかった。そういうことか。俺は十年経ってもいろいろとトラブルに巻き込まれているってわけか。
 実に不幸な人生である。

 

 


 で、寝ようと思ったんだが、古泉がやってきた。車で。とりあえず外に出て、用件を聞こう。
「十億円を受け取ったんですか」
「ああ」
「見損ないましたよ」
 今なら、なんと言われようと、上機嫌でいられる自信がある。だって十億だぜ?
「箱の方は、すでに取り返しました」
 ……取り返しただと?
「ええ、ヘリコプターが着陸した瞬間を狙って奇襲を仕掛けましてね。無事に成功しましたよ」
 ……。
「なあ古泉、どうしてもわからないことがある」
「なんでしょう」
「お前たちの機関は、あの箱で何をしたいんだ?」
 これが最初から理解できなかった。
「何も。ただ、守っているだけです」
「何のために?」
「危険の可能性があるからですよ。もし、あの箱に未知の力があって、それを悪用されたらどうするんですか?」
 未知の力ぁ?
「アホか。悪用される前に、箱自体を処分してしまえばいい」
「その計画はすでに実行に移しています」
 なに?
「どうやって処分するんだ?」
「朝比奈さんの機関が時空の裂け目を発見したようです。そこに箱を処分します」
「どうなるんだ?」
「時空の裂け目に入ったものは、"いつか"の"どこか"に消えるそうです」
 いつかのどこか?
「ええ。遠い昔の遥か彼方の銀河系かもしれませんし、数千年後の宇宙空間かもしれません。どこに消えるかわからないんです」
 なるほど。あの箱を処分するには最適だ。
「だが、最近の、この近所に現れて、またトラブルに巻き込まれるということは無いのか?」
「ありえませんね。この広大な宇宙空間の、日本に現れるだけでも天文学的な確立だというのに、時間までランダムですから」
 なるほど。なら安心だな。
「今から処分に立ち会うんです。あなたも行きませんか? マクガフィンを見届けに」
「ああ、いいだろう」

 

 


 その施設というものは、恐ろしく巨大な建物で、周りの人間がなぜ、この建物の存在に気がつかないのか不思議なくらいだ。
 その施設の中の一番大きい部屋に、それはあった。
 『スターゲイト』がこの巨大な装置を表現するのに最適な言葉だと思う。あの映画に出てくるゲートに、酷似している。
「この中に箱を入れるのか?」
 俺の右には古泉が立っていて、左側には朝比奈さん、長門の順番に並んでいる。
 俺の両腕の中には、白い立方体が収まっている。
「ええ、そうです」
「よし……いくぞ」
 俺は両手でしっかりと立方体を掴み、このゲートに狙いを定めた。
 そして、この立方体に別れを告げようとした。

 


 ……どうして後ろから銃声と悲鳴がするのだろうか。振り向くと、あの男がいた。どこから入ってきたんだ?
「その箱を渡せっ!」
 その男、――十年後の俺――は拳銃を俺に向け、そう言った。
「撃つ気か?」
「俺の人生が懸かっているんだ。だから、早く、こっちへ、よこせ!」
 ……俺の人生?
 お前は自分の人生のために命を懸けてここまで……。
「ああ、そうだ。だから、早くよこせ」


「断る」


 懸けてるのが人生じゃなくて世界だったら渡してやったかもな!
 俺はそう叫んで、ゲートに向かって立方体を放り投げた。
「やめろぉぉぉ!!」
 男はそう叫びながら、宙に舞う立方体を掴もうとサッカーのゴールキーパーのように大きくダイブし、空中で立方体を掴む事に成功した。
 だが、着地する予定の地面がある場所は、ゲートだ。
 十年後の俺は、マクガフィンと共にゲートを越え、姿を消した。
 俺たち四人は、その光景をただひたすら見ていることしかできなかった。

 

 

 結局、あの「俺」はどこへ行ったのだろうか。遠い昔の遥か彼方の銀河系か、それとも数千年後の宇宙空間か。
 神のみぞ知る。
「神の悪戯か……」
 ただ、わかっていることは、十年後は自分の番だ、ということだ。

 

 

 

 

 

 

――それから六ヶ月"前"


「古泉くん、これを校庭で拾ったんだけど」とハルヒ。
「おや、なんですかそれは」
「箱……みたいね」
「……そうですね。面白いことを思いつきました。机の上にこれを置いて、彼の反応を見てみるというのは?」
「キョンだからあまり面白い反応は期待できないと思うけど、試してみる価値はあるわね」
「ああ、そうだ。彼に『これは何だ』と聞かれたら、マクガフィンだ、と答えてください」
「なんで?」
「面白いからですよ」

 


 時空の裂け目は意外と近くに出口があったが、最後まで誰も気がつかなかった。
 神様は本当に退屈なんだな

 

 

-fin-

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