ある曇りの日のSOS団部室。
晴れだろうが雨だろうが曇りだろうがやることは特に何も無いので古泉相手にオセロを遊んでみたりする。
そんないつもと変わらない日常。
ただ一つ非日常だと言えば今俺が考えていることのすべてだろうか。

 

何かハルヒが事を起こし、それを宇宙的、未来的、超能力的な方法で片付ける3人を見つつ、その度に俺の頭を掠める疑問がある。
俺は、本当に極一般的とカテゴライズされる人間なのか?と。
ハルヒが入学式に異質の人間を望んだからここに集まったのだ、と古泉は言った。
いまだにハルヒの放ったあの奇怪なセリフは残念ながら俺の頭にこびりついて離れないのは確か。
宇宙人・未来人・超能力者、そして・・・異世界人。

 

考えてみれば異世界人なんて設定は小説、漫画、ゲームでもそれはもうお決まりの手法といった形で使われているものだ。
そして最終的には自分の元いた世界に還るのか、または召喚された世界にそのまま居続けるのか、その2択を迫られる。
まぁ、俺自身、自分が異世界人だなんて人に聞かれたら即カウンセリングに連れて行かれるような事なんざ信じたくもない。
だからこんな疑問はとりあえずは解決する必要も無いので、頭の片隅に放っておくことにする。

 

信じたくないと言えば古泉がいつか話した、世界が3年前より始まったなんて説も信じたくはない。
もう少し掘り下げると、全世界の3年前以前の記憶は創られたものを貼りつけられているだけなのかもしれない、との事だが
そんな説が正しければ全ての人間はなにかしら、ハルヒが願ったような性格に変貌しているはずだぜ?
生活上、表面には現れてないようにしているとしても、この俺にそういった性格は残念ながら植えつけられていない。

 

こんな話をぽつりと漏らしたところで、
 「確かに、僕の推測は仰るとおり間違いかもしれません。いえ、間違いであってほしいです。
  一人の少女の機嫌しだいでどうにでもなってしまう世界など、機関も受け入れたいものではありませんしね。」
とお得意の笑顔で語る古泉。
特にそれ以上話すことも無かったのでしばらくはオセロに目を戻し、黒と白の陣地占領戦が再開していたのだが
 「・・・今気づきましたが、確かにその通りかもしれません。」
ここから古泉の推論が始まった。

 

 「覚えていませんか?秋の映画撮影でのあなたの行動。あなたは涼宮さんに手を挙げようとしましたよね?
  振り下ろす前に僕が止めましたが。」
それがどうした。あの時は頭に血が上っていたんだ、俺だって手を挙げるつもりなんてさらさら無かったさ。
 「高校に入ってから涼宮さんは大分落ち着いたと前に僕が言った事を覚えていますか?」
残念ながら、覚えているな。
 「中学生時代はそれはもう言葉では表せない程の様だったんですよ。」
だから何だ?
 「あなたよりも血気盛んな男子生徒は沢山いた、しかし涼宮さんが手を挙げられたことは全く無かった・・・」

 

俺も馬鹿ではない。古泉の言わんとしていることがなんとなく分かったのだ。
なにかコメントを述べようとしても全く思いつかなかった。
俺の中学生時代でさえ、友人と口論になり、結果暴力に発展してしまったことが無いわけではない。
一般的人類の最も不安定な時期と言える思春期真っ盛りの中学生時代。
そんな時期にあの傍若無人がそのまま擬人化したようなハルヒが一度もそういった事件に巻き込まれていない・・・?
 「もしかすると、全ての人類は涼宮さんにとって僕が考えた以上に都合のよいものに変わっていたのかも知れませんよ。
  しかし・・・あなたは違った。」
あぁ、手を挙げようとした。
 「規格外・・・と申しましょうか。」
ハルヒの能力が届かなかった人類・・・いやまて、しかし俺はあのハルヒの閉鎖空間に巻き込まれたことだってあるぜ?
 「あれは大雑把に言えば物理的な移動です。内面に全く関係が無いものと言えます。」
長門のあれもか。
 「あれはむしろあなたが“規格外”だったからこそあなただけ改変できなかったのではないでしょうか。
  今なら僕はそう考えます。」

 

鍵──誰に言われたんだっけか・・・俺の頭にはその言葉が浮かび上がる。
しかし1000歩譲って俺がその異世界人だとしよう。それならば俺はいつこの世界に呼ばれたんだよ?
俺の内面にまでハルヒの能力が届かなかったんだとすれば、俺の持ってる3年前以前の記憶は正しいものと言える。
しかし生後から今までの記憶の中に俺にはこの世界以外の世界の記憶なんてものは存在しない。
いつのまにかドアを開けて部室に入ってきていた長門が、真横に立ち止まりこう呟いた。
 「・・・・・・パラレル・ワールド」

 

“パラレルワールドとは、ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。
 当然ながら、いわゆる「四次元世界」や「異界」などとは違い、我々の宇宙と同一の次元を持つ。並行世界・平行世界とも呼ぶ。”
古泉に噛み砕いて説明してもらっても俺の頭では半分も理解できないのだが、とりあえずこの世界と同じ世界が他にもあるってことか。
 「・・・・・・ただし今の説が正しいとすれば本流はこの世界では無くあなたの世界、ということになる。」

 

具体的にはこうだ。
ハルヒが異世界人を連れてくるためにパラレル・ワールドを作り出して俺を呼び出したとするならば、本質的に内容の改竄を幾らでも出来る・・・
つまりこの世界の住人と全く変わらないことになる。
ということは逆に考えると、この世界が俺の元々の世界からのパラレル・ワールドとするならばその世界に発生したハルヒの能力により
俺はこの支流の世界に呼ばれたこととなる。
そう考えればパラレル・ワールドに関わる全てのものがハルヒの気ままに変えられる事実はそのまま、俺にはハルヒ的変態パワーが効かないことの証明にもなる。
もちろんただの人間なのだから、古泉の機関が俺を調べ上げても極普通としてカテゴライズされることとなる。
まぁ、世界自体はいくらでも改変できる&物理的な方法は避けようが無い以上俺に厄介ごとが降りかからないわけではないが。
むしろ何度も酷い目に遭ってきたし。

 

だが・・・パラレル・ワールドだとして、長門はいち早くそれに気づけるのじゃないか?と聞いたところ
 「この世界からの支流なら可能。恐らく私や情報統合思念体はこの世界によって作られたものだから。
  あなたの元いた世界があり、それが本流とするならば、私には察知不可能。
  その結果導き出されるあなたのこの世界への到着時間は3年前の七夕の日。」

 

朝比奈さんはハルヒに連れられて2人とも部室に顔を出さなかった。

 

 

 

帰る前にパラレル・ワールドについてネットで詳しく調べてみたりもした。
その世界とこの世界(という説が正しいものとして)がほぼ相違ない世界だったとすれば、俺はいつこの世界に呼ばれたところで何も違和感は無い。
しかし一つ疑問が浮かび上がる。・・・俺の家族は同じく異世界人なのだろうか、と。
俺、もしくは俺たちがこの世界に突然召喚されたことに対する周囲環境の問題はやはり予想通りだが、ハルヒがどうにでもできるらしい。
疑問を解決しようと考えを張り巡らせればさらに疑問は増える一方。
俺が元いた世界なんてあるとするならば、古泉たちはそこにも存在するのだろうか。
俺が消えたこととなったその世界ではどういった日常が繰り返されているのだろうか。

 

・・・ハルヒは何故、俺を選んだのだろうか。

 

なんて、これじゃまるで俺=異世界人論を信じたような物言いじゃないか。
まぁ古泉にしちゃえらく共感できる推論だったし、珍しく長門も話に加わってきたが・・・それでも仮説に過ぎないと最後に付け加えていたからな。
どのみち俺の貧弱な脳では幾ら頑張っても解決できない疑問しか出てこないわけだし。
解決できない問題をいつまでも考えるなんて面倒なこと、御免だね。なんせ俺は知恵の輪を3分で投げ出すような男だからな。

 

ふと部屋の片隅にたてかけられた笹と呼べるかあやふやな・・・竹に吊り下げられた短冊が目に入る。
“世界が私を中心に廻りますように”ではなくもう片方の
“地球の自転が逆回転を始めますように”の方を。
この世界がハルヒ中心に廻っていることはハルヒを除くSOS団員なら既知の事実。
そうではなく、この地球が逆回転を始めることを願うというその短冊を見て、俺の頭は妙に引っかかるものを覚えた。

 

ボーっと短冊を眺めていると勢いよく開け放たれる扉の向こうにハルヒが見えた。
扉が口をきくようなことができるようになったら、それはもうハルヒに対する愚痴で24時間喋り続けるのだろうと思うね。

 

 「あら、キョンまだ帰ってなかったの?今まで何してたのよ」
まさか古泉、長門と俺の異世界人説について語っていたなどとハルヒには言えまい。
 「お前は?今まで朝比奈さんを連れて何をしていたんだ?」
見るとついさっきマラソンのゴールテープを切ることができたかのように息を切らせて椅子にへたりこむ朝比奈さんの姿が。
 「文化祭のとき美術部はみんなコスプレして校内を廻ってたじゃない?
  そのコスプレ衣装をみくるちゃんに着せられないか一緒に行ってみてたのよ。
  来年は来年で違うものを作ろうとしてて今年の衣装の処理に困ってたって言うからね。
  灯台下暗しとはこのことよね!遅かったら捨てられてるとこだったわ!」
そう言いつつハンガーに気に入っているように見える数着をかけ、残りは紙袋に入れたまま放置するハルヒ。

 

 「さ、もう暗いしさっさと帰るわよ!」
フラフラと戸締りの手伝いを始める朝比奈さん。・・・気苦労、お察しします。

 

そんなわけでその日はそれ以上何も無く、さっさと家路に着き、早めに就寝したのだった。

 

夢は無意識的な情報処理の一部であるとどこかで読んだことがある。
整理しなければならない情報が何だったかといえば、一つしかない。・・・パラレル・ワールド。
街中を誰かと散歩する俺。突如起こる地響き、地面に走る亀裂。
割れるガラスの音。崩壊するビル群。紅に染まる空。
立っている事もできなくなり、隣にいた誰かが覆いかぶさり、その身で瓦礫から俺を守ろうとする。
なにか生暖かい液体が首を伝ったかと思うと声にならない叫びをあげる相手。
誰か俺を呼ぶ声が聞こえる。
・・・そこで俺は意識を取り戻した。

 

こんな夢診断で
“あなたには大きな破壊衝動が見られます、アロマキャンドルを炊いてリラックスしてみることをオススメします”
なんて言われそうな悪夢、さっさと忘却してしまいたかったが・・・
長門の呟いた「パラレル・ワールド」がそれを俺の記憶媒体にしっかりと焼き付けることとなった。

 

・・・一体何の関係があるのやら。
再び寝てしまうとまた同じ夢を見てしまいそうで結局眠ることが出来ず、そのまま夜が明けた。

 

ただの夢で終わればいいと思っていたがそうもいかないようだ。
この日せっかく早くから起き、パーフェクト・アラームなる妹からのボディプレスによる目覚ましを逃れられたというのに
忘れ物に気づいて再度家に戻り、結局遅刻ギリギリに登校するという勿体無い行動をした俺が見たもの・・・

 

俺の席の後ろにはハルヒはいなかった。

 

風邪かなにかだろうか?という予想は教室に入ろうとする俺の肩を掴む古泉にすっぱりと断ち切られてしまった。

 

 「長門さんの話によると・・・
  涼宮さんは昨日の夜よりこの世界から消え去ったそうです。」

 

古泉に連れられて部室に行くと長門と朝比奈さんは既に椅子に座って待っていた。

 

 

 

 「・・・・・・涼宮ハルヒは9時間4分前、この次元より消え去った。」

 

 

 

・・・そこから具体的な解決策が話し合われた。
俺を除く3人の意見は“このまま涼宮ハルヒ不在のままで放置するのは危険”で一致。
いまだこの世界はハルヒの能力が干渉した形であり、この世界に不在だとしてもハルヒの希望しだいでいつでも再崩壊可能だという。
まったく、哀れな世界様だ。・・・で、どうやって問題解決するんだ?

 

 「・・・・・・あなたの手を文字通り借りる・・・」

 

と手を取り、質問に対して理解できない文字の羅列を喋り続ける長門の言葉を古泉が要約すれば、
ハルヒが俺を呼ぼうとする力が働いているため、それを辿ればその世界に行けるのだと言う。
ただしその世界に行くことができるのは本人である俺と、それに添付ファイルの形で着いていくことができる長門だけだと言う。
つまり古泉、朝比奈さんはここでお留守番と言うわけだ。

 

 「・・・・・・あなたは恐らく昨夜の時点で涼宮ハルヒに呼ばれていたはず。
  その時点であなたもこの世界を旅立っていたら、私はもうあちらの世界に行くことは出来なかった。」
夢の最後に俺を呼ぶ声が思い起こされる。
 「・・・・・・でも残された時間は少ない。恐らく今の彼女は精神が不安定。
  こちらの世界にも影響が出ている。」
携帯の着信音に振り向くと、古泉が立ち上がり
 「すみませんバイトに・・・あ、涼宮さんはいませんでしたね。
  閉鎖空間が発生したとの事なので、行って参ります。あちらの世界のことは任せましたよ。」
とだけ言い、大急ぎで部室を出て行った。
何も能力を持っていない俺だがこれだけは分かる。世界は相当やばい状況だ。

 

俺を呼び続けるハルヒの力がまともに働くのは俺の意識が弱まっているとき、すなわち夢を見ている時だと言う。
しかし俺が夢を見るまで待つ時間も無いとの事で、いつか経験した朝比奈さんの持つ装置で気を失うことにする。
長門が直接気を失わせることもできるが、朝比奈さんの方がダメージが少ないとのこと。
あの時の感覚が思い浮かんでくるが、それよりも強烈な感覚を想像して身震い。言われたとおり朝比奈さんに施してもらうことにする。

 

 「私は長門さんのようなあなたを守れる力はありませんし、古泉君のように世界を崩壊の危機から守れる力もありません。
  それでも・・・私はこの場所を守ります。だから絶対帰ってきてくださいね!」

 

わかりました、と答えようとしてあの衝撃をまた味わった後、俺は意識を失った。

 

 

 

意識が戻るとすぐさま周囲を確認。どうやら長門の膝で眠っていたようだが・・・ここは・・・SOS団部室だ。
コスプレ衣装がかかったハンガーラックは置いてないし、コンピ研から勝ち取ったノートPCもないし、古泉が置きっ放しにしている盤ゲーも無い。
もちろん団長と書かれたあの三角錐も見当たらない。しかしそれでも分かるのだ、ここがSOS団のいた場所だと。
廊下に出て確認すると、確かに文芸部と書かれているのを見つけた。クエスチョンマークが頭を支配し始める前に長門が呟く。

 「出発した地点とリンクした別次元に移動した。つまり私たちの世界ではない世界。」
・・・あぁ、やっぱり仮説なんかじゃ無かった訳か。

 

 「情報統合思念体と同期が計れない。・・・ここは本流の世界。」

 

と急に起こる爆音、揺らぐ校舎。
長門を庇おうとして引き寄せようとしたが逆に引き寄せられ、俺のすぐ後ろには掃除用具入れのロッカーが倒れていた。
全く、俺って奴は男なのに本当に恥ずかしい奴だ。

そこへ飛び込んできた女子生徒。
 「あんた達!こんなとこで何やってるのよ!?攻撃が始まったわ、さっさと逃げなさ・・・」
俺は目を疑った。
肩にかかるかかからないかの髪で黄色のカチューシャを装備中の見覚えのある少女。

涼宮ハルヒ当人だった。

 「やっぱり・・・か。」
長門に向かって何がやっぱりなのだろうと思っていると無言で頷き返す長門。

 「あなたに全て伝えても、私たちの涼宮ハルヒには悪影響は及ばないものと認識した。」
俺にも分かるように言ってほしいんだが、長門・・・

 

しかしそれ以上に難解なことを喋り出す“ハルヒ”。
 「ええ、あなたたちのハルヒはここで眠っているわ。」
そう言いつつ自分の胸の中心を指差す“ハルヒ”。

 

 「“彼女”に知られるわけにはいかないしね。」

 

俺たちは話は後回しにして講堂に避難する事を優先することにした。

一体何がどうなっているのか。この“ハルヒ”は俺の知っているハルヒとは全く違っているようだ。
講堂の人ごみに谷口、国木田、その他クラスメイトもいたが俺を知っている人は一人もいなかった。

講堂の隅に集まる俺、長門、“ハルヒ”。
今気づいたが“ハルヒ”は頭を怪我していて、首筋に血が流れていた。

 「全て話すから聞いてて。」
重そうな口を開く“ハルヒ”。
ここから全ての疑問が解けることとなる・・・

 

俺の元々の世界とハルヒの世界について──

 

 

 

“ハルヒ”はハルヒと同じく理不尽な力を持つ少女だった。異なる点はその規模と力の理解。
“ハルヒ”は空想からパラレル・ワールドを作り出せる。勿論自分で作り出したものだということをはっきりと理解していた。
しかし力はそこまで。ミニチュアハウスのように好きなようにレイアウト変更することはできても
そこに存在しないもの(例えば都市に砂漠など)を作り出すことはできない。
それは“ハルヒ”の知る世界がこの世界だから、と長門が口を挟んだ。

その力を実感したのが3年前。どうやって創られるその瞬間まで目にも触れられない世界を創れることが実感できるのか不思議だが
古泉の言葉を借りれば「分かってしまうのだからしょうがない」と言ったところか。
作り出した世界にも“ハルヒ”は自分を創った。
“ハルヒ”はハルヒとリンクして、その世界を第三者の視点で見れるのだ。
・・・しかしある時それは起こる。

 

あまりにも自分と等しく、いや、自分以上の力を願って創られたハルヒは“ハルヒ”よりも強大な力を持つこととなる。
無意識にハルヒが行ったこと、それは本流世界と支流世界の遮断。
長門の言う情報爆発の日にそれは行われたらしい。
その時同時にハルヒが願ったこと・・・
宇宙人が存在してほしい、未来人が存在してほしい、超能力者が存在してほしい。それらはたちどころに実行させられる。
そして、異世界人が存在してほしい──

 

その時呼ばれたのが俺だった。

 

さてここから少し俺の考えを聞いてほしい。
・・・現在の、この世界情勢を疑問に思ったことは無いだろうか?勿論俺たちの世界でだ。
表面上は友好条約によって平和が保たれている。しかしニュースで流れてくるのはほんの僅かな火種で国と国との暴動がおきそうなものばかり。
戦争は起こさないと言いながら核を幾つも保有している国々。
平和なら必要の無い軍隊も殆どの国は自分の物が一番優れたフィギュアだと言わんばかりの手の入れようじゃないか?
──同じ世界が他にも存在するのだとしたら、その世界は戦争が起こっている最中なのではないだろうか?

 

その世界がこの世界だったのだ。

 

今年、全世界は第3回目の世界大戦を始めたのだそうだ。
前回よりも凶悪な兵器をおもちゃ感覚で落としまくるその戦争の規模は前回とは比較できないものとなった。
簡単に言えば開幕後すぐ9割の国は滅んだのだ。

“ハルヒ”はこう呟いた。
 「あっちのハルヒが世界を遮断してくれてて良かったって思う。
  遮断しても私がその世界を覗けなくなるわけじゃなかったしね。」
聞くと、もしもハルヒが自分以上の力を持たず、今も本流世界と支流世界が繋がっていたとすれば、
この戦争で“ハルヒ”が死んでしまうと同時に支流世界も簡単に滅びてしまうとのこと。
今はハルヒが遮断してしまったので“ハルヒ”が死んでしまっても支流世界は滅びないらしい。

 「はは・・・ほんと、地球が逆回転でも始めて、時間が戻ればいいのに。」
それを聞いて一瞬で俺の頭にはあの短冊のことが浮かんだ。
そう、あれは“ハルヒ”の願いだったのだ。

 

 「でも・・・なんで選ばれたのは俺だったんだ?」
その答えに対しては長門がこう答えた。
 「涼宮ハルヒに願われて存在した未来人によりあなたと涼宮ハルヒが出会ったから。」
ここで解説してくれるのは古泉の役だが、代わりに“ハルヒ”が請け負った。
 「あっちの世界で3年前の7月7日にあなたと会うという事項が不変なものになってしまった。
  だから矛盾が出ないように、そこから遡った遮断の日にあなたを召喚したのよ、あっちのハルヒはね。」
そんな未来人染みた事がハルヒに出来るのか疑問だが、まぁなんでもありといえばありというか。

 

 「でも・・・ハルヒが好意を抱いてた人に、あたしも会ってみたいって願ったのはまずかったかもね。」
長門の説明ではこの世界で昨日起こった大規模な破壊で絶望の底に落ちた“ハルヒ”と
昨日思わぬ品を手に入れて嬉々揚々としていたハルヒとが絶妙にバランスがとれてしまい、“ハルヒ”の願いが叶えられてしまうという奇跡が起こったわけだ。
勿論、“ハルヒ”にはハルヒの力は無い。そこでまずハルヒをこちらの世界に呼び出し、自分と同化してから俺を呼ぼうとしたのだそうだ。
そういったことを“ハルヒ”は無意識に行ったわけだが、たまたま呼び出した場所はズレ、ハルヒはこの世界の惨状を見てしまい絶望感に支配されてしまったのだ。
夢で俺を呼んだのはおそらくその時だ。

 

“ハルヒ”が言うには今もハルヒは悪夢を見続けているのだという。

 

 「さ、もうハルヒを元の世界に戻さないと。」

簡単に明るく言うものの、“ハルヒ”に笑顔はなかった。

 

 「あっちのハルヒをよろしくね。君はあの子に選ばれた人なんだからね。」

“ハルヒ”はどうなるんだ?この破滅しか見えない世界で生涯を終えるつもりか?

 

 「この世界はもうどうにもならない。でもあなたの世界では同じ過ちは起きないかもしれない。」

視線を逸らし長門にハルヒを元の世界に戻し終わったことを告げる“ハルヒ”。

 

 

 

“ハルヒ”の両肩を掴み、既に涙腺に停止の命令をかけられなくなった俺が発した言葉。
 「なぁ、なんでもいい。俺が叶えられる望みはないか?」

 

 

 

ここが講堂である、ということも忘れて──
──“ハルヒ”と俺は口づけをした。

 

 

 

 「ハルヒが選んだのがあなたで良かった・・・
  身勝手だと思うけど、あなたはまたあっちの世界に戻ってね。そして、あの子を支えていてあげて。・・・キョン。」

 

 

 

俺の意識はそこで消えた。

 

 

 

目を覚ますとそこはまたもSOS団部室。
しかし、今度は昨日新たに追加されたばかりのコスプレ衣装がかかったハンガーラックも置いてあるし、
コンピ研から勝ち取ったはいいが以降まったく使ってもいないノートPCもあるし、古泉がいまだ負けっぱなしになっている盤ゲーもある。
もちろん黒地に白字で団長と書かれたあの三角錐も目の前にある。そう、それは高校生である俺が小学生の算数を解くかのように分かるのだ。
ここがSOS団のいる場所だと。

 

涙で目が真っ赤な朝比奈さんがいる。
髪が乱れてどこかの流行らないアーティストのようになっている古泉がいる。
珍しく本も読まずに、俺を膝に乗せたままの長門もいる。

 

俺は帰ってきたのだ。ハルヒの世界に。

 

ハルヒはといえば、今頃は自宅のベッドで目が覚めている頃だろう、と長門が呟く。
ふと窓から外を見ればもう日が沈みかけていた。

別世界に行ってたことがまるで夢のように感じられる。しかしそれは夢では決してない事を、ブレザーに付いた“ハルヒ”の血が物語る。
最後に聞いた言葉の時、抱きつかれたことによるものだ。

 

結局あの世界がどうなったのか、もう知る術は無い。

長門に聞いた話だが、あの世界での第三次世界大戦勃発の日と、俺とハルヒの例の閉鎖空間の一件は同じ日だという。
“ハルヒ”とハルヒの願い。結果俺が潰したことになるのかと頭によぎる。
あの時、俺が止められなければ世界はどうなっていたのだろうか。

 

あの世界で、校舎が爆発で揺らいだ時、俺は神人を思い出していた。
ビルや校舎を、おもちゃ相手にかんしゃくを起こした子供のように破壊行動に没頭するそれを。

 

 

 

なんにせよ、俺はこの世界に必要があって呼ばれたのだ。この世界を守るために呼ばれたのだ。

 

“ハルヒ”は願った。
この世界では戦争が起きませんように、と。

 

願い事ならば叶えてやらねばなるまい。なんたって、世界は彼女を中心に廻っているのだから。

 

 

 

次の日、雲ひとつ無い天気となったはいいが、またも遅刻ギリギリに学校に着いた俺。
もし今日もハルヒがいなかったら?なんて不安が過ぎったが
同じく遅刻ギリギリで下駄箱に到着した古泉から肩を掴まれることもないし、廊下ですれ違った長門は軽く頷いて挨拶するだけだ。

俺の目は至って正常のようだ。
俺の席の後ろで、また何やらよくないことを考えているらしいハルヒの顔が見えたから。

 

 「キョン、今日はSOS団臨時会議だから!遅れたら罰金よ罰金!」
昨日悪夢を見ていたとは思えないくらいの元気だな

 

 「ところでキョン・・・昨日変な夢を見たの。」
へぇ・・・どんな?
 「なんか怖かったって気はするんだけどよく思い出せないのよね。」
それなら変さが伝わらないじゃないか。
 「なんかあたしが出てる夢なんだけど、あたしは客観的にあたしをみてるのよね。その夢では。
  あーっ、もうなんて言えばいいんだろ?」
言いたいことは凄く良く分かるね、なんせその夢のハルヒの相手は俺だからな。
 「あ、最後にあたしが言おうとした言葉は覚えてる!」
へぇ、何て?

 

 

 

 「ありがとう、だって。」


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