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「もう良いです! 顔も見たくありません!!」
「あぁ、そうか! もう俺も知った事じゃない!!」
ついカッとなって喧嘩してしまって、手遅れだと思うのはいつの事なのか。
病室を飛び出し、イライラがおさまった頃には俺は病院から離れていた。
そして後悔をした頃には家に着いていた。
思い返せば下らない理由だった。本当に下らなかった。
あいつがジュースこぼした時にカチンと来た。それだけだった。
それで言い争いになって今に至る。家に帰って、
「おかえりキョンくん」
と、言ってくれた妹を目にも留めず、俺は自分の部屋に入った。
電気を点ける気にもならない。光を見るのが怖かった。
眩しい光は、あいつの笑顔に似ているからだ。
 
橘の香り 第三話「恋愛喧嘩柑橘類型」
 
「・・・くそっ」
結局のところ俺という生物は馬鹿である。
相手は病人だろう。ちょっとの失敗ぐらい構わないじゃないか。
歯軋りしたって静かな部屋に響くだけ。
人はなんでこんなにも後悔を知っているのに愚行をしでかすのか。
知っているなら教えて欲しい。だけど、もうどうしたら良いのか。
誰かに相談したいけど、誰に相談したら良いんだろう。
長門にも、朝比奈さんにも、ハルヒにも、誰にも電話なんか出来る訳が無い。
こいつらからしたら橘は敵だった少女だ。橘の件で相談が・・・などと言える訳が無い。
しかも俺とあいつは付き合ってるなんて言ったら尚更だ。
と、なると古泉しか居ないのだがあいつに相談するのはしゃくに障る。
・・・仕方ない。
役に立つか立たないかは元より関係ない。ただ誰かに聞いて欲しかった。
さっと携帯電話を取り出して、俺は目的の番号を探す。
そして電話帳から見つけたそれに電話を掛ける。
 
トゥルルルル・・・。
 
長い長い呼び出し音。実際は短いそれがひたすら長い。
 
トゥルルルル・・・。
 
電子音が鳴る度に俺が急かされてる気がした。
 
トゥル、ガチャッ。
 
「!」
やっと相手が出た。
『―――どうしたの?』
長門以上に無感情でボソボソと聞き取りにくいながらも澄んだ声。
電話の相手とはあの九曜に相違ない。
「相談があるんだ。聞いてくれるか?」
『・・・うん―――』
とりあえず事情を一から十まで詳しく話してみた。
そして話を聞き終えてから一秒もしないうちに、
『―――謝ったら良い』
帰って来た言葉はこれだった。おいおい。
「そんな簡単に出来るなら苦労しないさ・・・」
それで相談してるんだぞ、こっちは。
『案ずる必要は無い・・・多分―――橘京子も・・・謝罪したいと―――考えてる・・・はず・・・』
「そうかな。こんな俺にまだ腹を立ててるんじゃないか?」
『そうかも―――ね』
「おいおい」
相談を受けて相手の不安を助長させる奴が居るか。
『でも大丈夫―――私が・・・保証する・・・・・―――』
「・・・そうか?」
『なにかあったら―――私が代わりに彼女に・・・―――なってあげる・・・から』
一瞬きょとんとした。あの九曜がこんなジョークを言うようになったとはな。
「ふふっ・・・そうか。でも、ありがとう。おかげで心が楽になった」
思わず吹いてしまった。吹いたついでに心の箍が外れた気がした。
そんな俺の感謝の言葉に偽りは無い。
『ん―――』
「じゃあな」
『今度・・・―――何かご馳走して・・・?』
何故か俺には電話の向こうの九曜が微笑んでる気がした。
「OK。とびっきりうまいカレーを奢ってやるよ。じゃあな!」
 
ガチャ。ツー・・・ツー・・・ツー・・・ピッ。
 
「・・・じゃあ、謝罪でもしに行こうか・・・」
俺は洗面所に行き、顔を洗うと颯爽と家を飛び出した。
そして自転車に跨るとさっさと漕ぐ。っつか全速力で。
「面会時間に負けるかヴォケェエェェエエエエエェェッッッ!!!」
そう。面会時間締め切りがもう近いのだ。
かつて無いほど足を動かしひたすら病院へと向かう。
今佐々木を後ろに乗せたら路上に落ちるだろうな、多分。
いや、もし俺にしがみついている状態だったら俺も一緒に落ちているだろう。
でも、んな事態になったら困るって話だ。
何故なら、
「うぉりゃぁぁああああああッッッ!!!」
橘に謝りにいけないだろう?
俺は謝る為に今この道を進んでいるんだぞ。
そうだ。止まってられない。
時間は刻一刻と過ぎてしまうんだからな。
どんなに待ってくれと言っても、非情な奴だからな。
「まだまだぁぁぁあああああ!!」
足に疲れが溜まりすぎてピークを超えている。
だから何だ。動かせられるなら動かせ。止まるな。進め。
日頃を考えろ。SOS団に比べればこんなものまだまだだろう。
そして、病院についたのは面会時間終了ギリギリ前。
すっかり顔なじみになった入院患者の老人が軽く手を振ってきたのでこちらも振り返す。
まだこれだけの余裕があるじゃないか。
さぁ、階段だ。あんな遅いエレベーターなんかくそ食らえ。
足がつりそうになっても大丈夫だ。つったらつったで片足ジャンプで登れば良い。
だからつるまで両足で駆け上がれ。
「はぁ・・・はぁ・・・!!」
しかし、長いなこの階段。考えてみりゃ、この病院他の病院に比べて高層物件なんだよな。
あ~、マズい。足が上がらなくなってきた。
だけど、あと少しだ。踏ん張れ。謝る為だけにここまで来たんだろうが。
謝れなかったらそれこそ無意味だ。スライムがLv.99の勇者に攻撃するみたいにな。
・・・いや、これじゃ俺がモンスター側だから訂正しよう。
初っ端から魔王の居るステージに行ける某RPGで普通に初っ端から突撃する勇者のようなものだと。
「やっと、ついた・・・!」
その階、なんと十五階。これならエレベーターの方が良かったかもしれんな、やれやれ。
そして、橘の病室の前に立つ。
さぁ、開ける前に深呼吸して・・・ゆっくりと・・・ゆっく
 
ガラガラ、
 
「「あ」」
まだ、心が落ち着いていないのに何てこった。
運悪く、いや、運良く、いや運悪く・・・もうどっちでも良いや。
とにかく橘が病室から出て来て遭遇しちまった。
俺達は見詰め合って固まっていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
ええい。ここでびびってどうする。
そうだ。当たらなければどうという事はないと大佐が言っていたではないか。
「た、橘ァッ!」
緊張して声が大きくなっちまった。
「は、はいィッ!」
橘もびっくりして声が大きくなってる。
「本当にすまんかったァッー!」
病院内に響く俺の謝罪。
 
シン、
 
と静まり返る建物内。
深々と下げた俺の頭を、橘の手が撫でる。
「・・・こちらこそ・・・ぐすっ・・・すいませんでした・・・」
そう言う声が震えている。何故? 俺はそれが知りたくて頭を上げた。
だが、俺が橘の顔を見るよりも先に橘が俺に抱きつく方が早かった。
「・・・橘、泣いてるのか?」
「・・・ぐすっ・・・うぐっ・・・」
「・・・泣き虫さんだな・・・よしよし・・・」
「・・・良かった・・・私、貴方がこのまま離れるかと思うと怖くて・・・」
「馬鹿言え。離れるわけがないだろ。大好きなんだからさ」
「ぐすっ・・・キョンくん・・・」
 
パチパチ。
 
ふとその音がして俺はハッとした。
しまった! ここは病院じゃねぇか!!
よく見りゃ周りはギャラリーで一杯。何てこった! やっちまった!!
俺の顔真っ赤だろうし、橘も顔真っ赤だし。
ええい!
「病室に緊急退避だ、橘隊員!」
「はい、隊長!」
そんなわけで俺達は橘の病室へと避難するのだった。
あー、しかしとんだ恥を掻いた。やばいよやばいよー。
顔が熱いぜ。ホットホット! いや、ホッター、いや、ザ・ホッテストだな。
比較級どころか最上級の恥だぜ。
まぁ、良いか。仲直りできたんだから。
「キョンくん・・・」
橘が俺に寄りかかってくる。
「ん?」
「ちゅぅ、して?」
「・・・やれやれ」
これを頼まれて断れる俺は此処に居ないさ。
 
ちゅっ。
 
これで、お姫様が笑顔になってくれるんだからな。
 
・・・・・・・・・・・・・・・。
 
「ふふっ。良かったですね・・・お二人とも・・・・・」
「おい、古泉」
「・・・解ってます・・・解ってますけど・・・応援したくなるじゃないですか・・・・」
「・・・・・まぁな」
「で、現状で橘さんの症状はどこまで進んでるんですか?」
「これ以上進行を食い止めるのも、もう難しいだろう・・・薬も効かなくなるかもしれないな」
「そうですか・・・」
「・・・彼には辛い思いをさせるな」
「仕方ないですよ。彼女の死こそが機関の狙いなんですから」
「しかし、そう上手く行くのかね・・・」
「間違いなく彼を涼宮さんが放っておくわけがありませんよ。何だかんだ言いながら慰めに取り掛かりますよ」
「それで彼と涼宮ハルヒがくっつくかね?」
「シナリオ通りにいけば、ね」
「世の中そんなに簡単じゃないよな」
「そうですね・・・嫌な予感がしてならないんですよ、このシナリオ」
「・・・俺もだ」
 

 

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