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注意! 未成年者の飲酒は法律で禁じられています。

 

 今日も一日元気が一番、と気合いを入れてSOS団の部室へやってきた俺な訳だが、
どーにもこーにもこの暑さは何だ。ロシアあたりが資源開発目的でシベリアの温度を上げてために、
謎の新兵器で太陽の軌道を数百キロほど例年以上に地球へ接近させているかと被害妄想気味になるほどの猛暑である。
俺の脳もすっかりショート気味なわけだが、授業中に『団扇で仰ぐな、下敷きでやれ!』とか訳のわからんことを言い出す
教師も相当神経回路が焼き切れていると思われる。どっちでもかわらんだろうに。
 まあ、猛暑だろうが極寒だろうが予定通りに動きたがるハルヒ団長様が、そんな異常気象現象ごときで
SOS団の活動を免除してくれるほど甘い根性なんてしていないから、今日もいつものように部室にGOってことだ。
 で、部屋を開けてみると、部室内にはすでに長門と古泉がいた。一体こいつらはどんだけこの部室に来たがっているんだ?
他に行く当てはないのかと説いてみたいところだが、まあ暑いからやめておこう。
 ところで、長門はいつものように猛暑を絶対零度に変換したかのごとく、無表情に本を読んでいるわけだが、
古泉がなにやらしんみり顔で紙コップに入った液体をちびちびと飲んでいた。色からすると麦茶か?
にしてはまるでコーラを爆裂させようと思いっきり降ってみたら、ただの麦茶だったぐらいなほど泡立っているが。
「よお、暑いから麦茶で涼でもとっているのか? だったら俺にもいっぱい分けて……うん?」
 俺の顔をしかめた反応に、古泉の奴がニヤリといやらしく微笑むと、
「いいですよ、あなたもいっぱいいかがです?」
「お前……まさかそれ……」
 俺が唖然とするのも無視して、古泉はコップに残っていたその液体を一気に飲み込んだ。
そして、ちょうど俺から死角になっていた床から一本の瓶――あの茶色い瓶にてでっかいシールが貼ってあるものだ。
 いちいちぼかすのも面倒だからはっきり言ってしまうが、古泉が飲んでいるのはビールである。
しかも、子供ビールとかではなく正真正銘の本物だ。優等生万歳なこいつがよりにもよって学校内でこんなもんを飲んでいて
いいのか? 教師に見つかればただでは済まないぞ。
「いいんですよ。たまには僕だってこういうのを飲んで憂さでも晴らしたくなるんです。
ちょうどこの暑さですからね。気温と高熱射攻撃以上に加熱した脳細胞を冷却させるのに、これはうってつけですよ。
味も格別に感じるほどにね」
 やれやれ。どうやらなんかあったようだな。面倒だからいちいち追求しないが、優等生が校内反乱って事かい。
飲酒やたばこはいわゆる『大人に対する反発』の代表例だからな。
 そうは言っても、この暑さだ。幸いなことに古泉の飲んでいるビールはどっから持ち込んだのか知らんが
キンキンに冷えているようだし、このタイミングで飲めばかなりいい感じに涼めるだろう。
ここは遠慮するのはもったいなさすぎる。
「んじゃ、お言葉に甘えていっぱいもらおうかな」
「どうぞどうぞ」
 そう言って別の紙コップに注がれたビールを受け取って――ふと気がつく。そういや我らが団長様は禁酒宣言を出していたな。
そうなるとハルヒの目の前でガブガブ飲んでいると面倒なことになりそうだ。そろそろあいつもここにやってくるだろうし、
ここはゆっくりと楽しみたいがとっとと飲んでしまうか。
 俺はビールの入った紙コップを口元に近づけようと――
「あっつーい!」
 突如飛び込んできたハルヒのどでかい声に、俺は驚きのあまり紙コップを投げそうになるがそれを必死にキャッチ。
見れば、どこから持ってきたのかセンスでぱたぱたと仰ぐハルヒの姿がある。後ろには控えめに手でぱたぱたと仰いで
ふーっと息を吐く朝比奈さんの麗しきお姿が。少し肌に浮いている汗からさらなる美的フェロモンが拡散していそうだぜ。
思わずアルコールに酔う前に、そっちに飲み込まれちまいそうだ。
 が、そんな風に朝比奈さんに注目していたのが間違いだった。ハルヒが俺の手にしているものに
じっと熱視線を向けているからである。しまった、とっとと一気飲みして隠蔽しておけばよかった。
「なにそれ、麦茶? ちょうどいいわ、ちょっとよこしなさいキョン」
 そう言って有無を言わさずにハルヒは俺のビールを一気飲みしてしまう。が、やはりすべての度に通してから気がついたらしい。
む?と顔をしかめると、
「ちょっとキョン! なによこれ、ビールじゃない! あんた、あたしの禁酒令を破ったわね!」
「いつ禁酒令なんて出したんだよ。お前が自分でやめたと言っただけじゃないか。しかもその時限定で」
「まだ解除していないわよ。それに団長であるあたしがやめたら、常識的観点から言って団員もそれに続くべきだわ」
 なんつーむちゃくちゃな理論だよ、おい。いつからSOS団はそんな無茶を突っ走るダメ軍隊仕様になったんだ?
 しかし、ハルヒはすぐに古泉も飲んでいることに気がつき、
「なによ、古泉くんも飲んでいるの?」
「ええまあ。この暑さですからね、つい誘惑に負けてしまいまして。あ、彼を誘ったのは僕ですから、あまり責めないでください」
 古泉のナイスフォローを聞いたハルヒは、ちょっと顔色を変えたかと思うと、すぐに古泉のそばに立ち腰をかがめて
目線の高さを合わせると、
「ひょっとしてなんかあったの? せっかくだからなんか悩みがあれば聞いてあげるわ。古泉くんはSOS団の一員なんだから
古泉くんの悩みは団長のあたしの悩みでもあるんだから」
 ハルヒの面倒見の良さを出してくれるのは大変結構だが、なんだその俺とは正反対の対応は。
その数ミリぐらいのものを俺にも分けてくれよ。
 だが、古泉はぱたぱたと手を振ってそれを否定すると、
「大丈夫です。ただ暑かったから飲んでいただけですよ。別にやけ酒とかそう言うわけではありません。
それにこういう場所で飲むのもまた格別でしてね」
「ふーん、ならいいけど」
 古泉の言い分を受け入れたハルヒだったが、その視線はそーっと古泉の足下のビール瓶に向きつつあった。
どうやらさっきのいっぱいが結構いい感じだったらしい。次を飲みたいとあの馬鹿正直な顔に思いっきり書かれている。
 それを察知した古泉はすっとそのビール瓶を差し出すと、
「涼宮さんもどうですか? 僕はもう十分に堪能したので差し上げますよ」
「…………」
 ハルヒはどうやら自ら課した禁酒令と誘惑の狭間で揺れ動いているらしい。しかめっ面のままその瓶を眺めていたが、
やがて後者が死闘に打ち勝ったらしい、ぱっとそれを奪うとコップにもつがずラッパ飲みを始める。
おいおい、一気飲みはマジでやばいからやめろって!
「わかったわよ、古泉くんお代わり」
 そんな俺のストップをハルヒは聞き入れたのか、2本目以降はコップについで飲み始めた。っておい古泉、今その二本目は
どっからだしたんだ?
 
 そんなこんなで違法飲酒会場と化した文芸部室だったわけだが、さすがに4本目でアルコールに飲まれてしまったらしいハルヒは
ぐでーと団長席に突っ伏しほんわか~な状態に陥ってしまっている。とくになにをするでもなく、ぼそぼそと小声で何かを
しゃべったり百面相モードを展開していたりするだけなので特に実害はないが。万一、ハルヒが酒乱だったら
あの身体能力で部室がどんな惨状に変わっていたかわからんかったからな。
「あの調子では、立って歩くのも困難でしょう。僕が機関の方で車を用意して自宅まで遅らせますよ」
「そうだな、あんなアルコール臭ぷんぷんで下校されたら新聞沙汰になりかねん」
 全く禁酒令はどこへやら、べべれけになるまで飲みまくるなんてよっぽどあのビールが喉にあっているんだろうかね。
猛暑ってのもあるんだろうが。
 ふとここで古泉が鼻息が当たるほどに顔を急接近させ、
「ところで涼宮さんの酔った姿に興味はありませんか? 以前に招待した孤島ではいろいろすごかったですが、
あの時とは今では心境も多少変わっているでしょうし。普段見られない本音などが聞けるかもしれませんよ」
 なにを嬉しそうに期待しているんだ、お前は。酔っぱらったハルヒなんて見たくもないし、
どうせいつもの暴れん坊ぶりをさらに拡大させるのがオチである。あれで常識的な括りを持っている奴だからな。
酔った勢いでそれが外れて、暴れ出しでもしたら本気で手に負えんぞ。
 だが、ハルヒの行動は俺の予測の斜め上を行ったのだ。
 気がつけば、じっと目を細めて俺を見つめるハルヒの姿が。しかも、いつの間にやら俺のすぐそばに立っている。
なんだどうしたと聞こうと俺が口を開く寸前に、恐るべき事態が発生した! 俺が見たものとは!
「キョンーキョンーキョンー、んふふふふ~っ、キョンー」
 いきなり俺にほおずりし始めたのだ! これが朝比奈さんに対してならわからんでもないが、対象は間違いなく俺。
 ホワイ?
 ホワット?
 WHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHYWHY!?
 WhatWhatWhatWhatWhatWhatWhatWhatWhatWhatWhatWhatWhatWhatWhatWhatWhat!?
 俺の頭はパニックを越えて爆発寸前だ。
 しかし、この光景を実に興味深そうにあごをさすりながら見つめる野郎が約1名。
「ほほう……これは予想以上に激しい反応を見せましたね。あの『涼宮さん』ですから、例え酔っていても多少の自制心は
働くのではないかと思っていたのですが、これもあなたに対する感情の高ぶりが自制心を超えているのか、
はたまたアルコール量が臨界点突破に達していたのか」
 なにチンパンジーの反応実験を見る科学者みたいな事を言っているんだお前は。何でもいいからこの事態を何とかしてくれ。
「キョンー、でもでもキョンー」
 ハルヒは実に楽しそうに頬ずりを続行する。この状況に古泉はニヤニヤ、長門は読書をやめてじっとこちらを観察、
朝比奈さんは赤くなって俯いてしまった。おーい、誰でもいいから助けてくれ。
 と、ここでハルヒが三人の様子に気がついたらしい――のだが、その反応がこれまたおかしすぎた。
「なーにじっと見てんにょよ! キョキョンはあたしのもにょよ!」
 いきなり三人に向けてがんと体内のアルコールを飛ばし始める。しかも全くろれつが回っていない。
ってちょっと待て。異常すぎる状況だが、さらに異常な事を言わなかったか?
 まずハルヒはびしっと朝比奈さんを指さし、
「みくるにゃんは、キョンにベタベタしすぎなにょの!」
 次に長門を指さし、
「にゅきはいい子だけど、キョンをじっと見過ぎなの!」
 最後に事もあろうか古泉を指さし、
「古泉くんはキョンに接近してしゃべりすぎ! そんなに吐息をかけてしゃべりたいにょ!?」
 うおい、ちょっと待て! 100万歩譲って朝比奈さん――いやこれはこっちからお願いしたいが――や長門は
異性だからよしとしよう。だが、最後の古泉は男だぞ、お・と・こ! 俺は至ってノーマルだ。
 だが、ハルヒは全く聞く耳持たず、俺の頭を抱きかかえ頬を抱きかかえると(うお、胸の感触が……)
「わっかるもんですかぁ! 男にはいわゆるガチホモっていう特殊属性がいるのろ! 
しかも古泉くんは思いっきりその属性ありだわ! あたしが言うんだから言うんだから間違いないのよぉ!」
 このハルヒのめちゃくちゃな主張に古泉は、ただ自分の頬をぽりぽりと書いて困った顔を浮かべるだけである。
 ほどなくして、ハルヒはしばらくうつろな視線でぼーっとし始めたかと思えば、今度は俺の後頭部を
「にゃんにゃ~ん♪」
 変なリズムを口ずさみながら猫をあやすようになで始めた。
 何でもいいから助けてくれマジで!
 しばらくハルヒの奇行になすがままにされていた俺。が、ハルヒはさらにまずい行動を取り始めた。
いきなり無言で俺の手を引っ張り部室から出て行こうとし始めたのである。こんな酒臭い状態で校内を闊歩すれば
問答無用で教師チクられる、それどころか警察に直行かもしれん。
「オイオイやばいぞ! どうするんだ!?」
「さて、さすがにその状態で外に出すわけには行きませんね……」
 脳天気ながらさすがにまずいと考えたのか、古泉が思考モードに入る。が、そんな暇はもうない。
 俺は脳細胞をフル活動させ、出した結論がこれ。
「きゃ! なによもー♪」
 ざっとハルヒをお姫様ダッコで抱えると、ハルヒは短い悲鳴を上げた。しかし、嬉しそうなハルヒの反応だったが、
気にしない気にしない。
 とにかくこうなったら最悪ハルヒの校内徘徊だけは阻止して、俺がどこか見つからない場所に連れて行くしかない。
それも多少大声を出したりある程度徘徊しても人目のつかない場所へ、だ。
 だが、いきなり俺の前に壁が立ちふさがった。
 部室のドアを開いた先あった姿、それは緊張が爆発寸前かつ突如開いた扉に拍子抜けした谷口の姿である。
その旨には『朝比奈さんへ』と書かれた手紙を持っていた。こいつまさか……
「よ、よう、キョンじゃないか……ってお前何やってんだ!? 涼宮をよりによって――ふーん、へえーお前らそこまで
進んでいたのかよぉー」
 ハルヒをお姫様ダッコする俺の姿に、谷口のバカは当初の目的を忘れてしまったのかいきなりニヤニヤと
下品な笑みを浮かべ始めた。が、すぐにアルコールの臭いに気がつき、
「――おい、何だよ。SOS団って言うのは酒盛り場のことだったのかよー? さすがにまずいだろ、校内で飲酒はよぉー」
 飲酒という事実に、谷口が何か悪巧みを思いついたようだ。じっと朝比奈さんに卑猥な視線――どうせ谷口の考えることだから
程度が知れているが――を向け始めている。
「殴って」
 唐突に長門の声。なるほど、こうなったらこのバカを乗り越えるにはそれしか……ってそんなわけにいくか。
大体、当の谷口もすっと身構えて、
「な、なんだよ、やる気か? やろうって言うならこっちもただではやられねえぞっ!」
 対抗する気満々だ。さあ、どうする? とここで予想外の事件が発生した。すっと朝比奈さんがぱたぱたとセーラ服を
振るわせて谷口の渠にパンチを向ける。どうにもできない事態に朝比奈さんなりに何とかしようと思ったのだろう。
もっともその動作は超スローモーションだから避けるなんて簡単だったはずなんだが、谷口はまるで迫ってくる朝比奈さんに
俺の胸に飛び込んできて!と言いたげに両手を向ける――
「えいっ!」
 朝比奈さんの空気みたいなパンチが谷口の腹に直撃する――ぽこんという軽い音だった。
谷口もそれをまるで光栄の証のようににやけて受け止めていたが、やがてじわりじわりと顔を引きつらせ始めると、
その場にぶっ倒れてしまった。恐らく長門が何か細工してくれたんだろう。ここは恩に切っておこう。
 俺はハルヒを抱えたまま部室から飛び出し、一直線に旧館の出口に向かう――が、人がたくさんいたんで、方向急展開。
やむえず窓を乗り越えて旧館から抜け出し、さらに塀を乗り越えて何とか学校の敷地内に出た。
 その間、ハルヒはアヒル口でプリプリプリ……と妙な笑みを浮かべるばかりである。ただし、まるで猫のように
俺の腕の中でゴロゴロしているが。
 俺は路上に飛び出し、人目がないことを確認するとどこに行くか考え始める。とにかく手近な林なり人気のない公園とかに
行くしかない。お、そういや、近くに国立森林公園があったな。あそこに逃げ込むとするか。
 そのままハルヒを抱え、俺は全力で走る。
 が。
「おや、キョンじゃないか。どうしたんだい、そんなあわてて」
「うわあ」
 突如、俺の前に現れたのは佐々木だ。しかも、両脇には誘拐少女改め橘京子と歩く爆裂コンブ周防九曜が。
なんてタイミングが悪いんだよ。
 ハルヒはしばらくニッコニッコ顔で俺にすりついていたが、佐々木の顔を見るや否やすねた顔にトランスフォームして、
「何よー、キョンになんかよーなのー?」
 未だにろれつの悪い口調で、佐々木を指さす。
 そんなハルヒに佐々木は――何だろうか俺の記憶にはないタイプの笑顔を見せてからため息を吐くと、
「なるほどねぇ……キミの話からは余り想像できていなかったけど、実は涼宮さんとは街中でそんなことができるまでに
発展していた関係だったとは恐れ入ったよ。いや、まさに鎖で覆われた湾内入って来れないはずのオスマン軍の艦船が
山を乗り越えてきた光景を見て唖然としたビザンツ軍の気分だね」
 何だかよく分からん比喩を使ってきているが、とにかく佐々木の相手をしている暇ではない。
幸い他に人影はないが、とっととハルヒを人目につかない場所に連れて行かなければ……
 ところで、お姫様ダッコ状態のハルヒをじーっと見つめていた橘京子だったが、突然佐々木の腕にしがみついたかと思うと、
「思った通りなのです。この二人はできているのですよ。それなのに佐々木さんをたぶらかすなんて許せません!
やっぱり佐々木さんにはあたししかいないのです」
 どさくさに紛れてとんでもないことをカミングアウトしていないか!?
 そんな発言を聞きつけた酔っぱらいハルヒは、橘京子と佐々木を交互に指さすと、
「へへーんだ! せいぜい女同士で友情にすがっているがいいわ! ねー、キョンキョーン♪」
 ああ、もう誰かこいつを何とかしてくれ。俺の周辺への心情的被害が拡大する一方ではないか。
 それを聞いた橘京子はなぜかさらに激怒して、
「キィィィィなのです! 女同士でもいいじゃないですか! そっちこそ、男女関係泥沼奈落の底まで落ちるがいいのです!
バカバカバーカ! ――ふえ?」
 いい加減泥仕合と化してきた状況に飽き飽きしてきたのか、佐々木は橘京子を腕から引き離すと、さらに大きなため息を吐いて、
「全くキミの周囲は騒がしい人がたくさんいるようだ。その様子だとどうやらそれなりに複雑な事情があるようだね。
とっとと行きたまえ。幸い、まだ僕たち以外に見られてはいないようだから」
 ありがてえ、さすが佐々木だ。人間ができている。
 俺は佐々木に一礼すると、じゃれ猫モードのハルヒを抱えて目的地へ向けて走り出そうとする。
 が。突然、呼び止める意図はないんだろうが、佐々木からの言葉が耳に届く。
「そうそう、一つだけ言っておくよ、キョン。キミは何か気にしているようだが、僕は別に何も思っていないし
何も感じていない。そうだろ? 僕とキミは何でもないんだ。だから、キミも遠慮なく涼宮さんと一緒にいてくれたまえ」
 それを聞いて俺はあわてて立ち止まると、
「いやまて佐々木。この状況は別に俺とハルヒがそう言う関係だとかそんな話じゃ……」
「もう一度言っておくよ。僕 と キ ミ は な ん で も な い ん だ」
 そうにこやかな笑みを浮かべる佐々木。うあ、何か言葉の一つ一つにスペースが混じっているようで
もの凄い威圧感を感じたんだが、ええいこの際気にしている場合ではない!
 俺はその場を逃げ出すように走り出した……
 
 十数分後、ようやく森林公園に着いた俺たち。
 ハルヒは猫顔で、
「キョキョンキョーン♪」
 と、相変わらず意味不明な言葉を続けている。こりゃ、脳細胞の随までアルコールに犯されてるな。
 幸いこの場所なら多少声を上げても見つかることもない。とりあえず、ハルヒを一旦ここに置いて、水を確保してこよう。
後はハルヒが正気を取り戻すまで、面倒を見ているしかないな。
 そう考え、俺は一旦この場から離れようとするが、
「どこに行くのー? やだー、キョンがいないとヤダー!」
 子供かこいつは。まるでだだっ子のように地面を転がり、俺の足にしがみついてはなしゃしねえ。
 俺はハルヒを何とか振り払おうと、
「なあハルヒ。とにかくこのままってわけにもいかないだろ? 水を手に入れたらすぐに戻って――うっ」
 驚愕した。ハルヒのその姿にだ。
 手は俺の足から離したが、座り込んだ姿勢のまま上目遣いで俺を見つめている。頬はアルコールのせいでほんのりと
赤く染まり猛暑と体内の熱のため多量に放出された汗により髪の毛が頬にまとわりついていた。
そして、うるうると輝く大きな瞳。こ、これは……
「一緒にいて……?」
 ハルヒから追い打ちがかけられた。
 すごい。素晴らしいとしか言いようがない。なぜ今まで気がつかなかったのだろうか。
こんな魅力的な女がすぐそばにいるなんて――
 …………
 ……………………
 ………………………………
 待て、待つんだ俺!
 早まるなよ?
 今目の前にいる奴は誰だ?
 ハルヒだ。
 涼宮ハルヒだ。
 あのSOS団団長である超強力電波発信源である女だ。
 そんな奴を魅力的に思うはずがない。
 あってはならんのだ。
 そりゃまあ外見は可愛いのは認めよう。
 特にポニーテールにしたときのこいつの姿は、核兵器どころかジオノイド弾級の威力がある。
 しかし、容姿に騙されることはあってはならん。
 それに今目の前にいるのはよっぱらったハルヒであって、本来のハルヒではない。
 明日になれば元通りだ。
 そう今俺は夢を見ているに過ぎないんだ。
 これは夢だ。おれがハルヒを魅力的に思うなんて夢に決まっている。
「ね、キョン、いいでしょ……?」
 うぎゃああ! その上目遣いは止めてくれ!
 マジで撃沈されて、理性が欲望という突撃部隊に敗れ去りそうなんだよ!
 ええい、こうなったら夢にするしかない!
 そうだ夢だ!
 つねって起きられない夢なら、この現実を夢にしてしまえ!
 
 俺はポケットから携帯を取り出すと即座に古泉につないだ。そして、全てをリセットできる物を古泉に求める。
「酒持ってこい」
『は?』
「何でも良いから酒持ってきてくれ! 今日一日の全ての記憶がすっ飛ぶほどの量をな!」
 
 ……それから夜間まで、SOS団+なぜか森さんたち機関組と一緒にどんちゃん酒盛りが続いた……
 
 
「禁酒よ禁酒! もう絶対に二度とお酒なんて飲まないわ。全くキョンが変な物を飲ませてくれたおかげで
昨日一日の記憶がすっ飛んじゃったじゃない!」
「おいあんまり教室内でそれを言うな。それに俺だって同じだよ……あたたたたた」
 翌日、二人で昨日のことが完全に記憶喪失状態になった上、二日酔いに苦しんだことは言うまでもない。

 

 ~おわり~

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