Happy Birthday.
陶然とするような、甘い言葉だった。古泉の一件で気が気でなかった皆は「おめでとう」の一言をまだ長門にはかけておらず、また誕生パーティーが自動的に御破算となった今は、その言葉も先送りになるだろうことは確定していた。――実情を踏まえつつの、少年のせめてもの長門に贈る祝福だった。
「僕の所為でパーティーを台無しにしてしまったこと、謝罪させて下さい。それからこれは、――」
手を離し、一歩身を引いた古泉が懐を探り出して差し出したのは、親指大ほどの硝子玉。
薄いエメラルドグリーンの球体に閉じ込められたシルバーの雪が舞い、埋もれるように小粒のような赤い煉瓦屋根の家。作りこみが細かく、窓枠から煙突の中まで丁寧に細工されている。
長門は眼を見開いた。
「スノードームです。時間が余り無くて大した物は用意できなかったんですが、昨日の帰りに、アンティークショップで見つけたんです。クーデター発覚前に購入しておいて正解でした」
小球を長門の手に落とし込む。長門は表情を硬くしたまま、スノードームを見、古泉を見上げた。さらさらと零れていく、雪の日を模した石を握り締め、す、と息を吸って。
「ありがとう」
――声色に含有していた微かな真意に、気付くことなく。か細く聞こえる感謝に、古泉は、凪のように穏やかな眼を伏せた。