人と人


友達、親戚、恋人、そして仲間
人の絆と呼ばれるもの


それにどんな意味があって

そしてどんな価値があるのだろうか


それは俺には難しすぎてよくわからない

いや、本当は考えればすぐに答えの出るようなものだろう

だけど俺は考えない

 

何故かって?

考える必要なんてないからだ

だけどもし、誰かから真面目にその質問を投げかけられたとき
どう答えればいい?

 

 

 

 

 


             - 涼宮ハルヒの結論 -

 

 

 

 

 


………
……

 

「どうしたんでしょう、涼宮さん」

 

いつもの部室
いつもの放課後の風景だった

 

異質といえば異質、だが俺にとっては日常となった風景

 

窓辺で本を読む宇宙人
鼻歌と共にお茶を持ってきてくれる未来人
そして弱いくせにゲームフリークな超能力者

 

その中に一人だけ混じる一般人の俺はその唐突な質問に一瞬気づかなかった

口を開いたのはお茶のおかわりを持ってきてくれた我が部のエンジェル
未来人の朝比奈みくるだった

 

そう、今日はこの部屋に一番居ないと違和感のある奴が居ないのだ

そいつはSOS団というわけのわからん団を作り
俺を非日常の世界に無自覚で引っ張り込んだ迷惑極まりない人間

 

そう、誰であろう我が団の団長、涼宮ハルヒだ

 

そのハルヒが、今日この場に姿を現していないのだ
それは特に珍しいことじゃない
あいつはたまに自分の瞬間的な思いつきで早く下校することがある

 

だが、今はそれが異常なのだ

 

それが何故か、実はあいつは今日登校すらしていない
いや、今日だけじゃない
実はここ4~5日学校に来ていないのだ
風邪をこじらせたにしては少々長い気がする

 

「古泉、お前のとこは何か知っているんじゃないか?」

 

俺は目の前に座っているゲームの対戦相手に尋ねた
古泉一樹、とある機関に所属するエスパー戦隊の一員だ

古泉は手を止めた
そして俺は古泉がことさら真剣な表情をしているのに気づいた

 

「……その事なんですが、実は……」

 

古泉は真剣な表情そのもので語ろうとした
だが次の瞬間古泉は口を閉じた

 

「……わかりません」
「何?」

 

古泉の表情と口調は明らかに何かを知っている時のものだった
それが何故か急に口を瞑った

 

「何か俺に隠してるだろ」
「いいえ、それに隠していたのなら隠している事を教えるはずもありません」

それはつまり何かを隠してるという事だ


古泉なりに俺に何かを伝えようとしていることがわかる
そしてその内容がハルヒに関する事だというのも会話から察することができる

 

「ハルヒの事で今更隠し事か?」
「……知らない方がいい」

 

突然背後から声がした

窓辺で本を読んでいたはずの冷静な宇宙人
長門有希がそこに立っていた

 

「正確には、涼宮ハルヒ本人が貴方には伝えたくはないと望んでいる」

 

そして俺が何かを口にする前に長門は言い切り、元の場所へ戻っていった
……隠し事、ねぇ
何かを起こそうとしているなら事前に教えてくれないと心構えってものがだな…

 

「一人だけ蚊帳の外ってのは気分が悪いな」
「去年の12月は僕は蚊帳の外でしたけど、ね」

 

と古泉は笑顔で皮肉を言い切った
まだ気にしてたのか、意外と根に持つタイプなのか?

 

その日はそれでお開きとなった
長門が本を閉じ、古泉がゲームをしまい、そして朝比奈さんが着替えるから先にどうぞと促す
本来なら2番目にハルヒが部屋を飛び出るというプロセスがあるのだが

 

いつもどおりの日常
ハルヒが居ないのは気にはなったが
すぐにまた学校に来るようになるだろう
またすぐにいつもの日常に戻るさ

 

俺はそう思って部室を後にする

 

だが俺の希望はすぐに打ち砕かれた


翌日にな

 

………
……

 

翌日、涼宮ハルヒは教室に来ていた

およそ一週間ぶりに会ったハルヒはやはりいつものハルヒに見えた
ただ一点、俺に対して余所余所しかったことを除いて

 

嫌な予感しかしない
そしてこういう予感というのは的中するものなのだ

 

放課後部室に向かうと、同じ時間に教室を出たはずのハルヒがすでに部室の前に立っていた
まるで俺を待っていたかのように

 

「どうした、ハル───」

「キョン、あんたクビ」

 

一瞬のことで何を言われたのかわからなかった

俺の言葉を遮り


ハルヒが口にした言葉

それは俺に対する解雇の言葉だったのだ

 

「クビって、ハルヒ、どういう───」
「どうもこうも無いわ、クビの意味ぐらいあんたにだってわかるでしょ」

 

頭がフリーズした
まるで何かのフィルターが脳内に入り込んできたような感じだ

思考が思うとおりに行かない
まるで霧がはったかのように

 

「どうして───」
「私にとってあんたは要らなかった、それだけの事よ」

 

呆然と立ち尽くす俺にハルヒは一気にまくしたてた
そしていいたいことを言い切ると部室のドアを閉めた

どうすればいいのかわからなかった

 

鍵をかけた音はしなかった
目の前のドアノブを捻ればいつもの部室なんだ
だけどその距離はとてつもなく長く感じた
手を出せば届く位置にあるドアノブが

俺には触れなかった


触れることが、できなかった

 

どれぐらい長い時間、俺はどうしていたのだろう

ただ、一時間の間立っていても誰も来なかったし、そして何もなかった
目の前の扉は、むなしく閉ざされたままだったのだ

 

俺はただ、その場を後にすることしかできなかった
まるで公園の退去命じられたホームレスのように

 

俺の居場所が唐突に一つ消えた

 

………
……

 

「おい、キョン、どうした」

 

翌日教室で谷口が話しかけてきた

 

「どうしたって、何が」
「目の下に凄いクマができてるぜ?遅くまでゲームでもしてたのか?」

 

俺は昨晩一睡もできなかった
何故だ

ハルヒによる世界に及ぼす影響の心配か
それとも仲間たちから爪弾きにされたショックか

いや、一番大きい要因は自分でわかっている


ハルヒにとって俺はどうでもいい存在だったんだと、そう認識せざるを得なかったんだ

 

驚いた

こんなことで眠れなくなるなんて
俺にとって涼宮ハルヒという存在はそれほどまでに大きくなっていたのだ

 

「……なんでもない」

 

俺はそう呟いて机に突っ伏した

 

「まさか涼宮にフラれでもしたか?」

 

胸にその言葉が突き刺さった
失恋、確かにそうかもしれない

俺は自分で無自覚のうちに、涼宮ハルヒに恋をしていたのかもしれない

 

でもそうじゃない
そうじゃないんだ

 

俺はハルヒにとってどうでもいい存在
仲間でも、親友でも、ましてや恋人候補ですらなかった

 

それだけのことなんだ……

 

俺は始終机に突っ伏したままその日を過ごした
驚いたな、人ってのは眠気と疲労によってはおよそ8時間日中を寝て過ごせるんだな

 

俺が顔を上げたとき、そこはすでに朱に染まった夕闇の世界だった
後ろの座席に居たハルヒは俺に一言も声をかけずに部室に行ったんだ

そうだよな、俺とはなんの関係もないんだから

 

「起きた?」

 

いきなり耳に飛び込んできた一つの言葉
それは昨日までずっと耳にしていた人の声だ

ただ少し大人びてはいた

 

言葉の方を見るとそこには朝比奈さん(大)が立っていた
今の時代に居る朝比奈さんよりもっと未来からきた朝比奈さん

 

「朝比奈さん……」
「大丈夫?少し顔色が悪いようね……」

 

何故そこにいるかは知らない
いや、多分俺に今回の事を説明してくれるんだろう

 

「朝比奈さん、これはどういう事なんです?」

 

朝比奈さん(大)が口を開くよりも前に俺は尋ねた
それが俺が推測した朝比奈さん(大)がここに来た理由だ
そして何より俺の聞きたいことでもあった

 

「……禁則事項です」
「え」

 

俺はてっきりその理由を伝えにきたとばかり思っていたがどうやら違うようだ

 

「俺は、てっきり」
「ごめんなさい、これは私たちじゃなくて涼宮さんの問題なの」
「ハルヒが?」
「そう、私たちは涼宮さんがキョン君に知られたくないことを知っている」
「……」
「だけど、私たちはそれをキョン君に伝えることができない……」

「そう、ですか」

 

恐らくそれなりの理由があるのだろう
俺にはそれ以上追求することができなかった

 

「……1つだけ、ヒントだけでもと思って」

 

朝比奈さん(大)はもう一度言葉を発する

 

「ヒント、ですか」
「キョン君、どうか涼宮さんを嫌わないで居てあげて」
「え?」
「それとこれもだけど、どうか私たちを嫌いにならないで」
「朝比奈さん?」

 

俺がその言葉を理解するより前に、朝比奈さん(大)は教室をあとにした
そして俺が後を追って廊下に出たとき、彼女はすでにそこには居なかった

 

俺はただ呆然としていた

ただ成り行きの任せるままに
それしか俺にはできなかったから

 

………
……

 

「キョン君どうしたの~?」

 

ベッドの上で寝転ぶ俺の顔を覗き込む妹

 

「なんでもない」
「凄く悲しそうな顔をしてたよ~?」

 

『あんたクビ』
三日前に言われたその言葉が未だに脳裏に深く焼きついていた

 

この三日間
ハルヒは俺と目をあわそうともしなかった

 

いや、俺のほうもハルヒの顔を見ては居なかった


見たら、何かを言ってしまいそうだった

互いに、互いを見ないようにしていた


ハルヒはそれを意識してるとは思わなかったが
俺にとっては、大分、辛いことだった

 

当たり前の風景が
ずっと続くと思っていた、非日常なりの日常が

もはや過去の思い出だとしか認識できなかった

 

「じゃあ、いってきます」
「いってきま~す!」

 

妹と一緒に家を出て、学校への道のりを歩いていく
そういえば一度だけハルヒと帰ったときがあったっけ

この坂道を、ハルヒは俺から傘を奪って逃げた
振り向きざまに悪戯顔で見せた舌

 

あれは、幻だったのだろうか……

 

………
……

 

「「あ」」

 

昼休みの学校で擦れ違った朝比奈さん
そして目が合ったとき、朝比奈さんは何処か俺を哀れむような目で見ていた
それに耐え切れなくて、俺は俯いた

 

「お、お久しぶりです」

 

俺は遠慮しがちに挨拶した
俯いたまま、朝比奈さんの顔を直視することができずに

 

「そう、ですね、お久しぶりです」
「あいつは、相変わらずですか?」
「涼宮さんは……はい」
「そうですか」

 

俺を解雇したあともあいつは顔色一つ変えずに元気にやってるのか
あいつにとって日常はなんら形を変えていないのか

やっぱり、俺は日常のピースにすら、組み込まれていなかったのか

 

「キョン君」

 

朝比奈さんは口を開く


「キョン君、どうか、涼宮さんを嫌いに───」

「何してるの、みくるちゃん」

 

背後から冷たい声がした
とっさに振り向く

そこにいたのは、そう、涼宮ハルヒだった

 

「……涼宮さ───」
「ほら、一緒にご飯食べましょ、行くわよ」

 

俺を見向きもせずに
意図的に無視しているとしか思えないほど、ハルヒは完璧に俺の存在を気にかけなかった

 

「す───」
「ほら!行くわよ!」

 

朝比奈さんが何かを言おうとするのを遮り、ハルヒはまるで叫ぶかのように言い放った
そしてそのまま朝比奈さんの手を引っ張っていく

 

「待てよ」

 

俺はいつの間にか言葉を口にしていた

 

「……何?」

 

ハルヒはぶっきらぼうにこちらを見て言った
まるで相手をするのも面倒くさいといった表情だった

 

「なんで、俺を避けるんだ?」
「なんで私があんたなんかを避けなきゃいけないのよ」

 

俺は何を言ってるんだ
ハルヒは昔から自分にとって意味の無い奴とは関連しないことぐらい知っていたはずだろ

 

「……っ」

 

言葉が出なかった
簡単なことだ
答えは自分ですでに知っていた

 

「ほら、行くわよ、みくるちゃん」
「あ、キョン君───」

 

朝比奈さんの袖を引っ張り、ハルヒは消えた
俺は一人その場に残されていた

残っていたのは、ぶつけようの無い
悲しみか、怒りか、はたまた別の何か、か

 

「なんだってんだよ、畜生、俺が何かをしたかよ」
「……何も」

 

不意にまた声がした
振り向いた先に居たのは

 

「貴方は何もしていない」
「……長門」
「じゃあ───」

 

じゃあ、どうしてと、俺は聞こうとした

 

「これ以上、私たちに関わる事は推奨できない」

 

長門は言い放つ
またか、どうして誰も俺に何も教えてくれないんだよ
俺が言いたいことを言う前に、勝手な結論ばかり残していきやがって

 

「……貴方が涼宮ハルヒを嫌悪することを、"彼女"は望んでいる」

 

「は?彼女って───」
「さよなら」

 

そう言って長門はその場を後にする

 

彼女って、誰だ

そいつが、俺から全てを奪ったのか?

なんで俺にハルヒを嫌いにさせようとするんだ
どうやってハルヒにそう唆したんだ

様々な疑問が脳内にわいては消えた


ただ、長門の言葉だけが、俺の頭に残っていた

 

 

 

──────閑話休題──────

 

本当は嫌だった

 

本当は辛かった

 

それでも私はこうしなければならなかった

 

どうすれば一番彼を傷つけずにすむか

 

そしてこれが、私の結論だった

 

──────閑話休題──────

 

 

………
……

 

「今日はどうするよ、キョンよ」
「何処でもいい」
「まだ引きずってるのか?気にすんなって、あいつは昔からああいう奴なんだよ」
「……そうか」

 

放課後、SOS団という居場所をなくした俺はここ一週間谷口や国木田とつるんでいた

とくに行く当てもなく、ただブラブラと遊ぶ
古本屋で立ち読みしたり、ゲーセンで適当に時間を潰したり

俺はそうやってもてあました時間を無駄に浪費していった

 

日常

確かにそう考えられることは考えられる
だけどこれは俺にとっての日常ではなかった

 

日常と非日常の逆転した世界
俺にとっては今の時間がどうしても非日常に思えたのだ

 

「じゃあそこの喫茶店寄ってこうぜ、また店員が可愛いんだこれが」
「ああ」
「いつもそれだね」
「おうよ!男たるものこうじゃないとな、なぁキョン」
「……ああ」

 

ぶっきらぼうに返事を返す

 

「なぁ、キョン、いい加減にしてくれよ」


「え?」
「え、じゃねーよ、え、じゃあ、お前は一体どうしたいんだ?」

 

気がついたら谷口は割りと真剣な面持ちでこっちを見ていた
俺が一体どうしたいって?

 

「あそこやめてからお前ずっと上の空じゃねーか」
「昔からキョンの知り合いだけどこんなキョンを見るのは初めてだよ」
「……」
「いいか、今は忘れろ、忘れちまえ、それが一番だ、な?」
「……ああ」

 

わからない
昔は知っていた、こういうときの時間の潰し方

国木田や佐々木とつるんでいた頃を思い出す

だけど、どうしても気持ちは乗らなかった
もう俺の日常は、向こうに置いてきてしまった

 

ただ今は、他にすることがなかった

 

あの破天荒な団長に次から次へと仕事を押し付けられて
古泉とゲームをして
朝比奈さんのお茶を飲んで
たまに長門を観察する

 

それは、もうできないから

 

「キョン、お前はどうしたいんだ?」

 

谷口は再び口を開いた

 

「え?」
「お前がどうしたいのか涼宮に言ったか?」


言ってはない、だけど……

 

「確かにあいつは人の話を聞かないしてめぇのやりたいようにしかしない奴だ」
そうだ、あいつはそうやってあの場所を作り出した

 

「今までだってずっとそうだったしな」
そう、今まで、ずっとそうだった

 

「だけどよ、唯一あいつと対等に渡り合えたのはお前なんだぜ?」
「……は?」

 

谷口は俺の肩を叩いた

 

「お前が初めてだからな、あいつが好んで話しかけてた奴って」

「だからさ、もしお前が正面から口喧嘩したら、あいつだって勝てやしないさ」
「……それは違う」
「ちがわねーよ」

 

谷口が言い切る

 

「だって涼宮はずっと寂しそうにしてたぜ?」

…なんだって?

 

「気づいてなかったのかよ」

 

だってあいつは俺に会うたびに、俺を無視した
絶対に視線を合わせようとしなかった

 

「逆だよ」
「え?」
「視線を合わせようとしなかったのはお前だろが」

「……」

 

確かに、そうだったのかもしれない
だが───

 

「だが、あいつと最後に会話したとき、俺は……」
「お前は?」
「俺は……」

 

何も、伝えてなんてなかった


そうだ、その通りだった

どうして
何故

それしか最近口にしていなかった気がする

 

「……そうだな」

 

大切なのは、俺の気持ちだった
最初に出会ったときからあいつに振り回されてばっかりだった気がした

だけど、最終的に物事を決めたのは、俺の選択だったんだ
俺が、どうしたいか

 

───そんなこと決まっている

 

「ありがとよ、谷口」
「……お、おう!この俺様に諭されるなんてまだまだだな、キョンよぉ」

「ああ……すまん、今日はもう帰るな」

「ああ、またな」
「また明日、キョン」
「ああ、ありがとう」

 

俺は谷口と国木田に礼と別れを言って家へと駆け出した

 

「ったく、俺様に柄にも無い事言わせやがって」
「いいんじゃないかな?うまいこといきそうだしね」

 

………

……

 

翌日の放課後

 

俺は部室の前に居た
ハルヒは掃除当番だから今日は俺のほうが早かった

今、俺はあいつを待っている
どうしても伝えなきゃならないことがあるからな

 

「お久しぶりです」

 

いつの間に来たのか
廊下の反対側に古泉一樹が立っていた

 

「今しがた来たばかりですよ、どうかしましたか?」
「どうかしましたか、じゃない、用件は一つしかねぇだろが」
「ようやく、その重い腰をあげて頂けましたか」

 

俺はそのときやっと気がついた

目の下に浮かぶクマ
古泉の顔には疲労の色があった

 

一週間前とは比べ物にならない、まるで重い病気にかかってしまったかのような顔
そして右手の袖からわずかに覗く包帯の白

 

「……古泉、お前どうした」
「どう、とは?」
「例の、空間か?」
「ええ、実は二週間ほど前から頻発して出るようになったのですよ」

 

二週間、前?

 

「あなたが退団を言い渡されるよりもさらに前です」
「それが……」
「それがあなたを涼宮さんが解雇した理由です」

 

理由
やっぱり俺はただハルヒに使い捨てにされたんじゃなかった
だけど何故俺がハルヒに解雇されないといけないのかがわからない

 

「一体何があったんだ?」
「それは僕の口から言うべきことではありません」
「何?」
「そのために、今日ここへ来たのでしょう?」

 

古泉はそう言うと部室へと入りドアを閉めた
ハルヒが俺を退団させた理由はわからなかった

だがすぐに俺はその理由を知る事になる

 
「……何の用?」

 

突然の言葉
唐突過ぎて一瞬俺は怯んだ


だが俺は意を決して振り向いた

その言葉の主
そして今日俺がここに来た理由

 

 

    「ハルヒ」

 

                「何よ」

 

 

俺は自分の言いたいこと、聞きたいことを頭の中でめぐらす
このわからずやにどうやって自分の意思を伝えればいいのか

 

「……どうして、俺はクビになったんだ?」

 

まず、聞く
そうしないと始まらないし
それが俺の本題でもあったからだ

 

「もうあんたが要らなくなったから」

 

そしてハルヒは答える
予想通りに答えを
一言一句、そのままにな

 

「嘘だろ」
「──っ!嘘じゃないわよ!」
「嘘だな」
「嘘じゃ、ない」

 

「じゃあなんで今まで俺を近くに置いてたんだ?」
「それは…」

 

ハルヒは口をつぐむ

 

「俺に、そこに居て欲しかったからじゃないのか?」
「はぁ?」

 

我ながらバカなことを言ったもんだ


だけど、言わないと先に進まない

答えがYESでもNOでも、俺は聞いておきたかった

 

「バカじゃないの!なんであんたなんか──」
「俺は居て欲しかった」
「え」

「お前だけじゃない、俺はここの皆と一緒にいたい
 長門や、古泉や、朝比奈さん、そして時々鶴屋さん
 そして、何よりお前と一緒に居たかったんだ」

 

一言一句、俺は自分の希望、気持ちを伝えた
正直に

 

「長門は頼りになるがたまに支えてやら無いといけない」
妹みたいなもんだな
俺には別に妹が居るが

 

「古泉とはまだゲームの決着が済んでいない」
というかまだまだやりたいゲームがあるらしいからな、あいつには

 

「朝比奈さんのお茶はおいしい、そして何よりあの愛らしさには癒される」
一緒に居るだけで俺のストレスを消していってくれる

 

「そしてハルヒ、お前は俺の日常を変えた張本人だ
長門や朝比奈さん、古泉に鶴屋さんに出会えたのもお前のおかげだ

バカな騒ぎを毎週のように起こして

そして俺を振り回して
わがままで、子供で、危なっかしくて」

 

一呼吸置いた

 

「キョ──」
「だけど、そんなお前を、俺は傍に居て欲しいと思ってる」

 

何かを語ろうとするハルヒの言葉を遮り俺は続ける

 

「ハルヒ、俺はお前が好きだ」

 

言った
全て言った
俺の気持ちは

あとは、ハルヒの傍に居ていいか、それだけの事だった

 

「──ダメ」

 

そして気がついた


廊下に落ちる水滴
咽び声

ハルヒは泣いていた

 

「私の事、好きにならないで」
「ハル……ヒ?」

「好きにならないで!私の事嫌いになってよ!じゃないと、じゃないと!」

 

ハルヒは叫んだ
何を言っているのかわからない

 

そして

 

 

「───げほっ」

ビチャ

 

 

嫌な音がした

 

 

ハルヒは唐突に血を吐いた

そしてその場に倒れた

 

 


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