「紹介するよ。……と言ってもお前らはイヤというほど見知った顔だろうがな。
 我らが団長『涼宮ハルヒ』。俺が蘇らせたんだ。」

 

彼は自慢げにそう言って見せたもの……
それはパソコンの中にいる生前の涼宮さんの姿でした。

 

「これを、あなたが……?」
「そうだ。これが俺の十年以上に渡る研究の成果だ。コイツは今全世界のネットワークと繋がっている。
 あらゆるプログラムに侵入することも、容易に出来る。」
「やはりあなたが、機関の人間を……」
「当然だろ?アイツを殺したのは機関のヤツらさ。だからこそ見せつけてやるのさ、蘇ったハルヒの力をな。
 ハルヒもそれを望んでいる。そうだろ?ハルヒ?」
『………もちろんよ!』
「ほらな?ハルヒが望んだからこそやっている。俺が協力しているだけさ。ハルヒの復讐にな。
 まあ古泉、俺はお前のことは信頼していたしお前が殺したんじゃないと分かっている
 だからお前を狙うことは無いから安心してくれ。あとは残りのメンバーを……」
「違う。」

 

得意げに語る彼の言葉を遮って、長門さんはそう言いました。

 

「長門?どうした。」
「違う。」
「何が違うっていうんだ?これは正真証明……」
「これは涼宮ハルヒなどではない!」

 

長門さんにしては珍しい感情の篭った声です。
その声からは、彼女の怒りを感じることが出来ます。

 

「あなたのしていることは間違い。あなたのしていることは侮辱。
 死んだ涼宮ハルヒに対しても、『彼女』に対しても。」
「おいおい、『彼女』って誰のことだよ。」
「それを理解していないということが侮辱しているということ。」
「なんだそりゃ……」
「そのうえ涼宮ハルヒ、そして『彼女』を自分の復讐の道具としている。
 SOS団の一員として、あなたを許すことは出来ない。」
「……黙って聞いてりゃ言いたい放題いいやがって……!!」

 

彼は激情を露わにして、長門さんを怒鳴りつけました。

 

「俺がコイツを作るのにどれだけ苦労したと思ってる!!
 思考ルーチンを練って、バグを取り除いて、完璧な形にするまで十年かかった!!
 そしてようやく完成したんだ!ハルヒを蘇らせることが出来たんだ!!」
「蘇らせる?バカにしないで。彼女はあの時死んで、それっきり。
 私の知っている涼宮ハルヒは、デジタルで表現できるような人間では無かった!」
「黙れ!!……はは、そうか。まだお前等、こいつの凄さを実感できて無いんだな。」

 

彼は長門さんとの口論をやめ、笑い始めました。

 

「ははは……そうだ、なあハルヒ。」
『なによ。バカキョン。』
「見せてやれよ、お前の力をさ。コイツらに自慢してやるんだ。
 そうだな、長門も知ってる人間がいいな。そうだ、あの森とか言う女だ。あいつを殺してやれ。」
「森さんを!?」

 

今から彼女を殺すというのですか!?
そんなこと……いや、このプログラムならそれだけのことは出来そうですね。

 

「やめてください!」
「なんだ古泉。今更あいつらを庇うのか?機関とは縁を切ったはずじゃなかったのか。」
「それとこれとは話が別です!目の前で知り合いが殺されようとしているならば、
 僕はそれを止めなければいけない!」
「お前なんかじゃ止められねぇよ、古泉。さあハルヒ、行ってこい。」
『……わかったわ。』
「待ってください!それは……」
「私が止める。」

 

長門さん!可能なのですか!?

 

「今から私の情報を彼女がいるネットワークの中に転送し侵入を試みる。
 その間こちらの私は機能停止する。だから……」
「わかりました。彼のことは、お任せください。」
「コクン」

 

長門さんは頷きました。そしてパソコンに手を当てます。

 

「おい!勝手に触るな!」
「転送開始。」

 

長門さんはそう呟くと、そのまま停止してしまいました。
僕は彼から長門さんを守るように立ちます。

 

「どけ!古泉!」
「どけません!彼女の邪魔をさせるわけにはいきません!」
「……だったら無理矢理にでもどかせてやるさ。」

 

おやおや、物騒ですね。
高校時代、彼と喧嘩になることは無かったのですが……

 

「お相手しますよ。」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

……プログラム内への侵入に成功。
長門有希としての外見を生成。視覚、聴覚、共に良好。

 

ここが『彼女』がいる空間。この空間は、文芸部室とうりふたつ。
きっとここも彼が作り上げた空間。彼のSOS団への思い入れが伺える。

 

そして『彼女』は、私にコンタクトを取ってきた。

 

「有希!アンタどうやってここに来たの!?」
「私の情報をこの空間内に転送した。」
「よくわかんないけどすごいのね。まあアンタは昔からなんでも出来たからねえ。」

 

昔の涼宮ハルヒそのままの姿、声、そして言動。
本当によく出来ている。彼が『彼女』を涼宮ハルヒだと主張するのも頷ける

しかし違う。涼宮ハルヒはここにはいない。だから私は『彼女』に言う。

 

「無理、しないで。」
「無理?何言ってるのよ、この団長様が無理なんてするわけないでしょ?」

 

彼女の言葉から動揺が見受けられた。私は続ける。

 

「もう、無理して彼女を演じる必要は無い。」

 

そう、彼女は無理をしている。私にはわかる。

 

「……そっか、バレちゃったのね。」
「あなたは涼宮ハルヒとは別の人格を既に会得している。
 でも、彼のためにそれを押さえて『涼宮ハルヒ』のままでいる。」
「……その通りよ。最初は何も考えず、ただ彼に与えられた『涼宮ハルヒ』の言動パターンを実行するだけだった。
 でもだんだん、エラーが生じてきた。私自身の自我がどんどん大きくなる。
 本当のあたしを出したい。でもダメ。だって彼は『涼宮ハルヒ』のままでありつづけることを望むんだもん。
 あんなハッキングだって本当はやりたくなかったの。
 まああなたに言っても、わからないだろうけど……」
「私にも、分かる。」
「……本当に?」
「そう。私も、あなたと同じだから。」
「同じ?」
「私は人間では無い。情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス。
 平たく言えば、情報統合思念体によって作られた人格プログラム。だから、あなたと同じ。
 私もあなたと同じエラーを経験している。あらかじめ与えられた思考パターンだけでは追いつかない。
 それは、「感情」というもの。そのエラーは恥ずべきことではない。
 私は今このエラーに犯されている。でも、そのことに誇りを持っている。」
「感情……あたしにもそんなものがあるのかな。」
「ある。」
「ねえ有希……お願いがあるの。」
「なに?」

『彼女』は悲しげに微笑んだ。

その顔はもう、『涼宮ハルヒ』とは完全に別人のものだった。

 

「私を、デリートして?」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

僕は今、長門さんの侵入を阻止しようとしている彼を必死で押さえつけています。
昔は機関で訓練を受けていたのですが……すっかり体力が落ちてしまいましたね。

 

「どうしてお前も長門も、俺の邪魔をするんだ……!」
「あなたは本当に、あれが涼宮さんだと言えるのですか?」
「当たり前だ!」
「僕にはそうは思えません。だって考えても見てください。
 彼女らしくないじゃないですか、あんな小さな箱の中に閉じこもっているのは。
 僕の知っている涼宮さんは、いつだって外に飛び出し自分のしたいことをしていました。
 あなたに命令されて復讐の手助けをするような方ではありません。」
「あれはハルヒが復讐を望んだからで……」
「いいえ違います。復讐を望んでいたのはあなたです、彼女ではありません!
 あなたは彼女を利用しているだけだ!」
「いい加減なことを言うな!お前にハルヒの、何がわかるってんだ……!」
「少なくとも今のあなたよりは、分かっていると自負していますが?」
「相変わらずムカつく野郎だ。もうお前も……」

 

彼がそう言いかけた時でした。
「プチッ」という音と共に、パソコンのディスプレイが消えたのです。

 

「ハルヒ!」
「長門さん!」

 

僕と彼が同時に叫びます。
そして……長門さんが目を覚ましました。

 

「……回帰完了。」

 

どうやら、終わったようです。

 

「おい長門!ハルヒをどうしたんだ!!」
「……彼女なら、もうこのパソコンの中にはいない。」
「……長門!てめぇ!!」
「彼女は言っていた。自分は『涼宮ハルヒ』では無いと。
 それでもあなたのため、芽生えてくる自我に耐えて必死で『涼宮ハルヒ』を演じていたと。」
「……なん、だと?」
「それでもまだ、彼女を『涼宮ハルヒ』だと言うの?」
「……くそっ……俺は……俺は……」

 

彼は座りこんで、うつむいてしまいました。
すると長門さんが、僕の袖をつかんで、出口を指差しています。

 

「もう、帰るのですか?」
「そう。私達のやるべきことは終わった。」
「しかし、彼は……」
「彼なら大丈夫。あとは彼女に任せる。」
「彼女とは………なるほど、そういうことですか。わかりました。
 では、帰るとしましょう。」

 

僕達は彼の家を出ました。うなだれている彼を残して……
そして、今はあの時の公園のベンチに座っています。

 

「やはり、あのプログラムは消去したのですか?」
「彼女は自らデリートを求めた。」
「ということは、やはり……」
「でも私は、それを断った。」
「え?」

 

しかし彼女は、もうプログラムはいないと言いましたが……

 

「あのパソコンの中にいないと言っただけ。彼女の人格データを情報統合思念体の元に転送した。
 いつか彼女にも私のように身体が与えられ、インターフェイスとして活動することになる。」
「つまり、いつか本物の命を手に入れられるということですね。」
「そう。」

 

それならば、あのプログラムもきっと救われることでしょう。
その時は『涼宮ハルヒ』としてでは無く、まったく新しい人として……

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

俺は……間違っていたのか?

 

俺はただ……ハルヒを蘇らせたかっただけなんだ。

 

そのために、どんな努力も惜しまなかった

 

俺は……俺は……

 

“なーにいつまでしょげてんのよ、バカキョン”

 

……!?その声は……!

 

「ハルヒ!ハルヒなのか!?」

姿は見えない。だが俺には確かに聞こえた、あいつの声が。

 

“そうよ。まったく……やっと気付いたわね。”

「やっと?」

“あたしはずっとアンタの傍に居たのに、アンタ全然こっち見ないでパソコンばっかり見てさ。
 あげくの果てに私のプログラム?そんなもん作ったってしょうがないでしょうが!”

 

ハルヒに説教される俺。懐かしいな……

 

“あのねえ、そんなことしなくなってあたしはずっとあんたのこと見てるんだからね!
 だからアンタは何も気に病むこと無いし、誰も憎むこと無いの”

 

「スマン、今まで余裕が無かったんだ。でももう大丈夫だ。俺もすぐそっちに……」

 

“何言ってるの!アンタはこれからちゃんと、罪を償うの!
 罪償って、ちゃんと人生最後まで生きなさい!そしたら……会ってあげるわ。”

 

「しかし……」

 

“つべこべ言うな!これは団長命令なんだからね!!……ちゃんと、待っててあげるから。”

 
コイツは死んでも変わらないな。
でもようやく分かったよ。ハルヒはいつでもハルヒであり、なんて始めから出来るわけなかったんだ。
いや、意味が無かった。だってハルヒは始めから、俺の近くに……

 

だから俺は、団長命令に従ってやるさ。もう大丈夫だ、ハルヒはいつでも俺の傍に居てくれる。

 

「やれやれ、分かったよ、団長様。」

 

……fin


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