事件が起きたのは、高校3年生の春だった。

 

SOS団に引きずりこまれて約2年が経過し、もうすっかり身体のリズムがSOS団に順応してしまった。
そして俺は、1つの決心をした。ハルヒに告白をすることを。
なあなあで来た俺達の関係を、1つの形にしようと思い立ったってわけさ。

 

部活終了後、俺は他の3人を先に帰らせてハルヒと二人きりになった。

 

「なによあたしだけ残して。言っておくけど、くだらない用事だったら死刑だからね。」
「ハルヒ……俺と付き合ってくれ。」
「……え!?」
「お前が、好きなんだ。」
「……このバカキョン!!言うのが遅いのよ!あたしだってアンタのこと好きだったんだからっ!」

 

と、まあこうして俺とハルヒはめでたく付き合うことになったわけだが、
翌日、部室でとんでもない事実を告げられた。

 

「よう。ハルヒは掃除当番で遅れるんだとさ。」
「あなたに伝えたいことがある。」

 

いきなりなんだ。またハルヒ絡みか?

 

「そう。……涼宮ハルヒの能力が、完全に消失した。」
「な、なんだって!?」

 

いきなりだなオイ!そんなに突然消えるもんなのか!?

 

「いきなりでは無い。徐々に減少傾向にあった。おそらく昨日の出来事がトリガーになったと思われる。」

 

ああ、昨日の……って、確かまだみんなには話して無かったと思うが?

 

「終わった後二人で残ったことを考えれば、想像はつきますよぉ。
 ようやく、って感じでしたもん♪」

 

なるほどね。朝比奈さんですら予想できていたならば、長門や古泉にとっちゃ確信的なものだったんだろう。
ん?そういや、さっきから静かなヤツが一人いるな。
今までの言動を考えたら、こういう時こそ多弁になる男のはずだが。

 

「古泉、やけに静かだな。悪いもんでも食ったのか?」
「いえ……そういうわけではありませんよ。」

 

と言って古泉は笑顔を作る。だがその笑顔は、いつもより30%減って感じだ。

 

「よくわからんが、お前もようやく閉鎖空間から解放されたんだろ?もっと喜べばいいんじゃないか?」
「ええ……そうですね。あの……」

 

古泉が何かを切り出そうとしたその時

 

「やっほー!!遅れてごっめーん!!」

 

けたましくハルヒが入ってきた!相変わらずのテンションだな。
能力を失ってもハルヒはハルヒだ。俺はそんなハルヒを好きになったんだからな。

 

「あ、そうそう。あたしキョンと付き合うことになったから!」

 

まるでいつも通りイベントを持ってきた時のように軽く発表した。
おいおい、もっとムード的なものが……まあバレバレだったんだけどさ。

 

「おめでとうございますぅ!お似合いだと思いますよぉ!」

 

全力で祝福してくれる朝比奈さん。
あなたに祝福されれば嬉しさ120%というものですよ。

 

「……おめでとう。」

淡々とつぶやくように祝福してくれる長門。まあここまではいつものテンションだ。だが……

 

「おめでとうございます。心から祝福させて頂きますよ。」

その古泉の笑顔は、やはりどこか陰りがあった。
散々俺達をくっつけようとしてたくせにどうにも元気が無い。
まさかハルヒのことが好きだったのか?……それは無いだろうな。

 

と、柄にも無く古泉の心配をしているうちに、部活は終了となった。
明日は土曜日。不思議探索は無い。
代わりにハルヒと二人きりで約束をしてある。つまりハルヒとの初デートの日ってことだ。

 

「エスコートはアンタに全部任せるわ!光栄に思いなさい!
 あたしを楽しませないと死刑だから!じゃあね!」

 

そしてハルヒと俺は別れた。まさか、これが生きたハルヒを見る最後の姿だと思いもせずに……

 

 

その夜。俺達は病院に集まっていた。

 

「なんで……なんでこんなことに……」

 

朝比奈さんは泣いている。長門もどことなく沈んだ雰囲気だし、古泉にも笑顔は無い。

 

そう、ハルヒは、死んでしまったのだ。

 

ハルヒは俺と別れた後、突然通り魔に襲われたらしい。
胸を刺されて、病院に運ばれたが既に息は無かったそうだ。
家でのんびりくつろいでた俺は、突然長門からの連絡を受け、病院までやってきたってわけだ。

 

「……ウソだよな。なんの冗談だよ。面白いジョークだよな。はははは……」

 

ほんと笑えてくるよ。くだらなすぎてな。タチの悪いドッキリだぜ。

 

「なあ?みんなもそう思うだろ?一緒に笑おうぜ?ははは……」

 

笑うヤツは、誰もいない。

 

「みんなも笑えよ……笑えよ!ほら!!」
「落ちついて。」
「落ちついてられるか!!こんな状況で!!ハルヒが死ぬわけないだろ!あの団長がよ!!」
「落ちついて!」

 

長門が珍しく声を荒げ、俺の肩をつかむ。

 

「……これは、事実。」

 

はは……マジかよ。
俺の笑いは、涙へと変わっていった。

 

「……お話があります。」

 

今まで黙っていた古泉が口を開いた。なんなんだ。今はお前なんかの話を聞く気分じゃねぇんだよ。

 

「彼女を殺した通り魔は恐らく機か……」

 

古泉が言い終わる前に、俺は古泉を殴っていた。

 

「キョン君!」

 

朝比奈さんが悲鳴をあげる。だが知ったことじゃない
コイツは今何を言おうとした!?機関の人間がハルヒを殺しただと!?

俺は倒れた古泉に駆け寄り、二発目を当てようとする。
……!!長門!離せ!

 

「お願い。落ちついて。」
「落ちついていられるか!ハルヒは機関に殺された!そうだろ!?」
「古泉一樹は悪くない!」
「いえ……僕が悪いんですよ、長門さん。」

 

古泉が起きあがった。

 

「通り魔は恐らく機関の人間です。知っての通り涼宮さんは閉鎖空間を作り、僕等がその処理にあたる。
 僕はSOS団の団員であるということに誇りを持っていますから、彼女を恨んではいません。
 しかし、そうでない人間も確実にいるのです。彼女を恨んでいる人間も……
 それでも彼女には能力があり、手出しは禁じられていました。世界がどうなるかわかりませんからね。
 でもその能力が消えたことで、彼女に手を出す人間が出ることは不思議じゃありません。」

 

古泉は長々と話す。だが弁明という感じでは無い。ひたすら自分を責めているような感じだ。

 

「その可能性に気付いていながらこのような結果になってしまったのは全て僕の責任です。
 僕を責めるなり殴るなり好きにして貰って構いません。なんなら、殺しても……。」
「もういい。お前を責めたところでハルヒは戻っては来ないからな。」

 

そうだ。古泉を責めたところでしょうがないんだ。
重要なのは、俺はこれからどういう行動を起こすべきか。

 

「ハルヒを取り戻すには、自分で行動を起こすしかないんだ。」
「取り……戻す?」

 

朝比奈さんが尋ねる。だが今は、それに答えるわけにはいかない。
俺は1つの決意をした。したからにはもう、1分の時間も惜しいんだ。

 

「みんな、もう俺はSOS団には来ない。
 あいつがいないSOS団なんて意味無いし、なによりやることが出来たんだ。
 悪いけど、もう帰らせてもらう。」

 

そう言い残し俺は去った。そうだ、俺がやらなきゃいけないんだ……!

 

 

~~~15年後~~~

 

俺はあの後ハルヒの通夜にも出ずに、ひたすら勉強を続けた。
寝る間も惜しんでの受験勉強により、赤点スレスレから校内トップクラスにまで成績を押し上げた。
そして国内でも1,2を争う大学に入学。そのまま大学院に進み、異例の若さで教授にまでなった。
俺は今コンピュータサイエンスを専門としている。あの時からこの分野だと決めていたからな。

そしてつい先日、ようやく俺は研究を完成させたのだ。

 

さて、そんな中街を歩いていると、懐かしい人物に出会った。

 

「お前……古泉じゃないか?」
「あなたは……。お久しぶりです。」
「元気でやってるか?」
「ええ、それなりにやらせて頂いてます。あなたの方は凄い活躍ですね。
 コンピュータサイエンスの権威として名前を聞きますよ。」
「そうかい。……あっ、もうこんな時間じゃないか。悪いけどここで失礼するよ。」
「お急ぎなのですか?」
「ああ。」

 

俺は古泉に喫茶店の金を渡して、こう言った。

 

 

「ハルヒが待ってるんだ。」


「え?」

 

古泉が素っ頓狂な声をあげる。

 

「今、なんと?」
「だから、家でハルヒが待ってるんだよ。遅れるとうるさいんだ。アイツは。じゃあな。」

 

呆然と立ち尽くす古泉を尻目に、俺は家へと急いだ。

 

「ただいま!」

 

俺は家のドアを開ける。やべぇな。遅れちまった。

 

『遅い!!罰金よ罰金!!』

 

やれやれ、予想通りのセリフだな。意味は無いと思うが一応弁明しておくか。

 

「いやさっき古泉と会ってな。つい話し込んでしまって遅くなった。」
『古泉くん?懐かしいわね。あたしも会いたいわ。……でもそれとこれとは話は別よ!』
「へいへい」

 

相変わらずあの時と変わらないな。

 

そうだ、「変わらない」のさ。研究室となった部屋にある、一台の大きなパソコン。
そのディスプレイ一杯に映し出されるのは、高校の時そのままのハルヒの姿。
そして左右に設置されたスピーカーからは、高校の時そのままのハルヒの声。

 

そう、これが俺の十年以上の研究の成果。

 

コンピュータ人格プログラム『涼宮ハルヒ』だ。

 

続く

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最終更新:2007年09月09日 16:05