九曜ふたり

「キョン、すまないが至急駅前に来てくれないか。ちょっと困ったことになってるんだ」
 電話から聞こえてくる佐々木の声は、どこか切羽詰っているような緊迫感があった。
「いったい何があったんだ?」
「九曜さんが……」
 九曜が……?
「とにかく、今すぐ来てほしい」
「ああ、分かった」
 とにかく、あの佐々木でさえうろたえるような事態が発生しているようだ。

 俺は、すぐさま長門に電話をかけた。
「……というわけで、九曜のことで佐々木が何か困っているらしい。俺の手に負えんかもしれんから、おまえも来てくれないか?」
「分かった」



 駅前に到着すると、既に長門が来ていた。佐々木が長門の背に隠れるように縮こまっている。
 そして、

「……………………」

 この三点リーダーは、長門ではない。俺だ。
 俺は目の前に繰り広げられている光景に何度も目を疑った。
 しかし、何度目をこすっても、視覚を通じて脳が知覚したものに変化はない。

 周防九曜が、二人いた。

 どこからどう見てもコピーとしかいいようがないほどそっくりで、たとえ双子であってもここまで全く同じということはありえないだろう。
 顔や体の造形はもちろん、仕草や風に揺られる髪の動きさえ全く同じだった。

「こりゃ、いったいどういうことだ?」

「「────バック────アップ────」」
 二人の九曜が全く同時にしゃべった。

 情報量があまりにも少ないその言葉を、長門が翻訳してくれた。
「天蓋領域は、周防九曜のバックアップとして、コピーを作成したものと思われる」
 九曜の親玉は、なんつう芸のないことをするんだ。
「これじゃ、バックアップの意味がないだろ。なんといっていいのか……」
 俺がどう説明していいものやらいいあぐねていると、
「バックアップとは、本来、本体が消滅したり行動不能となった場合に、それを代替する役割である。全く同じ形態及び性能で全く同じ行動をとるものを常に一緒に行動させていては、事故が起きた際に同時に損害を受ける可能性が高い。それでは、バックアップの意味がない」
 さすが長門。俺のいいたいことを的確に説明してくれた。
「というわけだ。とにかく、おまえのアホな親玉にそう伝えてくれ」
「「────了解────した────」」
 二人の九曜は、全く同時に身を翻して、とぼとぼと歩き去っていった。

「助かったよ、キョン。さすがに九曜さんが二人もいては、どうにも落ち着かなくてね」
 まあ、そりゃそうだろうな。
 俺だって、長門が二人もいたら、どうにも居心地が悪くなりそうだ。



 これで解決したように思ったのだが、その翌日……。

「キョン! 今すぐ来てほしい! すぐにだ! 九曜さんがぁー!!」
 絶叫とともに切られた佐々木の電話。
 何かとてつもないことが起きたようだ。
 俺は、昨日と同じく長門を呼び出して、駅前に急行した。

 佐々木は、長門の背に隠れて、ガクガクと震えていた。
 俺も一緒にそうしたい気分だった。

 俺の目の前には、101人の周防九曜が存在していた。

 九曜の親玉は、救いようがないぐらいにアホだ。


|