陰謀の舞台裏

 ────通信傍受班は、「機関」本部を偽装し、工作対象森園生搭乗車両に「誘拐」車両追跡を指示せよ。また、工作対象多丸兄弟搭乗車両を所定の位置に誘導せよ。


 森園生は、新川が運転する黒塗りタクシーに乗りながら、現下の状況について思案していた。
 「機関」の指揮系統にやや混乱を来しつつある。何者かが「機関」の高度な通信系統に割り込んでいる可能性があった。
 それだけの高度なテクノロジーを持つ存在は、未来人か宇宙人しかいない。
 どちらかが「機関」の行動に介入しようとしている。

「あっ」
「どうした? 新川」
「しくじりました。撒かれましたね」

 森園生は、「機関」本部に追跡車両をロストしたことを報告した。


 ────通信傍受班より報告。工作対象森園生搭乗車両は、「誘拐」車両をロストした模様。
 ────通信傍受班は、「機関」本部を偽装して、規定事項11発生現場の場所を工作対象森園生に通知せよ。


 ほどなくして、森園生の携帯電話にメールが入った。送信元は「機関」本部。間違いはない。特殊な暗号キーを入力して本文を表示する。表示されたURLをクリックすると、地図が現れた。
 矢印によってある地点が示されている。追跡車両がそこに向かっているということだった。
 果たして、信じてよいものか?
 しかし、現状ではこれ以上の手がかりがないのも事実、ならば賭けるしかない。
 森園生は、携帯電話からカーナビにデータを転送した。

「新川。そこに向かいなさい」
「はっ」


 ────監視班Aより報告。規定事項11クリア。
 ────通信傍受班より報告。工作対象森園生は、規定事項11を目撃した模様。
 ────通信傍受班より報告。工作対象多丸兄弟搭乗車両は、所定の位置に到達。


 森園生は、古泉一樹との通話を切ると、カーナビを操作して多丸兄弟の車両の位置を確認した。
 彼らの車両は、あまりにも都合のよすぎる位置に存在していた。
 多丸圭一の携帯電話にかけて、手はずを打ち合わせる。
 そうこうしているうちに、車はキョンの横に停車していた。


 ────監視班Aより報告。工作対象森園生搭乗車両は、工作対象キョンを同乗させ、「誘拐」車両の追跡に移行。


 森園生は、確信していた。現在介入しているのは、朝比奈みくるの組織に間違いないと。
 我々は、未来の操り人形ではない!──そう叫びたい気分だった。
 しかし、朝比奈みくる(みちる)の誘拐が成功してしまうことは、「機関」にとって何のメリットもないばかりかデメリットばかりだ。
 つまり、操られていることを自覚してもなお操られるままに動かざるをえない。
 全くもって忌々しい限りだった。


 ────監視班Bより報告。規定事項12クリア。




 森園生は、朝比奈みくる(みちる)とキョンを無事に送り届けると、すぐに「機関」本部に向かった。
 「機関」本部で、朝比奈みくるの組織が「機関」の通信系統に介入していた疑いがあることを報告し、詳細な調査をするよう意見具申した。
 ついでに、本部の集まっている報告記録の束を閲覧した。
 あの誘拐事件の発生の直前に、朝比奈みくる(大)が長門有希と接触していた。

 未来人と宇宙人の暗黙のうちの連携。
 その下で、「機関」は操られるままの人形と化すのか……?

 そんなことは断じて認められない!

 森園生は、固くそう決意するのだった。


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