傘というものは元来、雨をふせぐためにあるはずだ。
だとしたら今日コイツは、傘としての役割をまったく果たしていないことになるな。

 

まあ風速20m超える突風と、前方から90度で直角に向かってくる豪雨が相手じゃ仕方ないか。

 

「あーあ濡れた濡れた。ひっどいなこりゃ。あ……傘、壊れてやがる。」

 

そう、今日は台風様がご上陸なされているのだ。
こんな雨の中を傘壊して登校する俺。なんという真面目な学生だろうか。
しかし……この閑散とした雰囲気、イヤな予感がする。

 

「おや、来られたのですね。おはようございます。」

 

下駄箱に現れた古泉!そしてこいつの今のセリフで、イヤな予感が当たっていることを確信した。

 

「今日は台風により学校はお休みですよ。」
「やっぱりか!!ちっくしょーー!!」

 

イヤな予感ってのは当たるもんだと痛感した!
思えばハルヒ関係で、イヤな予感というのはことごとく当たってきたからな。
そのくせ願望とかは全然当たらない。願望がポンポンと当たるのはハルヒぐらいなもんだ。

 

「参ったねえ、わざわざ傘壊してまで登校してきたって言うのによ。」
「お疲れ様です。」
「お前に言われてもまったく嬉しくねぇ。にしても、連絡ぐらいくれてもいいのにな……」
「連絡はあったようですよ?最も僕はその前に家を出てしまっていたのですが、あなたは?」
「あー……慌てて家出たからなあ。気付かず出て行ってしまったのかもしれん。」
「あなたらしいですね。」

 

そう言ってフフッと笑う古泉。だから気持ち悪い笑いはやめろって。

 

「どうですか?この暴風雨の中をそのまま帰るのも大変です。部室で時間をつぶしませんか?」
「お前と二人ってのも癪だが、傘も壊れたしな。その意見には賛同する。」
「光栄です。ちゃんと今日もボードゲームを持ってきていますよ。ご一緒にどうですか?」
「はっ、また俺が勝ってやるよ。」

 

まあそんなわけで雨がおさまるまで部室でヒマをつぶすことにしたわけだ。
俺と古泉がドアを開ける。

 

「あら。」
「あ。」
「……。」

 

三者三様の反応。上からハルヒ、朝比奈さん、長門。
……やれやれ、みんな考えることは同じらしいな。

 

「皆さんも来られてたんですか。」
「まったくね。学校からの連絡が遅過ぎるのよ!もう家出ちゃってたわよ!
 苦労してここまで来たってのに!」
「びしょびしょに濡れちゃいましたよぉ。」
「……。」

 

ハルヒはいつも早く来てるし、朝比奈さんはドジっ娘だからまあ納得だ。
だが……

 

「長門、お前も連絡聞きそびれたのか。」
「そう。うかつ。」

 

長門にしては珍しいとも思ったが、よくよく考えれば長門は休みになろうが学校に来そうな気もする。
ハルヒがこうやって間違って来ている可能性を考えれば、な。

 

何はともあれ、SOS団全員が揃ってしまったってわけだ。
濡れてしまったということで、全員ジャージに着替えることにした。
無論、女三人に追い出されて俺達は外で着替えることになったけどな。
人少ないからいいが、普段なら絶対出来ないぜ。

 

それからはまあ、本当にいつもとおんなじだ。
長門はすみっこに座って読書、朝比奈さんはお茶を入れながら
俺と古泉がボードゲームをしながら、んでハルヒはPCと向き合いながら、
いつものよーにまったりとした時を過ごしていた。

 

「なんかさ……」

 

ん?PCに向かっていたハルヒが当然口を開いた。

 

「こういういつもと違う状況だと、なんかワクワクしてるみたいな気分にならない?」

 

ん、なんともハルヒらしい感性だ。
だがまったく理解不能ってワケじゃない。俺にもなんとなく理解できる。

 

「僕にも少しだけですがそういう気分はありますよ。」
「分かる?古泉くん。」
「ええ。台風により外の様子がまるで違い、時間もまだ午前中。
 いつもと同じことをしているはずなのに、どこか違う雰囲気。
 ある意味これは、いつも僕らが探している不思議と言えるのではないでしょうか?」
「それよそれ!流石古泉くん、あたしの言いたかったことをズバリ言ってくれたわ!」

 

本当かよ。まあ確かにこれは不思議な空間ではあるな。
いつもと同じようで違う雰囲気。この不思議な空間に、俺も少しばかり心がくすぐられる。

 

「だとしたら、あたしはこのSOS団を作ってよかったと思えるわ。」

 

ん?なんでそこに繋がるんだ?

 

「だってみんなとこの空間を共有出来てるじゃない!一人で居ても、こんな気分にはなれなかったわ。」

 

……どうやらコイツは、俺達と過ごしていい方向に変わっているようだ。
以前の孤独に居もしないような化け物的な不思議を探しまわるハルヒは、もういない。
俺達と共に過ごして、こういう日常のほんのささやかな不思議にも満足できる。
だったら、俺が今までコイツに付き合ってきた甲斐があったというものだ。

 

ハルヒの今の言葉で、俺の心にはなにやら暖かいものが充実していた。
きっとみんなも同じはずだ。言葉こそないが、そういう雰囲気が部室内に広がっている。
少しいつもと違っていて、それでいて暖かい雰囲気。

 

俺は少しだけだが、台風に感謝してやってもいいと思った

 

終わり


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