関連:お姉さんシリーズ教科書文通シリーズ

 

 

 

「ちょっと、みくるちゃん聞いてよ!! キョンったら……!!」

 ばぁん! と言うすごい音を立てて涼宮さんが文芸部部室入ってきたのは、あたしがいつものメイド服に着替えようと北高指定のセーラー服のすそにクロスした手をかけた時でした。扉を開けたのがキョンくんや古泉君でなくて良かった。
まぁ、紳士なお2人は入室する際には必ずノックをしてくださるのであまり心配していないのですが。 

 いえ、そんなことより涼宮さんです。入ったときの口調からしてきっと眉間に皺を寄せ、あの大きな目をキッと鋭くさせているのだろうと思っていたのですが、そうではないのです。あたしの前で、ご自分より身長の低いあたしを体を屈めてまで上目遣いで見上げる彼女の瞳は涙で潤み、桃色の唇がふるふると凍えるように震えていて、女のあたしでも思わず可愛い!と抱きしめてしまいそうなのです。
キョンくんあなた、こんな涼宮さんに何をしたんですか! ことと次第によっては先輩、容赦しませんよ!

「ふぇ!? ど、どうされたんですか? 涼宮さん」

「キョンが……、キョンが……。」 

……とうとう泣き出してしまった涼宮さんの背中を撫でながら、あたしはゆっくりとひっくと肩を揺らす涼宮さんに声をかけます。

「どうされたんですか? キョンくんに、何か酷いことでもされたんですかぁ?」

「違うの、何もされてない……。 ただ……」

「ただ?」

「怒られちゃったのよ……。 すごく夜景が綺麗に見える場所を見つけたから、あたし、キョンにも見せてあげたくて……。その場所を見つけたときの話をしたの。 そしたら……。

『バカ野郎!! お前そんな時間に1人でそんな所うろついてたのか!?』

 って、怒鳴られちゃって……。 今まで結構きつく言われたことはあったけど、あそこまで怒鳴られたことなくて、何でキョンが怒ってるのかも解からなくて……。
 びっくりして逃げてきちゃったの……。 ねぇ! みくるちゃん! あたし、どうしたらいい?何でキョンはあんなに怒ったっちゃたのかしら……。 ねぇ、どうしたら許してくれると思う?」

 そう言って、肩を落とす涼宮さんは泣いたことで少し落ち着いたのでしょう、
ゴメンね、みくるちゃん。 いきなり泣きついちゃって。 と、ほんの少し、笑って見せてくれました。 しかし、その目許は赤く染まったままです。

 キョンくん、気持ちは分からなくもないですが、もう少し、方法ってものがあるんじゃないでしょうか?

でも、涼宮さんも涼宮さんですね。 お姉さん、ちょっと意地悪しなきゃいけないかもしれません。 

「涼宮さん。 あたしもその綺麗な夜景、見てみたいです。 教えてもらっていいですか? 星空の下のお散歩にちょうどいいかもしれません。」

「ええっ!? だめ! だめよ!」

 椅子に座ったままのあたしの膝に頭を預けるようにしゃがみこんだ涼宮さんのつやつやした真っ黒な髪を撫でながら尋ねると、涼宮さんは今までなすがままに撫でられていた頭をパッと上げてあたしの目をじっと見てから懇願するように声を荒らげました。  うふ、計画通りです。

「やっぱり、涼宮さんだけの秘密ですか? あ、キョンくんにも教えようとしたのなら二人だけの秘密ですね、うふふ。」

「違うわ! みくるちゃん、あのね、そこ、結構治安悪い場所を通らないといけないし、雑木林抜けた先にあって足元暗くて危ないし、怪我しちゃうかもしれないからダメ! 絶対ダメ!」

「でも、それは涼宮さんもでしょう?」

「え?」

 ちょっとおどろいた様子の涼宮さん。 これも計画通りです。 あと、もう一押しですね。

「そんな、治安が悪くて、足元の悪い場所に夜景が見えるような時間に出かけたんでしょう?涼宮さんが大丈夫なら、あたしも大丈夫ですよ。 ね、教えてください。」

「だめだめ! みくるちゃん、可愛いもの! 絶対危ない目に会うわ! それに、みくるちゃんに怪我なんかされたら、あたし……!」

「あたしのこと、心配してくださるんですか?」

「当たり前じゃない! あたしはね、みくるちゃんが大好きなの! 大好きなみくるちゃんを危ない所になんかにやれないわ!みくるちゃんだけじゃないわ! 有希にもあんな危ない道、一人でなんか歩かせないんだから!」

「キョンくんも、きっとそんな風に思ったんじゃないでしょうか。」

「……!」

あたしの言葉に、ぱちくりと目を見開く涼宮さん。 うふふ。 可愛いですねぇ。
これだからキョンくんも怒鳴りつけちゃうほど心配になっちゃうわけです。

「大切な人がたった一人で危ない所に夜遅くで歩くなんて、話に聞くだけで心配で心配で仕方ありませんよね。 大好きな人なら、尚更。それこそ、声を荒らげちゃうくらいに。 涼宮さんもさっき私や長門さんを心配してくださったでしょう?」

 だから、ね、キョンくんに謝りに行きましょう?

 と、あたしが肩を撫でる様に叩くと涼宮さんは、ゆっくりと、ふらふらとした様子で立ち上がりました。あらあら、耳までうっすら赤く染めちゃって。 本当に可愛らしいですねぇ。

「……キョンに、謝ってくるわ……。」

いってらっしゃい。 お姉さん、意地悪した甲斐がありました。

<ハルヒ編 END>

 


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