(※ 前話:朝比奈みくるのバット ~蒸し返し~

 

 

谷口「あの野郎! 車でどこへ向かったんだ!? たぶん話にあった、高利貸しのところだとは思うが……」
みくる「谷口さん! 国木田さんは!?」
谷口「車で行っちまいました。バットを持って」
みくる「なぜ、彼があのバットを……」
谷口「そういや朝比奈さんは、ご存知なかったんですね。国木田と阪中のこと」

 

 

 

みくる「そうでしたか。国木田さんと阪中さん。この10年の間に、そんなことが……」
谷口「俺も、ついさっき聞かされて知ったんです」

みくる「彼に私と同じ過ちを犯させるわけにはいきません! すぐ追いましょう!」
谷口「俺だってあいつに罪は犯させたくない。でも、あいつがどこへ行ったのか分からないし……」
みくる「とりあえず阪中さんを起こして事情を話し、協力してもらいましょう!」
谷口「そうですね。阪中なら、国木田の向かう先も分かるでしょうし」

 

 

 

 

国木田「や、やった………」
国木田「まず、ひとり………」
国木田「はあはあはあ………え、えへへ、えへへへはははははは」

 

男「な、なんだテメェ!? いきなり押しかけてきたかと思ったr
国木田「うるさい!」
男「げうッ! い、いい、いてえぇ!! 痛いぃ! なにしやがる!?」

 

国木田「いたい? 痛いだって? お前ら、痛いって言葉の意味もしらないくせに、痛いなんてほざいてるんじゃない!」
男「いいひぃぃぃ! て、てめぇ、こんなことして、た、ただで済むと思ってんのかオラ!? も、もうすぐ兄貴たちが帰ってくんだぜ。そしたらおめぇ、バラされっぞ」


国木田「兄貴? バラされる? だれが? 僕が?」

 

国木田「やってみろよ。できるもんならね。僕は呪いのバットに選ばれた人間なんだよ?」

 

国木田「呪い殺されるのはキミたちの方さ」

 

 

 

 

阪中「ちょっと谷口くん! もっとスピード出ないの!?」
谷口「ムチャクチャ言うなよ! 何km出してると思ってんだ! メーター見ろよ!」
阪中「国木田くんに追いつけなかった何km出してたって意味ないのね!」
みくる「でも事故を起こしたら元も子もないですよ。急がないといけない状況ですが、落ち着いて運転してくださいね、谷内くん!」
谷口「………俺は谷口です……」


谷口「朝比奈さん、ひとつ確認しておきたいことがあります」
みくる「なんでしょう」
谷口「あのバット。呪いのバットだなんて言われてますが、その……呪いってのは本当なんですか?」
阪中「なに言ってるのよ、谷口くん。呪いだなんて非科学的な物、あるわけないじゃない」
谷口「じゃあどう説明するんだよ。10年前のあの事件のこと。朝比奈さんがあんなことする人じゃないことは阪中もよく知ってるだろ。それに、当時バットで殴られた人は、自殺者も含めて全員死んでるんだ」
阪中「それは……」
谷口「それにお前は気絶してて見てなかっただろうが、バットを見つけてからの国木田。あれはまるっきり別人だったぜ。そう、まるで何かに乗り移られたような感じだった」


みくる「……呪いは、実在します」
阪中「ちょっと、朝比奈さん!?」

みくる「と言っても、あなたたちが思っているようなオカルトチックな呪いではありませんよ。私が言いたいのは、人の執念や、妄念といったものです」
谷口「人の、思いってことですか?」
みくる「そう。実際、あのバット自体は何の変哲もない、普通のスポーツ店などで売られているごくごく一般的な金属バットです」
みくる「でもバットを持つ人がそれを呪いのバットだと信じ込んでしまうと、たちまちそれは呪いのバットになってしまう」
みくる「10年前、古泉くんやキョンくんは私が殴って死なせてしまいましたが、涼宮さんや岡部先生の自殺にバットは直接関係ありません」

 

みくる「呪いはバットにかかるのではなく、バット持つ人の思いに発生するのです。ですから、妄想にとらわれた人が持ったバットは呪われたバットになるし、殺された人は呪いで死んだとなってしまうのです」
谷口「よ、よく分からないが、分かったような気がする……」
阪中「つまり今の国木田くんは、超自然的な意味ではなく、自分は誰でも殺すことができるバットを所持しているという思念にとらわれており、それが呪われているという状態なのですか?」
みくる「そう。かつて私がバットにあらぬ属性を見出して、一種の譫妄状態に陥っていたように、彼もまた、自分の妄執が正しいと思い込んでいるのです」
谷口「まずいな。このままじゃ、国木田はすべてを呪いのせいにして、人を殴りまくるぞ!」

みくる「そして更に危険なのは、バット自体は何の変哲もない普通の物ということです。バット一本でヤクザに太刀打ちできるわけがありません。彼が危険です!」
阪中「だから早くするのね! うぎいいいいい!!」
谷口「いででででで! 髪ひっぱるなよ! うひぃ、もう着いたよ!!」

 

 

 

阪中「あ! あれは国木田くんの車! やっぱり、もうここへ到着してたのね」
谷口「早まったマネをしてなければいいんだが。とにかく、金貸しの家の中へ急ごう」
みくる「待って。中へ入る前に、警察へ連絡しておくべきです。私たちだけで先走るのは危険です」
谷口「じゃあ警察への連絡は朝比奈さんにお任せします!」

 

 

阪中「国木田くん!? いるんでしょ、国木田くん!?」
谷口「やけに静かだな。あれ、玄関が開いてるぞ。入っていいのかな……お邪魔しまーす……入りましたよ~……」
みくる「どう? いました?」
谷口「いえ、今から上がるところです」

 


阪中「きゃああぁぁぁ、く、国木田くん!? だだ、大丈夫!?」
国木田「はあはあはあ……うく……さ、阪中……?」
阪中「あ、ああ! 国木田くん、おなかにナイフが! 全身ちまみれじゃない!」

谷口「こりゃ酷いな……。血の海じゃないか。これ全部、国木田がやったのか? うげ、気持ち悪くなってきた……」
みくる「なんて凄惨な……。ヤクザ5人を相手にするなんて」
みくる「……私が驚くことじゃないか。私も呪いの暗示がかかってたころには、これくらいのことやったんだものね……」

 

 

国木田「さか、阪中、はあはあ、きみ、大丈夫?」
阪中「私は大丈夫だよ! 国木田くんの方こそ! 痛いでしょ? すぐに救急車がきてくれるからね。もう少し待つのね」
国木田「阪中……おわったよ。ほら、契約書。きみの名前と印がはいったやつ。これを破棄すれば、借金は……うぅ……」
阪中「国木田くん、痛むのね? もう少しの辛抱よ!」

 

阪中「ありがとう、国木田くん。私のためなんかに。こんな、犯罪まで犯させてしまった……。でも国木田くんだけに罪は背負わせないよ。元々は私のせいなんだから」
国木田「……え? きみは、はあはあ、なにを言ってるんだい?」
阪中「何って、なにが?」
国木田「罪? なんのこと? 僕は罪なんて何も犯してないよ。これは全部、この呪われたバットがやったことだよ」

国木田「こいつらは呪いで死んだんだ。人間の理解を超えた超自然によって罰を下されたんだ。そうだよ。これは、天罰なんだ」
阪中「どうしたの、国木田くん? そっか、混乱してるのね。病院に行ったら、ゆっくり休みましょうね」

 

谷口「なな、何じゃこりゃあ!? すごい煙じゃないか! 火が、火がついてる!? 火事だ!」
国木田「さっき、厨房でやりあいをした時に、ガスの火が燃え移ってたから。たぶんそれだ」
みくる「すぐに逃げなきゃ! 谷口くん、国木田くんをお願いします!」
谷口「わ、分かりました! 国木田、つかまれ!」
国木田「わるいね……」
谷口「いいってことよ」

 


谷口「……金貸しの家。燃えてますね」
みくる「ええ」
谷口「国木田と阪中は?」
みくる「国木田さんは救急車で病院へ。阪中さんはその付き添いに行きました」
谷口「そうですか」

 

谷口「………」
谷口「朝比奈さんは、これからどうするつもりなんですか?」
みくる「私はバットを回収して帰ります。元々、そうするために学校へ来たんだったし」
谷口「そっか」
みくる「ええ」

 

谷口「朝比奈さんは、その、なんて言うか……10年間、どうやって暮らしてきたんですか? こういう言い方もないけど、その、あなたは世間的に死んだことになってる人間じゃないですか」
みくる「どうって。普通ですよ。病院とかにもかかりながら、ごく普通に生活を続けてきました」
谷口「普通って。あれだけ大きな騒ぎを起こしておいて、普通の生活なんて送れるものなんですか?」
みくる「普通と言ったら語弊があるけれど、意外でしょうけが、私は逃げ回るような生活はしていなかったわ。……この話は、やめにしません……?」
谷口「ああ、ごめんなさい。つい、気になってしまったもんだから」
みくる「気になるのは仕方ないことだわ。私が谷口くんの立場だったとしても同じことを訊いていたでしょうし。不思議に思って当然よ」

 

みくる「私がもっと早くバットを回収していれば。国木田くんをこんな目にあわせずに済んだのに……」
谷口「過去を振り返ったってしょうがないですよ。残念なことですが、これは全て国木田が自分の意思で決めて行動したことです。あなたの責任じゃありません」
みくる「ありがとう。そう言ってもらえると、少しは気が楽になります」

みくる「私は、これからバットを処分に行きます。もう、二度とこのバットが悲劇を繰り返さないように、責任を持って」
谷口「そうですか」


みくる「それでは、私はそろそろ行きます。こんな形になっちゃったけど、あなたたちに久しぶりに会えて嬉しかったわ。国木田くんと阪中さんにもよろしく伝えておいてください」
谷口「あの、朝比奈さん! 最後にひとつ、お願いがあるんですが!」
みくる「はい? なんでしょう?」
谷口「電話番号、教えてくれませんか?」

みくる「え?」

谷口「ここで会ったのも何かの縁だと思うし。いや、別に変な意味で言ってるわけじゃないスよ。ただ、昔の馴染みということで」
みくる「うふふ。谷口くん、そういうところ昔と変わってないわね。なんだか安心しちゃった。でも、ごめんなさい。残念ながらそれは無理なんです……」
谷口「そ、そうですか……」

 

みくる「………それじゃ。さようなら」
谷口「あ、ちょ、ちょっと待って! それじゃメルアドを……!」


谷口「あれ?」
谷口「朝比奈さん? どこ行ったんだろ。おーい、朝比奈さん? ついさっきまでここにいたのに……」
谷口「え? え? ま、まさか……い、今の、ゆ、ゆうれい!?」
谷口「いや幽霊なんて存在するわけが……でも、そうでなけりゃ、こんな一瞬で消えてしまうなんて………うわわわわわ!」

 

 

 

プルルルル プルルルル

 

谷口「はい、もしもし?」
阪中『あ、もしもし? 私、阪中なのね』
谷口「阪中か。よう、数日ぶり。こっちからも、そろそろ連絡をしてみようかと思ってたところだったんだ。国木田の様子はどう?」
阪中『その口ぶりじゃ、そっちに行ってはいないみたいなのね』
谷口「え? なにが?」


阪中『あの、さ。谷口くん、国木田くんを見かけてない? 今日彼の入院してる病院に行ったら、彼が行方不明になったって大騒ぎになってたの』
谷口「国木田が行方不明? んな馬鹿な。あいつは警察に監視されてたんだろ? それに、重症を負っていたっていうじゃないか。人知れず行方不明になるだなんて」
阪中『本当なのね! たぶん、彼が重症で動ける身体じゃないと分かってて監視係が油断していたせいなんじゃなかってことになってる。本当に彼は失踪したの』
谷口「それで心あたり先に連絡してるってわけか。よし、分かった。俺も国木田を探してみるよ。何か分かったら連絡をくれ!」

阪中『うん。ありがとう』

 

阪中『……あ、あのね。谷口くん。ちょっと、いい?』
谷口「どうした?」
阪中『…………ねえ、谷口くん。呪いって、本当にあるの?』
谷口「はあ!? なに言ってんだよ。あるわけねぇって。あの日、車の中で朝比奈さんも言ってたろ。呪いは人の思い込みだって。お前も非科学的だって批判してたじゃないか」

阪中『………あのね』


阪中『……彼、国木田くん、ずっと入院中に言ってたの。僕は人を殺していない。あの高利貸しを殺したのはバットの呪いなんだ。僕は人殺しじゃないって』
谷口「だから、国木田がそう思い込んでるんだろ。呪いがどうとか。たぶん、まだ錯乱が完全に治まってないんだろうよ」
阪中『やっぱり……そうかな。どうしよう……』

 

阪中『彼、自分が無実だと信じ込んでて、退院後に逮捕されるなんてまったく考えてなかったの。高利貸しの借金も、借用書を処分したから借金は無くなったって言ってた』
谷口「ちょっと待てよ。ってことは何か。あいつには、重症の身で病院を抜け出すような理由は無い、ってことか?」
阪中『そう。彼が行方をくらませる理由は何もない。ただ一つを除いては』

 

阪中『彼は私が以前つきあっていた、元カレを呪い殺しに行ったのよ』

 

 

 


 ピンポーン

 

男「はーい」
国木田「こんにちは」
男「あんた、誰? 新聞かなにかのセールスマン?」
国木田「おや、ビンゴだ。ようやく探し出したよ。あなたの顔、阪中の部屋にあった写真で見て知ってるから、間違いないや」
男「はあ? 何あんた。ワケの分からないこと言って。俺は宗教の勧誘にも興味ないしさ、帰ってくんない?」
国木田「いやあ。高い依頼料をはらって、探偵を雇った甲斐があったよ」
男「だから、ワケわかんねえこと言ってないで、とっとと帰れって言ってるだろ! 警察よぶぞ!?」

 

 ゴッ

 

国木田「警察? 呼べば?」

 

国木田「警察を呼んでどうするの? 警察に命を助けてもらうの?」

 

国木田「あっはっはっは。それは無理だよぉ。人間にキミの命は守れない。だって、これは、人智を超えた呪いがしていることなんだもの」

 

国木田「死ねよ。クズ野郎」

 

 

 

 

阪中「国木田くんがいなくなって、もう一週間か。どうしたんだろう……」
谷口『気を落とすなよ。別に死にやしないだろう。すぐに警察が保護してくれるさ』
阪中「うん……。そうよね。あのバットはもう朝比奈さんが持って行ったんだし、私の元カレの居場所は、誰にも分からないんだし」
谷口『そうそう。悲観的になったって、いいことはないぞ。どうせなら、国木田が帰ってきた時のために料理の一つや二つでも用意しておいてやれって』
阪中「そうね。その通りなのね。私、彼を信じて待ってるわ」
谷口『俺も引き続き、できる範囲で国木田を探す。なにか進展があったらまた連絡するよ。今夜は、これで』
阪中「うん。ありがとう。相談にのってくれて。それじゃ、おやすみなさいなのね」

阪中「ふう。そうなのね。私が彼を信じてあげなくちゃ」

 


 ピンポーン

 

阪中「あれ、こんな時間に誰だろう。はーい」

 

国木田「……やあ。こんばんは」
阪中「く、国木田くん!? どど、どうしたのね!?」
国木田「あはは。ごめんね、勝手に行き先も告げずにいなくなって。心配かけたね」
阪中「うう……ううぅ……うわあああん! ばかああああ! 今までどこに行ってたのよぉ!?」
国木田「ごめん……ごめんよ。でも、僕の手で、どうしてもケリをつけておきたいことがあったものだから。病院にも悪いことしたな。勝手に抜け出したりして」
阪中「ケリをつけたいこと? ………あ、あの、国木田くん? まさか、それって………」

 

国木田「うん。いいお知らせだよ、阪中。キミの人生を目茶苦茶にした諸悪の根源は、借金をつくって逃げたクズ人間は、呪いの力で死にいたったんだ」

 

阪中「く、国木田くん、ま、まさか、そんな……ははは、冗談よね? そうだよね? だって、あのバットはもう……」
国木田「バット? ああ。あの素晴らしい魔法のバットかい。それならほら、ちゃんとここにあるよ」
阪中「きゃああああああああああああ!!」

 

国木田「ちょっと、どうしたの阪中!? ごめんよ、驚かしたりして。怖かったかい? 血はちゃんと洗って落としたつもりだったけど……」
阪中「そそ、その、そのバット……どうしたの?」
国木田「え? どうしたって? やだな。キミと一緒にあの日、学校の部室棟に行って取って来たんじゃないか」
阪中「学校の旧館にあったバットは、朝比奈さんが持ち帰ったんだから、もうあのバットがあるはずない……」

 

阪中「それ、あの旧館にあったバットとは違う、まったく違うバットじゃない!」

 

 

国木田「なにを言ってるんだい、阪中は。そんなわけないじゃないか。これはれっきとした、呪いのバットさ。その証拠に、きっちりあのクズ男は死んだんだから」
阪中「ちがう、ちがうよ、あの呪いのバットはあちこちボコボコにへこんでたのに、そのバットはどこもへこんでない、新しいバットじゃない!」
国木田「なにを言ってるんだい、阪中。キミひょっとして、またパニックの症状が出たんじゃ。少し横になろう。休めば落ち着くよ」
阪中「違う! 違うわ、違う! それは普通のバットよ!」
国木田「よしてくれよ。これが呪いのバットじゃなかったなら、どうしてあの男は死んだんだい。それじゃ僕が、人殺しみたいじゃないか」

 

阪中「そうじゃないの! この人殺し!」

 

 

国木田「僕は人殺しなんかじゃない! よく見ろ! これは呪いのバットだろうが!」

 

 ガッ

 

阪中「きゃあ! う……うぁぁぁ……」
国木田「ああ! ご、ごめん阪中! ついカッとなってしまって……ど、どうしよう……ぼ、僕はなんという過ちを……!」

国木田「バ、バットで阪中を……! ど、どうしよう! どうしよう!? どうしよう!?」

 

国木田「これじゃ、阪中が呪いで死んでしまう!」

 

阪中「わ、私は大丈夫よ。国木田くん。全然平気だから。落ち着いて」
国木田「バットで殴られた人はみんな呪いで死んでしまうんだ! うわあああああああ!」
阪中「見て、国木田くん! 私は無事よ! ちょっと痛むけど、全然たいしたことないのね!」
国木田「そんなことはない! 10年前、バットで殴られて生き延びた涼宮さんも鶴屋さんも岡部先生も、結局はみんなその後すぐ死んでしまったじゃないか!}

国木田「阪中もすぐに死んでしまうんだ……明日? 明後日? いつか分からないけど、阪中が僕のせいで死んでしまう!」
阪中「待ってよ、国木田くん! 違うの! そのバットは呪いのバットなんかじゃないの! 私は死んだりしないわ!」


国木田「はあはあはあ! はあはあ! ぼ、僕は、僕は……キミだけを、ひとりで死なせたりしないよ」

国木田「こ、この、包丁で……。さ、さきに、逝ってるからね……」
阪中「ひっ! ま、まって国木田くん! 早まらないで!」


国木田「阪中。ごめん。最後まで、キミの苦しみを救えなかった僕を、ゆるしてね……」
阪中「くにきd

 

 

 ドスッ

 

 

 

 


阪中「………」
阪中「…………なんで」
阪中「……………なんでよ」

 

阪中「どうして、私の言うことを聞いてくれなかったのよ」
阪中「ばか」

 

 

阪中「私なんかのために、こんなにも必死になってくれたんだね、国木田くん」
阪中「嬉しかったよ。ちょっと間違った方法だったけど、あなたがあんなにがんばってくれて。正直、感動した」
阪中「でも、死んじゃったら意味ないじゃん」
阪中「どうして……こんなことに………」

 

阪中「あのヤクザたちも、あの借金男も、いい気味だわ。死んじゃって当然のダメ人間たちだったんだ」
阪中「あはは。呪い殺されて当然よ」
阪中「でも、国木田くんは違ったよね。ね。そうよね。キミが呪われるなんて、おかしいよね。不条理だよね」


阪中「………」
阪中「ねえ。くるしい?」


阪中「さびしいでしょう。国木田くん。私が死んじゃうと思って、私を安心させるために、先にいったんだもんね」
阪中「そうよね? そうでしょ?」

 

阪中「だから。私もすぐにいくよ。あなたをひとりになんてさせないわ」

 

阪中「いとしい、いとしい、国木田くん」

 

阪中「そっちにいったら。また、頭なでてね」

 

 


 ドスッ

 

 

 

 

 ~朝比奈みくるのバット ・ 完~

 


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