俺が意識し始めたのは何時頃かは定かではないのだが、いつの間にかにいつも思っていて、
だから少しうるさいと思いながらも会長に連れられて喜緑さんが来ないかなと思っていた。
麗しいほど澄んだ冬の空も、輝かしい夏の太陽も勝てないぐらいあの人の微笑が心にあって、
いやまぁ、朝比奈さんなら勝てるかも解らないが、いやでも勝てないだろうなとは思うわけで、
というよりも俺はあの人を見ているだけで良いという心情なわけなのだが、
よくよく考えてみるとなるほどと思う事態になったわけでそれはまさしく初恋以来のドキドキで、
つまり俺はあの人に恋をしたのだと自分で理解して頭を悩ませていたわけだ。
 
 
眠たくあるけど貴女を感じる ~眠たくない@プリン~
 
 
さて、そんなある日の事だ。
みんな遅れるせいで誰も居ないSOS団の部室で俺は何もする気が起きなくて、
倦怠ライフを懐かしんでいた時、ふと部室のドアが
「失礼します」
という可憐な声と共に叩かれ、すっと上品に開けられた。そこに居たのは紛う事なき喜緑さんだった。
「・・・喜緑さんですか」
正直、嬉しいと思いながら何故ここにという気持ちがぐるぐると渦巻いていたね。
まぁ、俺も男だしもしかしたら俺を目当てになんて期待をしていたりしたのだが、
そんなワケがあるはずもなく一瞬でその考えを取り除くしたね。
喜緑さんは入場するとドアを閉めた。部室に二人きりという状態が作り出されるな、必然的に。
「キョンくん、お一人ですか?」
微笑みを浮かべてそう言うものだからやっぱりドキッとしてしまわずには居られなかった。
「えぇ・・・みんな先生に呼び出しとかされてて来るのが遅くなるらしいんですよ、今日に限って」
緊張して声が裏返りそうだったが何とか乗り切った。
あと三十分は来ないだろうという事を告げると、
「そうですか」
と言った。さて、このまま立たすわけにもいかないな、客だし。
「あ、お茶入れましょうか? 朝比奈さんほどではないですが、結構自信ありますよ」
「いえ・・・お構いなく。今日は、私個人が貴方を見たくて来ただけですから・・・あっ」
喜緑さんがしまったという顔をして俺を見ている。
「・・・今、なんて言いましたか?」
「お、お気になさらず・・・!」
慌ててる。喜緑さんが慌てている。
駄目だ。
可愛すぎる。もっといじめたくなってしまうじゃないか。
俺を見たい、か。リクエストとあらば答えてあげようかね。
「どうですか。これだけ近ければよく見えるでしょう?」
どれぐらいかは自分でも解らない。ただ、多分これほど近くに立った事はないだろう。
「え・・・あ、いや・・その・・・・・」
顔を赤くしてる。なんだ、照れてるのか。
もっと赤くして欲しい。もっと可愛い顔が見たい。
「それに、俺も貴方をよく見れますからね・・・」
「!!」
さらにぐいっと近くまで俺は寄った。もう目と鼻の先に喜緑さんの瞳が揺れている。
これだけ近いと唇もくっ付いてしまうだろうな。我ながらよくやるよ。
もうここまでやってしまったんだ。もうどうにでもなれ。やりたいようにやってやるさ。
「・・・ずっと、この距離で貴方を見たかった」
「え?」
さっきから目を大きく見開いている喜緑さんの口から声が漏れる。
その間にもちょっとずつ距離を縮める。
こんなに近くでこの人の可愛い顔を見れている。俺はそれが嬉しくて仕方がなかった。
「喜緑さん・・・どうして貴方は俺を見たいんですか?」
「そ、それは・・・その・・・・・」
もうね、流石に理解してしまったね。確証も無いし、自惚れかもしれないが。
言う価値はある。俺はある種のギャンブルに出た。
 
「俺のことが、好きなんですよね?」
 
「!!」
ビンゴだ。
「その反応は図星ですね・・・?」
俺のその言葉に喜緑さんの表情が崩れた。
「・・・そ、そうですよ! キョンくんがすきです!! 何か問題でも!?」
俺を見上げてそう言う物だから微笑ましくて衝動的に抱き締めたくなる。
それだけの魅力がその人にはあった。
「・・・いや、むしいろ好都合ですよ。だって俺も貴方が好きですから」
時が微量か、大量かは定かではないが一瞬止まったような気がした。
それぐらい一気に空気ががらりと変わって文字通り目の前にいる人も固まっている。
「・・・キョンくん・・・本当に?」
信じられないというような表情で、確かめるように聞いてくる。
答えは一つ。
「えぇ」
そう答えた途端だった。
喜緑さんの瞳に水気が増した。やがてそれはたゆたい、頬を伝った。
インターフェースのはずの喜緑さんが俺に恋をして、そして涙を流した。
「悲しい状況じゃないはずなのに、涙が止まらない・・・」
少し混乱している様子なのは、きっと何故泣いているのか教えられてないからなんだろう。
そりゃそうだ。今まで感情を知らぬ存在として確立していたはずなのだから。
「嬉しい時にも、”人”は涙を流すんですよ・・・貴女はもう人ですから・・・」
俺は喜緑さんの華奢な体を抱き締めた。抱き締め返されて、抱き締めあった。
しばらくそんな事をしているとふと、
「・・・キョンくん。膝枕してくれる?」
と言ってきた。何故に膝枕なのか。そんなのどうでも良いさ。
「眠いんですか? まぁ、膝なら貸しますよ」
「・・・ありがとうございます」
喜緑さんは俺の膝にそっと頭を置くとゆっくりと目を閉じた。
いつハルヒ達が職員室から帰ってくるかは解らないのがちょっとばかりではない恐怖を伴うが、
まぁ、そんなのどうでも良いだろう。
というか俺も眠たくなってきてしまった。だからと言って寝るわけにはいかないだろうな。
だって目の前に大好きな人の寝顔があるんだからな。
それに今はこの人だけを感じていたいんだ。
なぁ、そうだろ?
 


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