春休みを目前に控えた、とある昼休み。俺は学校の中庭で人を待っていた。
もちろん、女の子に手紙で呼び出されて…などという甘酸っぱい展開はなく、悲しいことに俺の待ち人は男だ。
ハルヒのヤツがまた何か始めるつもりのようで、俺と古泉はその準備のために色々と備品類を集めることになっているのだが…。
…古泉のヤツ、遅いな…。
眠気を誘う、気持ちのいい春の風を感じつつ、まだ来ない古泉に団則に則ってコーヒーでも奢らせようかと考えていると、古泉ではなく谷口と国木田が俺の前に現れた。
「あ、キョン。ここにいたんだ」
よう、どうかしたか?
「喜べ!キョン!国木田様が合コンの話を持ってきて下さった!」
合コン?
「知り合いの子にセッティング頼まれてね」
へぇ~…相手は?
「光陽園女子の一年。その子は中学も一緒だったんだけど、キョンとは面識ないかも?」
おぉ、あのお嬢様学校。うちの中学からも行った奴がいたのか。
「で、どうだ?キョン?行かないか?」
合コンかぁ…。
正直、少し惹かれるものがある。SOS団が結成されてからというもの、普通の女の子と遊ぶ機会なんて全くなかった。
SOS団の面子が超の付く美少女トリオなのは認めるが…如何せん面子が特殊すぎる。
たまには何も考えず、普通の子と普通の話をして普通に遊びたい。なんせ俺はただの高校生なんだ。
…しかし…ハルヒたちになんとなく後ろめたさを感じるのは、俺の一人よがりなんだろうか?
…どうするかな?
「キョン入れてもあと一人必要なんだけどね」
そうなのか?…ん~…でも、悪いけど俺は…。
「話は聞かせて頂きました!」
お前は…。
「古泉!?」
「あ、古泉君も来る?」
…つーか、いつ現れた?気配が全くなかったぞ。
「えぇ、是非参加させて頂きたいですね」
「じゃあ、これで四人決まりかな」
「ちょっと待てぇぇぇい!国木田!よく考えろ!」
「何さ?谷口。いきなり叫んで?」
「自分よりレベルの高い男を連れていくなんて正気か!?」
「向こうの話じゃ合コンの真似事したいって程度らしいから、そんなにガツガツしても仕方ないと思うよ。それに谷口よりレベル低いってのもなかなか難しいよ」
「ひどっ!爽やかにひどっ!」
…もしかして、俺は谷口より下のレベルに見られているんだろうか?
そのことは後で問い詰めるとして、俺は意外な参戦者に声を掛けた。
お前がこういうイベントに参加したがるとは思わなかったぞ、古泉。
「僕も超能力高校生である前に一匹のオスだということです」
オス言うな、生々しい。あと、超能力高校生という肩書きはどうかと思うぞ。
「…実は機関から恋愛禁止令が出ていましてね」
…はぁ?
「涼宮さんの監視の妨げになると!信じられますか!?僕だって16歳の高校生ですよ!?」
ちょ、落ち着け。デカイ声で監視とか言うな。
「学内にも機関メンバーがいるから全部森さんに筒抜けだし…この前なんてクラスの子と一緒に昼食を食べただけで、その日の内に森さんから警告が来たんですよ…」
…た、大変だな。
「しかも僕だけですよ!?SOS団に関わってないメンバーは普通に高校生活を謳歌しているというのに…」
…もういい…。
「SOS団にはもちろん魅力を感じてますし、やめる気もありません…ですが…恋愛くらいは…もう僕には学外しかないんです!残された道は…!」
…分かった、分かったから…もういいから…もう何も言うな…。
古泉による剥き出しの魂の叫びは俺の心に確実に突き刺さった。
こいつはこいつで大変なんだな…いつも微笑を湛えている裏ではそんな苦労があったなんて。
「分かって、くれましたか…?」
あぁ、お前たち三人で楽しんでこい。
「……お前たち『三人』で?」
ん?あぁ、俺はいいや。光陽園との合コンなら参加希望者が…。
「よく聞いて下さい」
ガシッと肩を掴んで語り掛けてくる古泉。いつものように顔が近いぞ、とチャカそうとしたが、あまりにその声が真剣だったので、俺は思わず頷いていた。
え?あ、あぁ…。
「合コンというのは個々のハントのように見えて、チーム戦の一面も持っているんですよ?」
…はぁ、そういうもんなのか?
「谷口君、国木田君はいいかも知れません。補充メンバーはある程度仲のいい知り合いでしょうし」
まぁ、そうだろうな。流れ的にクラスの親しい誰かに…。
「それでは僕が孤立無援になってしまいます。いくら僕のレベルでも、フォローなしでは少し厳しい戦いになるでしょう」
…なんか強気なのか弱気なのか分からん台詞だな。
でも、まぁ、お前のスペックなら大丈夫だろ?国木田は空気読んでフォローしてくれるだろうし…。
「いえ!僕にはあなたが必要なんです!」
デカイ声でそんな台詞を言うな!周りで何人かの(ピー)女子が反応しただろうが!
「あなたが頷くまで何回でも言いましょう!僕にはあなたが…!」
分かった!分かったから!俺も参加するから!だから黙れ!
「あ、国木田君、そちらも話は終わりましたか?僕と彼は参加です。では日時のほうの確認を…」
……はぁ。
友人の見てはいけない裏の一面を見てしまった感がある俺には、最早ツッコミを入れる気力は残っていなかった。
「待て!俺はまだ貴様が合コンに出ることを認めた訳では…」
「そんなに一緒に行きたくないなら谷口を外そうか?」
「当日は頼むぜ!ブラザー!」
「足を引っ張らないで下さいよ?谷口君」
「…チッ」
「んじゃ、予定は今週末だから。詳しいことは決まったら連絡するね」
……本当にこの組み合わせで大丈夫か?
こうして、俺は胸に一抹どころか山売り出来そうなほどの不安を残しつつ、なし崩し的に初めての合コンへの参加が決定した。
ちなみにハルヒの命令を忘れていた俺たちは、放課後の部室で、いかに命令無視という罪が重く許しがたいことかをハルヒによって延々と説教されたのだった。
その間、古泉のニヤケ顔がいつもと違って見えたのは、多分気のせいじゃないだろう。
「――です。あんまりこういうのに参加したことはないけど、今日はよろしく」
当たり障りなく自己紹介を終えようとする俺に、ある意味予想通りの横槍が入った。
「あ、こいつはキョンでいいから、皆そう呼んでるし」
「キョン君ね」
「分かった~」
…もうこの展開には慣れたけどさ。
「んじゃ次は俺な。谷口ッス!趣味は読書とクラシック鑑賞と…」
…いくらお嬢様学校相手でも、その趣味はマイナスな気がするぞ、谷口。
さて、今の状況を簡単に説明すると、駅前の喫茶店で初々しく自己紹介をする八人の男女。御覧の通り、健全な高校生同士の合コンである。
俺の知る一般的な合コンのイメージとは少し違うが、ビギナーばかりの俺たちならこんなもんだろう。
「古泉一樹です。僕もこういう場にはあまり慣れていませんが――」
今は当然のように合コンに参加している俺と古泉だが…実は問題が一つあった。
合コン開催日と不思議探索の日が重なったのだ。
流石に活動をサボってまで合コンに行くのは気が引けるので、元々ノリ気ではなかった俺は古泉に今回は諦めようと伝えた。すると古泉は、
『あ、僕はバイトで活動に参加出来ないと既に涼宮さんに伝えてあります。ついでにあなたの用事もでっち上げておきましたので、ご安心を』
という答えを返してきた。
その日の放課後、ハルヒにそのことを聞いてみると、驚いたことに渋々ながら了承の言葉を頂いた。
俺は古泉の根回しスキルを甘く見ていたらしい。
という訳で、退路を断たれた俺は罪悪感にチクチクとイジメられながら合コンに参加しているのだった。
「ほら、キョン!ボケっとすんな!女の子たちに失礼だろうが!」
……と、ヤバッ。
気が付くと女子の自己紹介が終わっていた。辛うじて彼女たちの名前だけは頭に入ってくれたようだ。
「ごめんねぇ~こいつたまにトリップするクセがあって」
おい、フォローになってねぇぞ、それ。あとそんなクセはねぇよ…多分。
「二人とも愉快な人だねぇ」
ケラケラと声に出して笑われた…喜んでいいのか微妙なところだ。
えーと、この子は皆見さんだっけ?
彼女はいつも笑っているような人で、イメージ的には鶴屋さんが近いかな?
その隣でクスクスと笑う喜多野さんは、少しおとなしそうな感じ。
端の席に座っている仁志さんは、見るからにお嬢様タイプ。早くも彼女にターゲットを絞ったらしい古泉と楽しそうに会話している。
国木田の友人という吾妻さんは、話し方や振る舞いから姉御肌なことがよく分かる。
今も国木田の服装についてダメ出しをしていた。
「国木田はそんなんだから彼女出来ないんだよ」
「あはは、彼女いないって決めつけないでよ」
「ッ……いるの?」
…ん?
「いや、いないんだけどさ」
「……もう、驚かさないでよ。国木田に先越されたかと思ったじゃない」
そう言ってカラカラと笑う吾妻さんだったが…今のやりとりで分かった。
なるほど、この子は国木田のことが…そう考えると自ずとこの合コンをセッティングした理由も見えてきた。
…邪魔をするのは無粋ってもんか。
俺は古泉と谷口にアイコンタクトを送り、国木田と吾妻さんに交互に視線を送ってから頷いた。
古泉は既に把握していたのか、すぐに真面目な顔で頷く。谷口も理解したようで親指をグッと立てた。
だがな、谷口。親指立てる時にペコちゃんよろしく舌を出すのはやめろ。ついでに片目も瞑るな。殴りたくなる。
しかし、理解したはずの谷口は、何故か国木田たちへ体を寄せていった。
「ほら、そこ!知り合い同士で話さないの~」
空気読め、谷口。そういうことじゃねぇよ。
「まぁまぁ、谷口君。旧友同士積もる話もあるでしょうし」
「え~…でもよぉ…」
でも、じゃねぇ。古泉のフォローに乗っかってくれ、頼むから。
「ねぇ、谷口君。こっちで話そぉよ」
「喜んで!」
…やれやれ。
どうやら向こうも事情は分かっているのか、谷口の包囲網が出来上がった。
…つーか、気を遣ってばっかだな、俺。せっかく来たんだし、俺も楽しもう。
そこからは国木田たちを除いた3対3のお喋りが始まった。
最初のほうこそゴチャゴチャと会話していたが、時間が経つにつれ、自然と二人だけの会話が多くなっていく。
古泉は流石というべきか、他人には割り込みにくい二人きりの世界を仁志さん相手に築き上げ、更にしばらくすると、携帯を取り出して番号の交換を始めていた。
…あいつの本気を初めて見た気がする。
予想外だったのは、谷口のブレーキがぶっ壊れたような暴走が、皆見さん相手にひたすらウケていたことだ。
…まぁ、皆見さんは実際に箸が転がっても笑いそうな人だしな。
俺?俺はごく普通の会話を喜多野さんとしてただけだ。
少し口下手な喜多野さんだったけど、ノーリアクション女王・長門の相手よりは遥かに楽で、たまに俺の話にクスクスと可愛く笑ってくれる。
可もなく不可もなく、普通の高校生同士の会話。そんな感じだ。
この空気こそ俺が求めたもので、普通の高校生たる俺にはふさわしいもののはずなのに…。
……なんか、凄く物足りないのはなんでだろう?
さて、その後の展開だが…カラオケで谷口が皆見さんに勢い余って告白、玉砕した以外はつつがなく終了し、今俺は一人で自転車を押して暗くなってきた道を歩いている。
解散時に国木田と吾妻さん、古泉と仁志さんがそれぞれ一緒の方向に帰っていったのにはかなり驚いた。
ぽかんと古泉たちを見送った後、慌てて俺たちも送ったほうがいいのかも?と思い、谷口と二人で喜多野さんたちに声を掛けたがやんわりと断られた。地味にショックだ。
…その時の谷口の同類を見るような優しい視線が更に辛かった。
…それにしても合コンか…楽しかった。うん、たまにはこういうのもいいかもな。
…でも、たまには…だな。
喜多野さんと話している時も、皆でカラオケを歌っている時も、何故かハルヒの顔が頭から離れなかった。
今日遊んだ彼女たちが何かする度にハルヒと比べている俺がいた。
…なんだかんだで、俺もあいつに毒されてきてるよな。
なんとなく、ハルヒの自己紹介を思い出してクスクスと苦笑する。
「俺も普通の人間には興味なくなっちまったのかな?…な~んて…」
「ニヤニヤしちゃって…気持ち悪…」
「え?」
ふいに掛けられた声に顔を上げると、そこには…。
「随分と楽しかったみたいね?キョン」
…長門と朝比奈さんを両脇に従えるように、坂の上で仁王立ちしているハルヒがいた。
その顔は…恐ろしいことに笑顔だ。
「ハ、ハルヒ…なんで…」
「三人で買い物に行った帰りにね、谷口とあんたが女の子と別れてるところを見掛けたのよ。谷口を締め上げてみれば合コン…ね…あたしたちに嘘吐いてまでねぇ」
…モロバレらしい。
「覚悟、出来てるわよね?」
「待て、話せばわか…」
「言い訳する権利なんかないわよ?あんたには辞世の句すら詠ませてあげない」
…まともに話せる雰囲気じゃなさそうだな。
取り付く島のないハルヒを諦めて、長門と朝比奈さんに助けを求めるように視線を送るが、
「キョン君…酷いです」
「……愚か」
…味方はいないようだ。
後頭部の辺りにピシピシと刺激を感じる。本能が危険信号を送っているんだろう。
ヤバイ。これは逃げないと本気でヤバイ。
取り敢えず自転車に乗ろうと足を上げようとしたが、足は1ミリたりとも動いてくれなかった。
…って、え…?足が地面と一体化して…?…まさか!?
こんな芸当が出来る唯一の人物、長門に目を向けると、口元だけが早送りしたみたいに動いていた。
…おいおい、長門さん、そこまでやりますか?
「へぇ?逃げ出さないところだけは誉めてあげるわ」
…いや、逃げられないだけなんだけどな。
団長様は身動きが取れない俺に悠然と近付き、俺の腕に自分の腕をしっかりと絡めて、
「取り敢えず、有希の部屋に行きましょうか?」
と満面の笑顔でおっしゃられた。
状況が状況なら別のドキドキが俺の胸を満たしただろうが、今の俺には腕に絡まる温もりを楽しむ余裕など全くなかった。
俺は肉体的な罰か、精神的な罰か、あるいはハルヒなら両方かな?などと意味のない思索に更けつつ…やっぱり、もう少しだけ普通な生活がいいな…と、黒く染まっていく空を見上げながら思うのだった。
End?
すっかり暗くなった夜道を一人で歩く。その足取りは羽毛よりも軽く、今にもスキップを始めてしまいそうだ。
僕は今日の合コンの結果に満足していた。
一人の女の子とずっと二人で会話し、携帯の番号を交換して、更には彼女が一人暮らしをしているというマンションまで送り届るところまで漕ぎつけた。
マンションに入る時に彼女が言った、
『また近い内にお会いすることになるでしょう』
という台詞を聞いて、僕は今回の成功を確信していた。
それにしても…仁志さん…か。
…間違いなく初対面のはずなのに、彼女からはずっと昔から知っているような不思議な感覚を覚えた。
それは性格が合うとかそういうレベルではない、もう魂が繋がっているとしか思えないような共感…。
…これが運命の相手というものかも知れません。
思わずニヤケてしまう顔に手を当てていると、携帯の着信音で現実に引き戻された。
着信…?もしかして仁志さんでしょうか?
携帯を取り出し、相手を確認する。ディスプレイに表示された名前は…。
…ッ…森さん!
…落ち着け、古泉一樹。今日の件を知りうる手段は敵にはない。普段通りのお前で行けばバレるはずはないんだ。ここを乗り切れば薔薇色の高校生活が待っている。
……よし!
ピッ
『あ~…もしもし?古泉?』
「森さん?何かご用ですか?」
『かなり大きな閉鎖空間が発生したんだけど…理由は分かる?』
「…いえ、今日は班分けの結果、涼宮さんとは別行動でしたので」
『…そうなの?…ま、いいわ』
…なるほど、彼のことが涼宮さんたちにバレましたか…まぁ、僕のこともバレたとしても長門さん以外は誤魔化せるでしょう。
彼には悪いですが、僕には涼宮さん相手に一年間培ってきた信頼がある。いざという時は嘘を交えてでも乗り切って見せましょう。
それと長門さんですが…彼女はまず大丈夫でしょう。涼宮さんさえ誤魔化せば彼女が自主的に動くとは考えにくいですし。
『そうそう』
頭の中で数パターンの言い訳を考えていると、森さんの声によって思考を中断させられた。
『北高だけにメンバーを集めておくのも何か起きた時に危険だと判断してね。実は最近北高周辺にもメンバーを置くことにしたの』
「それは初耳ですね」
『例えば…光陽園学院とか』
「…はい?」
『あそこって北高から結構近いじゃない?いざと言う時になかなか便利な位置だと思わない?』
「…え、えぇ…そうですね…」
まさか…ね。
『その内の一人は最近機関に来た子なんだけど、巧く溶け込んでるみたいよ?』
…そんな偶然が…。
『…クラスメートに合コンに誘われるくらいには』
「…………」
あぁ…なるほど、仁志さんも僕と同じ超能力者だったんですね。道理で共感を覚えるはずですよ…ふふ。
そんな現実から目を背ける思考もガクガクと震える足を止めてはくれない。
『偶然ってのは怖いわね』
…いやだ、その先は聞きたくない…お願いですから、誰か嘘だと言っ…。
『「…運がなかったわね、古泉一樹」』
ひっ…!
背後と耳元でハモった台詞に驚き、後ろに振り向くと、そこには携帯を持った笑顔の森さんが立っていた。
そんな馬鹿な!今まで誰もいなかったはずなのに…!
「上司の命令無視、職務放棄…か。少しお痛が過ぎたわね?」
「ど、どうやって背後に?」
「……私」
「え?」
再び掛けられた背後からの声に驚き、もう一度振り返ると、そこには…。
「な、長門さん!?」
「まぁ、偶然仁志が同席してなくても、長門さんが知らせてくれただろうけどね」
なんで長門さんが!?
「よかったね、古泉。今日は閉鎖空間行かなくていいわよ?」
…いやだ。
「その代わり…ちょ~っと狭くて窓がない部屋に行きましょうか?」
いやだぁぁぁぁぁぁぁッ!
森さんにガッチリとホールドされた僕は、必死に誰かに助けを求めるように手を伸ばした。
その手の先には蔑むように僕を見つめる長門さん。
その冷たい瞳を見て、僕は悟りました。
あぁ、そうですね…僕はもう終わったんですね…。
そう思った時、体中から力が抜けて、僕はずるずると森さんに引きずられていった。
最後にもう一度だけ長門さんを見る。月を背にして立つ彼女は綺麗だな、なんて場違いな感想を抱いていると、ふと、ある疑問が浮かんできた。
何故彼女はあんなにも怒っているのでしょうか?
「……古泉一樹の、バカ」
End