「本当に……よろしいのですか?」
「いい。……私も、あなたという固体と親密になりたいと願っている。」
「ありがとうございます。……愛しています、長門さん。」
「……わたしも。」

 

団活終了後、帰り道古泉一樹と二人きりになった時、思いもよらぬことが起こった。
古泉一樹に、私に対する想いを伝えられた。
心拍数上昇。体温上昇。膨大なエラー発生。でもこのエラーは……不快では無い。
そしてこの時私も、古泉一樹と同じように感じていることに気付いた。彼を……愛していると。

 

こうして私達は、世間一般でいう「恋人」という関係になった。


翌日、私達は一緒に部室へと足を踏み入れた。……手を繋いで。
部室には朝比奈みくるだけが居た。心なしか、表情が暗いように思える。

 

「こんにちは、朝比奈さん。」
「あっ、こんにちは。あれ?手を繋いでる?」
「ええ。お恥ずかしながら、長門さんとお付合いさせて頂くことになりました。」
「そう。」
「もちろん団活をおろそかにするつもりはありませんが、よろしくお願いします。」

 

古泉一樹はにこやかに言った。
しかし朝比奈みくるは、私が予想していた反応とはまったく違った反応を見せた。

 

「そんな……」

 

手を口に当て顔を青ざめている。目には涙がどんどん浮かんでくる。

 

「……朝比奈さん?」

 

古泉一樹は怪訝そうに朝比奈みくるの顔を覗いた。
しかし朝比奈みくるは顔を背け、

 

「ご、ごめんなさい。もう帰らないといけないんで……失礼しますっ!」

 

逃げるように部室から走り去った

 

「……どうか、したのでしょうか?」
「わからない。」
「一体何が……」

 

古泉一樹が言いかけた時だった。
部室のドアが乱暴に開かれ、涼宮ハルヒと彼が入ってきた。しかし様子がいつもと違う。

 

「だから!なんども言ってるだろ!あれは……」
「何よ!どういうつもりであんなことしたのよ!意味わかんない!」
「お前はどうして人の話を聞こうとしないんだ!いっつもいっつも!」
「聞いてないのはアンタでしょお!?私のことなんか考えてないくせに!!」

 

どうやら口喧嘩をしているようだ。お互いかなりの興奮状態にある。

 

「おやめくださいお二人とも、何があったか知りませんが、もう少し冷静に……」
「お前には関係ないだろう!!」

 

どうやら彼は相当興奮しているようだ。
彼が涼宮ハルヒと喧嘩することは、古泉一樹にかなり関係してくると言うのに、それも忘れている。
このままでは……

 

ピピピピッ

 

古泉一樹の携帯がなった。……きっと閉鎖空間が発生したのだろう。

 

「すいません、バイトが入ったんで失礼します。……って聞いてないですね。」
「……閉鎖空間?」

 

私は、彼にしか聞こえない程度の声で訪ねた。どのみち二人は私達の会話など聞いてはいないが。

 

「そのようです。しかも今回はかなり大規模なようで……
 まあ目の前にある光景を見れば当然と言えるでしょう。」
「……そう。気をつけて。」
「ええ。では行ってきます。長門さん、また明日。」
「明日。」

 

結局その日口喧嘩はやむことは無く、彼と涼宮ハルヒが部室を出たため、自然解散となった。
私はその時思いもしていなかった。これが古泉一樹を見た最後の場面となるなんて。

 

古泉一樹は、死んだ。

 

死因は交通事故。……ということになっている。本当は閉鎖空間で神人にやられたらしい。
朝学校についてその報を聞いた私は、部室に足を運んだ。

 

「………」

 

私が呆然と立ち尽くしていると、一人の人物がドアを開けた。
……朝比奈みくるだ。

 

「長門さん……。」
「………」
「謝らなければいけないことが1つあります。聞いてください。」
「……なに?」
「私……知ってたんです。未来からの連絡で、古泉君が死んでしまうことを。
 連絡を受けたのは昨日の午後です。実は、長門さんが来る前部室で泣いてたんです。
 だからあの時、長門さんと古泉君が付き合うと聞いた時、私はどうしようかと思いました。
 こんなことがあっていいのかって。明日には古泉君が死んでしまうのに。
 嬉しそうに話す古泉君の顔を見てたらいてもたってもいられなくなって……逃げてしまいました。」
「いい。あなたには責任は無い。」

 

朝比奈みくるは話ながら、また泣き出した。

 

「長門さん……」
「責任があるとすれば、むしろ彼の方。」
「長門……さん?」

 

私の中に膨大なエラーが蓄積されていくのがわかる。
一昨日古泉一樹に告白された時とは違う、不快なエラー。
これは怒り?それとも……悲しみ?

その時だった。また部室のドアが開かれた。入ってきたのは……彼。

 

「……よう、お前らも来てたのか。」
「キョン君……涼宮さんは?」
「教室でつっぷして泣いてる。一応声はかけたんだけどな……そんな状態じゃなかったから俺だけ来た。」
 事故って聞いたけどやっぱり……閉鎖空間か?」
「そう。原因は、昨日のあなた達の喧嘩。」
「長門さん!」

 

朝比奈みくるが私を止めようとする。しかし、もう止められない。
私の中のエラーは限界を超えてしまっている。

 

「あなた達のくだらない喧嘩のせいで大規模な閉鎖空間が発生し、その中で古泉一樹は死んだ。
 だから、彼を殺したのは涼宮ハルヒであり、そして、あなたでもある。」
「俺が……殺した……?」
「やめてください長門さん!」


朝比奈みくるが叫ぶ。彼はただ、呆然とつぶやいているだけ。
でも私は続ける。

 

「これは事実。……あなたは涼宮ハルヒを不機嫌にさせると閉鎖空間が発生すると知っていたはず。
 それに伴い、古泉一樹に苦労をさせ、危険な場所へ行かせることも。
 にもかかわらずあなたは涼宮ハルヒを不機嫌にし、わざわざ彼の苦労を増やすことをした。
 結果……彼は死んだ。」
「やめてくれっ……!」
「……1つ言い忘れていた。私と古泉一樹は付き合っていた。」
「な……!」
「そう。だから私は彼を殺したあなたを許さない、絶対に。」
「俺は……俺は……!うわああああああああ!!!」

 

彼はとうとう叫んだ。そのまま一生自責の念にとりつかれればいい。いい気味。
そして私は部室のドアを開けた。

 

「長門さん……どこへ行くのですか?」

 

涙で顔をぐしゃぐしゃにした朝比奈みくるが尋ねてきた。
だから私は答えた。

 

 

「……彼を殺したもう一人のところへ。」


私は彼の教室、1年5組へ足早に歩いていた。
しかし、私の前に一人の人物が立ちはだかった。

 

「喜緑江美里……なんの用?」
「これから、何をするつもりですか?」
「涼宮ハルヒに彼女が持っている能力のことを伝え、そして彼女が古泉一樹を殺したことを自覚させる。」
「そんなことが許されると思っているのですか?」
「思っていない。でもそんなことは関係無い。彼は殺された。」
「……今、かなりの規模の閉鎖空間が発生しています。
 『機関』の方が頑張っていますが、厳しい状況です。」
「……予想できる事態。」
「そんな中、あなたが今言った行動を取ればどうなるか、これも予想できますよね?
 閉鎖空間の規模はさらに拡大に、古泉一樹だけでなく他の犠牲者も出てしまうことでしょう。」
「……。」
「その場合、その犠牲者を殺したのは、あなたということになります。
 ……あなたは彼と同じことをしようとしているのですよ?」
「……!」

 

私は床に座りこんでしまった。江美里は更に続ける。

 

「この事態を受け、情報統合思念体は1つの結論を出しました。
 これから情報操作を行い、古泉一樹の存在を抹消します。」
「……!どうして?」
「古泉一樹が死んだという事実によって、涼宮ハルヒが世界を消してしまう危険が極めて高いからです。
 よって古泉一樹という存在は涼宮ハルヒ、そしてその他の人々の記憶から消してしまいます。
 彼は始めからいなかったことにする。これが出された結論です。まもなく実行されます。」
「そんな……そんなこと」
「あなたには3つの選択肢が与えられます。
 1つ目は、あなたも情報連結を解除し、古泉一樹と同じように存在を消去すること。
 2つ目は、他の生命体と同じように、古泉一樹に関する記憶を一切消去し日常に戻ること。
 そして3つ目は、この出来事に関する記憶を保持したまま日常に戻ること……どうしますか?」

 

1つ目の選択肢。もし「あの世」というものが存在するのであれば、そこで古泉一樹に会えるかもしれない。
2つ目の選択肢。きっとそうすれば、このエラーも解消され私も今まで通り過ごせるだろう。
でも、私が選ぶのは……

 

「……3つ目。」
「どうしてそれを選んだのですか?」
「……他のものを選べばエラーは解消される。でもそれは……逃げに過ぎない。
 私の存在が消えたり、私が古泉一樹のことを忘れてしまえば、本当に古泉一樹は消滅することになる。
 私は彼のことを記憶し続ける。エラーとも戦い続ける。
 そうすれば、彼が生きていたという事実は消えることなく残る。私の中に。」

 

私は私の出した答えを伝えた。すると江美里は私を……抱きしめた。

 

「強くなりましたね……長門さん。」
「……そう。」
「エラーを軽減させる方法が1つあります。」
「……教えて。」
「泣いてください。悲しい時は、思いっきり。
 完全に消えるわけではないです。それでも、負担は少なくなります。
 今のあなたには、それが必要なのですよ。」

 

泣く……ということの意味はよくわからない。でも私は、いつの間にか涙を流していた。

 

「うっ……うっ……」
「………」
「とても……悲しい。彼が死んで……とても悲しい……」

 

嗚咽を漏らし、感情を吐き出して泣きつづける私を、江美里はずっと抱きしめていてくれた。

 

 

そして情報操作が行われ、日常が帰ってきた。
私も部室で本を読んでいる。部室には私の含めSOS団の「4人」がいる。
まだエラーは消えていない。涼宮ハルヒや彼を見ると怒りを覚えるし、
古泉一樹のことを思うと悲しくなる。
それでも私はこのエラーと戦い続ける。私の中に、「古泉一樹」という存在を残し続けるために。

 

「古泉一樹……あなたのことは、忘れない。絶対に。」

 

fin


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