セミ。
彼らが幼虫として地下生活する期間はとても長い。
それに比べ、成虫期間はとても短い。彼らの多くは、夏の終わりを見届けることなく天寿を全うすることとなる。
約6年間を土の中でじっと過ごす、日本で最も多く見られるアブラゼミ。彼らに与えられる自由は、たったの2週間程度。その2週間で彼らは、子孫を残すためだけに必死に鳴き続ける・・・―――

彼らの生き様は、まるで私の様。

私は現在、待機モード。
涼宮ハルヒの能力は、鍵である『彼』と正式に交際を始めることによって消失した。詳細は不明。
彼女が能力を失ってから、情報統合思念体は彼女の監視という私の任務を撤回し、待機モードを命じた。
情報操作により、私と関わった有機生命体の私に関する記憶は全て抹消された。

待機期間は、彼女が出産を行うまでの無期となっている。
情報統合思念体は、彼女の能力が彼女から産まれた子供に受け継がれる可能性があると見ているのだ。
私の新しい任務は彼女の出産を見守り、そしてその子供の観察。能力を持っているかどうか判断した時点で私の任務は終了し、このインターフェイスは全活動を終了する。
有機生命体に例えるなら、涼宮ハルヒが出産した後、私は死亡することになる。

 

 

あれからもうどのくらいの時が経っているのだろう。
待機モードを命じられてから12459時間46分58秒で、私は体内時計を停止させた。時間を追う必要がないと判断したからである。
情報統合思念体から涼宮ハルヒが懐妊したと報告を受けてから、もう6ヶ月が経過しているそう。
・・・私の活動終了まで、もうそう時間は無い。

今の私は、まるで幼虫期のセミのよう。
しかし、幼虫期のセミには無いものを私は持っているのだ。
それは、「記憶」。
私には、涼宮ハルヒらと過ごした時間があるのだ。
彼女らと出会って間もない頃の私には、「涼宮ハルヒの監視という任務」しか、無かった。
しかし、彼女らと関わっていくうちに、次第に「感情」が私の中に生まれていったのだ。
創り出されてからの三年間も私は待機モードを行っていたが、その頃の私と今の私は違う。
―――サミシイ。
今の私は、そんな感情でいっぱいなのだ。


統合思念体から指令が届く。明日、出産が行われるそう。
私は現時刻を持って待機モードを解除、任務を開始する。

・・・何年ぶりになるのだろう。重く冷たい扉を開く。季節は夏のようだ。
セミの懸命な鳴き声が、うるさいくらいに私の耳に響いている。

今、成虫となり飛び立とうとしている私には、
一体何が残せるというのだろうか。

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最終更新:2007年08月29日 00:55