*注意:この物語はフィクションです。実在の人物とは一切関係ありません。
 
シーン0 プロローグ
 佐々木がおとなしい。
 憂鬱そうでも溜息を漏らすわけでも、実を言うと退屈そうにも見えないのだが、ここ最近奇妙な静けさを感じさせ、その正体不明なおとなしさが俺なんかにはけっこう不気味だ。
 もちろん、ただ物理的に静かにしているわけではなく、ましてやあの小難しいおしゃべりがなくなったわけでもない。でも、何というか、いつものキレがないように思われたのである。
 (中略)
 一時的な平穏は、次に来る大津波を予言する確かな前兆に他ならない。いつもがそうだったようにさ。
 
 ──という、適当な文章で、強引に開幕。
 
 
シーン1 豆まき
「僕はね、『泣いた赤鬼』を読んで以来、周囲の評価のみに流されず自己の目で客観的な判断を下すことの重要性を認識しているというわけだ。だからね、キョン。君も青鬼に会ったら、先入観など抱かずに、親切にしてくれたまえ」
 ああ、そうかい。
 まあ、青鬼に関しては、俺も邪険にする気はないけどな。
 それにしても、九曜が紙製の鬼面を頭にくっつけている光景は、非常にシュールだ。
 
 
シーン2 藤原みちる(笑)登場
 がたん──。
「何だ」
 と思った瞬間、掃除用具入れが勝手に開いて、藤原が登場した。
「フン。無事についたか。で、僕はこれから何をすればいいんだ?」
「は?」
「僕をここに閉じ込めてこの時間平面に送りこんだのは、あんただろうが、何か知らんのか?」
 何がなんだかさっぱり理解できんが、どうやらこいつはちょっと先の未来からやってきたらしい。
 とにかく、おまえの偽名は、藤原みちる(笑)で決定だ。
 
 ちなみに、この後部室にやってきたのは、藤原のドッペルゲンガーではなく、橘だった。
 というわけで、掃除用具入れの中から、橘がメイド装束に着替えるのを、二人でのぞかせていただいたさ。
 朝比奈さんほどじゃないが、眼福だったといっておこう。
 
 
シーン3 晩ご飯
「それとも────晩ご飯?」
 
 九曜の今日の晩飯メニューは、ご飯と生卵。
 卵を割り、九曜が差し出した昆布醤油をかけて、ご飯にぶっかける。
 さっそく一口。さすが昆布醤油。素材の味を引き立てるぜ。
 まことに由緒正しき和食料理だ。
 って、これだけじゃ味気ねぇだろ!
 
「俺は帰る」
「待て、あんたも泊まるんじゃないのか!?」
「じゃあな」
「待ってくれ! 一人にするな!」
 藤原みちる(笑)が追いかけてきたが、ヤツは何か透明な壁のようなものにぶつかって進めなくなった。
「何だ、これは!?」
「情報────封鎖────今夜は────二人────きり」
「出せぇー!!」
 
 悲鳴が聞こえたような気がするが、きっと気のせいだろう。
 
 
シーン4 疑惑
「クサクサした気分を晴らそうと缶を蹴ったのが悪かった。自業自得さ」
「いやぁ、あんなもんを置いておいたヤツが一番悪いと思いますよ」
「それもそうだ。一体どんな悪ガキだ。今時あんなことをするなんて」
 その彼は俺と、面倒くさそうについてくる藤原みちる(笑)を比べるように見て、ふっと微笑みを漏らした。
「あの子、キミの彼氏か?」
 ちょっと待て! なぜそんな言葉が出てくる!? しかも、ごく自然に!
「断じて違います」
 俺は即答した。
「そうか……」
 男性は、疑惑のまなざしを俺に向けたまま、痛みをこらえる顔に戻った。
 
 なんなんだ、このシーンは!
 誰か台本を書き換えろ!
 
 
シーン5 おいた
「ま、藤原くんだけはちゃんとフォローしてやってよね! でも、おいたをしちゃダメにょろよ。そんだけは禁止さ! おいたなら、あたしが今夜やっちゃうからね!」
 きっとこのセリフだけは本気だったのだろう。なぜだか解らないが、そんな気分になった。
 
 哀れ、藤原みちる(笑)。
 九曜に続いて、鶴屋さんか。
 モテる男はつらいわな。
 
 
シーン6 待ち伏せ
 道の暗がりに一人の女が出てきて俺の行く手をさえぎった。
「夜道には気をつけろよ。じゃあな」
「ちょっと、待ってください!」
 橘が俺の袖をつかんで引き止めた。
「何の用だ?」
「せっかく会ったのに一言だけで去っちゃうなんて、あんまりなのです」
「いや、別におまえと話すことなんかないし」
 
 俺は、橘を無視して、さっさと家路についた。
 背後から女のすすり泣くような声が聞こえたような気がするが、気のせいだろう。
 
 
シーン7 パンジー畑
「なぜだ。なぜ、見つからん?」
「いい加減あきらめようぜ。体力の無駄使いだ」
「いや、駄目だ。最優先強制コードは絶対だ」
「んなこといっても、ないもんはないぞ」
 
 俺が藤原みちる(笑)を置いて帰ろうとしたそのとき、
 
「あのう……お捜し物はこれでしょうか?」
 背後から思いも寄らない声がかかった。
 歩道に向きかえると、五歩分ほど離れたところに、俺たちより年下っぽい女性が立っていた。
 ぶっちゃけていえば、朝比奈さんだったわけだが。
「ええっと……これはあげます。規定事項ですから」
 朝比奈さんは、恐縮するように身を縮こませながら、デジカメの記憶媒体みたいなものを手渡してくれた。
「ええっと、それの中身は禁則事項です。じゃあ、さようなら」
 朝比奈さんは、微笑みながら手を振って、去っていった。
 そして、
「きゃあ!」
 石につまづいてこけた。
 何とも可愛らしいお方だ。
 俺の後ろに立っている野郎なんか見捨てて、あっちの味方になりたい気分だった。
 
 
シーン8 誘拐
 目の前で起こったことをありのまま話すぜ。
 
 藤原みちる(笑)が黒塗りタクシーでさらわれた。
 
 しかし、助けようというモチベーションが沸き起こってこないのは、たぶん不思議でも何でもないのだろう。
 
 突然、携帯電話が鳴り出した。
 橘からだ。
「まもなく、そちらにつくのです」
 電話が切れた瞬間に、ワンボックスカーが俺の隣に停まって、ドアが開いた。
 運転席にいるのは、なんと橘だ。
 他には誰もいない。
 おまえ一人で、森さんと新川さん役か。そういえば、藤原みちる(笑)登場場面じゃ朝比奈さん役もやってたし、さっきは古泉役もこなしてたな。何はともあれ、八面六臂の大活躍だ。単にキャストが足りんともいうがね。
「ぶつくさ言ってないで、乗るのです」
「いや、おまえ一人で助けに行けよ。俺が行く必要性なんてないだろ」
「問答無用なのです」
 問答無用で引きずりこまれた。なんだか俺も誘拐されたような気分だ。
「ところで、おまえ、免許もってるのか?」
「もちろん、無免許運転なのです」
 俺がツッコミを入れる前に、橘は思いっきりアクセスを踏み込んだ。
 
 
シーン9 救出
 橘は、心臓も凍りつく超絶的なドライビングテクニックで、あっという間に、黒塗りタクシーを追い詰めた。
 こいつ、ハンドル握ると性格変わるタイプなんだな。
 二度とこいつが運転する車には乗らんぞ。
 
 黒塗りタクシーから、無害スマイル野郎が降りてきた。ぶっちゃけていえば、古泉だ。
「やれやれ。これも規定事項ということですか? 朝比奈さん」
 中から、朝比奈さんも降りてきた。
「ええっと……たぶん、そうだと思います」
 古泉は、こっちに顔を向けると、
「解ってますよ。あなたがたの未来人さんは、解放いたします。僕も実のところ本意ではなかったのでね。まあ、本日は軽い顔合わせといったところですか。また、いずれお会いいたしましょう」
 古泉は、藤原みちる(笑)を黒塗りタクシーから引きずり出した。
「一応言っておきますが、この車はあげません。『機関』は備品の管理にうるさいのでね。では、朝比奈さん、これからドライブとしゃれ込みますか」
「あっ、はい」
 古泉と朝比奈さんは、黒塗りタクシーに乗り込むとそのまま走り去った。
 
 あまりにも自然だったので、思わず見送ってしまったが……。
 
 ちょっと待て、古泉!
 どさくさにまぎれて、朝比奈さんとドライブだと!
 後で絶対締め上げてやる!
 
 むしゃくしゃしたので、藤原みちる(笑)の顔を殴って起こした。
「フン。茶番劇は終わったか」
 助けられた立場で、その態度はなんだよ。
「ところで、おまえ。パンツ一丁なのは、なぜだ?」
「ああ、これか。あの女に犯られた」
「なんだと……!」
 朝比奈さんにあんなことやそんなことをされたというのか!?
 俺が絶句していると、橘が無言で藤原みちる(笑)をワンボックスカーに押し込んだ。
「藤原さんには、厳罰が必要なのです」
 そういい残すと、ワンボックスカーは走り去った。
 
 厳罰か……SMプレイとか……?
 うらやま……いや、決してうらやましくなんかないぞ。
 
 あっ、そうだ。橘には、ヤツから精気を絞りつくしたら未来に送り返しておくように言っておこう。
 
 ところで、一人残された俺は、歩いて帰らなきゃならんのか?
 やれやれだ。
 
 
シーン10 チョコレート
 俺と藤原は、団長命令で穴掘って、バレンタインチョコを掘り当てた(←投げやりな文章のような気がするのは、たぶん気のせいだ)。
 
「正直にいえば『仕掛けられたとおりにハマってるんじゃないか?』と思案したりもしたけれども、結局のところそんなことはどうだっていいような気がしたのでね。お菓子屋の陰謀論など、唱えるだけ虚しいというものさ。
まあ、要するに、団員の親睦を深めるために、このようなイベントを活用することが有用であるとの結論に達したわけだ。ゆえにだ。これは、社会通念上義理チョコといわれているものに相当するのであって、勘違いをされるといろいろと困るというか……」
 俺は、佐々木の長い演説をさえぎった。
「解ってるって。おまえと俺は友人だ。それは、おまえだってよく理解してるだろ。まかり間違っても、勘違いなんかしねぇよ」
「……そうあっさり言い切られるのも、落胆するというかなんというか……」
 佐々木がなんだかぶつぶつ言っていたが、覚えてない。
 
 佐々木の作ったチョコはうまかった。
 橘のはまあまあか。
 九曜のは、お世辞にもうまいとはいえなかったな。今度、長門にでも、有機生命体におけるチョコレートの概念を懇々と教えてもらうがよかろう。
 
 
シーン11 エピローグ
「なな、なっ、何をする! 僕にはそんな趣味はないぞ!」
 俺は、藤原を掃除用具入れに押し込んだ。
「俺にもないから安心しろ。まもなく、未来から指令が来るはずだ」
 そういって、俺は扉を閉めた。
 ヤツの気配が消える。
 そして、数十秒後、
 
 かたん──。
 
 俺はその音を合図に扉を開いた。
 そこには、憔悴しきった藤原のパンツ一丁の姿があった。
「生きてるか? あんまりのんびりもできんぞ。さっさと制服を着ろ」
 藤原は、プログラミングで動くロボットのように、のろのろと制服を着た。
 
 何とか着終えたところで、佐々木たちがやってきた。
「やあ、キョン。藤原君と二人でどんな秘密任務に励んでいたのかね?」
「藤原が疲れてるみたいだったから休ませてただけだ」
「確かに、さっき見た姿とは違って、随分とやつれたようだね。この短時間にいったい何があったんだい?」
「佐々木さん、そんなヤツのことは気にすることはないのです」
 巫女装束の橘が平然とそう言い放った。
 おまえがやったんだろうが。
 
「ところでだ、キョン。義理には義理で返さなければならないというのは、世間一般の共通認識だと思うのだが、どうだろうか?」
「ここは、どこの義理人情の世界だ?」
「いや、そういうことではなくて、要するに三月十四日のとあるイベントのことを言っているんだがね」
「ああ、それか。そうだな。海の底にでも、マシュマロか飴玉を埋めておくさ。潜水艇かなんかで掘り出してくれ」
「ちょっと待ってくれ、キョン。それは冗談だよね?」
「俺は、結構本気だけどな。長門に頼めば、それぐらいはちょちょいとやってくれるだろう」
 このあとも、佐々木は、いろいろと言い募ってきたのだが、面倒くさいから全部忘れた。
 
 なんだかよく解らんが、とにかくこれで終わりだ。
 めでたし、めでたし。
 
 


|