A new romance

 

 


 

 

 翌朝、まるで誰かが意図したかのような雲ひとつない快晴だった。

 

 俺は待ち合わせより三十分も早く駅に着いた。長門のマンションはすぐそこなんでドアまで迎えに行ってもいいんだが、押しかけるのも野暮なので待つことにした。長門も女だ、身支度には時間かかるだろう。

 

 十五分くらいして長門がやってきた。いつものように制服を着てくるものと思っていたので、向こうからやってくる小さな女の子の姿がそれだと分かるのにしばらくかかった。渋めの濃いグリーンと新緑の明るいグリーンの、ツートンカラーのワンピースだった。胸元に大きなリボンがついている。足元を見ると、濃いグリーンの、かかとの低いパンプスを履いていた。

 

 俺は手を振った。長門はじっとこっちを見つめたまま歩き、俺のそばにやってくるまでずっと目をそらさなかった。俺もじっと長門を見つめていた。なぜだか目をそらしてはいけないような気がして。
「に、似合ってるよ長門」
「……ありがとう」
そこではじめて俺から視線を離した。俺の感想を待っていたのか。
「それ、はじめて見る服だな。自分で買いに行ったのか」
「……それは、秘密」
また秘密か。どうも誰かの仕込みが入ってるような気がするんだが。
「今日はあちこち行ってみようと思うんだが、いいか?」
「……いい」

 

 とりあえず本を返しに中央図書館に行くことにした。電車で二つ目の駅で降りた。ここからなら、今が満開の桜並木の祝川公園も近いんだが、あの辺は知り合いと遭遇しそうなのでやめといた。今ごろハルヒと古泉は市内不思議パトロールでうろうろしているに違いない。って、あいつら二人きりでパトロールになるのか。

 

 図書館に着くと、いつもと同じように長門は本の群れの中へ消えてゆき、俺は座って居眠りをした。目を覚ますと隣のシートに長門が座っていて、本を読んでいた。四十分くらい眠っていたようだ。
「これからどこに行こう。まだ昼飯には早いな」
「……あなたに任せる」
デートにはありきたりかもしれんが、水族館にでも行ってみるか。ジンベイザメもいるし。中学生の頃一度見に行ったが、あれからどうなったか知らない。まだ生きてるとは思うが。

 

 二人は図書館を後にした。その前に携帯を買わないとな。
「長門、携帯買わないか。なにかと連絡しやすいし」
「……」
長門はなにを思ったか、俺から十メートルくらい離れて人差し指を上に向けた。その途端、俺の携帯が鳴った。俺はなにごとが起ったのか分からず、携帯を開いた。
「はい、もしもし」
「……もしもし。わたしは、長門有希」
長門のほうを見ると口をパクパクやっていた。な、なにやってんだ。
「……端末がなくても、連絡は可能」
「すげえ、電話機なしで回線に割り込んでるのか」
「……電磁波は、単なる空間の歪み」アインシュタインだっけそれ。

 

 携帯の電波はある意味暗号化されているはずで、直に通話できるってのはかなりすごいと思うぞ。
「ということはこれ、無料通話?」
「……そう」
某電話会社の家族タダよりすごいんじゃないか。基本料金もないし。
「思ったんだが、これだと俺からかけることができないよな」
「……それもそう」
「やっぱ番号付きで電話があったほうがいい。メールもやりとりできるし」
「……それなら、購入する」
携帯端末もコンピュータと相性がいい長門ならきっと気に入るはず。なんなら好きに改造してもいい。とりあえず登りの終点まで電車に乗り、安売り家電店に行くことにした。

 

 俺との通話が多いだろうから同じキャリアがいいだろう。俺の携帯は去年出たやつで、すでに型落ちになってしまっている。最近は流行の回転が速い。
 最新機種を買ってもすぐ型落ちして値下がりするので、ひとつ前くらいのがいいと勧めたのだが、長門はカタログを熱心に読んでいた。やっぱり機能重視か。
「未成年は親権者同意書ってのがいるんだが、どうする?」
「……情報操作は、得意」
長門はカタログの最後にある白紙の同意書をさらりとなでた。自分の名前、親の名前、空欄が丁寧な明朝体で書かれ、印鑑まで押されている。なるほど、簡単でいいな。情報操作というより有印紙偽造に近いが。

 

 あれこれ試していたが、結局最新モデルの、テレビやらGPSやらお財布機能やらがついた重装備のやつにした。
「……負けて」
店員の目をじっと見つめる漆黒の瞳。値札二万円くらいだったのを、ねちねちと値切り五千円にまで負けさせた。最後には店員が涙ぐんでいた。これから家電の買い物には長門を連れてくることにしよう。

 

 店を出てからずっと、長門は説明書を読んでいた。
「長門、そんなん読まなくても使ってるうちに分かるようになるって」
「……でも、すべてを知りたい」
まあそれもいいか。誰からも読まれないより、一字一句読まれたほうが分厚い取説も嬉しいに決まっている。
 二人でスタバに入り、長門が読み終わるまでコーヒーをすすっていた。三十分くらいして長門が説明書をパタリと閉じた。
「……把握した」
それからおもむろに着メロやらメールアドレスやらを設定している。ピコピコ入力していたが、やたら早い。親指の動きが早くて見えない。俺の携帯が鳴った。長門からのメール第一報は「こんにちは、世界」だった。
「これで好きなときに連絡取れるな」
「……そう」
携帯を持たせたかったのは、ほんとは俺とだけじゃなくてクラスメイトとかとコミュニケーションを取ってほしいと考えたからなのだが。

 



 スタバを出て地下鉄に乗り水族館に向かった。土曜日だけあって車両には人が多い。二本乗り継ぎ、一時間と少ししてやっと到着した。

 

 ここは世界最大級を謳うだけあって、水槽が広く数も多い。下から水槽を見上げるトンネルやら、熱帯雨林やら、南極大陸やらを再現した水槽なんかがある。ジンベイザメもまだご健在だった。広すぎて、よく迷子になった子供が係員のお姉さんに手を引かれている風景を見かけるのもまた一興だ。あんなきれいなお姉さんなら俺も迷子になってみたい。
 南極大陸のコーナーに子供が群れていた。この水槽には雪と氷が降る仕掛けがあるらしい。ペンギンは人気あるようだ。子供の頃から不思議だったんだが、ペンギンが全員が上を向いているのはなぜなんだろう。かつて空を飛んだ太古の記憶を思い出そうとしているのか。

 

 振り向くと、後ろについてきていたはずの長門がいない。戻ってみると、タスマン海の水槽でガラス越しにじっと何かを見つめている。
「長門、どうした?」
「……イルカと話している」
「なにを話してるんだ?」
「……近年の海洋汚染における水棲生物の減少について」
環境問題か。いきなりシビアだな。俺はてっきり、狭いからここから出せとでも言っているのかと思った。こういう場所に来るとどうも閉じ込めている感じがしてならない。
「……外海の生息環境は厳しいらしい。ここは適当に遊んでいれば魚をもらえるので気に入ってると言っている」
そういうものなのか。

 

 長門は口を開いてピーともキーともつかない甲高い声を出していた。それ、超音波だよな。イルカがときどきうなずいたり、コツコツ音を出したりしている。
「長門、ちょっとここで待ってろ。すぐ戻る」
俺は水族館の係員を探した。事務所を教えてもらい、イルカを世話している担当の人に会った。
「すいません、イルカと話したいんですが会わせてもらえませんか」
きっと、こいつは唐突になにを言い出すんだと思ったことだろう。飼育担当のお姉さんの表情は、『は?』だった。

 

 最初は信じてもらえなかったが、ガラス越しに話をしている長門の様子を後ろから見せると驚いた。
「あの子、何者?」担当のお姉さんが目を丸くしていた。
「ええと、子供の頃イルカが好きで、毎日会ってるうちに話ができるようになったんだとか」
そんなデタラメとても信じられないだろうが、実は宇宙人なんですというよりは説得力があると思った。ちょうどショーの合間の休憩なので、と、五分だけ会わせてもらえることになった。
「長門、来いよ。イルカに直接触らせてくれるって」
「……」
長門は突然の招待にびっくりしたようだった。ガラス越しになにごとか呟くと、イルカは泳いで上に消えた。
「……水面で待つ、らしい」
いつもなら客は立ち入り禁止の、イルカのショーを見せるプールサイドに案内された。足元が水を被るので、長靴を借りた。

 

 長門が水に近寄ると、イルカが鼻先を持ち上げた。ケロケロと蛙のような声を出した。長門はそっとなで、喉モトから妙な音を出している。それ、イルカ語なのか。担当のお姉さんは、そんな長門とイルカの対面を口をあけて見ていた。
「不思議な子ね。初対面の人には触らせないんだけど」
「あいつはちょっと変わってまして。動物には好かれるんです」
これはでまかせではない。うちのシャミも阪中んちのルソーも、長門にはなつく。
 長門とイルカは、たまにうなずきあったり、首をかしげたり、クケケケと笑ったりしていた。イルカは一度だけ、水面からジャンプしてくれた。俺は拍手した。イルカ語を理解しない俺には、こういう芸のほうが分かりやすい。
 そろそろショーが始まるというので、お姉さんにお礼を言ってプールを離れた。

 

 観客席は満員だった。拍手喝采でショーがはじまった。

 

 イルカは四頭いた。並んだまま、すいすいとナイフが水を切るように泳ぐ。水面から勢いよく飛び出し、滑らかな流線型の体が弧を描いてジャンプした。四頭が並び、尾びれで水の上に立ち上がって後ろ向きに泳ぐ。泳ぐというより水面を走るという感じか。
 胸ビレだけを水面から出して振っていた。観客の笑いを誘った。

 

 ジャンプしたイルカが黄色いボールを突いた。ボールの位置を少しずつ高くし、水面から五メートルくらいのところまでジャンプを繰り返した。ときどき魚をもらっていたが、鰯だけであんな芸をしてくれるなんてもったいない、マグロや鯛をやってもいいくらいだ。
 弧を描いて輪をくぐると、流れるラインの飛跡に沿って、光る水玉がいくつも浮かんだ。そのうちの一頭が長門を見ていた気がする。やさしい目だ。
「……美しい」
ずっと無言で見ていた長門が呟いた。

 

 ショーが終わってから長門に聞いてみた。
「ほかになにを話してたんだ?」
「……なぜ、陸上型から水棲型へと戻ったのか」
そんなこと本人に聞いても分からんだろう。人間になんで木から降りたんだと聞いてるようなもんだ。
「……後退とも思える進化のきっかけを知りたい」
なるほどな。自律進化の閉塞状態を打開するヒントってやつか。
「それで、理由はなんだって?」
「……彼らの中でも諸説あり、食料となる豊富なタンパク源、重力、陸地と海の比率などが挙げられる」
水の中のほうが生活が楽だろうしな。雨も降らないし。
「……最も有力な説は、ただの気まぐれ、らしい」
そうなのか。人が立って歩き始めたのも、案外そういう理由かもしれんな。すげえ俺二足歩行できるじゃん、みたいな。
「……それから、あなたのことを聞かれた」
「俺のこと?何だって?」
「あなたはわたしの配偶者かと聞かれた」
「そ、そうなのか。まさかイルカにナンパされてたんじゃないだろうな」
ちょっとだけ焦った。
「……あなたは、嫉妬している」
そんなはずがあるか。俺がイルカに嫉妬するなんて絶対ない。
 俺を見る長門の表情は少し緩んでいた。まったく、人に色目を使うなんて近頃のイルカは油断がならん。
「……また来ると、約束した」
そうか。じゃあそのうちまた来よう。地球に住む、人以外の知的生命体にいい友達ができたな。

 

 俺と長門は次のコーナーへ進んだ。ジンベイザメが悠然と泳いでいる長さ三十四メートルの巨大水槽に来たあたりで、長門がちらちらと後ろを振り返るようになった。
「なんだ?」
まさかタコとかカニと話したりしないだろうな。
「……なんでもない」
そういえばさっきから誰かの視線を感じる。俺は長門の手を引いて通路を曲がるふりをして後ろを見た。あわてて物陰にひっこむ二つの陰。そういうことか。
「おい、そこの二人。隠れてないで出てこいよ」
ハルヒと古泉だった。
「えへへ。バレてたのね」
「すいません。邪推だからとお止めしたんですが」
「なに言ってるの、古泉君も乗り気だったじゃない」
スパイが仲間割れかよ。まあいい。後ろでちょろちょろされるより堂々と監視されたほうが気にならない。

 

「今朝、北口駅前で待ち合わせてるとき、あんたたちの後をつけようって思い立ったのよ」
「僕も最初からそのつもりでした」
「だってそのほうが面白いじゃない」
ハルヒは長門を上から下まで眺めた。
「有希、それ似合ってるわ。あたしが見立てただけのことはあるわ」
「……それは、内緒だったはず」
「あら……そうだったわね」
ハルヒはキヒヒと笑った。やっぱりこいつの仕込みか。
「だって初デートなのに北高の制服じゃムードないでしょ。昨日の夜慌ててサイズ聞いて店を回ったんだから」
確かに、いい見立てだ。ハルヒはこういうことには身銭を惜しまない。高かったろうに。
「そういうわけだから、あんた、お昼ご飯おごりなさい」
結局それかよ。

 

 二人きりでデートのはずが、結局いつものメンバーで賑やかに昼メシを食うことになった。

 

 


「で、で、その後どうなのよあんたたち。キスとかしたの?」
週明け、部室に入ると開口一句。ハルヒの質問攻めだった。唐突だったので赤面する暇もない。窓際で本を読んでいた長門がピクリと反応したように見えたが、気のせいか。
「土曜はお前と古泉も一緒にいただろうが」
しかも、こそこそ隠れて跡をつけるとは暇人にもほどがある。
「あんたたち見てると味気ないのよねぇ。もっとこう、惚れた腫れたとか、ドロドロの恋愛を期待してたのに。ロミオとジュリエットみたいな」
「メロドラマの見すぎだ」俺はヨン様じゃないぞ。
「キョン、ちゃんと愛情表現してるの?」
俺はここではじめて顔が赤くなっている。
「愛情表現って、いきなり露骨なやつだな」
「たいていの男はね、告白してOKもらうととたんに愛想が悪くなるものよ。世間ではそういうのをね、釣った魚にはエサをやらないっていうのよ」
他人の色恋沙汰の詮索が好きなおばちゃんの話を聞いてるような気分だ。

 

「ちょっと有希、こっち来て」
長門は本を閉じ、椅子から立ち上がって歩み寄った。いったいなにをさせるつもりなんだ。
「キョン、そこでやってみなさい」
「な、なにをやれっていうんだ」
「だから、愛の告白よ」
「こ、ここでか。お前の目の前でか」かんべんしろ。
「それができないんじゃ、あんたたちも破局が見えてるわねぇ」
ハルヒが頬杖をついてニヤリと笑った。まだ一度デートしたくらいなのに不吉な予言をするんじゃない。長門がじっと俺を見つめている。どうやらこの“ハルヒの恋愛講座”とやらに乗り気なようだ。
「本気か」
「あったりまえじゃない。さっさとやんなさい」
野球で使ったメガホンをポンポン叩いて、何度もリテイクしたがる映画監督のように叫んだ。しょうがない、付き合ってやるか。俺はいやいや腰を上げて長門の正面に立った。
「な、長門」
「……なに」
「好きだ」ほとんど棒読みだ。
「あー!だめだめ!全然感情がこもってないじゃないの」
「そう言われてもなぁ。やったことないんでな」
「もう、ちょっと貸しなさい」
ハルヒは俺から長門を奪った。そんな貸してとか、猫みたいに。
「こうよ、見てなさい」
ハルヒは長門の両肩を掴み、まっすぐ目を見つめ、そして手を離し、横を向いてうつむき、呟いた。
「……有希、オレ以外に好きなやつがいるなら、オレは消えるぜ」
「……」
「だがもし、オマエがオレを選んでくれるなら、一生オマエを離さない」
「……」
長門、ハルヒ相手にぼうっとしてるんじゃない。
「なんだそりゃ。映画のワンシーンかよ」
韓流メロドラマでもそんなんやらんぞ。
「これくらいやらないと気持ちが伝わらないの。そうよね、有希」
「……そう」
長門はほうっとため息をついた。なんだその、たった今ヒトメボレしましたみたいな目は。

 

「そうだわ。ちょっと待ってて」
ハルヒはビデオカメラを取り出した。嘘だろおい、こんな恥ずかしいシーンを映像として後世に残すのかよ。
「いくわよ。告白シーン、テイクワン。スタート」
こっちをじっと見ている黒いレンズに俺が躊躇していると、ハルヒがメガホンを振り回して怒鳴った。
「なにやってんのよキョン!真剣にやんなさい」
「わ、分かったよ」
「もう一度、カメラスタート!」
俺は深呼吸して長門の目を見つめた。
「有希さん」
なぜかサン付けしちゃったよ。
「……なに」
「最近眠れなくてな。お前のことが頭から離れないんだ」
俺は手を額にあてて頭痛に悩む仕草をした。
「……なぜ」
俺は長門の目を数秒見つめ、ため息をついた。
「俺にも分からん。……ずっと前からお前が」
「……」じっと俺を見つめる漆黒の瞳。
「うまく言えないけど、たぶん、お前のことが好きなんだと思う」
「……わたしも」長門が腕を閉じて俺の胸に寄り添った。「……大好き」
微妙に震える手で長門の背中に腕を回した。心拍数がいつもの五割増くらいに跳ね上がった。ハルヒのOKが出なければ俺は心臓発作で倒れていたことだろう。
「はいオッケー!!くーっ!やっぱ恋する二人はいいわねぇ。火傷しちゃいそうなくらいよ」
お前だけ楽しそうだな。

 

「皆様、おはようございます」
ちょうど俺と長門が抱き合ってるところを、ドアを開けた古泉に見られた。
「うわ、失礼しました。まさか白昼の部室でラブシーンをなさっているとは」
違う違う。とんでもない誤解だ。
「キョンがあんまりウブなんで、愛情表現を指導していたところよ」
「そうだったんですか。僕も見学していていいですか、向学のために」
そんなところばかり学習意欲を旺盛にすんな。

 

「有希、もう離れていいわよ。今の演技最高」
ハルヒが親指を立ててウインクしてみせると、長門はゆっくりと俺から離れた。心なしか上気しているようだ。頬が少しだけ染まっている。やれやれ。
「そうだ、思いついたわ!」
「またか。今度はなんだ」
「次の映画のシナリオよ。完結編はやっぱりラブロマンスよね」
前回ので終わったんじゃなかったのかよ。
「やっぱり長門ユキのラブストーリーで締めくくるべきね。みくるちゃんがいなくなっちゃったから、誰をヒロインにしようか迷っていたところよ」
「素晴らしいアイデアですね。傑作になりそうだ」
「でしょでしょ。ちょっとキョン、さっきのセリフを古泉イツキに変えてやってみて」
「またやんのかよ。って、その役は古泉だろう」
「カメリハよ、カメリハ。古泉君、レフお願いね」
「かしこまりました」
笑ってないで止めろよ。って長門も目をキラキラさせてんじゃない。

 

 それから屋上と体育館、まだ今年使われていないプールにロケーションを移して予備撮影をした。受験を控えた高校三年生のやってることとはとても思えない、やたら体力を使う暇人の遊びだった。
「発表するわ。SOS団自主製作映画、次期タイトルは『新たなるロマンス Episode_00』。決まりねっ」
ハルヒの脳裏には、どっかの超有名スペースオペラ映画のテーマ曲が鳴り響いていたに違いない。

 

 どうやら当面は、俺たちはハルヒのいいおもちゃにされそうだ。

 

 


The ecstasy of Yuki Nagatoへ

 

 

脚注:大阪の某水族館には実際にはイルカショーはありません

 

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最終更新:2020年09月13日 12:49