「この魅力はね、世の中に5%くらいはいるガチなゲイには通用しないのよ!」
 ハルヒはそう言って朝比奈さんをふにふに弄び始めた。
 例によってひゃぁふぁひ、ふあぁとか言ってるのが果てしなく愛くるしいんだが、
それより俺には気になったものがある。
「……古泉」
「何でしょう」
「お前今のハルヒの文言にたじろいだだろ」
「い、いいえ」
「何で噛んでるんだよ」
「ぼぼぼ僕はヘテロですよやだなあははははは!」
 決定。こいつはガチホモだ。


「古泉」
「は」
「お前、あの光の玉になって空飛んでるとき何考えてんだ」
「何、と言いますと?」
「あれになってる間にも意識あんだろ?」
「それはもちろんですが、特別何か考えているわけでもありませんよ」
「そうなのか?」
「えぇ。せいぜい今日の夕飯なんだろうとか、どんなドラマやるっけ、くらいのものです」
「……いいのかそれで」
「慣れればいけますよ、意外とね」
「……何か根本的に間違っている気がする」

「古泉、何かご機嫌だな」
「そうですか? というかよく解りましたね」
「う。……たまたまだ」
「実は機関に新しいコタツが届きましてねぇ」
「コタツ……?」
「これまで電気ストーブ一台っきりでしたから寒いのなんの」
「お前、コタツ一台で喜んでるのかよ」
「何か問題でも?」
「……いや」
「はー、これで寒い冬ともおさらばだなぁ!」
「……やっぱ根本的におかしいぞ。こいつか、『機関』が」

「ん、元気ないな古泉」
「よくお気づきで……。はぁぁ」
「どうしたんだよ」
「僕のクラス明日調理実習なんですよ」
「うらやましいな」
「僕野菜買ってこなくちゃならなくて」
「ふむ」
「代金……経費で落ちるかなぁ」
「な……。お前そんなことでへこんでるのかよ」
「今月小遣いピンチなんですもん」
「……やはり零細組織なのか、『機関』」

 


「お、新川さんじゃないすか」
「ご無沙汰しております」
「どうしたんですかこんなとこで?」
「ん、あぁ。いや、私としたことがガス欠を起こしてしまいましてなぁ。車を押していたところでございます」
「あ、ほんとだ。切れてますねガソリン」
「このところ経費節減がモットーになっていまして。ほら、原油高高騰しておりますでしょう」
「……そうっすね」
「ですからたまにこうして……ふんっ、ぬおあああああああ! それでは失礼!」
「……たくましいのはいいんだが、やっぱおかしいだろ『機関』!」

 


「あ」
「あ」「おや」
「多丸さん兄弟じゃないすか」
「久し振りだね」「ご無沙汰だったね」
「何してんですか……その格好」
「見て解らないかい? 交通整備のバイトだよ」
「このごろ経費がね。ボーダーギリギリとかじゃなくて普通にデッドラインなんだよ」
「いや待ってくださいよ! 『普通にデッドライン』ってヤバいとかいうレベルじゃないでしょう」
「だからこの通り」「我々も金銭獲得に奔走せざるをえないというわけさ……はいこっちでーす」
「……どーすんのよ、『機関』」

 


「ふんふんふーん♪」
「あれ?!」
「あら」
「森さん!?」
「ご無沙汰しておりました。お元気ですか?」
「えぇ……そりゃまぁ、つか、どうしたんですかその買い物袋の山?」
「あ、お気づきですか。さすがは涼宮さんが選んだお人にございますね」
「いやいや誰がどう見たって気づくでしょそれ」
「これはわたくしの私服にございます」
「は、はぁ……?」
「経費で落としてみました」
「いやそんなお茶目にウィンクされても」
「そういうわけでご機嫌なのです。それでは、また。ふんふふーん♪」
「……謎は、すべて、解けた」

 


「おはようございまーす」
「おはよう」「おはよう」「おはようございます」
「お、圭一さんも裕さんも新川さんもお揃いですか」
「いやー昨日は疲れたよ」「一日勤務でね」「私は車を押す羽目になってしまいました」
「……調理実習の野菜代、経費で落ちますかね」
「無理だね」「無理だ」「不可能ですな」
「やっぱり……」
「ピンチなら僕が何とか」「いや私が」「いやここは最年長の私が」
「いいです、大丈夫ですから! 僕は一番若いし、身体も動きますから」
「そうかい」「すまないね……」「正直困憊状態でしたゆえ」

 ガチャ

「るんるんるーん♪ あ! みんなチャオー! 今日から七泊八日でサイパン行って来るから!
あとよっしく~♪」

 ガチャ

「……」「……」「……」「……」

「「「「いつか、下克上」」」」

 

 

「なぁ古泉」
「何でしょうか」
「あの森さんは機関じゃどういう役職にあるんだ?」
「……」
「お前今『ギクッ』てしただろ」
「してませんよやだなぁ」
「何か口に含んだもの隠れて出してたの見つかった子どもみたいな感じだったぞ今」
「……嫌な比喩ですね」
「それでどうなんだよ実際」
「……今日は調理実習がありました」
「それはさっき聞いた」
「……カレーがおいしか――」
「それも聞いた」
「…………言わなきゃダメですか」
「……いや、そんなに躊躇うならいいけどさ、別に」
「ふぅーーーーーーーーーーーーーーっ」

「安堵しすぎだろ。どうなってんだ一体……」

 


「そういうわけで、あたしは佐々木さんに力を移してあげたいと考えているのです」
「……時に橘京子」
「はい?」
「お前のいる組織、金銭面はどうだ」
「え?」
「資金繰りに困窮してたりしないか」
「……え。いいえ、そんな話はありません。むしろ予算は潤沢なほうだったような」
「物は相談なんだが」
「はい?」
「古泉のとこに金貸してやってくれ。ちょっとでいいんだ。本当に上澄みくらいでいいから」
「あの……」
「この通りだ! マジ不憫でかなわん。これも謎パワーのよしみだ。頼む!」
「……」
「そうか。じゃぁハルヒの力の件はなかったことに――」
「ま、待って! まだ何も答えてないじゃない!」
「ん、それじゃ資金提供してくれるのか!?」
「うー。バレたら訓告処分どころじゃすまないかなぁ……」
「そこを何とか頼むよ。お前もライバル組織がいなかったら張り合いないだろ?」
「……解りました」
「ひゃっほう! 話が解るぜ橘!」

「……キョン、この一年で何だか変わったなぁ」

 


「~♪」
「お、古泉。今日はご機嫌じゃないか」
「え? そうですか? いやぁ、実は上機嫌です」
「何かあったのか?」
「今朝方、機関に『名無しの淑女』って人から札束が届けられたんですよー」
「ぶほっ!」
「どうかしましたか?」
「いや! 何でもない、続けてくれ」
「そういうわけで当面の資金はなんとかなりそうで」
「いやぁよかったじゃないかはっはっはっは!」
「そうなんですよ……もう僕、朝から感激しっぱなし……でっ、うぅぅ」
「何も泣くこたないじゃないか。素直に喜べよ」
「はい……どこのどなたか知りませんが、ありがとう、『名無しの淑女』さん」

「橘、お前って……」

 


「はぁぁ~」
「どうしたんだ古泉?」
「最近『名無しの淑女』さんが誰なのか気になって気になって」
「……」
「どうしました?」
「いや、何でもないぞ。それで?」
「あの一回に止まらず、週一で十数万くらいずつ振り込んでくれるんですよー」
「どんだけー」
「何か?」
「いやいやいや! さぁ続きを話したまえよ一樹ちょん!」
「……僕、正直、落ちてしまったかもしれません」
「は?」
「恋に、落ちてしまったかもしれない」
「待て古泉。早まるな」
「早まってなどいません! 僕のこの気持ちは恋愛感情以外の何物でもない! あぁ愛しの『名無しの淑女』様!」

「……やべぇな、こりゃ」

 


「……というわけなんだよ」
「はー、それは結構なことじゃないですか」
「お前まるで他人事だな。『名無しの淑女』はお前だろが」
「へ? 何のことですか?」
「え……、だってお前が毎週『機関』のポストに現金を」
「あたしはそんなことしませんけど? ようやく口座に振り込む算段をつけたとこですよ?」
「何……。それじゃ誰が『名無しの淑女』なんだ」


「るるるらー」「らららー」「ろろりらー」「るるるー」
「「「「名無しの淑女様! あなたは機関の救世主!」」」」


「まったく解らん……。俺の知ってる人間か。それとも新人物なのか……」

 

 


「僕、決めましたよ」
「何をだよ」
「明日、ポストを張り込もうと思います」
「何!?」
「明日は支給日です。待っていれば『名無しの淑女』さんは間違いなく現れる!」
「おいおい……」
「言っておきますが止めてもムダですよ。我々は彼女に敬愛の念を抱いているのです」
「我々って多丸さんたちもかよ……」
「そういうわけで、今日は早く寝なくてはなりません。僕は早退ということでひとつ」
「おい! ……本気かよ」


「……結局気になって起きちまった。問題は機関の本部の位置が解らないことで」
「……」
「な、長門!?」
「こっち」
「お前、場所知ってるのかよ?」
「……それが役割」
「助かるぜ」

 


「……というわけで俺と長門も見届けさせてもらう」「……」
「解りました。むしろ望むところです」
「さぁ!」「淑女様!」「降臨なされてください!」
「……短期間の間に新興宗教の開祖になっちまったな『淑女』とやら。やれやれ」


「……来たか?」
「まだです。あれは近所のノラ猫でしょう」
「……」


「……!」
「な!」
「……」

「うぃーっす。朝刊だっぜ!」

「……何だ谷口か。つうかこんな所まで配達かよ」
「バイトですか。彼も」
「そこに同情すんなよ古泉」
「……」

 


「……」
「来ねぇな」
「来ませんね」
「淑女様」「あなたは」「どうして美しい」
「あの、多丸さんたちちょっと静かにしててもらっていいすか?」
「これは」「失礼」「年甲斐もなくご無礼を」
「どうだ長門。誰か来る気配とかないか?」
「……ない」
「おかしいですね。そろそろいつも僕が起床する時間になってしまいますよ」
「……」
「長門?」
「……ポスト」
「え?」
「見て」
「……まさか」

 ガチャッ

「何!?」
「入ってます……!」
「淑女様ぁ!」「あなたはやはり」「お美しい!」
「……」
「……どういうことだ?」

 


「……これは謎と呼ばないわけには行きませんね」
「ようやく本分を取り戻してきたな」

「僕たちが監視を始める前、確かにポストは空でした。そして監視中は我々六名の十二の目が見ていました。
これは互いが証人となれますし、全員が注視を外すということもないでしょうから、その間に谷口くん以外の
人物がポストに向かわなかったと見てまず間違いないでしょう」

「そうだな。3バ……多丸さんたちはともかく、俺と長門が見誤ることはなかったはずだ」
「えぇ。そして、谷口くんは間違いなく新聞のみをポストに入れていて、札束はその上に置かれていた。これはつまり、彼が去った後に何者かがポストに札束を入れたことを表しています」

「で、俺たちが見た範囲で誰もポストに近付きはしなかったってことか……こりゃ謎だな」

「『名無しの淑女』様。ますますミステリアスな魅力に磨きがかかってきましたね……」
「お前が正気になるまでもう少し待ったほうがいいか?」

 


「長門、何か考えはあるか?」
「……遮蔽スクリーン」
「あの年末に使った不可視装置か?」
「そう。『名無しの淑女』はそれを用いてポストに接近した可能性がある」
「なるほど。それならば確かに、僕らが気づきようもないはずです」
「急に割り込んでくるなよ」
「失礼。しかし、そうなると犯人、いえ『淑女』様はTFEIの誰かということになりますか?」
「……あるいは、その人物と行動を共にした誰か」
「なるほどな。俺があの時朝比奈さんと共に長門に処置してもらったようにか」
「どうすれば正体を突き止められるのでしょうか」
「対抗処置を施せばいい」
「できるのか?」
「可能。申請の後、認可が下りれば」
「来週――ですか」
「……」
「……長門、お前も結構気になってるのか? 正体」
「……」

 


「……というわけできっかり一週間後、俺と古泉と長門がまた『淑女』監視の任に赴いているわけである、って何を俺は説明的な独り言をほざいているんだ」
「お疲れ様です」
「……そろそろ時間」
「しかしまぁ、よくこんなどうでもいいことで認可が下りたな。お前の親玉の」
「……思念体は最近読書に凝っている。特にミステリ」
「……マジか。つうかちょっと待て。思念体なら一発で解るんじゃないのか? 犯人が誰か」
「『淑女』様を犯人呼ばわりしないでくださいよ!」
「ややこしいからお前は割り込むな。で、どうなんだ長門?」
「……それは不可能」
「なぜだ?」
「……プロットが破綻する」
「はい?」
「……うそ。今のは冗談。禁則事項に該当する」
「……よく解らんが、とにかく誰か来るの待ったほうが早いんだな?」
「そう」
「来ますよ!」

 


「うぃーっす! ちょちょちょ朝刊でぃーす」

「ってまた谷口かよっ!」
「抑えて。大声を出してトチッたら元も子もありませんよ」
「すまん。思いのほか長引いてるもんだからつい」
「……」
「長門?」
「……来た」
「……!」

 そこにいた人物を目にして、俺は虚を突かれたとしか表現のしようのないような――

「ってモノローグはいらねぇ! 藤原じゃないか……!」
「彼が噂の敵対未来人ですか」
「……周防九曜を随伴している」
「見えないぜ?」
「どこかに隠れている。物理的に」
「死角にいるのか。それより藤原は何やってんだ?」
「ひっ捕らえて聞き出しましょう」
「古泉? ……何か様子が変だぞお前」
「えぇ僕は若干怒ってますよ。『淑女』様が男だったなんて!」
「……お前、ヘテロだったんだな」
「だから言ったじゃないですか! 僕はノーマルです!」
「……逃げる」
「追うぞ!」

 


「――――」
「な!」「くっ!」「……」
「――――待って」
「周防……九曜!?」
「――三分」
「藤原がいなくなっちまう! 古泉! 先に行け!」
「僕も身体が動きませんよ!」
「…………」
「長門!? こいつは何でまたここに立ちはだかってる!」
「…………」
「――――」
「…………」
「――――」
「…………」
「――――」
「…………」
「――――」
「行数のムダだろ!」
「よく見てください。彼女たちはおそらく情報戦を繰り広げて――」
「解るか!」

 


「お、身体が動くぞ!?」
「おそらく長門さんが制限を解いたのですよ」
「…………」
「――――」
「すまん、長門。あいつを古泉と追いかける!」
「ひっ捕らえて血祭りに上げますよ!」
「……上げねぇよ」


「……ふ。くだらない既定事項……うわぁああ!」
「呼ばれず飛び出て」「こきょんこきょん」
「ななななんだお前たちは!!!」
「これはこれは麗しの『淑女』様」「お目通り願いたいとかねがね思っておりました」
「ななな何のことだ! 僕はお前のくだらん組織に金なんぞ振り込んだ覚えは――」
「……これだけ解りやすいと張り合いないな」「ですね」
「うるさい黙れ! 出番来たからって喜んでるんじゃないんだからな! これでも僕は――」
「もうめんどいからさっさと吐いてくれ」「読者的にもグロッキーですよ」

「…………惚れた」
「な……」「……!」

「古泉一樹。好きです付き合ってください」

「何ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」
「……………………」

 宇宙が、静止したかと思われた。
 ハルヒの何気ない一言が蘇る。

「この魅力はね、世の中に5%くらいはいるガチなゲイには通用しないのよ!」

 母さん、5%が、ここにいました。

「嫌です嫌です! 絶対に嫌だあぁあああああああ!」
「待ってくれ古泉一樹ぃいいいいいいいいいいいい!」

「……」

 なぁ。
 言っていいか?

 きっと皆も合唱したい頃合だと思うぜ。
 じゃぁせーの、

「やれやれ」

「頼むから一日だけでもいいから僕と付き合ってくれぇえええええ!」
「絶対にそれだけは死んでも貧乏に戻っても嫌ぁぁあああああああ!」


 (完)

 


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