第五話「バタバタな一日」
 
朝。ゆっくりと目が覚めた俺は何となく一階に降りた。
そこで何やら良いにおいに気付いて無意識のうちにフラフラとキッチンに出向いた。
そこにはエプロン姿で必死に台所に立つ少女が居た。
「おはようございます、お兄さん」
振り返ってミヨキチが天使のように微笑む。
あぁ、そうか。昨日は二人きりだったんだよな。
「おはよう、ミヨキチ」
俺は自然と頬が緩んでいた。
とりあえず洗面場で顔を洗おう。あー・・・冷たい水が気持ちいいぜ。
「そういや、ミヨキチ何作ってるんだ?」
「えっと、お兄さんが起きる前に朝ご飯作っておこうと思いまして・・・」
テーブルの上にはいくつかの食事が出来上がっている。
どれも美味しそうだ。うん、見た目はバッチリ。これは期待できるな。
「そうか」
「あ、あの勝手に冷蔵庫開けちゃったんですけど、大丈夫ですか?」
「あぁ、ミヨキチが朝飯を作ってくれるんなら構わないよ」
「えっと、期待は駄目ですよ?」
「ワクワクしながら待っとくよ」
しばらくして朝ご飯が出来上がった。
どれもこれも素晴らしい見栄えだ。うん、親に勝ってる。
さて、お味の方はどれどれ・・・まずは玉子焼きから。
「・・・・・・」
 
うん。これはなかなか。ほうほう・・・。
「・・・・・・」
美味いな・・・。絶妙な加減で味が出来上がってる。
「ど、どうですか?」
「合格。凄く美味しいよ」
「ほ、本当ですか?」
ぱぁ~、と輝かしく花が咲くような笑顔を浮かべて、頬を赤らませる。
そんなミヨキチは物凄く可愛い。ハルヒの100万ワットの笑顔なんか足元にも及ばないね。
朝比奈さんや長門の微笑みでやっと対抗できるぐらいだろう。
「あぁ、お嫁さんにしたくなるぐらい」
カチーン。
お、ミヨキチが固まった。物凄く顔を真っ赤にして固まった。
俺何か言ったかな・・・あ。言ってるな。お嫁さんにしたくなるぐらいって。
まぁ、良いか。実際本音だしさ。
「え、えっと・・・ふ、不束ものですが・・・」
「よいよい、まだ気が早いって」
俺まだ稼げないって。
「そ、そうですよね。ごめんなさい・・・」
「まぁ、さ。お互いにもっと大きくなったら、ね?」
「はい!」
「おお、良い返事だ」
あ~こういう休日ぐらいは何も無ければ良いな~。あはは~。

激情の涙~に希望さえ~滲んでゆき~今を~生きていく強ささ~え~♪

・・・悪夢の着唄が鳴っちまったよ・・・。
出たくないな。あぁ、出たくない。このメロディーは奴からだからだ!
「出ないんですか?」
「・・・せっかくのミヨキチとの休日を潰したくない・・・」
「?」
「悪魔だ・・・強制的に出ていかないといけなくなる悪魔なんだよ・・・・・」
「えっと、じゃあ、代わりに私が・・・」
「いやいやいやいや! ・・・仕方ない」
 
ピッ
 
『キョーン!』
「朝からうるさいぞ、ハルヒ。ナンのようだ」
『不思議探索やるわよ! 急いで出てきなさい!!』
・・・うぜぇ。こいつは空気読めよと言いたいね。腹の底から。
フラグクラッシュする谷口なんかの何倍もうざい。こいつ以上のフラグクラッシャーは見たことがない。
いや、なんのフラグが立ちかけてたとか知らないけどさ。
「あー、悪いけど行けない」
『は!? 何でよ!?』
「じつは、俺のおじさんが病気で倒れてな」
『ほうほう』
・・・こいつに嘘は通じそうにないからなー・・・んー。
「それで俺以外の家族はそっちに行ったんだけどな」
『ならこれるじゃない』
「家で預かってる子が居てさ」
『ん~・・・』
「と、言うわけで行けない」
っつか行きたくない。
『解ったわ。じゃあ、私達がそっちに行ってあげる』
「・・・・・」
一つ言いたい。死ね。
『と、いうわけで家に居なさいね!』
 
プツッ。ツー・・・ツー・・・。
 
「・・・・・・・」
一方的に電話切りやがった。くそったれ。
「お兄さん」
「・・・逃げるぞ。台風が来る前に」
こういう時に頼りになる古泉も長門もハルヒ寄りだしなぁ・・・くそっ。
あまりこういうのを相手にしたくはないんだが・・・。
頼れるのがこいつしか居ない!!
俺は超猛烈なスピードで電話番号を打った。
「・・・俺だ。助けろ!」
 
・・・・・・・・・・・・。
 
「すまん、恩に着る」
「えっと・・・」
「―――・・・九曜」
「え?」
「―――周防九曜・・・」
「あ、周防九曜さんですか」
俺が頼ったのは佐々木だった。事情を聞いた佐々木が回してきたのはあろうことか九曜だった。まぁ、
「いやー、キョンも大変だねー」
と佐々木本人もそこに居るんだが。というか九曜の家でお泊まり会だそうだ。何だかなー。
もちろん橘も居るのだが、俺の家の監視をしてもらっているから、今はここには居ない。
「ハルヒに捕まったらミヨキチの世話が出来ないからな」
「僕にはミヨちゃんの方が世話役に見えるけどな?」
「まぁ・・・その通りです」
「やっぱりそうかい。とりあえず持ってきた朝ご飯を早く食べてはいかがかな?」
「あぁ、そうだな」
九曜のほぼ何も無い家でひたすらに持ってきた飯を食う。なんだ、この光景は。
「「ごちそうさまでした」」
さて、食べ終わった。と、
 
にゃーにゃーにゃーにゃーnyピッ
 
「やぁ、橘さんかい? うん・・・うん・・・解った」
凄まじい着信音が轟いて、佐々木が電話に出た。で、あっさりと会話終了。
「橘からか?」
「あぁ。キミが家に居ないから大層ご立腹だそうだ」
「知ったことか」
「で、閉・・・と、ミヨちゃんが居るか。あれが出たらしい。涙ながらに古泉くんがバイトに行ったとの事だ」
「あれ?」
隣でミヨキチが小首をかしげている。あれとはもちろん閉鎖空間だ。
やれやれ。古泉には悪いが苦労してもらおう。
俺もフリーダムがほしい。そうだ。たまには良いじゃないか。
そんなこんなで広いマンションでごろごろしていた。
時間がなんだかちゃっちゃと過ぎていく。
途中で橘が、
「ただいま~。涼宮さん達帰りましたよ~」
と帰ってきたりしたがこれといった変化は無い。何かだる~いな。
昼飯時になってもだら~んとたれぱんだのようにのんびりしていた。
それは佐々木も橘も同じだった。よく見れば九曜もソファに横になっている。
ミヨキチはといえば俺を膝枕してくれてたりする。なんだかなー・・・。
そんでもって昼飯も何も食べずにいつの間にやらだいたい五時になっていた。
「―――・・・」
ふと九曜がそそくさと動いた。
「どうした?」
「―――おなかすいた」
なんじゃそりゃ。
すたすた歩く九曜。その先には冷蔵庫がある。
そして、冷蔵庫を開けるとそこにはまぁ、なんか大量のインスタントが・・・!!
「あ、インスタントばっかりじゃないですか! 体壊しちゃいますよ!」
それを見たミヨキチがバッと立ち上がる。そしてそそくさとキッチンに入る。
入れ替わりで追い出された九曜がリビングに戻ってくる。
「おかえり」
「―――ただいま」
そんでもってしばらくして。
「あ・・・駄目だ。足りない」
「どうかしたのかな、ミヨちゃん?」
「えっと、橘さん、でしたよね。作ろうと思ってた料理に足りないものが沢山あって・・・」
「何でしょう?」
「えっと・・・」
橘はミヨキチが言う足りない物を全てメモ帳に記帳した。
っつか物凄い数あるなおい。
「じゃあ、私がこれらを買ってきますよ」
橘はにっこりと笑顔を浮かべた。
「え、良いんですか?」
「はい。せっかくだからみんなの分買ってくるので、みんなの分作ってくれますか?」
「はい!」
何を作る気なんだろう。俺はそう思いながら買い物に出かけた橘を待っていた。
 
そしてしばらくして帰ってきた橘は大量の荷物を持っていた。
物凄い汗と物凄い呼吸をしてふんがふんがとずいずい部屋に入ってくる。
その荷物を台所に届けて橘がリビングに帰ってくる。
「お疲れ」
「あー・・・おばあちゃんになっちゃいますー・・・」
わけのわからないことを言う橘を他所にミヨキチのクッキングは始まった。
あ~、調理の音が~する~おなかがすいてきた~。
そしてしばらくして慣れ親しんだに良い匂いがしてきた。
「お、これは」
「カレーですね」
「カレーだね」
「―――カレー」
俺のおなかがそこでグゥ~と物凄く鳴った。さっさと食べたい。
そうだ。手伝うふりしてつまみ食いしちゃおうか。
「何か手伝おうか?」
「大丈夫で~す」
駄目だ。大人しく待とう。
 
・・・・・・・・・・。
 
そして丁度夕飯時、それは出来上がった。
「圧力鍋使って作ってみました」
美味しそうなカレーがそこにはあった。
「へぇ・・・それは面白い」
みんなでいただきますをして、一斉に一口。パクッ。
「・・・あ、美味しいですね!」
「―――ん」
「肉が柔らかい・・・これは良いね」
「ありがとうございます」
美味しい料理は食が進む。あっという間に平らげて、まぁ、用も無くなったし、
「じゃあ、帰ろうかな」
と俺が立ち上がった時だ。
「泊まっていけば?」
「は?」
佐々木の提案に思わずそう言った。
「もう良いじゃないか、泊まっていけば」
「そんな急に・・・九曜に悪いだろ?」
「―――大丈夫」
「・・・。それに、俺男だし? 着替えとか何とかあるし~・・・」
「大丈夫ですよ、買ってきますから」
「しかしミヨキチの両親に聞いてみないと・・・」
「私は大丈夫ですよ、お兄さん」
・・・・。駄目だ。決定だ。
 
こうして、俺達は九曜の家のお泊り会に急遽参加する破目になったのだった。
あ~あ。
 
 


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