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いまいましい暑さだ。いくらクーラーをつけているとはいえ、ハンドルを持つ腕が焼ける。
帰省ラッシュも一段落し、すいている海沿いの国道を流す。たまにはドライブもいいもんだ。相変わらず助手席は寂しいが。
 
俺が北校を卒業し、SOS団が解散されてから10年近くが経とうとしている。
古泉の読み通り、ハルヒはその力を徐々に失い普通の女の子に戻った。
それとともに性格も穏やかになり、ぶっ飛んだことも言わなくなった。
古泉によれば、卒業以来神人が現れることは無くなり、変態ヒーローの超能力も消えたらしい。
元エスパーとはその後ちょくちょく会ったりもしていたが最近はとんとご無沙汰だ。
長門も「情報統合思念体は失望した」らしく、お役御免となったのか卒業以来姿を見ない。
朝比奈さんは卒業と同時に未来に帰り、彼女ともそれ以後一度も会っていない。
ハルヒはトップレベルの大学に進学した。
俺たちはバラバラになった。
ハルヒが今どこで何をいているのか、俺は知らない。
   
俺は、ハルヒが俺に好意を持っているものだと思っていた。そして俺の気持ちもハルヒに傾いていった。
しかし、ハルヒにとって俺が必要だったのは力が有るうちだけだったらしい。
卒業が近づくにつれ、なんとなくよそよそしくなるあいつを見て、寂しいんだろうな、などと思
っていた俺は何てピエロだ。
 
 
「そうか・・・・・・」
「うん。ごめんなさい」
「いや、いいんだ。」
「キョンなら、すぐにいい相手が見つかるわよ。あたしなんかよりずっといい人が」
あたしなんかよりずっといい人。そのフレーズって結構傷つくんだぜ?
「これももうやめるわ」
そう言いつつ髪をくくっているゴムをはずした。「結構面倒なのよね」
 
 
まあ、青春なんてそんなもんなのかな。
俺も若かったね。
今、もし出会ったら俺はなんて言うだろうか。なんて言えばいいのだろうか。
言いたい事はたくさんある。聞きたいこともある。そろそろ思い出話もいいじゃないか。
あいつはどんな顔をするだろう。
あれから10年。俺だっていい年だ。気持ちの整理なんてとっくの昔についてる。
ただの思い出だ。
昔の人は言いました。去る者は日々に疎し。
今となっちゃあのころの出来事はみんな夢だったんじゃないかと思うね。
今の俺は、あの時みたいな心の動きを感じることはない。
そんなに非日常的なことなんてそうそう起こることもなく、普通の生活を送っているだけさ。
 
それでも時々、あのころこの記憶を取り出しては再生することがある。・・・・・・大丈夫。まだ覚えてる。
 
少しだけ窓を開け、風を入れる。潮のにおいが鼻腔をくすぐる。海を眺めると、太陽がきらきらと反射していてきれいだ。
ふと隣をゆっくりと過ぎていく車に目が留まった。
 
その助手席にハルヒがいたように見えた。
 
体が震えた。
一瞬我が目を疑った。何でこんなところに。
しかし、俺がハルヒを見間違うはずはない。
高校時代トレードマークだった黄色いリボンは無い。無いが・・・・・・。
もうその髪型はしないんじゃなかったのか。
俺の記憶より、少し長いミディアムロングのポニーテール。
だからこそ見間違うはずは無いんだ。高校時代の記憶が一挙に押し寄せてくる。
お茶の香る部室にメイド服の朝比奈さんがいて、窓辺で本を読む長門がいて、ボードゲームを持ちかけてくる古泉がいて。それから。
確かめようとしてスピードを上げようとしたが離される一方だ。このポンコツめ。
何か叫ぼうとおもわず窓を開けて身を乗り出した。
しかし、何一つ言葉は出てこなかった。
隣の男に微笑みかけ、なにやら談笑しているようだった。
その髪型はそいつの好みかい?
追いかけようとしたが、信号に捕まり、その車は先へと行ってしまった。
その車に気を取られ過ぎ思わず急ブレーキを踏み、鋭い音が響いた。
落ち着け、何やってんだ俺。そもそも今のはハルヒだったのか? 
・・・・・・別にどっちだっていいじゃないか。今のがハルヒであろうとなかろうと。ハルヒの隣に誰がいようといまいと。
何を期待している?
 
途中でコーヒーを買って一息入れた。
そうだ。もうすんだこと。10年も前のことだ。いまさら何もありゃしないさ。
落ち着いたところで改めてエンジンに火を入れた。
ただ、俺は心に刻んだはずの思い出がいつか薄れてしまうのではないかと、そのことが心配でならなかった。楽しかったあのころの記憶。
あいつは今どういう大人になったのだろうか。
ふと海に視線をやると反射した太陽の光が俺の目をさした。眩しいな。
あいつのことなんてどうでもいいはずなのに。
なあ、眩しすぎるぜ。くそっ。
 
 



おしまいです。スガシカオ「光の川」参考にしてます。

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