あの世界を揺るがすほどの大騒動から数えて2年と3ヵ月‥俺達は別々の進路を辿っていた。
勿論SOS団の会合は月一程度で行われ、今でも小言を言われたりしている。
だが残念な事に、朝比奈さんだけは任務終了と同時に未来に帰ってしまった。
仕方なく、ハルヒには朝比奈さんは海外の一流医療チームに抜擢されたと説明し、体裁を整えた。
一流と付けたのはSOS団員として、一人一人が世界に躍進する!というハルヒの宣言を尊守した結果だ。
さて、ハルヒ長門の両名は、その優秀な(片方は人智を超えた存在な訳だが)
能力を買われ、世界でも稀にみる‥らしいプロジェクトチームに配属されたらしい。
何をしてるのかは極秘らしく、長門は勿論、お喋りのハルヒでさえ言わない。
俺だが、あろうことか国立大にいる。ハルヒの拷問とも言われる勉強を耐えたおかげだ。古泉も一緒だ。
ハルヒに連れられ、プロジェクトチームの試験にも参加したが、そこまでの頭脳は持ち合わせていなかった。
さて、世界はまたしても混迷し始めていた。はっきり言おう。第三次世界大戦が始まっている。
地球環境の保全と発展途上国のいがみ合いは、平行線の一途を辿り、その"きっかけ"を起こした。
EU諸国+オーストラリア対ロシア+東南アジアに、すでに東と西に分断されたアメリカがそれぞれに着いた。
日本やカナダ、アフリカ大陸は中立を守っていたがやはり戦火が上がってしまった。
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俺は戦争に参加する訳もなく、要は避難民扱いだった。携帯も家電も混線し、まともに食料も使えない。がそれはまだいい方だ。
なぜなら中立国を攻める外道な奴のせいで、一人追われている最中だからだ。
「いたぞー!こっちだ!」
くそ!見つかった!‥‥俺は、ここ数日でへたなマラソン選手よりも何倍の汗をかいている筈だ。
‥‥‥周りが静かになり、やっと安堵したその時、異様な感触と灼熱の痛みが俺の肩を貫いた。
どうやらまだ完全に振り切れていなかったらしい。痛みに耐え、周りに武器になりそうな物を探す。
ない。持っている物も電池の切れた携帯と中身のない財布だけだ。
捕まったら拷問だろうか、はたまた薬物実験か‥‥死を実感したその時、後ろから銃声が聞こえた。
俺は後ろを見て思わず笑ってしまった。‥古泉だ。
どうやら助かったらしい。激しい銃撃戦ののち、敵は退散したようだ。相変わらずの顔に苦笑する。
「ふぅ‥大丈夫ですか?‥なんとか間に合ったみたいですが‥」
そこまで言って近づいてきた古泉だが肩口の傷を見て少し焦っているようだ。
「‥一応弾は貫通していますし、致命傷ではありません。ですが早急に手当てした方がいいでしょう‥」
立てますか?と手を差し伸べる古泉。俺はその手を握りすまんな。と呟いた。
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付近に立てたテントの中で古泉から手当てを受け、少しは回復したようだ。
現状を聞こうとしたが、どうやらこいつも追われていたらしい。
体のあちこちから擦り傷や切り傷が覗いていた。
しばらく話していると、唐突に古泉の携帯が‥‥なぜこいつのは使えるんだ?古泉は、電話を切ると真顔で言ってきた。
「‥世界大戦より一大事です。閉鎖空間が‥‥世界が崩壊しかけています。」
何言ってる?そんな事起きる訳がない。お前は高校卒業した時なんと言った。
‥ハルヒの能力はなくなったと言ったじゃないか。
「‥僕にも何がなんだか‥‥しかし、わかってしまうんです。‥‥涼宮さんの能力が‥復活したと‥」
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‥‥ん?ここは‥どこだ?‥古泉といたテントだ。では古泉は?‥いない。
外に出て驚愕する。‥‥閉鎖空間。この灰色に染まった空間に、今度こそ一人で閉じ込められたのだ。
俺は古泉を待った。閉鎖空間ならば古泉は入って来る筈だと。‥‥しかし、一向に来る気配はなかった。
不意に、古泉の携帯が使えたのを思い出し、携帯を探す。‥‥携帯はあった。画面のつかない携帯が。
途方に暮れ蹲る。自然に目の前がぼんやりする。涙が頬を伝うのがわかった。
突然奇怪な電子音が、灰色の世界に響き渡る。辺りを見回したが、音はポケットから聞こえていた。
自分のは電地が切れてたのに‥‥‥覚えのない着信音に気付かなかったが、間違いなく俺の携帯だった。
メール着信:長門
>涼宮ハルヒは能力を、その深層に隠していた。
>能力が使用されなくなったため、古泉一樹朝比奈みくる私の3名はその能力が消滅したと錯覚した。
>それは私達のミス。謝罪する。
>このメールの5分後に私の能力を使い、世界が崩壊する前にあなたと涼宮ハルヒが話せるよう情報操作する。
>あなたを信じている。
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5分後
電話着信:ハルヒ
電子音が鳴り反射的に通話ボタンを押し耳にあてる。
「も、もしm‥」
「もしもし!?キョン!?キョンよね!?大丈夫!?怪我とかしてない?」
まくしたてるハルヒの声に涙が出る。
「‥だい‥大丈夫‥だ‥‥お前こそ‥平気か‥?」
「だ‥大丈夫よ!全然ピンピンしてる!‥から‥」
俺は声を押し殺していた。声を出したら、泣き声でハルヒの声が聞こえなくなりそうだったから‥‥
「あたし‥今日妹ちゃんに‥会ったの‥‥そしたら‥キョンが‥‥キョン‥」
ハルヒも相当我慢していたんだろう。ついに泣きだした。涙ながらに喋っている声に、俺も相槌をうつ。
「‥途中ではぐれてって‥‥だから‥‥もし‥‥って‥そう考えだしたら‥」
「‥ハルヒ‥‥大丈夫だ‥俺は‥生きてるから‥」
しばらく無言‥いや、嗚咽を洩らしたまま黙った。
ハルヒが沈黙を破る。
「‥もう‥会えないかもしれない。だから‥聞いて?‥あたし‥あんたが‥」
俺は堪らず叫んだ。
「あ、会えないなんて‥言うんじゃねぇよ!!しかも、電話で告白は駄目だって‥いったのは誰だ!!」
ハッという声が聞こえた。
「‥そうよね‥あたしたち‥また会えるよね?」
「あぁ絶対だ。‥‥当たり前だろ?‥"約束"する」
‥最後になるかもしれない約束をハルヒに告げる。
‥俺の頭の中ではハルヒの笑顔が咲いていた。
多分、ハルヒは今‥最高の笑顔をしている‥‥
「‥約束‥破ったら‥」
大丈夫。絶対会える。
「‥死刑なんだから‥‥」
‥‥死刑は嫌だからな。
END