桃色空間での得体の知れないライブを終了し、超能力者みんなが各々帰宅した後
僕はなぜかステージやら機材やらの後片付けをしていた(させられていた)。
なんで僕がこんな事を…
だれにも聞こえないように愚痴を呟く。

ふと森さんを見ると、なにやら憂鬱そうな顔をしていた。

「どうかしたんですか?」
「え?ああ、ちょっとね…」
森さんが何か考え込んでるなんて珍しいこともあるものだ。

「ちょっと前にさ、ハルキョンのアンソロ本出たじゃない?」
ああ、七夕の日に出ましたね。
「あたしさ、アレ発売日当日にとらの○なに買いにいったのよ。秋葉本店に。」
森さん。ハルキョン信者ですもんね。
「それでさ、店に到着した時、まだ入荷してなかったのか知らないけど棚に置いてなかったの。」
はぁ…
「んで、ずっと一般と18禁のブースを行ったり来たりして、商品が並ぶのを待ってたのね。」
ずっとってどのくらいですか?
「午前11時に到着して、それから1時ぐらいまでそうしてたわね。」
さ、3時間も?!
「もう空腹ガマンして入荷してくるのを待ってたわけ。」
すごい執念ですね。
「でさ、さすがにおかしいと思い始めて。」
ちょっと気付くの遅くないですか?
「まさかと思って女性向けの同人誌売り場に行ったのよ。そしたら…」
普通に置いてあった。と。
「…そういや企画した人女性だったっけ。ってその時気付いて…」
はぁ…
「もう、あたしの3時間なんだったんだってムカついちゃってね。」
それは、災難でしたね…。

 

「それが違うの。ほんとの災難はこの後起こったの。」
それは?
「その後ね。まぁ、でも買えたんだしいいか。って思って、はやる気持ちを抑えて帰宅したわけよ。」
はい。
「んで、早速読んだわけ。」
はい。
「そしたらさ、なんだかあたしが思ってたほど甘くなかったのよ。」
…。
「いや、結構内容は充実してるし甘いっちゃ甘いのよ?
 ただ、もうあたしぐらいになると、ちょっとやそっとのラブラブじゃ満足出来ないのよね。」
は、はぁ…
「なんでここまで偏った趣向を極めてしまったのだろう。って思うと、なんだか切なくなってきちゃって…。」
……森さん。
「なに?」
なんで急にそんな…極めて個人的な話題を持ち出してきたんですか?
「……だって仕方ないじゃない。身の上話ぐらいしか、他に書くネタがないんだもん。
  ……カラッカラなの。…もうカラッカラなのよ…!」
…SSなんて、無理して書くものじゃないと思いますが…。
すると森さんは目をカッと見開いて
「あたしだってそうしたかったわ!実際、第1話を書いた時はそうだった!
 なんとなく浮かんだ妄想を、気軽に文章化してスレに投下しただけだったのよ!」
そ、それなら…
「でも、でも続けていくうちに、雑談室とかで思ったより嬉しい感想をもらっちゃって…」
いいことじゃないですか。執筆者としてはそれほど光栄なことはないと思いますけど…。
「馬鹿ね!そんな期待に応えれるほど、こちとら強靭な精神力を持っちゃいないのよ!」
ええ?!
「こりゃイカン!て思って前回のはかなりパロディ色の濃い、それこそ読者を突き放すような
 アホな脳汁全開の内容を書いたのよ。“これでいっそのこと嫌いになってくれれば”って思って。」
その行為の時点で、かなり嫌われるような人間性を発揮してますよね。

「そしたらアンタ。読んでる連中がよっぽどアレな脳味噌をしてるのか(注:森さんの考えです)
 これまたそこそこ好評な感想をもらっちゃってね。」
は、はぁ…
「もうこうなっちゃうと“如何なる手段を用いてでも期待に応えねば!”って考えがドコドコ出てきちゃって…」
それで空回りして、結果つまんないSSになるのが一番怖いのでは?
「そうなのよ…そうなんだけどさぁ…」
たかだか素人の二次創作なんですから、そんなプレッシャーを感じることはないと思うんですが…
「でも、せっかく読んでくれてる人がいるんだし、なるべく速く投下したいじゃない。」
それはそうかもしれませんが…
「いっそ完璧に嫌われるような事をスレに書いちゃおうかしら。」
それはそれですっごく悲しい気持ちになりそうな気がするんですが…
「うーん、なんて書けば一番効果的かしら…。」


……“もう『微笑』は原作の最終回でいいんじゃね?”とかはどうですか?
「うわぁ、ヤダ最悪。それは叩かれるわね。あたしもやだもんソレ。
 でもねぇ、確かに効果はありそうなんだけど…」
ありそうなんだけど?

「…やっぱり叩かれたり嫌われたりするのは怖いわ。」
なんですかソレ。

「…そうよね。嫌われるのはイヤだわ。あたし間違ってた…。」
そうですよ。なんだかんだ言って自分が一番楽しむ為に書いてるんじゃないですか。
周りの意見なんて、あくまで参考程度に留めておけばいいんですよ。

 

「うん、そうよね!やっぱり、あたし逃げない!
 読んでくれる人たちの為に、なにより自分のために最後まで書ききってみせるわ!」
そうですよ森さん!嫌われるような事わざわざ書き込む必要なんてないんです!
「ありがとう!目が覚めたわ!」

 

 

桃色空間奮闘記

   第5章「もう『微笑』は原作の最終回でいいんじゃね?」の巻き

 

 

森さんとの色々アレな会話に3レス以上使ったことに若干後悔しつつ、僕は帰宅した。
……もうほんとこういうのは自重します。調子こいてすいませんほんと。

―――――――――

翌日、放課後SOS団部室。

相変わらず団員全員が各々好き勝手に過ごす中
僕と彼は昨日のパーティーで彼からもらったゲームを開け、早速対戦していた。
「しかし昨日は焦ったな。まさかお前があんなに号泣するとは…。」
恥ずかしい。もうその話は忘れてほしい。

「キョン、ちょっとこっち来なさい。」

彼とのゲームがとりあえず一段落ついたところで、今まで団長机で何かのプリントと
にらめっこしていた涼宮さんが急に声をかけてきた。
「なんだよ。人使いの荒い団長様だな…」
ちっとも嫌そうな顔をせず席を立つ彼。そのまま涼宮さんの机に向かう。

「あんたこの問題の公式、この間教えてあげたばっかりじゃない!
 なんで間違えてんのよ、このバカ!」
これまたそこまで不機嫌そうな表情をしないまま涼宮さんが彼に愚痴をこぼす。
どうやら彼女が持ってるプリントは彼のテスト用紙らしい。
「ん?ああ、ここがそうだったか…」
「もう、せっかく教えてあげたってのに。全然役に立ってないじゃない!
 ほら、ここもこの前復習したところ間違ってるし、ここも違う。
 まったく、なんでこんなに覚えないのかしら。
   
   ……ひょっとしてあたしの教え方がよくないのかな。」

最後のほうは小声で、どこか自身なさげに呟いていた。
彼と付き合い始める前の彼女からはとても考えられない言葉だな。
涼宮さんが小さくアヒル口をつくる。すると彼は涼宮さんの頭に手を乗せて
「そんなことねぇよ。」
やさしく呟く。

「実際お前から勉強教えてもらうようになって平均点は格段に上がったし…
 ホラ、この数学だって、75点だぜ?75点。昔の俺からは考えられないね。」
「でも…。」
「それでも間違ってるってことは、それはもう俺の物覚えが悪いってことだろ。
 お前が気にすることはない。あれだけ教えてもらっといてこのザマだ。むしろ
 反省するべきは俺のほうなんだろうよ。」
「…キョン。」
しばらく見つめ合う2人。そしてその2人を見つめる僕、長門さん、顔を赤くした朝比奈さん。

「…今日、あんたン家行くから。」
無理やり強気の顔を作りぶっきらぼうに涼宮さんが言った。

「ああ?今日もかよ。」
「そうよ。あんたの言うとおり、あんたのその物覚えの悪さはどうにかして矯正する必要があるわ。
 仕方ないから、今日も勉強見てあげる。あたしにも家庭教師としてのプライドがあるからね。
 次回のテストではなんとしてもアンタに平均80点オーバーを取らせてみせるんだから!」
顔を少し赤くしながら一気に言い放つ涼宮さん。
彼はやれやれ、といった笑みを浮かべ
「ああ分かったよ。よろしくな、家庭教師さん。」
「…ふん。」
めちゃくちゃ嬉しそうに顔を背ける涼宮さん。その表情に満足げに笑顔を作り、席に戻る彼。

「…まったく、お熱いですね。」
「ああ?」
「いえ、羨ましい限りですよ。」
「バカ言うな。今のやり取りのどこにそんな要素があった。」
ゲゲゲ、ホントに気付いていないのか、この人は。

ちらりと横目で周りを確認する。
朝比奈さんは困ったような笑顔で彼を見ており、
長門さんに至っては『バッカだな~』といった表情を浮かべ、ハードカバーの本を読んでいた。
ああ、分かりますよお2人とも。その気持ち。

「なにボケッとしてんだ。お前の番だぞ、古泉。」
「え?ああ、すいません。」
気を取り直してゲームに戻る。

…しかし、この人の鈍感さにはまったく目を見張るものがあるな。悪い意味で。
昔からこの様子だったとしたら、それは彼女も出来なくて当然だろう。
涼宮さんと両想いでほんとに良かった。これでもし彼が涼宮さんに気がなかったとしたら、
冗談ではなく本当に世界崩壊していたかもしれない。

 

…ひょっとして、この鈍感さに泣いた女性も少なくはないのだろうか。

彼の中学時代のガールフレンド…佐々木さんといったか…も、ひょっとしたらこの鈍感さに
枕を涙で濡らした事があったのかもしれない。
まぁ、それで結果的に彼が佐々木さんと付き合うことにならなかったことに関しては
僕の立場からしてみればありがたい。佐々木さんには悪いが。

ゲームをしながら、頭の隅っこでそんなことを考える。

なにげない、僕の妄想

だがそれが

それこそが今回起こる事件に少なからず関係していることとは、当然僕には知る由もなかった。


「お、なんだか話のプロローグみたいな文章ですね。」
「…急に何言ってんだ?お前。」

――――――――

「じゃあ、まったねー!」
「それじゃあ、失礼しますぅ。」
「…」
「じゃあな。」

団活も終わり、それぞれバラバラに帰宅する。
もっとも、涼宮さんと彼は連れ添うように同じ方向に向かっていったが。

 

(涼宮さんが今日彼の家に行くということは、例の桃色空間も十中八九発生するということか…)
それなら、今日はなるべく早めに家に帰って、少しでも体を休めておこう。
ただでさえ最近は連日の出勤で、寝不足と疲れが溜まってるからな…。

確か洗濯物も溜まってたな…ゆっくりするためにも、そういった家事も早く片付けなければ…
そう思い、歩く速度をあげる。

すると…

 

「古泉一樹さん。」

 

後ろから急にさん付けで名前を呼ばれ、立ち止まる。

(誰だ?)
条件反射的に後ろを振り向く。

 

そこには…

「お久しぶりですね。古泉さん。」

パッと見かわいいツインテールの女の子。
だが…
(この人は確か…あちらの機関の…)

 

「橘 強固さん?」
「京子です。」

 

一体…なんの用なんだ…。
彼が涼宮さんと付き合い始めてから、さっぱり動きがなくなったと思っていたのに…

 

「…これはこれは。今日は一体僕に何の御用でしょうか。」
僕が笑顔ながらバリバリ警戒心を出しまくっていると
「そう構えないで下さい。」
橘さんが声をかけてくる。
構えないで下さいと言われてもそれはアンタ無理な話だろう。
なにしろ敵対している組織の中の1人なのだから。
こちとら事によってはこの場で戦闘も辞さない覚悟なのだ。

「まぁ急に目の前に現れて、そんなこと言われても信用出来ないですよね。」
あくまで無邪気な笑顔を浮かべて彼女は接してくる。
「ええ、残念ながら…。」
そう言うと彼女はクスクスと笑って
「でも、信じてください。
 …実は今日は、機関の1人としてではなく、橘京子個人としてあなたにあるお願いがあるんです。」
「…あなた個人の?」
そこまで言って僕は、彼女の顔に浮かぶある違和感に気付いた。
笑みを浮かべ僕に接する彼女から、どこか疲れや、憂いといった感情を感じたのだ。

「…どうやら少しお疲れのようですが…それと何か関係が?」
すると彼女は少し驚いたような表情を見せ
「…鋭いですね。必死に笑顔で隠そうと努力していたのに。」
「まぁ、人間の内面に関することについては、そこそこ自身があるもので。」
「ふふふ、では遠慮することはなさそうですね。」
そこまで言うと彼女は露骨に笑顔を崩し、肩をガクーッとさせて
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
お腹の底から大量にしまいこんでいたのであろう特大の溜息をついた。

「だ、だいじょうぶですか?」
そのあまりの疲労困憊ぶりについつい心配してしまう。

「ええ、すみません。ついつい…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
なんだかこっちまで気落ちしてきそうな溜息。
確かに、この様子だと敵意はなさそうだな…
「とりあえず、ここではなんですから…
 駅前の喫茶店で、お話だけでも聞きましょう。」
「ああ、すみません。気を遣わせてしまっ…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

…なんなんだ…一体…。


―――――――

 

「実は、なにを隠そう私達にとっての神、つまり佐々木さんの事についてなんですが…」
ここは駅前の喫茶店。
彼女は疲れた顔のまま、コーヒーに砂糖を入れながら喋りだした。
「最近、涼宮ハルヒさんと鍵の彼。付き合い始めましたよね?」
ええ、最近というか、もう2,3ヶ月前の話ですけど。それが何か?
「実はこの間、佐々木さんとデートもとい一緒にお買い物に言ったときの話なんですが…」
はぁ…
「買い物中、偶然デート中のあの2人に遭遇したんです。」

…その時点でなにか嫌な予感がしますね。
「いえ、その時は佐々木さんも彼も涼宮さんも、普通に挨拶して、
 少しだけ話しただけだったんです。だいたい3分ぐらいだったかしら?」

「そこで彼から涼宮さんと付き合い始めたっていう話を聞いて…
 私は佐々木さんが彼のことを好きだと思っていたので、少なからず佐々木さんの
 ことを心配していたんですが、その後彼らと別れた後も彼女は特にショックを
 受けた様子も無く、普通に買い物して、私にもいつも通り接してくれたんです。」
ほう。

「で、まぁ私としては佐々木さんが落ち込んでいないようだったので、その時は
 とりあえず安心していたのですが…」
…その後、なにか問題が?

「ええ、その後佐々木さんと別れて、私も家に帰ったんです。それから夜
 しばらくして、私の日課である『佐々木さんの閉鎖空間内で自慰行為』をしようと、
 自前のナスとキュウリを持参していざ彼女の閉鎖空間内へと突入を試みたのですが…」
ち、ちょっと待ってください。佐々木さんの閉鎖空間内で…なんですって?
「自慰行為です。それが何か?」
………………いえ。
「話を戻しますね。…とにかくそんなわけで私は佐々木さんの閉鎖空間の中に入ったんです。」
…はい。

「すると、そこにはあんなに暖かくて、心地よくてわたしを興奮させてくれるいつもの
 佐々木空間ではなく、灰色に染まった、冷たくてそれはそれで興奮する荒れ果てた雰囲気の
 閉鎖空間があったんです。」
はぁ…。
「どうやら佐々木さん、やっぱり少しショックだったみたいで…
 それで閉鎖空間もそんな風になっちゃったみたいなんです。」

なるほど。
「でもそれは僕に言われてもなんとも…こちらとしては彼が涼宮さんと無事付き合い始めて
 安心しているところなんです。佐々木さんやあなたには悪いですが…」
「それは分かってます。彼と涼宮さんが付き合い始めたことについてはやっぱり少し悔しいですが、
 もうそれは仕方ないことだと思ってますし、今更別れさせるために嫌がらせするつもりもありません。」
「それならば…僕に頼みたいこととは?」
「ええ、実は問題はここからなんです。」
そう言うと彼女はコーヒーを口に運び、飲んだ後再び深い溜息をついた。

「荒れ果てた閉鎖空間。これはこれで趣があって興奮するぜ!と思って、私が
 1人スカートの中に手を伸ばしたその時、アレはやってきました…。」
「もう、その時点でいろいろおかしいのですけど…アレとは?」

「今まで佐々木空間の中では一度も出てこなかった脅威。『神人』です。」
「ええ?!」
そんなバカな。確か彼から聞いた話では佐々木さんの閉鎖空間内では神人は出現しないはずでは?
「ええそうなんです。ただ、やっぱり失恋から来る痛みというのは相当のものだったのか。
 そういった事態になってしまったようなんです。」
ははぁ、なるほど…
「その時私もうパニくっちゃって、急いで閉鎖空間の中から脱出したんです。」
確かに、1人で神人相手に太刀打ちできるとは思いませんね。
「それに、今まで神人と戦ったことなんてなかったものですから…
 私は急いで、仲間に連絡したんです。『どうにかできないか』って。」
ふむ。
「でも、仲間からの返事は、それはそれは冷たいものでした。」
と、言いますと?
「『佐々木の神人がどれだけ暴れようと世界は崩壊しないのだから放っておけ』と…。」
…なるほど。
「彼らの言うことも分かるんです。ほっといても世界に害はない。命を懸けて戦う必要はない。
 だけど、だけど私は佐々木さんのイライラを解消してあげたい。佐々木さんの神人をやっつけたいんです!」

…なんだかすごい嫌な予感がする。確信に近い予感が…。

「私は仲間に食い下がりました。『貴様らそれでも佐々木組か!彼女の為に戦おうと思わんのか!』って…。」
…それで?
「でも、彼らはそんな私の意見にものすごい反論を、“もう『微笑』が最終回でいいんじゃね?”って
 言っちゃった人に対してぐらい痛烈な反論を、私に浴びせたんです。」
それはそれは、よっぽど激しい反論を受けたんですね。
「ええ、だからもう私決めました。仲間には頼らない。私の力でなんとしてでも佐々木さんの
 神人を倒してみせる。って!」

…もうなんとなく何が言いたいのか分かってしまったんですが…。

「さんざんあなた達にちょっかい出してこんな事言うのも厚かましいですけど…
 古泉さんお願いです!佐々木空間の神人退治、手伝ってください!!」
「ちょ、ちょっと待ってください!困りますよ!急にそんな事言われても…
 第一、僕は佐々木さんの閉鎖空間には入れないはずでは?」
「大丈夫です。」
「なにが大丈夫なんですか?」
「二次創作なんで、その辺はどうにでもなります。」
…それを言われるとグゥの音も出ないですね。
「でもですねぇ…」
「お願いします!手伝ってくれたら私、なんだってしちゃいますから!」
そんなこと言われても…僕、橘さん属性皆無なんで…。
「そんなこと言わずにお願いします!」
うーん。でもなぁ…
「手伝ってくれたらきっと『えれべーたー☆あくしょん』の作者さんが、続編書いてくれますから!」

やりましょう!

 

極上の会長×喜緑さんSSの続編を(勝手に)約束して、僕は彼女に協力することになった。

だがここでひとつ問題が。
「その佐々木空間の神人は、一体どれくらいの数なんでしょうか?」
「そうですね…確か前に確認したときは3体でした。」
「3体…それでは僕と橘さんの2人ではちょっと荷が重いですね…。」
「やっぱりそうかしら…。」
「最低でも5人…いや、1体を2人ずつで相手にすると考えて、6人は必要ですね。」
「6人…。」
「あと4人…いつも僕と一緒に行動している機関の仲間なら、ちょうど4人いますが…」
「それってもしかして、あの森さんとかいう…」
そうそう、ソレです。ああ、そういえば会ったことあるんでしたっけ。
「ええ、あの時はただ睨まれただけでしたけど。」
ただ…彼女達が果たして協力してくれるかどうか…
「恐らく駄目でしょうが、一応連絡してみます。」
「お願いします。」

ポケットから携帯を取り出し、森さんにかける。

トゥルルルル トゥルルルル トゥルル『ガチャ!』

『ほぁい…もひもひ…』
寝てたな…
「もしもし森さんですか?古泉です。」
『んん…なによ。人がゆっくり寝てるときに…なんか用?』
「ええ、実は…」

 

かくかくしかじか。僕は経緯を森さんに話した。

 

『…あんた、ソレ本気で言ってんの?』
ええ、まぁ…
『だいたいその橘ってのアレでしょ?前に朝比奈みくるを拉致った連中の1人でしょ?』
そうなんですけど…
『あんたもねぇ、お人よしはいい加減にしときなさいよ。
 何が悲しくて敵の組織の人間の手伝いしなきゃなんないのよ。』
案の定、森さんはぷりぷり怒っている。そりゃそうか。

どうしたもんか…と僕が1人考えていると
「やっぱり駄目そうですか?」
橘さんが声をかけてきた。
受話器から顔を離して返事をする。
「ええ、ちょっとこれは…別の方法を考えたほうがいいかもしれません。」
「ちょっと携帯貸してもらえますか?」
え?
「私から直接お願いしてみます。」
それって逆効果では?
「いいからいいから。」
橘さんは僕から携帯を取り上げ、耳にあてた。
「もしもし、私、橘 京子といいます。…ハイ…ハイ、その節はどうも…」
無駄だと思うんだけどなぁ…
「そんなこと言わず…お願いします。ええ、ええ、……わかりました。」
?何がわかったのだろう。
「『夏の○の』と『ぽにってハ○ヒ』ですね。ええ、わかりました。用意します。」
!!
ど、同人誌(しかもハルキョン好きのバイブル)で買収してる!
「はい、はい、では、よろしくお願いします。古泉さんにかわりますね。」
僕が唖然としている間にどうやら話が終わったらしい。
「はい、説得成功です。快く引き受けてくれました。」
…そうですか。

「もしもし、森さん。」
『もしもし古泉?そういうわけだから。時間になったら迎えにきてよね。
 いやぁ、話がわかる子じゃない、彼女。敵ながらアッパレって感じ?』
って感じ?じゃねぇよ。
『新川と多丸兄弟にはあたしから話しつけとくから。よろしくねー。』
「あ、あの森さ『ガチャ!ツー、ツー』…。」

 

他所のSSではなんだか彼の友達とちょっぴりビターな大人の恋を繰り広げているというのに…
…それでいいのか(うちの)森 園生…。


――――――――


現在午後7時。
僕は森さん達を迎えに、1人で森さんの住むマンションに向かっていた。
新川さんと多丸兄弟もそこに集められてるはずだ。

(今日の夜8時にそこの駅で待ち合わせしましょう。)

森さんとの電話が終わった後、そう言い残し橘さんは一度家に帰っていった。
なんでもご飯を食べてくるという。なんてマイペースな人なんだ…。

森さんの部屋の前まで来た。
インターホンを押すと『鍵あいてるから、入ってきていいわよー』と、返事が返ってきた。
扉を開けて、靴をぬぐ。なにやら奥が騒がしい。
「おじゃましまーす。」

玄関を抜けて奥にあるリビングまで歩く。
するとそこには

 

「あたしのターン!ドロー!ハルキョンSS『やすらぎ』を攻撃表示で召喚!
 さらに『雪けむりラヴァー』と『A Jewel Snow 』を守備表示で召喚し、ターンエンドよ!」
…森さん。またなんの悪ふざけを…。
僕が突っ込む間もなく、森さんの向かいに立っていた多丸(圭)さんが叫びだす。
「俺のターン!ドロー!……(ニヤリ)
 『花嫁修業危機一髪』と『箱入り娘』を攻撃表示で召喚!『箱入り娘』で『やすらぎ』を攻撃!」

ドカーン!

「さらに、『花嫁修業危機一髪』で『雪けむりラヴァー』を攻撃!滅びのバースト長古ストリーム!」

新川「よっしゃあ!」
多丸(裕)「これで決まりだぜ!」

「(にやり)甘い!ここで『やすらぎ』の特殊効果発動!
 このカードが墓地(まとめwiki)にあげられて読んだ時、なんだか幸せな気持ちになれる!」

森さん!

「ってなによ古泉。来てたの?」
さっきインターホン押したじゃないですか。…なにやってるんですか。
「あたしが考えたカードゲーム。好きなカップリングSSをぶつけあって戦うの。あんたもやる?」
結構です。
「ああ、でも会長×喜緑さんのSSってあんまりないから、対戦するには弱いかもねー。」
(カチン!)馬鹿いっちゃいけませんよ。数が少なくったって、その内容の濃さたるやハルキョンにも
ひけをとらないんですから…!
「へぇ、なら証明してみせてよ。」
いいですとも!

「「決闘(デュエル!!)」」

 

 

 

森さんと一通り対戦し終えて待ち合わせ場所へ行くと、既に橘さんは到着していた。
「で、どうやってその佐々木さんとやらの閉鎖空間に入れるわけ?」
「みなさん。私の体どこでもいいので触れてください。」
「なんかエロいわね。ソレ。」

言われたとおりに5人で橘さんの体に触れる。
傍からみたらどんな光景に見えるのだろうか。

「じゃあ、全員目を瞑ってください。」

 

―――――――

 

「…着きました。もう目を開けてけっこうです。」
ゆっくりと目蓋を開ける。

「なるほどねー。」
「かなり荒れてますな。」
森さんと新川さんが佐々木空間の感想をもらす。

確かに空は灰色で、空気も冷たい。彼から聞いていた佐々木空間とは大分違うようだ。

「思ったんですけど、神人を退治したところで、佐々木さんの機嫌は良くなるのでしょうか?」
「わかりません。でも神人がいる限り、佐々木さんがストレスを感じてるのは確かなんです。
 彼らを倒せば、少しは佐々木さんの気持ちも楽になれると思うんです。」
んんーなるほど。

 

「まぁいいじゃない古泉。あたし達はあくまで神人退治を頼まれてるだけなんだから
 その先のことなんてどうでもいいのよ。」
身も蓋もない森さんの意見。それはそうですけど…
「いいんです。古泉さん。森さんの言うとおり、そこから先は未来的に恋人候補である私の役目ですから!」
…恋人って…。
「そう、恋人であるわた…あっ…はぁああああん!!」

ゾクゾクゾクゾクゾク……!!

「!!」
急に身を震わせ、悶え始める橘さん。何事だ?!
「た、橘さん?!どうしかしたんですか?」
「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと癖で…私、佐々木さんの閉鎖空間の中にいると、
 なんだか体が熱くなって…ああ、はあぁああ…!!」

この場にいる橘さんを除く5人がいっせいに凍りつく。
「ま、まぁ人の性癖にとやかく言うつもりはないわ。さっさと片付けましょう。」
「そ、そうですね。」

完璧に橘さんから5mは距離を取っている僕ら。
一刻も早く帰りたい…と思っていると…

 

『ヴォォォォォォォォォ……!!』

 

地を這うような低い声。いつも聞いてる、ぼくら超能力者にはおなじみの声だ。

「来たわね…」
森さんが舌なめずりをする。
多丸兄弟も軽く準備運動をし始めている。

神人の姿が見えてきた。

 

 

 

 


「数は…情報どおり3体ね。」

 

『ヴォオオオオオオオオオオ!!』

不機嫌な声を上げ周りの建物を破壊しにかかる神人達。
任務開始だ。

「じゃあ、チーム分けるわよ。1チーム2人組みで、それぞれ1体ずつ相手するの。」
「「「「了解。」」」」
「まず多丸兄弟。」
「「応!」」
「それから新川。あんたはあたしとペアよ。」
「御意。」
え、ちょっと待って森さん。ってことは…
「あんたはあの橘って子とペアね。」
えええええええええ…
「なによその顔。」
「大丈夫です古泉さん。佐々木さんのため、たとえ四肢が吹き飛んでもやつらを倒してみせますから!!」
そういう問題ではないのだが…
「じゃ、まかせたわよ!!」
あ、ちょっと森さ…駄目だ。飛んでいっちゃった。

橘さんと2人、この場に残される。
正直、不安で仕方ない。
「とりあえず、どうしましょうか。橘さんは戦闘をしたことないんでしょう?」
「ええ、だから正直、攻撃とかは自信がないんです。」
ますます不安が強まる。なにか作戦を考えたほうがよさそうだな…。
迫り来る1体の神人を前に、僕はあごに手をやり作戦を練る。すると…
「古泉さん。余計な策は無用です。」
橘さんが自信たっぷりに言う。
「と、いいますと?」

「私が囮になって神人の気をひくんで、古泉さんは隙をみてヤツを仕留めてください。」
ええ?!そ、そんな危ないですよ!
「いいんです。さっきも言ったとおり、私攻撃には全然自信がありません。
 これぐらいしか、役に立てないんです。」
橘さん…。
「心配しないで下さい。私逃げるのは得意なんで。」
しかし…
「私、佐々木さんの為に自分が傷つくのは全然かまわないんです!
 だけど…だけど佐々木さん本人が傷ついたままでいるのは、私…耐えられない…。」

…橘さん。そこまでの決意を…。
「わかりました。橘さん。」
「古泉くん?」
「でも、決して無茶はしないでくださいね。」
「は、はい!」
橘さんとがっちり握手する。
これは早めに決着をつけないとな…。

作戦決行

「じゃあ、行ってきます!」
「ええ、気をつけて。」

橘さんの周りを淡い光が包み込む。
球体化した橘さんはふらふらと不安定に、神人の所まで飛んでいった。

…ホントに大丈夫かな…

僕は神人の後ろにこっそり回りこむ。
そして橘さんが気をひきつけている間に、後ろからヤツの頭を攻撃し一発で仕留める。という寸法だ。

 

よし、配置についた…。

橘さんを確認する。ふらふらと神人の前を浮遊している。
(危険だ…!あれじゃ攻撃してくれって言ってるようなもんじゃないか…!)
ぼくがそう思い、実際彼女に忠告しようとした、その時!

 

『ヴォオオオオオオオオオオ!!』

 

神人のパンチ。速い!
「橘さん!あぶない!!」

 

『ドギャッ!!』
「キャアッッ!!!」

 

鈍い音と鋭い悲鳴。
モロに攻撃を食らった橘さんは吹き飛ばされ、近くにあったビルに激突した。

衝撃で起きた煙が少しずつ晴れていく。
「う…ううう…。」
低い呻き声。橘さんはDIOに吹き飛ばされた花京院のように、ビルの壁に埋まっていた。
「橘さん!」
これは作戦どころじゃない。僕が急いで彼女の傍に飛んでいこうとすると

「はぁはぁはぁ…なんて攻撃力なの…これが閉鎖空間の神人のパワー…」
橘さんが口と鼻から血を垂らしながら呟いている。早く手当てを…

 

「はぁはぁ…閉鎖空間の神人のパンチ…
 
 閉鎖空間の神人のパンチ…
 
 佐々木さんの閉鎖空間の神人のパンチ…
 
 佐々木さんの神人のパンチ…
 
 佐々木さんのパンチ……」


ゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾクゾク……!!


「はぁ、あっはぁああああん♡♡佐々木さんのぉぉおパンチィィィィ♡♡♡!!!!」

 

たたたたたたたたたたたたた橘さん?!

クネクネと気持ち悪い動きで身悶える橘さん。助けに行こうとするのを止める。
「はぁはぁ…って感じてる場合じゃないわ、私。佐々木さんのために頑張らなきゃ!!」
じゅるり、と垂れたよだれを拭いて、再び球体化して神人に突っ込む橘さん。

「だ、だからそんな単純な動きじゃ…」

『バキッ!!』
「ぎゃあッ!!」

再び神人の攻撃を食らい、今度は地面に叩きつけられる橘さん。

 

「…はぁぁああん♡、…ま、まだまだぁ…!!」

 

三度飛び立つ橘さん。

 

『ズギャッ!!』
「ギャッ!!」

 

『ドゴッ!!』
「グエッ!!」

 

『ボギャ!!』
「あああ!!」

 

『グキッ!!』
「ああああん♡!!」

 

『バギィーン!!』
「ふあああああああああああああん♡♡♡!!!」

 

顔をぼこぼこに腫らしながら快感に身悶える橘さん。
ハッキリ言って、神人より彼女のほうがよっぽど怖い。

「はぁ、はぁ、まだまだぁ♡」
気持ちよがってる(?)とはいえこのままじゃほんとに死んでしまう。

(隙を見つけろ……………………今だ!!)
神人が今まさに橘さんに攻撃を加えようとしたその瞬間を狙い、僕はヤツの頭めがけ突っ込んだ。
ハンター×ハンターで「獲物が攻撃をするその瞬間こそ攻撃のチャンス」って言ってたのを思い出したのだ。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

神人が僕の存在に気付いた。だが、もう遅い!!

 

『『ズッガーーーーーーン!!』』

 

半端な効果音を奏でながら、僕は神人の頭を貫いた。

 

『ヴォォォォォ…』

 

体の機能を失い、足元から崩れていく神人。
「…やったか…って橘さん!!」

コンクリートの地面にまるでボロ雑巾のように横たわっている橘さんにあわてて駆け寄る。

大丈夫ですか橘さん!!しっかりして下さい!!
「うう、ううう…」
まさに虫の息といった様子。早く手当てしないと…
「ちょっと、大丈夫?!」
向こうの神人退治も終わったらしく、森さんと新川さん、さらに反対方向から多丸兄弟が近づいてくる。
「まだ、息はあります。けど…」
「早めに手当てをしないと危険ですな…。」
「新川、救急箱を。」
「はっ。」
森さんに支持され救急箱を取りに走る新川さん。念の為持ってきていたのだ。
「はぁはぁはぁ…こ、古泉さん…。」
な、なんですか橘さん。

神人ならやっつけました。橘さんのおかげですよ。
「うん、そうじゃないの古泉さん。涼宮ハルヒを…」
涼宮さんがなにか?

「涼宮ハルヒと彼を、絶対別れさせないで…」
ええ?そ、それはもちろんそのつもりですけど…
なんで急に?

「これからも佐々木さんには、定期的に不機嫌になってもらわなきゃ…」

…は?

 

「佐々木さんのパンチ…はぁあああん…♡…クセになっちゃった…♡」
……。

僕の腕の中で小刻みに震える橘さんを見ながら再び凍りつく僕ら超能力者一同

「これは…壮絶ですな。」
新川さんが一言感想をもらす。
多丸兄弟は絶句している。
森さんは橘さんの最早原型を留めていない顔を見ながら
「こういう愛もあるのかしら。」
と、呟いた。
いや、ないでしょ。


―――――――

 

 

当初予定していた神人退治を終え、僕らは現実の世界に戻ってきた。
橘さんだけはどうしようもなかったので、素直に救急車を呼んで(機関の)病院へ送った。

「ふぅ、とりあえず一件落着ね。早く帰って読まないと♪」
橘さんからもらった例のブツを両手に抱え、嬉しそうに鼻歌を歌う森さん。
「…残念ですけど森さん。それを読めるのはしばらく後になりそうですよ。」
「へ?なん『『『イッツァブラッグフラッグマザーファッカァァァァー!!!』』』」
森さんの携帯が派手な着信音を奏でる。…ていうかその着信音って…。
「げ、これってもしかして…」
「桃色空間ですね。」
僕もすっかり忘れてた。そういえば涼宮さん、今日彼の家に泊まりにいくんだったな。
「えええええもう、勘弁してよ~」
口を尖らせクネクネと嫌がる森さん。ちっとも可愛くない。

 

結局桃色空間での勤務を終え帰宅できたのは結局、夜中の12時をまわった頃だった。

 

 

「…今回は一段と内容とオチが弱いわね。」

 

「もうカラッカラなんです。カラッカラなんですよ!!」

 

 

 

カラッカラなのでおしまい。

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最終更新:2020年06月04日 16:27