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戦況は絶望的だった。

 

それだけが存在理由だ。と言わんばかりに暴れる「神人」という名の半透明の化け物
次々と破壊されていく建造物
飛び交う悪態と悲鳴
既に負傷者の数ははかりきれない

 

機関に入って以来、僕だってそれなりに修羅場をくぐりぬけてきた。
それは何も僕だけの話ではなく、少なくともここに集まっている仲間全員がそう自負している。
死を覚悟した経験も一度や二度ではないし、実際、仲間の中には生命の危機に関わるほど
重傷を負った人もいた。

 

そんな経験もあって、僕らは既にこの閉鎖空間内での戦闘に関してはスペシャリストだった。
それはもう全員がたった1人でのハイジャック、及び原子力発電所の奪取が可能なほどに。

そんな一流の僕らが、今まさに機関始まって以来、最大のピンチをむかえている。

午前6時、涼宮さんと彼が朝っぱらから愛し合う事で発生した空間の中で。

 

「あぁ、もう駄目…」
森さんしっかりして下さい! もしどこか負傷したのなら…
「別に肉体的な負傷は負ってないんだけどね。」
はぁ…
「あんたはまだその年だから平気かもしれないけど
 あたしぐらいになるとね。このゲロ甘&桃色の空気に包まれてるだけで体に毒なのよ。」

「なんてゆーか。心が蝕まれるっていうの?すっごい鬱になるのよね。」
な、なるほど。

「つまり、もう決して取り戻すことのできない自分の青春時代を思い出し、
  当時の自分との余りのギャップに心が挫け、極めて遺憾な状態に陥った、ということですな。」
あ、新川さん…そんなはっきり
森さんが新川さんをギロリと睨む。いつもならここで容赦なく肝臓打ち→ガゼルパンチ→デンプシーのフルコンボを
打ち込んでいるはずだったのだが、よっぽど気が滅入っていたのだろう、今回は剛体術一撃で済んだ。
それだけでも、新川さんの胃袋はズタズタになったはずだが。

口から血をまきちらし昏倒する新川さんをしりめに、森さんと対策を練る。
「ヤバイわね。昨日の今日ってこともあって、みんな疲れきってるわ。」
ええ、それに加えて桃色パワーでさらに(ある意味)凶暴化してる神人が相手ですからね…。
「多丸(裕)の顔見てよ。昨日のダメージと極度の疲労で顔がリカルド・マルチネス戦の伊達みたいになってるわ。」
ああ、本当だ…。

「神人の強さや空間の居辛さもそうだけど、戦ってる理由がアレなせいでテンションが上がらない。っていうのもあるわね。」
ああ、それはあるかも。

 

1組のカップルが愛し合い、肉体を求めることで発生した世界崩壊の危機を防ぐために戦う。

 

…なんて意味の分からない理由だろう。
百戦錬磨のソルジャーでさえそんな出動命令が下れば戸惑いの1つや2つ浮かべるというものだ。
「とにかく、うちみたいなベンチャーは1人1人のモチベーションが大事なんだから。

 その辺の対策も練ったほうがいいかもね。」
えぇ、機関ってベンチャーだったんですか?!…ってうわぁぁぁぁぁ!

前方からもの凄い勢いで飛んできた謎の物体をギリギリで回避する。
ソレはその勢いのまま、まるで地面に突き刺さるように激突した。
「ちぃ、一体何?!」
衝撃で飛び散る破片をかわしながら、飛んできたソレを確認する。

 

そこには上半身だけ地中にめり込み、下半身をぴん、と伸ばしたまま地面に突き刺ささっている多丸(圭)の姿があった。
「まぁ、まるでコンクリートの隙間から力強く必死に茎を伸ばして空を仰ぐように咲くたんぽぽみたい。」
言ってる場合ですか!

 

多丸(圭)を(1人で)必死に引っこ抜こうとしてると
「古泉まずい、こっちに来たわ!」
ええ?!
振り向くと確かに神人が1体、物凄く楽しそうにスキップしながらこちらに接近していた。
「逃げるわよ!」
ちょっと待って下さい!多丸(圭)さんが抜けないんです!
「そんなのほっときなさい!」
ええ?!…って森さんも手伝ってくださいよ!
が、森さんは既に球体化して遠くに避難していた。

神人がどんどん近づいてくる。

わわわわわわわわわ…!
必死に多丸(圭)を引っ張るが全然抜けない。
そりゃ出来るなら僕だって逃げたいけど、それは人として、古泉一樹として絶対間違っていると
自分に言い聞かせ、涙目になりながら引っ張り続けた。

 

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およそ人が地面から抜け出る音とは思えない効果音を奏でて、多丸(圭)をようやく掘り出すことに成功した。
が、時すでに遅し、神人の足の裏がもう目の前にまで迫ってきていた。
球体化している暇もない。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「古泉ぃぃぃぃぃ!」
遥か遠くの空から森さんが叫ぶ。決して助けてくれようとはしない。
万事休す!と、とうとう覚悟を決めようとしたその時

 

 

『ヴォォォォォォォ…』

まさに間一髪。
神人がその動きを止め、足元からゆっくりと自壊し始めた。
僕は思わず腰が抜け、へたりと座り込む。

「ギリギリだったわね。」
ええ…、今回は本当に死ぬかと思いました。
…って森さんいつの間に。酷いですよ、助けてくれないなんて。
「空間が発生して1時間、神人が出現して30分が経過してるわ。…昨日より掛かったわね。」
無視ですか。
「しかし、酷い有様ね。」

 

周りを見渡す。建物は軒並み破壊され、仲間の半分以上は怪我を負い、地面にうずくまっている人もいる。
まるで核の被害にあったかのような状態なのに、相変わらず空間内は桃色で、空にはハート型の雲が浮かんでいる。

なんてシュールな光景なんだ。

 

しかし…
涼宮さんには早いとこ、彼との行為に少しでも慣れてもらわなければ。
だけどこればっかりは僕も横槍のいれようがない。
もし彼女に直接『愛する人とのSEXとはいえ、なにも緊張することはないんですよ。』的なアドバイスをしようものなら
…その後起こるであろう惨劇は容易に想像できる。

「ふぅ、とりあえず集合よ。今日の反省と、今後の対策を練る必要があるわ。
 …新川、いつまで悶絶してるのよ。さっさと集まりなさい!」
身悶えている新川さんにドカッと蹴りを入れる森さん。あそこまで酷い事をするとは…彼女もそうとう参ってるようだ。
うん、そう思っておこう。決して普段からああって訳ではない。ないんだ。

「なにぶつぶつ言ってんのよ。」
ああいえ別に何も!

…あっぶねー。

 

ようやく気持ちも治まってきて、冗談(?)を言う余裕も出てきた。
とにかく、今は一刻も早く帰りたい。
なにしろ昨日は3時間弱しか寝れてない。金曜日だったので、疲れもかなり溜まっていた。
今日は午後から不思議探索だから、急いで帰れば2時間ぐらいはまだ眠れるかもしれない。
なんてことを考えながら、みんな集まっている場所へ多丸(圭)を担いで向かっていると…

 

 

『ヴォォォォォォォ…』

 

え?
僕はもちろん、森さんも新川さんも、他の仲間達も全員体をビクッ、と硬直させる。
「…今のってまさか…。」
森さんにつられて後ろを振り向く。
そこには信じられないような、信じたくないような光景が…

 

桃色神人、再・爆・誕!

 

「2Rね…ほんっと、若いって素敵。」
森さんが呟く、その顔は笑みを作ってはいるが、絶望と怒りと、そして悲しみに包まれていた。
他の仲間もみんな同じような顔をしていた。もちろん僕も。

やっとこさメタルクウラを1体やっつけたというのに、その後崖の上から無数のメタルクウラが現れた時の悟空とべジータの心境だ。…わかるよね?

「まぁ、ここでいくら落ち込んでもしょうがないわね。いくわよ、野郎共!」
森さんのその叫びと共に、半ばやけくそになりながら僕たちは神人に突っ込んだ。
どうか生きて帰れますように…。

 

 

 

 なんとか生きたまま桃色空間の中から帰ってくることに成功した頃には、時刻は既に10時をまわっていた。
戦闘自体は…まぁ今日2回めということでわりかし早めに終わったのだが、その後緊急で
対策会議が(道端で)行われた為、こんな時間になってしまった。
結局その対策会議というのも、ろくに結論が出ないまま終わってしまったのだが。

 

そういうわけで、僕が自宅に戻ってきた頃にはそろそろ不思議探索に行く準備を
しなければいけない時間帯になっていた。なんの拷問だ。

のんびりお風呂に入りたい気持ちでいっぱいだったが、あいにくそんな時間はない。
とりあえずシャワーだけ浴びる。自分の体を見るとあちこち擦り傷や、打撲で酷いことになっていた。

 

やれやれ、せめてお2人の事を少しでも嫌いになれれば、気持ちよく悪態もつけるというのに。
そんな事を考え、思わず苦笑する。

シャワーを浴び終え服を着た後、簡単な食事を摂る。
買っておいたパンを食べ、野菜ジュースを飲む。疲れているため食欲もいまいち沸かない。
それから少しばかりソファーに座りくつろぐ。うっかり寝てしまいそうだ。あぶないあぶない。


…そろそろ時間だな。
今日、今日さえ無事に過ごしてしまえば明日は日曜だ。きっとゆっくり休める。
そう自分に言い聞かせ、ソファーから体を起こす。
玄関で靴を履き重たい足を引きずるようにしながら、僕はドアを開けた。

 

 

集合場所まで行くと、既に僕以外の団員は揃っていた。
それはそうか。いつも最後の彼は今日は朝から涼宮さんと一緒にいたわけだから。

「やぁみなさんお揃いで。」
「おっはよー古泉君!」
「おはようございますぅ。」
「…」
「おぅ。」
朝っぱらからそれなりに激しい運動をしたのだから、さすがの涼宮さんも少しは疲れていると
思ったのだが…むしろいつもよりもテンション高めに見えた。
…彼のほうは少しやつれ気味だったが。

 

「大丈夫古泉君?なんか少し顔色が悪いわよ?」
ああしまった。疲れが表に出てしまったようだ。
「いえ、大丈夫です。恥ずかしながら昨日少々夜更かしをしてしまいまして。」
横目でチラリと彼を見てみる。微妙に怪訝な顔をしていた。
「ふぅん、まぁ平気ならいいわ。
 じゃあとりあえず喫茶店ね。そこで班決めするわよ。」
付き合っているんだから彼と2人きりでいればいいのに。わざわざ班を決めるところが涼宮さんらしい。
「あ、古泉君。ドベだから今日おごりね。」

 

 

…かしこまりました団長様。

 

 

公正な班決め(色つきわりばし)の結果、涼宮さん長門さん朝比奈さんの女の子3人組。
僕と彼の男2人組みという組み合わせになった。

「じゃあ4時にまたこの喫茶店で待ち合わせね。
 古泉君。キョンがさぼらないようにしっかり見張っててね。」
「かしこまりました。」
「さぼらねーっての。」
特に気分を害したようすもなく彼が溜息をつく。
「んじゃ、いくわよ。みくるちゃん、有希。」

 

 

あちら方と別れ、彼と街中を歩く。
「なんか飲むか?おごってやるぜ。」
これはめずらしい。なにかいいことでもあっ…そういやありましたね。凄いのが。
「?どうした、いらないのか。」
「いえ、ありがたくいただきます。今日はえらく気前がいいですね。」
「ま、今日誰かさんが遅く来てくれたおかげで珍しく財布が重いんだ。」
「なるほど。」
奢ってもらったコーヒーのプルタブをあける。彼は既に飲み始めていた。

 

「…昨夜はお楽しみでしたね。」
『ブーーーーーーーッ』
彼が派手にコーヒーを噴出す。ここまで期待通りのリアクションをしてくれるとは。

「なななな、なんで…ハッ、また機関とやらの情報だな!
 おい、いいかげんにしろよ。俺はともかくだな、ハルヒのそんなプライベートなことまで…」
顔を赤くさせたり青くさせたりしながら物凄い勢いでまくしたててくる。
普段冷静な彼がここまで取り乱すとは…

「いえいえ、別に覗いてたり、会話を聞いてたりしていたわけではありませんよ?」
「?、じゃあどういうことだ。」
「閉鎖空間です。」
「なに?」
「昨夜の12時過ぎごろ、ものすごい規模の閉鎖空間があちこちに発生しまして…
 昨日涼宮さんがあなたの家に泊まりに行っていたことは、僕をはじめSOS団員全員が知って    
 いたことだったので、発生した原因としてはまぁ、。そういうことかなと。」
この際だ。彼ぐらいには言ってもいいだろう。
僕の中に溜まっている疲れを少しでも癒すために、彼をおちょくって照れた顔でも見てやろう。
「…!…っっ!」
彼は落ち着かない様子で目をぎょろぎょろ動かしている。
その時点でかなりおもしろい。よっぽど恥ずかしいのだろう。
が、さらなる動揺を与えるため例の桃色空間の様子を伝えようとすると…

「閉鎖空間が発生した…ってことは…ハルヒはもしかして、ストレスを感じていたのか?」
「え?」

 

「いや、だって閉鎖空間が発生する理由ってのは、ハルヒの精神が不安定になることが原因なんだろ?
 てことは俺との行為になにか不満があって…」
いやいやいやいや。発生理由としてはまさにその真逆なのだが…
彼は顔を青くしながら頭を抱えている。こんな一面もあったとは。
「いや、でも昨日はハルヒもあんなに満足そうにしてたし…今日の朝だって…」
ぶつぶつ独り言を呟く彼。そしてハッと顔を上げると
「もしかして、今日の朝方も?!」
「え、ええ、発生しました。あの、でもですね…」
そうじゃないんですよ。と、別に涼宮さんは不満を感じていたわけではないんですよ。と
説明しようとすると…

 

(ん?ちょっと待てよ…)
ピキーンと、ある閃きが僕の頭をよぎった。
そして…
「…そうですね。涼宮さんはあれで乙女チックな所がありますから。
   もしかしたらまだ彼女の中では、あなたとそういう関係になるのは早い、と感じていたのでは?」
なんて事を口走っていた。
「で、でも昨日ハルヒは割りとノリノリで…はっ、ま、まさかそれも俺の為を思って?」
少し考えれば分かりそうなことなのだが、彼は完全に動揺しきっていて冷静な判断力を失っているようだった。
「考えられますね。涼宮さんがあなたの事を愛しているのには変わらないのですから。
 多少強引に迫られれば、それは彼女としては断れないでしょうね。」
僕がそういうと彼はとうとう力なくうなだられてしまい
「なんてこった。俺はハルヒの気持ちを少しも考えないで…」
なんだかちょっと可哀想になってきた。
もちろんこのままではよろしくないから、それなりにフォローもする。
「でも、安心してください。確かに割りと規模の大きな閉鎖空間でしたが、
 そこから重度のストレスや、不満などは感じ取りませんでしたから。」
僕がそう言うと彼はバッと顔を上げ
「そ、それはどういう事だ?」
「つまり、涼宮さんは嫌がっていたわけではないんですよ。
  やはり多少の不安や恐怖みたいなものはあったのでしょうがその反面、あなたに求められて嬉しいと  
  いう気持ちもあった。その証拠に、いつもは獰猛に暴れる神人が昨日はまるで『どうしていいかわか
  らない』といった感じでおろおろしているばかりでしたから。」
嘘8000な事を言う。結構穴だらけの説明だったのだが動揺している彼にはこれで十分だった。
「な、なるほど…」
彼も少しだけ立ち直ったようだ。
ここでトドメを。

「時間はたっぷりあるのですから、急いで体を求める必要はないと思いますよ。
 あなたと涼宮さんの相性は抜群なわけですから。ゆっくり距離を縮めていけばいいかと。」
そう言ってコーヒーを口に運ぶ。彼は
「そうだな。そんなに急いてやる必要はない。サンキュー古泉。俺、なんだか焦ってたみたいだ。」
と言って、なんだか1人新たに決意を固めているようだった。

 

くくく、計算通り。
涼宮さんには悪いがこれで彼との行為がしばらく無くなってくれれば、僕をはじめ
機関の仲間全員が少しは休息をとれるというものだ。
もちろん、それで涼宮さんが欲求不満になって通常の閉鎖空間が発生しては元も子もないので、
その辺はまたタイミングを見計らって彼を焚き付けるとしよう。


集合時間になり、3人と合流する。
彼は涼宮さんの姿を見るやいなや彼女の肩を掴み、
『ごめんなハルヒ。俺、もっとお前のこと大事にするから。』
などと言っていた。
朝比奈さんは顔を赤らめ動揺し、長門さんも少し驚いてるようだった。
当の涼宮さんも顔を赤くしていたのだが、当然彼にいきなりそんなことを言われた意味が分かるはずもなく
「ええ?!と、当然よ!」
などと言っていた。…なにが当然なんだ。

それから解散になり、僕も帰宅することにした。
分かれる際に見た。彼から積極的に手を握られ、意味がわからず動揺する涼宮さんの顔が印象的だった。

 

 

 

ふぅ、これでしばらくは僕もゆっくり養生できそうだ。
彼と涼宮さんの絆をより深め、桃色空間の発生も防ぐ。なんて完璧な事をしでかしてしまったのだろう僕は。
機関に申請すれば、ボーナスでも出してくれるかもしれない。
そんなことあるわけないっての。とか1人でにやにやしながら歩いていると、いつの間にか自宅に到着した。

ああ、疲れた。すぐに横になりたいが…
どうせ明日はゆっくりできるんだ。のんびりしようか。

それから僕はゆっくりお風呂に入って、夕食を作り、テレビを見ながらのびり食事した。


久しぶりの休息はあっという間に過ぎていき、時刻は22時、
昨日ほとんど寝ていなかったためそろそろ目蓋のほうも限界である。

…そろそろ寝よう。
トイレで用を足し、布団に入る。

明日は何時に起床しようか。せっかくだ、いっそお昼の12時ぐらいまで寝てしまえ。
好きなだけ睡眠をとれることに小さな幸せを感じつつ、僕は目蓋を下ろした。

 

 

 

 

『『溝鼠ハイエナ糞豚ばかりぃぃぃ! ソゥアタック ソゥアタック ベノムセェェイ!!』』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

爆音に思わず目が覚める。
音の発信源を探る、どうやら自分の携帯電話の着信音だったようだ。
もちろんこんな激しいハードコアな音に設定した覚えはない。

 

…長門さん、今日は僕の携帯に触るヒマなんてなかったはずじゃ…

 

液晶を見る。
『着信・バイオレンス森』
森さん…?時間は…午前12時…。

…嫌な予感がする。

いや、でもそんなバカな。
だって今日僕が成し遂げた偉業によってあの空間が発生するはずはないのだから。
と、とりあえず電話に出よう。

「もしもし…」
「古泉。仕事よ。」
「えぇ?!それってまさか…」
電話越しで深い溜息が聞こえた。
「閉鎖空間よ。」
ハハハ…んなバカな。
「それって、どっちの…?」
「言わなくてもわかるでしょ。桃色のほうよ。」
なんで…今日のお昼の事は一体…
「しかも、規模の広さも神人ちゃんの浮かれっぷりも前回とは桁違いよ。」
そ、それはどういう…
「機関の精神部の話だと、涼宮ハルヒの中で昨日よりも激しい歓喜の気持ちが生まれたのが原因だって。」
激しい歓喜の気持ち?

「なんでも彼のほうから彼女になんらかの告白をしたらしくって。」
携帯の向こうから自嘲気味な笑いが聞こえる。
「それを受けた彼女の強い喜びが、そのまま神人の行動に出ちゃってるみたい。」

「で、そのままベッドインしちゃったもんだから、当然閉鎖空間も発生する。
  強い感動を引きずったままだから、空間の規模も神人ちゃんの浮かれ
  具合もそんな風にパワーアップしちゃったってわけ。」

 

それは…
それはつまり…
僕が今日行った事が、思いっきり裏目に出てしまったということですか?

「どうしたの古泉。ちゃんと聞いてんの?」
「ああ!聞いてます聞いてます。」

 

とりあえずその事は黙っておこう。バレたらどんな目に会うかわかったもんじゃない。

「とにかく、もう新川をあんたン家によこしたから、急いで準備して。今日は戦闘に入る前にちょっとした集会をやるわよ。」
ちょっとした集会?
「今日の朝言ったでしょ。やつらと戦うには、個々のモチベーションアップが大切なのよ。」
はぁ…
「とにかく、来ればわかるわ。」

 

 

 

午前12時40分。
僕が現場に到着すると、そこには異様な光景が広がっていた。
機関の仲間が綺麗に、一列に整列しており、その背筋は例外なく伸びている。
そして、1人列に混じらず相対するように仁王立ちしている森さんの姿が。

 「来たわね古泉。」
あ、あの森さん。これは一体…
「言ったでしょ。全員のモチベーションをあげるのよ。あんたもさっさと列に加わりなさい。」

怖いので支持に従う。
そのうち残りの仲間が到着し、彼らも同じように整列させられた。
それじゃあ、始めるわよ。

何をやるんだろう…どうやら僕以外の人たちはこれからなにをするか知ってるようだったが…
と呑気に構えていると…

 

「あたしが桃色空間特別対策員隊長の森園生である!」
えぇ?!森さん、急になにを…
「話しかけられたとき以外は口を開くな
 口でクソたれる前と後に“Sir”と言え
 分かったか、ウジ虫ども!」

いきなりなに言い出し『『『Sir,Yes Sir!!』』』ええええええ?!
「ふざけるな!大声出せ!タマ落としたか!」
『『『Sir,Yes Sir!!!!』』』
ちょ、どうしたんですかみんな!

僕の疑問などどこ吹く風。森さんはかまわず続ける。
「貴様ら糞超能力者どもがもしこの戦いに生き残れたら──
 各人が兵器となる。戦争に祈りを捧げる死の司祭だ
 その日まではウジ虫だ!地球上で最下等の生命体だ
 貴様らは人間ではない
 三流アニメキャラのクソをかき集めた値打ちしかない!
 貴様らは厳しいあたしを嫌う
 だが憎めば、それだけ学ぶ
 あたしは厳しいが公平だ、二次創作での差別は許さん
 古泉が自分のことを「私」と呼ぶSS、
 名前が「小泉」、「朝日奈」となっているSS
 「みくるちゃんでAVを録るのよ!」的なエロ同人誌
 すべて──
 平等に価値がない!
 あたしの使命は甘くて身悶えるようなSSを読んでにやけることだ!
 『10月8日 曇りのち雨』なみの甘さを!
 『ハルヒ親父シリーズ』なみの甘さを!
 分かったか、ウジ虫!」

わかりませ『『『Sir,Yes Sir!!!!』』』ええええええ?!
「ふざけるな! 大声だせ!」
『『『Sir,Yes Sir!!!!!!!!』』』
「OK、行くぞ!」
『『『オォォォオオオォォオ!!!!!!』』』

 

並んでいた仲間が雄たけびを上げ、次々と桃色空間へと突っ込んでいく。
1人残され、唖然としていると森さん(現ハートマン森軍曹)が近づいてきた。

あの森さん。これは一体…。
「ほら見てみなさい。全員見違えるようなテンションよ。 
 今日一日中考えてた甲斐があったってもんよ。」
は、はぁ…
「これから桃色空間が発生した場合、毎回これやるから。
 あんたも次回からはちゃんと返事しなさいよ。」
うええええ…
「なによその反応。嫌だっての?」
いえ、なんでもないですぅ。

 

 

とりあえず、明後日にでも彼には本当のことを言おう。
うん、そっちの方がいろんな意味で安全だ。

 

 

おしまい

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