午前2時。
一般的に深夜とよばれる時間帯
閉鎖空間での「勤務」をようやく終え、帰宅した後、僕は自室で一息ついていた。

 

「ふぅ…。」
最近は涼宮さんの精神状態が安定していた為、神人退治は久しぶりだった。

…きつかった。いろんな意味できつかった。

久しぶりの戦闘にいまいち体がついていかない。というのもあった。
それもこの時間帯、今日も今日とて学業に勉め、SOS団の活動に参加して
それなりに体力を消耗した身としては、睡眠無しでの超能力使用は心身共にかなり応える。

だが、一番疲れた理由は他にあった。
それはまず、この閉鎖空間が生まれた原因、つまり涼宮さんの精神状態に関係がある。

順序を追って説明しよう。
みなさん知っての通り閉鎖空間が発生する理由としては、涼宮さんの精神状態が不安定になることが主な理由だ。
それはなにも日頃たまったイライラとか、瞬間的な不安やストレスだけが原因というわけではない。
たとえば予想もしていなかった出来事(それが彼女自身にとって嬉しい事でも)に動揺したり、
極度の緊張…例えばそう、好きな男性…はっきり言えば「彼」と只ならぬ雰囲気になった時など、
その発生原因はさまざまだ。

 

 

で、一旦話は変わるが
涼宮さんは約二ヶ月前からある男性と付き合い始めた。
相手は…まぁ言わなくてもわかると思うが…一般的に(僕はそう呼んだことはないが)「キョン」と
いうあだ名で呼ばれてる彼だ。
その事実に僕をはじめ長門さん、朝比奈さんはもちろん鶴屋さんや彼の友人たちも一緒になって
大いに祝福した。
僕の所属している組織でも「あぁ、これでようやくひとつ肩の荷が下りたな。」とか

「これで少しは睡眠時間が増えるといいな。」など、他人事ながらもやんわりと安心感を感じていた。

実際、彼と付き合ってから閉鎖空間の発生頻度は格段に減った。
いや、付き合い始めた最初の3週間ほどは、始めての真剣な交際に対する不安や期待感からか、
ちょこちょこ小さな規模の閉鎖空間は発生していたのだが、最近はそれも安定してきたのか、空間出現はさっぱり無くなっていた。

 

ではなぜ今日この日、久しぶりに閉鎖空間が発生したのか。
それも比較的規模の大きな、ミュージシャンのLIVE会場で例えればドームクラスの空間が、あちこちで観測された理由、

 

それはズバリ
今日涼宮さんが始めて彼の家に泊まったという事。
つまり、愛し合う男女がそのうち必ず行う行為を、この度あの二人もようやく行うに至った。という事だ。

 

 

当然涼宮さんにとっても始めての体験だったので、不安やら期待やらなにやらで当然、精神状態は不安定になる。
さっきも言ったとおり、閉鎖空間の発生理由はずばり涼宮さんの精神の不安が原因なので、
その理由がどうであれ…例えそれが恋人同士の甘い甘ーい行いが原因だとしても…空間発生のトリガーにはなりえるのだ。

 

 今日の閉鎖空間内の雰囲気は異常だった。
いつも灰色で染まり、どことなく哀愁を感じさせるはずの空はあろうことか桃色一色になっており、
しかもハート型の雲がぷかぷか浮かんでいる始末。
空間に侵入した僕の仲間たちも、事情を知っているだけにとてつもなく居づらそうだった。
ちらちらと目配せし合いながら苦笑する者もいれば、その桃色空間にげんなりする者もいた。
そしてなにより誰より普段から彼らの近くにいる僕としては、なにかこう、とてつもなく恥ずかしい気持ちになってくる。

 

そして問題の神人なのだが…これがまた凄かった。

 

最初はみんな
『決して彼女の機嫌が悪いわけではないので、比較的おとなしくしているだろう』
と、たかをくくっていたのだが、これがとんでもなく大はずれ。

空と同じく桃色にカラーリングされた神人は、出現するやいなや身を悶えさせ、地面に転がり、
僕たちの冷たい視線をものともせず不思議な踊りを延々と踊り続け、その勢いで周囲にある建物をガンガン破壊していった。
いつもと動きが違うため、僕らもどう対応していいかわからず結果、いつもよりも苦戦を強いられるハメになった。
その余りの暴れっぷりと空間内の異様な甘ったるさのせいで、次々と仲間達が極めて遺憾な状態に陥ってしまった。

 

 

「くぅ、この年齢にこの甘甘空間は肉体的にももちろん、精神的にも応えるわ。こうなったら…古泉!」
なんですか森さん!   
「あそこでタップダンス踏んでるヤツ。なんとかあんた一人で倒して!あたしもうキツイ!」
えぇ?!
「頭に向かって全力で突っ込むのよ。あたしたちは他の仲間の援軍にいくから。
 なぁに、あんたならあんな神人の1人や2人、物の数じゃないわ。苦しんでいる仲間のためにも、ここは任せたわよ!」
…そういうのって自分から言い出して初めてサマになるものなんじゃ…。
「つべこべ言ってないでさっさと行きなさ…ん?」
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
あ、あ、あ、あ、た、大変だ!
多丸(裕)さんが髪の毛を掴まれて振り回されてる!神人的にはあくまで楽しそうに振り回されてる!
「はははははは!なにあれ?最高!」
笑ってる場合じゃないですよ森さん!
「ははは…は、そ、そうね。なんとかしないと。…新川!」
「はっ!」
「今や神人のバービー人形と化している多丸(裕)を助けるのよ。」
「了解!」
森さんの無茶な要望になんの異論も唱えず突っ込む新川さん。
が、そこへタイミングよく神人の右フック(ただ踊っていただけだが)が繰り出されあえなく打ち落とされてしまった。
「ちぃ、次、古泉!」
絶対嫌です!
「いい古泉?逃げるのが超能力者で、逃げないのがよく訓練された超能力者なのよ。」
言ってる意味が分かりません!
って、ちょっと待って下さい森さん!さっきから気になってたんですがあそこのビルに上半身だけ突き刺さってるのってまさか…
「ああ、多丸(圭)ね。」
ええええええ?!そんな冷静に言われても!ってうわぁぁぁぁぁ!
神人の繰り出すハイキック(性格にはターンアウト)をぎりぎりでかわす。
くっ…大丈夫ですか、森さん!
「…くく…ふふふふ」
も、森さん?

「ふふ…はははは!高い!高いぞ!見ろ、人がゴミのようだ!」
森さん気をしっかり!そのゴミっていうの、やられちゃった味方です!

       

       “もしや本当に世界崩壊か。だとしたら、なんて後世の世に遺しづらい理由なんだ!”


機関の仲間全員がそんな事を思い、半ば覚悟をしていると…


神人は急に活動を止め、1人残らず自然消滅してしまった。
神人発生から約20分が経過した頃の出来事だった。

 

20分…なんてリアルな時間だ。

 

…そんなこんなでどうにか空間から脱出できた我々だったが、その姿は悲惨なものだった。

森さんはぐったりしてうなだれており、
新川さんもあちこち傷だらけ。
多丸(圭)さんの顔はぼこぼこで原型を留めておらず、
多丸(裕)さんにいたっては髪の毛が一本も残っていなかった。
僕は僕で関節をあちこち痛め、正直立っているのもままならない状態だ。
集合した後簡単な反省と、今後の対応について話し合っていたが正直誰も聞いていなかった気がする。

 

 

その後現地解散になり、新川さんに車で送ってもらって今、現在に至る。
車から降りる際、バックミラー越しにちらりと見えた新川さんの顔からは、生気をまったく感じなかった。…大丈夫かな。

 


はぁ、本当に大変だった。
まさかこんな理由で生命と世界崩壊の危機を感じることになるとは。
とはいえ、これであの二人の仲もよりいっそう深まることだろう。
それでこの先、閉鎖空間発生がより少なくなり、
最終的に涼宮さんが力を必要としなくなる日が来ることを思えば、まぁ、こんな日があってもいいだろう。
幸い、明日は土曜日。休日だ。
今日の明日ということもあって不思議探索は午後からの予定だ。

「いっそ休みにしてしまえばいいのに。ま、涼宮さんらしいですかね。」

ただ今2時15分。
今から寝れば8時間は眠れる。

今頃抱きしめあい、お互いの温もりを感じながら寝息をたてているであろうあのお二人の幸せを
心から願いながら、ゆっくりと瞳を閉じた。

 

とりあえず、明日彼に会ったときどんな皮肉を言ってやろうか。それを考えてから寝るとしようか。

 

 

 

 

『『イッツァブラックフラッグ マザーファッカァァァァァ!!』』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
けたたましい爆音に一瞬で目を覚ます。
なんの音だ?!と、その激しいデスボイスが自分の携帯の着信音だと気付く。
こんな音に設定した覚えはない。

 

…また長門さんのいたずらだな…

 

その中途半端な陰険さに泣きたくなりつつ携帯の液晶を見る。
まだ時刻は午前6時、眠りについてまだ4時間もたっていない。
電話を掛けてきた相手は森さんだった。
「…ふぁ、もひもし。」
「古泉。仕事よ。」
「えぇ?へ、閉鎖空間ですか?!」
「そうよ。」
そんなバカな。
こんなあさっぱらから涼宮さんの精神状態が不安定に?!
原因は?!あの二人のことだ。もしかしたらまた些細なことで大喧嘩でも…
僕が頭の中で色々考えていると…

「ああ、ごめんなさい。閉鎖空間って呼ぶのは正しくないわ。」
「え?」
「正確には、そうね…、桃色空間?」
…それって、まさか…
「ほんっと、若いって羨ましいわ。」

 

ハハハ…そんなバカな

また、またあの空間に行けと?
僕たちにとっては地獄に他ならないあの空間に…
いや、それよりなにより…

あの二人は一体…

「朝っぱらから何やってるんですかぁぁぁぁ!」
「何ってSEXでしょ。そりゃ。」
「ハッキリ言わないでくださいよ!それぐらい分かってます!」

 

とりあえず

 

とりあえず今日の不思議探索では昨日寝る前に考えた皮肉と一緒に、避妊具でも譲渡してやろう。

 

そんなことを考えながら、僕は急いで出動の仕度をするのだった。

 

 

 

「なに無理矢理綺麗に締めようとしてんのよ。」

 

 

ほっといて下さい。

 

 

 

おしまい


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