『明日ですが、お時間頂けないでしょうか?ご相談したい事があります』

 俺は古泉からそんな内容の電話を受け取っていた。詳しくは分からないが、やはりハルヒに関係する事らしい。困った奴だ。今日も今日とて市内不思議探索に繰り出し、そこで見たチンドン屋に、『この時代にあんなのがあるなんておかしいわ!どこかに時間の亀裂があるのよ!』等とほざいていたしな。
 取り敢えず今日は早く寝よう。疲れた。

「おはようございます。お待ちしておりました」
「お久し振りです。おはようございます」
 いつもの集合場所、いつもの喫茶店に入って見えたのは、古泉だけではなかった。
 
 ―橘京子。
 朝比奈さん(みちる)を誘拐した、人間の風上にも置けない、見た目普通の女子高生、しかし実態は古泉の機関に対立する組織の人間。
 恐らくある程度の地位と権限、そして能力を持つエージェント。俺の予想でしかないが、あの森さんの睨みに平然としていた辺り、唯物ではない。おれだったら間違なく泣いて失禁する。
 …失礼、そんな話はどうでもいい。問題は、相反する組織同士、例えるなら項羽と劉邦、武田信玄と上杉謙信、イスラエルとパレスチナのような間柄である二人が一緒にいるなど、正しく呉越同舟だ。
 …この前の漢文の授業の受け売りだ。悪かったな。
 
 さあ、お前ら二人がここにいる理由を話してもらおうか。
「わかりました。既に勘づいているかもしれませんが、涼宮さんのことについてです。そして―」
「―佐々木さん、二人の事についでです」
 二人は交互に話し始めた。
「最近、涼宮さんが団活や市内探索をキャンセルしたり、早めに切り上げたりする事が多くなっていたのはご存じだと思いますが、どうやら、時間の合間を縫って佐々木さんと一緒にいる、という事が分かったんです」
「あたしたちの方も、塾の日以外は一緒に遊んでたりしていたんですが、その回数が少なくなりまして」
 そうか。別にいい事じゃないか。
『そんな単純なことじゃありません!』
 二人の声がハモった。
「二人が持つ能力についてはご存じでしょう?あの二人が親密になると、互いの能力が相互作用し、最悪、世界を終焉させる程の危険な物になる可能性があります!」
「佐々木さんは自分の能力を知っています。それが仇となり、緊急事態になる可能性もあるんです!」
 …そうなのか、よく分からんが。

「では本題です。今から二人を尾行します」
 …何故だ?
「二人が何故よく遭うようになったのかを知るためです」
 別にいいじゃないか。仲良くなりたいだけなんだろ?
『よくありません!』
 またしてもハモるエスパー少年と少女。
「本日二人が遊びに行く場所はすでに調べました。早速ですが、行きましょう」
 …ちょっと待て。何で俺まで。
「あなたは双方にとっての『鍵』です。あなたの行動に世界の運命がかかっているんです!」

 はあ、また面倒事か…




 俺たち三人は店を出て、違う喫茶店に移動した。ちょっと洒落た、女性が好みそうな店である。

『……でね、………よ!』
『…………だ…………ね』
 俺たち三人は軽く変装し、少しはなれた席で二人の様子を見ていた。しかし、何でこの店に来るのが分かったんだ?
「橘さんか調べてくれました」
 古泉が言った。髪の毛をオールバックにし、バンダナを巻き、黒のサングラスをしている。
「ええ、あたしたちの組織が調べました」
 橘京子は言った。こちらはピンクのサングラスにポニーテール。…くそ、こいつの朝比奈さんにたいする仕打ちは忘れないが、この姿を見てると許容したくなってきた。反則だ。
 因みに俺は、真ん中わけ瓶底メガネである。

「…ちょっと、失礼します」
 古泉は席を立った。橘、何でお前らの組織と古泉の機関が仲良くしてるんだ?
「…それ程、緊急事態なんです。お願いします。力を貸してください!」
 とは言ってもな、誘拐犯に肩入れする気はないぜ?俺は。
「どうかお願いします!力を!」
 橘は叫び、同時に俺の手を握っていた。しかも泣いている。可憐なポニーテール少女が俺に懇願していた。…正直嬉しいが、人目が…

「…なーにやってんのキョン?」
「…おやおや橘さん。こんなところで会うとは偶然だね?しかもキョンと一緒かい?」

 二人の、静寂という皮を被った嵐のような言葉に、俺と橘は凍り付いた…


「…ごめんなさい…」
 橘は青ざめていた。古泉も困惑顔だった。
「…困りましたね…事態が余計悪化しました…」
 ハルヒと佐々木は俺たちをにこやかな顔で、しかし今にも五寸釘を打ち付けるような体勢で一言二言会話を交わし、店を後にした。

「…すみません、バイトが入りました。後ほど考えましょう」
 古泉が出て行った後、橘にも連絡が入った。
「はい…え?うそ…!?」
 どうしたんだ?
「…佐々木さんの方にも現れたみたいなんです…巨人が…」
 …何だって!
「佐々木さんの閉鎖空間は安定しているはずなのに…何で…?」
 橘は動揺していた。
「…もしかして…きっと…あたし…なんて事を…」
 橘はまた泣いていた。大丈夫か?
「…あたし、とんでもない失態をしてしまいました…組織に消されるかも知れません…」
 橘は沈痛な顔で言った。何をやったんだ?
「あなたと手を繋いでいる場面で、佐々木さんと涼宮さんに出くわしたからです…その場面をみた涼宮さんがあの空間を発生させ、その力を受けて、佐々木さんの能力も相互作用を受けたんだと思います…どうしよう…」
 困っているポニーテールの橘は、朝比奈さんクラスの可愛さを発揮していた。よく分からんが、事態を収めなきゃいかんのだろう?手伝ってやるさ。
「…ありがとう…ございます…」
 橘は上目遣いをして俺に謝礼をしてきた。やばいってその目は!
 とは言え、どうすればいいんだ?

「取り敢えず、あたしたちも行って見ましょう」
 どこへ?
「閉鎖空間です。佐々木さんの」




 というわけで、何故か俺も付いて行くハメになった。何故だろう?
「…ここから入れます。さあ、一緒に来てください」
 というか俺を無理矢理手を引っ張る橘。…到着。セピア色の閉鎖空間の中で、神人が暴れている。ハルヒの神人とは違い、佐々木の神人は赤味がかったオレンジ色に光っていた。
 ただし、行動は変わらない。辺りのビルや建物を手当たり次第破壊していた。
 …これがハルヒの能力が感染した結果か、実は最初から持ってましたなのかはわからないが。
「さ、頑張って倒せ」
「どうやるんですか?教えてください」
「お前らは『解ってしまう』んじゃないのか?」
「そうなんですけど、何せ初めての事ですし、どうやればいいか…」
 さあ困った。俺こそどうやればいいかわからん。いいや、テキトーに言えば何とかなる。
「…念じるんだ。あいつを倒すと。そして飛ぶんだ」
「…わかりました。やってみます」

 橘は目を瞑り、念じていた。彼女の周りから白いオーラが放出し始める。
「で、できました!」
「よし、飛んでみろ!」
「いきなりできるわけないじゃないですか!」
「強く念じて、あいつに体当たりをかますようにするんだ!」
「は、はい!」
 白いオーラが強くなった。そして浮かび始めた。
「よし!行けるはずだ!あいつを倒して来い!」
「やってみます!とりゃあ~!」
 橘はみるみる神人に近き、そして…

 ゴツッ、ビューン、ズサササッ、ゴチャ

 …神人にはたかれ、戻って来た……お帰り……

「…た、ただいま…じゃなくて、うそつき…」
 ガセビアに出て来る女の人みたいなセリフを吐く橘。…嘘を付いたつもりはないんだがな。っていうか、丈夫だな。お前…
「…佐々木さんで、慣れてますから…」

 …不憫な奴だ…何か可愛そうになってきた。
 …一旦退却しよう。古泉が戻って来たら、対策を教えてもらった方がいいな。
「…わかりました。その方が良さそうですね。では、手を握ってください」

……………

「もう結構で……」
 ん?橘の声がフリーズしたぞ?どうしたんだ?

「あっらぁ、キョン。またまた偶然ねえ。デートのお邪魔だったかしらね。デートの。まあ、手まで繋いじゃってぇ。やるわねぇ、キョン」
「くくくっ、君達は本当に仲が良さそうにデートをしてるねえ。デートを。橘さんも普通の趣味をもっていたわけだ」

 阿吽の呼吸のごとく、二人が堰を切った。全く、いいタイミングで出くわすものだ。よりによって、手を繋いでいる時かよ…
「いえ、あの、これは…」
「…お前らが考えているようなことはしていない」
「べっつに、いいわけしなくてもいいわよ?デートでしょ?デ・エ・ト」
「その状況を見れば、デートという言葉以外、僕の思考からアウトプットされるものはないんだがね。デ・エ・ト・い・が・い」
 二人はやたらと『デート』を強調してきた。二人の声は妙に優しい。しかし、腹の中にどす黒いものが渦巻いているようだ。

「…橘。古泉は残業で遅くなりそうだぞ?」
「…ごめんなさい…」
「まあお前も、これから休み返上で出勤だ。手当て無しのな。始末書がないだけ有り難く思わないとな」
「…ふぇぇぇぇ…」
 涼宮アオダイショウと佐々木マムシに睨まれ、ついでに俺の投げやりな言葉に、橘ガエルは硬直していた。




「…ようやく倒したと思ったら、いきなり復活しましてね…そう言う事でしたか…僕のバイト代、そちらに請求するのでよろしくお願いします」
「…うう…」
 古泉到着後、経緯を話して出た第一声がそれだった。つくづく運の悪いやつである。
「…では、佐々木さんの閉鎖空間とやらに向かいましょう。涼宮さんの影響を受けているのであれば、余り歓迎できるものではありませんからね」
「…はい、お願いします」

……………

「…なるほど、少々勝手は違いますが、基本は同じですね。僕の能力も発揮できるみたいです」
「すみません、よろしくお願いします」
「何を仰っているんですか?あなたが倒すんですよ」
「あたしがですか?無理です!」
「そんなんじゃいつまでたってもできませんよ。さあ、念じてください」
 橘は白い玉になった。
「ど、どうするんですか?このあとよくわからないんです」
「こうですよ…ふんもっふ!」

 ちゅどーん!

「すごい…ストライクです…」
「あなたもやってみてください」
「はい、ふ、ふんもっふ!」

 ぴょん!ぽて、ころころ

『………』
 全員が三点リーダを残していた。白い玉はボーリング、いや、ゲートボールの玉のように転がって行った。
「えーと、ガーターだな」
 取り敢えずどうでもいい突っ込みをしてみる。

「……うわゎああぁぁん!」

「…泣かせたらダメですよ。しかし、これは相当厳しい訓練をしないといけないですね…毎日特訓しましょうか」
「…えー、そんなぁ…」
「あなたのためを思ってですよ。明日の朝から早速やりましょう。あと、この神人は倒しておきますが、請求書をそちらにまわしますんで」
「…あたしのお給料無くなっちゃう…しくしく…」

 嗚呼、悲劇の運命を辿る橘に幸あれ…だが、俺には関係ないがな。




 翌朝、古泉に叩き起こされた。
「今から朝練を開始します。早く来てください」
 何故俺が参加しなければいけないんだ?
「まあ、そう言う日もあるんです」
 …絶対嫌がらせだ。訴えてやる!でもどこに?

 そして日も明けてない時間、俺は学校近くの河原に到着した。
 …で、何をするんだ?
「まずは、基礎体力をつけるため、ランニングです」
 そーか、頑張れよ。俺は寝てるからな。
「あなたもやるんですよ」
 なんでやねん!
「あなたもこれから閉鎖空間に入るのが多くなると、神人に狙われる機会が多くなりますしね」
 入らなければ良い話だ。
「それは困ります。あなたの都合だけ考えないでください」
 お前らも自分達の都合しか考えてないじゃろが。
「ま、とにかく特訓です」
 …こいつも大分ハルヒに汚染されてきたな…

「ペースが落ちてますよ!もっと早く!」
「はい!コーチ!」
「あなたも!早く!」
「だから俺は関係ないだろ…」

 ってなわけで、古泉コーチの元、特訓が始まった。俺は一切合切関係ないはずなのに…



 10kmマラソン終了…もうやだ帰る。
「…コーチ!次お願いします!」
「橘さんはやる気十分ですよ。それなのにあなたは不甲斐ない…」
 だから、俺は関係な…やめた、古泉はハルヒ病にかかっている。説得しても無駄だ。やれやれ。
「次はこれです!」
 古泉は取り出したDVDを再生していた。てか機材はどこから出て来たんだ?
「こ、これは…わかりました!がんばります!」
 橘はひたすら頑張っていた。エアロビみたいなもんか?
「それがお前の本気か?やる気あるのか?」
 古泉が檄を飛ばしていた。
「Hiiiー!!」
 橘は意味不明の掛け声をかけていた。
「…よーし、よくやったな」
「ありがとうございます!」
 …なんだ?この展開?
「知らないんですか?ビリーズブートキャンプですよ。橘さん、これを一週間の間、毎日やってください」
「はい!わかりましたコーチ!」
 …なんだか初目的忘れてないか…


一週間後…


「聞いてください!ウエストが5cm、体重も3kg減りました!」
 …で、神人は倒せるようになったのか?
「あ…」

 やっぱり、こいつを助けるのは止めようかな…




「…えーと、前回は目的を忘れていました。今回から真面目にやりましょう。さて、いよいよ実践に入ります」
「いよいよ訓練の結果が試されるんですね!お願いします!」
 ランニングとビリーズブートキャンプしかやってないだろ。
「しかし、困りましたね。涼宮さんの今閉鎖空間は発生してないんですよ」
「佐々木さんの閉鎖空間はずっと発生してますが、神人は今のところ出てきません」
 …聞いちゃいねえー。
「余り気は進みませんが、仕方ありません、涼宮さんに電話しましょう」
 古泉はハルヒに電話した。

「古泉です。…実は、大変申しにくいんですが…実は……で…して…を……やってたんですよ…ええ、……はい……いや、彼も健全な男子生徒なのでっ!!……切れました」

 …一つ聞いていいか?どんな内容を話したんだ?
「…それはちょっと…。…明日は仲直りしてくださいね」
 こら待て!ある事ないこと吹き込んだのか!言え!吐け!
「ぐ、ぐる゛じい゛でず…」
 はーっ、はーっ、はーっ。
「…わかりました、言いますよ。あなたと橘さんが、二人っきりで暗い場所で、激しい運動をしてたようだ、と言ったまでです」

 …おい。
「聞き耳をたてたら、『ほらほら、限界か?』『…はぁはぁ…まだ…いけます…』『もっと開いて!』『ああんっ!苦しい!』『 これはどうだ?』『い、痛い!優しく…して…』『はあはあ…いっぱい出たな…』『…すごい…まだ出てる…』と言ってるではありませんか!」
 …………。
「お二人のビリーズブートキャンプの実況だったんですがね。体の堅さや、止まらない汗を二人の会話を元に伝えたんですが、何故か涼宮さんの声が震えましてね、携帯を握りつぶすような音が聞こえて、切れてしまったんですよ。僕は事実を少しアレンジして伝えただけなのですが…」
 …一つ言っていいか?古泉。
「何でしょう?」
 お前、自分の首締めてるぞ?
「!」
 そして橘、なぜお前は赤い顔をしている?
「…あたしたち、そんな関係だったなんて……責任、取ってくださいね…」
 お前も、自分の組織に刺されるぞ?
「!」

「…えー、さて、首尾よく閉鎖空間が発生したようですね。ではいきましょう」
…好きにしてくれ…

 ……………

「では特訓の成果を見せる時が来たようですね」
「はい!コーチ!見てください!」
 橘は走り出した。神人に向かって。
「とおりゃ~!」
 そして肩をつきだした!
「特訓の成果です!京子覇極道!!」
 なるほど、ひたすら走ってたのはこの威力を増すためのものか!
「行け!もう少し!」

 ばこぉ~ん!

 …神人に打ち返された。まるでインディアカの羽のように舞い上がった…
「…う、うそつき…」
 くどいようだが、誰も嘘は付いていない。
「もっと肩に力を込めるんです!」
「はい!コーチ!」
 なんだかなあ…

「では次の必殺技を見せてやりなさい!」
「行きます!ほぉあ~!」
 これは!ブートキャンプ!どうやら無駄ではなかったようだ!
「Hey!神人!それでお前は本気なのか!?やる気ないなら止めちまえ!」
『………』
「利いてますよ!橘さん!」
 そうか…?あきれてるだけに見えるが…
「キック!キック!パンチ!パンチ!」
「いけます!その調子です!」
「さあとどめだ。ちぇすとぉ~!」

 ガゴン!

 …倒れる橘。脳天にネリチャギを食らったら痛いだろうなぁ。
「…よーし…よくやった…グッジョブ…」

お前がグッジョブだよ…




「昨日はすみませんでした。橘さんとは敵対関係にあるので、少し痛い目にあってもらおうと思いましてあんなことを…」
 古泉は珍しく俺に謝罪していた。あの古泉の嘘電話のせいで、ハルヒの機嫌を直すのに大変だったんだ。結局、古泉が罰ゲームであんな電話をした、ということで何とか事を納めてくれた。ただし、『キョン、壊れた携帯、弁償しなさい!新機種でいいわ!』とはハルヒの談だ。…なぜ俺が弁償しなければならない?とはいえ、代金は機関が全て払ってくれるらしいがな。俺も今の携帯が古くなったところだ。交換しよう。もちろん代金は機関持ちだ。

 そして、ハルヒとの待ち合わせ場所に行った。元凶且つ財布でもある古泉も誘ったが、『ご同行するなんて恐れ多い…』とやんわり断られた。

「遅い!罰金!」
 やれやれ。またか。
「くくくっ、涼宮さんはなかなかファニーな性格で羨ましいよ」
 …おい、なんでお前もいるんだ?佐々木?
「佐々木さんも機種変するんだって。代金はもちろんあんたも持ちよ!さ、キリキリ行くわよ!」
 何で佐々木の分まで…機関に請求してやる。

 携帯ショップに到着し、女性二人は携帯選びに没頭していた。
「あら、こっち可愛い!このマスコットキャラ!面白い!あ、でも、ワンセグとおサイフケータイの機能がないわね…」
「こっちはスリムでスマート、かつファンクショナルなデザインで精錬されたイメージだよ…」

…ハルヒと佐々木は物珍しそうに、携帯をキャピキャピいいながら品定めしていた。以前、橘と出くわした時のようなオーラは感じられず、二人とも普通の女の子であった。こうやっておとなしく女の子っぽくすれば二人ともモテるだろうに、勿体ない。取り敢えず今は二人の感情を苛立たせない事にしよう。おとなしくさえしていれば両手に花状態だ。

「…決めたわ!これにしましょ!キョン!あんたはこれよ!」
 ハルヒは俺の携帯まで選んでくれた。何と三人とも同じ機種、そして色違いであった。俺はパールブラック、ハルヒはワインレッド、佐々木はアクアブルーである。…何で全員同じ機種なんだ?
「その方が楽でいいでしょ?」
何が楽なんだ?
「操作法が同じだからね。隠し事をしてても操作が一緒だとそれができなくなるのさ」
 …こいつら、俺の携帯を逐一チェックする気か?暗証番号でロックしないと…
「暗証番号でロックしても無駄よ。所詮4ケタしかないんだし、一万通り全て試すから」
 …こいつらと一緒に機種変したのを今更ながら後悔した。もう遅いが。
「そんなに頻繁に見ないから大丈夫よ!今までもそうだったし」
 ってことはたまには見てたのか俺の携帯を?こいつら。
「くっくっ、疚しい事が無ければそんなに心配しなくてもいい」
 するわ。お前らストーカーか?

 …さて、どんなに文句を言っても聞く耳持たないので、黙って機種変が終わるまで待っていた。
「お待たせ致しました」
 店員に言われ、新機種を受け取り、簡単な説明を受ける俺たち。店員さんが、『皆さん同じ機種なんて、仲がいいんですね。ふふふ』と言ってたが、実際は違うんで。
「…そういえばお客様、先ほど設定中にメールが来ておりましたので、一度ご確認された方が…」
「そうね、確認しようかしら」
「その方がいいね。彷徨える小羊を助けるのも僕たちの仕事だ」
 そう言っ二人は携帯を取り上げた。
「あ、いえ、そちらの男性のお客様の…」
「知ってるわ。だから確認するの。また別の女の子に手を出して無いか確認するのよ」
 …おい、そんな根も葉もない事を大声で言うな。店員を始め、他の客すら俺を生暖かい視線で見てるじゃないか!

「さあて、誰からかしらね…………!!!」
「どうしたんだい?涼宮さん?…………!!!」
 二人が硬直した。

 二人は沈黙していた。…少し震えてるか?
「……キョン、これ、何……」
 ハルヒは俺の携帯画面を見せた。


 ♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂


 FROM:橘京子
 TO:キョン君
 TITLE:☆お疲れ様でした☆

 昨日は、私の我儘の為に付き合ってくれてありがとう(*^_^*)
 ごめんね?私初めてだったから迷惑ばかりかけちゃった(ToT)
 痛かったょー(>_<)けど、未経験な私の為に優しくしてくれて嬉しかったわ(U^ェ^U)
 我慢して最後まで頑張ろうと思ったんだけど、あまりにも激しかったから、途中で気絶しちゃった…ごめんねm(__)m

 これからも宜しければ突き合って下さい。お・ね・が・い(^з^)-☆Chu!!



 ♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀


 ……………

 俺たち、いや、ショップ中が静寂に包まれた。

 …橘、よりによってこんなタイミングでメールをよこしやがって…。しかもなんつー誤解しやすい内容なんだ。極め付けは『突き合う』って何だ。普通に変換しても出ないぞそんな漢字。

『…キョン…』

 二人の、妙に冷たい声が聞えた。寒気を感じているのは、どうやら他の人も同じようだ。二人を除いて。

「これはいったい…」
「どう言うことかしら…」

 あー、そのー、だな、今からゆっくり説明するから、落ち着いて聞い…

 バキン!!

 俺の新品の携帯が、折れた。

「ええ、ゆっくり聞きましょう。場所を変えて」
「時間はたっぷりあるからね…」

 二人とも、あの時の森さん級の目線で俺を睨んでいた。二人だと効果は2倍どころか、累乗されるらしい。…直接向けられていない親子連れの客、その子供たちが泣き出した。俺も泣いていいかな…

 二人に引きずられ俺は店を後にしようとした瞬間、
「お客様、故意による破損は全額お客様負担になりますので…」

 …俺は、機関に携帯4台分の代金、橘の組織に慰謝料とこれから負うであろう怪我の治療代を請求しようと決めた…




「…ご、ごめんなさい…」

 橘は俺と古泉に平謝りをしていた。あの後やっぱりわき出た閉鎖空間と神人の退治に駆り出されていたからだ。
「…全く、いい加減あなたにも神人を倒せるようにしてもらわないと行けませんね」
「…ごめんなさい…」
 橘はひたすらごめんなさいを繰り返している。とはいえ、どうするんだ?もう少しまともな方法で鍛えないといけないんじゃないのか?
「そうですね。体力ももちろんですが、橘さんは精神を鍛えた方がいいですね」
「…あの、精神を鍛えるとは、やっぱり滝に打たれるとか、丑の刻参りとかですか?」
 滝はともかく、何故丑の刻参りで精神が鍛えられるんだ?
「それもいいですね」
 いや待て違うだろ。
「ですが、今はもう少し簡単かつ効率のよい方法をしましょう。それは、煩悩を断つ事です」
「…え?、ぼ、煩悩なんて…あたし、まだそんな経験…」
 顔を赤らめて言う橘。
「…多分、あなたが考えている煩悩はある意味断つべきなんですが、それではありません。食欲、特に甘い食べ物に関してです」
「………まさか!」
「あなたには暫く甘い食べ物を断ってもらいましょう」
「ふえぇぇん!古泉さんが苛めるー!あたしの唯一の生き甲斐を剥奪するなんてー!!」
 俺にしがみついても何も出ないぞ。橘。まあ頑張れ。
「ううっ…いじわる…」

 ―あれから一週間程過ぎた。橘は元気でやってるのだうか?

「…こんにちは……」
 …橘か?何か痩せたな…まだキャンプインしているのか?
「…いいえ…あれはもうやってません…甘い物、特にスイーツを古泉さんに止められまして…好きな物を食べられないストレスで痩せていってるんです…」
 たった一週間食べないだけでそんな痩せるのか?
「一週間で7kg痩せました……ブートキャンプと併せて10kgですよ……ははは……おかげで今年の夏はボディーラインが気になりません…」
 一週間で7kgとは、ブートキャンプも驚きだ。てか、スイーツを食べないだけでそんなに痩せるのか?
「…佐々木さんの相手をしてたり、あのやる気ない二人をフォローしてたりしたらストレス溜まりますよ。そのストレスの解消でスイーツばっかり食べてましたから」
 溜まったストレスと、スイーツ自身食べなくなった事による体重減少か。ただ、あまり痩せ過ぎるのも良くないな。今度見事に神人倒せたら何か甘い物買ってやるからな。
「本当ですか?ありがとうございます!京子頑張ります!!」
 ―正直、ちょっとかわい…いや、何を言っているんだ俺は?

 更に一週間後。というわけで閉鎖空間だ。今回は佐々木のだ。ハルヒはトンデモ能力があり、そちらの神人の方が優先されるため、佐々木の神人は後回しにされるらしい。

「橘さん、分かってますね?これでダメならお手上げです」
「…はい、この日のために生死の境を彷徨うような修行をして来たんです。必ずやってみせます!」
 スイーツが食べれないだけで生死を彷徨うとは…

「見て下さい!あたしの生まれ変わった力を!」
 瞬間、橘が眩いに光に覆われていた。以前のような、頼りない光ではない。神々しいくらいに光っていた。
「煩悩を断った事により、精神力が格段に向上したんです」
 古泉の解説が入る。あれだと期待できそうだな。

「ジェラートアタック!」
 良く分からん必殺技が、神人にヒットした。効いているみたいだ。
「まだまだ、ポキポキポッキー!!」
 新人の腕をポキッと折る橘。そういえば昔そんな歌あったよな。
「これで決めるわ!ザッハトルテクラッシュ!」
 橘の白いオーラが神人に襲いかかる。そして神人は音もなく崩れ去った…

「やりましたぁ!びくとりぃー!」
「お見事です。橘さん」
 …よくやったとは思うが疑問が残る。何で技名はお菓子の名前ばっかりなんだ?
「スイーツ禁止に対しての欲求不満が爆発したのでしょう。スイーツを食べれない恨みを身近なもの、つまり神人にぶつけているんです」
 なるほど。だが一つ矛盾があるな。
「何がでしょうか?」
 お前、『煩悩を断つ』ためにスイーツ禁止したのに、あいつの頭の中は煩悩だらけじゃねーか。
「………結果良ければ全てよし!です」

 ……あっそーですか。

 …次々と神人を薙ぎ倒し、破竹の快進撃を続ける橘。『ピーチスフレビーム』やら『ストロベリーパフェサンデーシュート』やらよく分からん必殺技が多いが。

「よくやりました!最後の神人です!」
「…が、がんばります!」
 とはいえ、橘も疲れているようだ。技にもキレ(?)が無くなっていた。

「…えーい!…とりゃー!」
 白いオーラは弱々しくなり、次第に防戦一方になっている。頑張れ!あと一匹だ!
「はい…京子がんば…きゃっ!!」
 こちらを振り向いた瞬間、神人の攻撃を食らってしまった!大丈夫か!
「大丈夫…です…」
「橘さん。貴女はよくやりました。正直、一人で複数の神人を倒すなど、僕にでもそうそうできません。もう休んで下さい。最後は僕が倒しますから」
「…いえ、最後までやります…コーチ…最後までやり切って、修行を乗り切った事になるんですよね…」
「…しかし…」
 古泉、やらせてやれ。あいつの目は死んじゃいない。…まだやれるな、橘。
「…はい!」
 よし、行け!

 …そして橘は再び向かって行った。とはいえ、かなり疲労と憔悴が見られる。橘はやったりやられたりを繰り返している。そして、再びダウンした…

「…はは、やっぱりあたしはみんなに迷惑をかけてばっかりで…ダメですね…」
 橘から諦めと自己嫌悪の言葉が出始めていた。…そんなことない。お前はよくやったよ。
「でも、最後の最後で、皆さんにご迷惑をかけて…」
 そんなことはない!
「…あたし、この仕事向いてないのかな…」
 いかん、完全にやる気を失いかけた。
 
 …橘、俺は神人を倒せたら甘い物を買ってやるって言ったよな。こうしよう。最後の一匹を倒せたら、デパ地下にある有名店のプリンアラモードを奢ってやる。どうだ?
「…え…?…本当…です…か…?」
 ああ本当だ。だから最後まで頑張れよ。

「はい!京子がんばります!」

 神々しいまでのオーラが復活した!
「キョン君のためにも…コーチのためにも…そしてなにより、プリンアラモードために、あたし、勝ちます!!」
 橘は神人に向かって飛び出した。

「橘流禁断奥義!プリプリプリンカタストロフィックア・ラ・モード!」

 ぐごごごごご………
 神人が、白く眩いオーラに包まれ、そして消えていなくなった。

 やったな。橘。
「…ううっ!ありがとうございます」
 泣かなくてもいいだろ。
「…これで一人前ですね」
「…はい。コーチ」
 やれやれ。これでめでたしめでたしか。じゃあな。
「…あ!あの約束、忘れないで下さいね!」
 何だ?
「とぼけてもダメですよ、プリンアラモード、奢っていただけるんですよね?」
 …ちっ、覚えてやがったか…




 しまったな、何であんな事約束しちまったんだ…あのプリン、一日限定50個だからな。なかなか手に入らないんだよ。
 この前、ハルヒの機嫌直しのために買ってやったやつがあるんだ。あれを何とかして貰うことにするか…ハルヒ怒るだろうな…

「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」
 す、スマンハルヒ。どうしても欲しくなってな…
「あんた!あれ限定生産品なのよ!!なかなか手に入らないのよ!!どうしてくれるの!!」
 わかったよ。また今度買ってくるから、許してくれ。
「三つ分よ」
 なんで!?
「食べ物の恨みは三倍返しに決まってるからじゃない。そうだ!今から行きましょう!これから佐々木さんと会うし、ちょうどいいわ!」
 もしかして、佐々木の分も奢れと?
「当ったり前じゃない!それが雑用係たるあんたの仕事よ!さ!行きましょう!!」
 悪い、今日は予定があるんだ。明日な。
「…まあいいわ。明日。必ずよ。今日はあたしも帰るから、これにて解散!」
 そう言って、ハルヒは帰って行った。

 …ふう、やれやれ。なんとか誤魔化したか。これをあいつの元に持って行かないといけないな。俺は可愛らしい包装がしてある、プリンアラモードを抱え、橘との待ち合わせ場所に向かった。

 俺は急いで待ち合わせ場所である公園に向かった。ハルヒを説得するために少し手間取ったからな…

「ぁ、キョン君…」
 すでに橘はいた。遅れて済まなかったな。これが例の物だ。
「ありがとうございます。開けてもいいですか…?」
 ああ、見てみな。
「…すごい…これ…本物……うっ…ありがとう…ございます…あたし、大切にします…ううっ…」
 泣くなよ。これからが大変なんだ。頑張ろうな…
「…はい…こちらこそ、よろしくお願いします」
 ああ………うっ…!!!!
「どうされましたか?」
 いや、言い様のない寒気が襲ってきてな………またこんな場面をハルヒ達に見られたら大変だ。早々に別れた方がいいな。
「そうですね。神人を倒すのは結構大変ですし。佐々木さん達に出くわして面倒な事になっても困りますからね。それでは」
 ああ、またな。

 ―同時刻、公園の茂みの中―

「…ねえ佐々木さん、今の出来事を説明して頂けるかしら?」
「…そうだねえ、キョンが可愛らしい小箱を橘さんにあげて、中身を確認して泣き出した。そして『よろしくお願いします』といってたね」
「……ということは、やっぱり……」
「あれしか考えられないよね……」
「…ふふふふふふふ」
「…くくくくくくく」

『あのアマ、いてまうで!!!』

「ひえっ!なんか凄まじい障気が……」




「…橘さん、ちょっといいかしら?お話ししたい事があるの」

 あたしが彼と別れた後、突然声をかけられました。…涼宮さん、そして佐々木さんに。

 あたしは二人と一緒に近くの喫茶店に入りました。そしてあたしはオレンジペコーのティーを注文しました。二人が注文したのは何故かブラッディーマリーでした。…それお酒ですよ?高校生が飲んじゃいけないと思います。
『黙りなさい』
 ひぃ!!……なななななんですか?ものすごくどす黒いオーラを感じます……

『………………』
「……あの、お話って……なんでしょうか………」
『………………』
 注文を頼んでからずっと不気味な沈黙です。恐怖心が離れません。

「……橘さん……」
 …と思っていたら、ようやく佐々木さんが口を開けてくれました。助かりましたぁ。
「…橘さん。さっき、誰と会ってたんだい?」
「へぇ?…あ!…あの……」
「…正直に言ってね?橘さん?」
 やっと喋り出したと思ったら、涼宮さんは古泉さんの機関の女性よりよっぽど怖い笑みをしてました。
 …その笑みは、『言わなかったらいい死に方しないわよ?』と言ってました。間違ないです。
 あたしはあまりの恐怖心に耐え兼ねて、正直に答えることにしました。

「…あの、キョン君ですけど……」
「ほほぅ、橘さん。あなたはいつの間に『キョン君』なんて呼び合う関係になったのかな?私が知っている限り、橘さんは少し前までキョンとそれ程仲が良かったとは言い難い関係だと思ってたのに……くっくっ」
 佐々木さんも負けず劣らずの笑みです。ただし、満面の、ではなく、引きつった、ですけど。

「……え、えとですね……最近、ちょっとした相談ごとでキョ…彼にお世話になっていたもので……」
「ふーん。何の相談かしら?二人っきりですること?」
 涼宮さんの目線がピリピリします。室内なのに日焼けしそうです。
「…い、いえ、決して二人きりというわけじゃ……」
「…じゃあ、あたしたちが相談に乗るわよ?女の子同士の方が相談しやすいでしょ?」
「…へぁ?それはちょっと………」
「何でよ!?二人きりの秘密じゃないんでしょ?」

 …間違いなく怒ってます。キョン君も古泉さんも凄くタフです。あたしがこんな涼宮さんと毎日毎日付き合ってたら廃人になっちゃいます。
「…は、はい……あの…」
「くくくっ、橘さん、正直に話した方が身のためだよ?私も涼宮さんも、あなたに行方不明になって欲しくはないからね…」
「あああのあの、ゆくゆゆ行方不明って………」
「…いやね、橘さん。冗談に決まってるじゃない」
 冗談は言葉だけでした。二人とも目付きが冗談じゃありません。

「…あの、えーと、うー……あぁ!あの、ダイエットの相談をしてたんです!」
『ダイエット!?』
「は、はい。最近ちょっと太り気味だったので。おかげで10kgも痩せました。ウエストも50cmジャストになったんです!今年はビキニが着れますよ!」
 よく思いだしたあたし!えらい!!今日のMyご褒美にタルトタタンを買っちゃおう!
「…そういえば、橘さん、随分痩せたみたいだね…」
「そ、そうなんです!彼が色々ダイエット方法に詳しかったので、教えてもらったんです!」
「……でも何でキョンがそんなダイエット方法知ってるのよ?そんな話一度も聞いた事ないわ!あたし!!」
「涼宮さんに同じく。橘さんの話には幾つかの矛盾点が見られるのも事実だね。第一それこそ女性同士の秘密にこそすれ、異性間での秘め事にする理由ではない」
「…もしかして、さっき、ビキニがどうとかという話が出てきたけど、もしかして二人で行くために、今からプロポーションを整えようとしているんじゃないでしょうねぇ?」
「ああ、多いにあり得る。キョンの卑猥な性質を見事に見抜いている。橘さんはなかなかの策士だね」
「そ、そんな事考えてません!」
 何でこの二人はそういう部分だけ目敏く突いてくるんですか!何言ってもヤブヘビになっちゃいます!

「…本当でしょうね?嘘だったら…どうなるか解ってるわよね…?」
「ひ、ひゃい!ひょ、ひょんとうでしゅ!!」
 あまりの恐怖に声が裏返り、ろれつが回りませんでした。
「…まあいいわ。…本題よ。今日何していたの?キョンと?」
「悪いとは思ったけど、全て見せてもらったよ。キョンから何やらプレゼントをもらって、嬉しそうに泣いていたわよね。橘さん?」
 また二人の目線があたしの皮膚を焼き始めました。今日は日差しが弱かったので日焼け止めクリームを塗ってません。失策でした。でも二人の目から放出されるそれは、SPF50+、PA+++の日焼け止めクリームでも防げそうにありません。
「あの、あれは……プリンです」
『プリン?』
「ええ、デパ地下の限定品のやつですよ。彼が、『ダイエットばかりしちゃ体に毒だから、たまには食べろ』って頂いたんです。あたし甘い物が好きなんで、ちょっと嬉しくて感極まって……って、…どうしたんですか涼宮さん?」
「………それ、あたしのプリン………キョンが買ってくれた………」
 えええええええ!!
「………なるほど、つまりキョンは涼宮さんに買ってあげたプリンを、橘さんのためにプリン所有権を剥奪したというわけか……」
「…え…あの……あたしそんなこと知らなかったので………あ!、か、返しますね、これ………」
「いらないわ……」
「…え………」
「……あなたの……ものよね……そのプリン……」
「…あの…すすす涼宮さん……」
「……………」
 涼宮さんは黙って俯いてしまいました。もしかして今、あたし=超極悪非道下手人ですか?

「…どうやら…これは…」
「…交渉……決裂ね……」
 ええっ?交渉決裂???立ててはいけないフラグを立てちゃったのかな……?いや、折ったと言うべきなのかな………??




「…実は、君にも私たちのが交わしている条約に調印してもらおうかと思っていたんだ」
「…条約…ですか……?」
「…そう。条約の名は『涼宮-佐々木不可侵条約』、略してSSNAPだ」
「…なんですか…それ……?」
「…正直に言おう。私は中学の時からキョンに恋愛感情を抱いていた。だけどなかなか素直になれないし、ましてや『好きです』なんて言えなかった。努力してそれっぽいことを匂わせても彼はあのとおりの鈍感男だ。恋仲は発展しなかった。高校が別々になることを気にいい加減忘れようと思った。しかしそんなこともできないくらい虜になっていたようだ。全く、重大な精神病にかかってしまったよ。…初めて涼宮さんとあった時、私と同じものを感じたよ。全く同じ事で悩んでいる、ってね。女の勘かな。…話をきり出すまでは勇気が必要だったけど、その事を話したら、直ぐ打ち解けたよ」
「…お互いライバルにはなるけど、結論はキョンにしてもらおう。抜け駆けは無しにしようって決めたの。お互いが知ってる情報を共有し、キョンと出かける事になったら、片方を呼んで絶対三人で行動する。公平な立場になろうって決めたのよ」

「…なるほど、だから不可侵条約ですか。近頃二人が良く一緒にいるのはそんな理由があったのですね」
「…最近、あなたもキョンの周りに良く出現するようになったし、やたらと仲がいいみたいだし。ずっと気になってたのよ」
「我々も負けじと努力してみた。…でも橘さんの方が一枚上手だったようだ。キョンのハートをしっかり掴んでいる…悔しいけど」
「…あの、あたしそんな仲じゃ…」
「…無理しなくていいわ。逆にその気がないけど、キョンはあなたに夢中ってわけね。…腹立たしいけど」
 …えーっ、そうだったんですかー。キョン君、あたしの事が好きだったなんて…ちょっと照れるな…
『マヌケ面』
「ええっ!?」
「でも、あたしは諦めないから。キョンはあたしが振り向かせて見せるから」
「涼宮さんに同じく。まさかキョンが橘さんを好きだったとは心外だったよ。驚愕に値する」
「と言う訳よ。キョンとの進展が無くて、困ってるなら皆で共闘しようと思ったんだけどね」
「橘さんは既にかなりリードしている。しかもキョンの気持ちも向いているようだ。交渉は決裂した。だから、私たちは宣言しよう。あなたに」
「…な、何をですか…」
「キョンは渡さない。いえ、奪って見せる。つまり―」
 

 ―二人は、声を揃えて言いました。


『宣戦布告よ!!』




「……………」

 あたしは返答に困っていました。お二人に勘違いベストアワードを進呈したいです。あたしたち、何でそんな仲に見えたのでしょうか?
 せいぜい、手を繋いでいるところを目撃されたり、勘違いされやすいメールを見られたり、プレゼントを渡されるのを盗み見られたり…
 …ごめんなさい、絶対勘違いされる内容ばかりでした。これで気付かないのは彼くらいです。

 でも、本当の理由を告げる訳にはいきません。特に涼宮さんには。
 だからと言って肯定したらそのまま臨戦態勢、否定しても『キョンのことは遊びだったの!?』等と言いそうな勢いです。
 せめて佐々木さんだけでも理解してくれると思ったんですが、キョン君のことになると見境がつかないみたいです。…どうしよう……。

「…わ、あたしなんかに、キョン君はもったいないですぅ……お、おおお二人の方がお似合いです…ょ……」
 一番平和に事を終わらせそうな言葉を選んで喋ってみました。でもやっぱり声が裏返ってました。

『……………』

 二人とも沈黙していますが、『フカシこいてんじゃーねよ、このアマ!!』って表情をしていました。

 …えーん、どーしよ…誰か助けて下さい…!

「おや、皆さんおそろいで。友情を確かめあっているのですか?」

 …何と言う幸運でしょう!神様仏様古泉様の登場です!…神様はずっと前からあたしの横にいましたけどね。
「こ、古泉さん!いや、奇遇ですね!!どうしたんですか!!」
 違う意味で声が裏返ってました。古泉さんに頼る他ありません!何とかうまく対処お願いします!古泉さん!
「いえ、バイト関連でこの辺に用事がありまして。皆さん集まっていたので何事かと思いましてね…」

 あたしは今の状況をかいつまんで説明しました。古泉さんなら分かってくれるはずです。あたしを助けてくれます。

「…そうでしたか…あの時はダイエットのため運動してましたよ。確かに。僕もその場に居ましたから。メールに関しても、プリンに関しても、彼と関係を持つためではありません」
 古泉さんはあたしのフォローをしてくれてます。二人のどす黒いオーラが徐々に消えていくのが分かります。

『……………』
 でも、二人とも完全には納得してないようです。やっぱり自分の好きな人が、自分以外の異性と仲良くしてたら嫉妬します。あたしだって、普通の趣味の女の子だもん。

「…しかし、お二人が彼の事をね…。涼宮さんについては何となく分かってましたが、佐々木さんもでしたか…いや、これは失礼。しかし、素晴らしい友情です。あやかりたいものです」
「…古泉君、絶対キョンに喋っちゃダメよ…」
「…このことは他言無用でお願いしたい…」

 二人とも口止めを要求してきました。何とか、事を納められそうです。
「ええ。もちろん。ですが、お二人はまだ完全に橘さんとの確執が解消されてないようですね。お二人の秘密を一方的に知る訳には行きません。橘さんの秘密を教えましょう。…いいですよね、橘さん?」

「へ…?、あ…?、どうぞ…?」
 あたしの秘密?何でしょうか?…古泉さんがニヤリと笑いました。なんか嫌な予感がします。

「実はですね。橘さんは男性に興味はないんです。女性にしか靡かないんです」

『ええーっ!!!』
 涼宮さんと佐々木さん、勿論あたしも声を上げてしまいました。誤解です!あたしはノーマルです!何と言われようと!
「昨日も同じ高校の後輩に告白され、愛を育んでいましたから」
「……橘さんは、確か女子高…よ…ね……」
「そうですけど…いや、あの、その…」
「そうそう、橘さん仰ってたじゃないですか。『彼と仲良くすれば、佐々木さんに加えて涼宮さんもアプローチするチャンスがあるわ!彼女たちとの禁断の愛は楽しみね!』と。だから彼に接近したのですね。いやはや、奸計ここに極まれりですね」

「………ご!ごめんなさい橘さん、あたしたち勘違いしてたわ。キョンとそんな仲じゃなかった訳ね。ホントごめんなさい!そ、それじゃあ!」
「お、お元気で!できれば永久に!」

 ・・・・・・

「いや、うまくいきましたね。これで彼と二人っきりになっているのを目撃されても閉鎖空間は発生しませんし、あなたもお二人に睨まれる事はなくなりましたよ」
「……うわぁぁぁぁん!!」
「おや?何故泣いているのですか?」
「二人に睨まれなくなるのはいいですが、今度から目を合わせてくれませんよー!!」
「まあまあ。仕事が楽になってよいではないですか」
「……………」

 …今更思い出しましたが、古泉さんとは組織同士対立しているんです。
 今日の報復として、キョン君に『古泉一樹はガチホモ』と耳打ちする事を決めました。

 ―これが後に、あたしたちが同性愛者だといわれるきっかけになったんです。

 ……やれやれ……やだ、似てないですね。


後編に続く


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