風は相変わらず吹き乱れていた。

雨の方は、さっきよりまた少し強くなったようだ。


ハルヒの顔を覗き込んだまま、動作が止まってしまった。
考えても見ろ?あの強情唯我独尊世界の中心で自我を発散しているハルヒが、今は俺の隣で最上級の寝顔を披露しているんだぞ?
これがどういうことかわからないくらい頭の回転が悪いわけではない。
少なくとも嫌われてはいないだろう。 初めて出会った頃には、想像もしなかったポジションにかれているってことは自覚している。
だからってやっていいことと悪いことがあるよな?
自分の気づかないうちに唇を… その キス…されていたなんてこと、あまり気持ちがいいもんでもないだろう。
そもそも俺はハルヒのことをどう思ってるんだろうか。
今 沸き上がってる情動は、"美少女が目を覚まさない"という状況に押されてるだけなんじゃないのか……?
脳内俺がグダグダ会議を始めて数分、
ーーーーーー自分の身に何が起こったのかわからなかった。


首に回された白い片腕、微かな熱気、     触れる、唇。




『遅いわよ。』

完璧に思考が停止した俺に向かって、小さく そう言い放った。
暗闇の中で、しかも顔もあげずベッドの背もたれにちょこんと座り直している。

『おい…』
『顔 見たら殺すわよ。』
まぁ 暗くてちっとも見えないんだけどな。
だが、繋いだ手は異常に熱く火照っていた。これはどっちの体温なんだろうか? あるいは二人分の……

『いつから…起きてたんだ。』
『人の頭、勝手に撫でといて起きないとでも思ったの?  なんか恥ずかしくて起き上がれなかったし、服も直せなかったわよ。』
……死にてぇ。誰か、縄とか梁とか用意してくれ。
『その後もなんかじーっと顔見てるだけで…ちょっと怖くて  で でもね 少しは覚悟……してたのよ?それなりに。  あんたも一応、男子高校生だし うん えっと……  したいのかなって…。』
『そんなこと言って、本当にやってたらお前…』
『殴ってたかもね。』
セーフ 俺。
『そこまで踏ん切りつけられるほど人間できてないわよ。
   けど 見つめられてる空気とね、律儀に握ってくれてる手とか…  優しい声とか思い出してると、頭の中がキョンでいっぱいになっちゃって。
 そうしたら…… 我慢できなくなっちゃったのよ。』
……。


『あ あんたが悪いんだからね!  あと1秒待ったらもしかしたらキョンから…とか 考えちゃったんだから!
 あたしだって恥ずかしかったのよ 当たり前じゃない!』
そこまで言うとハルヒは黙りこくった。


 あぁ 今日ほど自分がバカだと思ったことはないね。
結局、ハルヒが行動を起こしてくれるまで、ハルヒの気持ち…どころか自分の気持ちすら気づかなかったなんて。
もう 答えはとっくに出てたんじゃないのか?
世界で一番笑っていてほしい女の子。そんな考えで自分にフィルターをかけていただけだ。
それが好きだってことに気づくのが、今だったなんて あまりにも遅すぎたんだ。


下を向いたままのハルヒの顔をあげさせて、おそらく赤いんだろうな、熱を持った頬に触れた。
『遅くなって悪かったな。ハルヒ。』
『遅刻… 罰金 ううん いいわ。今日だけ特別。』

笑うハルヒ。俺はちゃんと笑えているだろうか?
情けないことに、さっきから涙が込み上げてきいるんだ。 泣き顔を見られる訳にはいかないよな。


ハルヒと唇を重ねて、こぼれ落ちそうな涙を隠した。




そのまま、朝までゆっくり眠った。
もちろん 手は離していない。
だけど、さっきと変わったのは、2人が向かい合っているということだ。



いつのまにか、雨も風も カミナリも止んでいた。



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