今日の食卓はいつもより品数が増えていて、若干豪華に見えた。
『お味噌汁もポテトサラダもみぃんなハルヒちゃんが作ってくれたのよー。手際もいいし完璧ね!』
もう下の名前で呼んでいる。たいした信頼感だ。
『さぁ キョン!妹ちゃん!お腹やぶけちゃうくらい召し上がれ!!』
ハルヒも料理中にすっかり母と意気投合し、猫っかぶりも控えめだ。
『おいしーぃ!お母さんのよりもおいしいよっ』
実際ハルヒの料理は美味かった。それもかなり。
なんていうか家庭的それでいて無駄がなくかつとろけるようにまったりと…
…すまんボキャブラリーが無くて。とにかく美味い それは保証する。
さっきから一口食べるごとに「どう?おいしい?」的な視線をびんびん感じるが、脅されてる訳じゃない、よな?
『これなら毎日ハルヒちゃんに作ってもらいたいわよねぇ?キョン君。』
ベタなネタをふるな母!賛同するな妹!睨むなハルヒ!怖さ3割増だ!!
流石のハルヒも「こんなヤツの飯炊き係なんてゴメンよ!むしろあんたがやりなさい!雑用団員なんだから!!」
と家族の前で罵倒する気はないらしく、机の下で俺の足をケリケリするくらいにとどめている。だが知ってるか?そこはかの弁慶も泣いたと言われるくらい痛い場所で……痛い。


その後も、俺達がどういう学生生活を送っていて、いかに有意義な青春真っ盛り中なのかを談笑を交え、明るい雰囲気で発表している。
ありがたいことにSOS団の方針云々はケント紙並のオブラートに包まれて会話がなされているので、母に面倒な疑問は抱かせずにすみそうだ。
もっとも 代わりに話題のタネになっているのは、俺が遅刻常習犯であったり、朝比奈さんのメイドコスにニヤケ面をさらしながら日々を生きている等という恥ずべき行為大全集だったりする。

ちょっとは美化とかしろ!俺にだって立場ってもんがあるんだ!!

『いつも集合場所で待っている私達を気づかって飲み物を振る舞ってくれるんです。』
おぃ!お前が奢らせてるんだろ!それは美化じゃねぇ 虚言だ!
などとツッコムこともかなわず、そのまま姦しい会話を続けて下さいと白旗を揚げた。





俺達は夕食を済ませ、後片付けを手伝い、今度は各種テレビゲームを部屋に持ち込んだ。
と言っても俺が所有しているゲームのほとんどはRPGであり、1人用のものなので、
始めはおもしろがってザコキャラを切りまくっていたハルヒが、しまいに
「あと3秒でボス出てこなかったら死刑よ!」と言い出したのは規定事項であり、時間の問題だったのかもしれない。
早々に飽きたハルヒはレベルもロクにあがらないままで妹にバトンタッチした。
さらにラスボス登場に時間がかかることになりそうだ。

外は相変わらずの雨、カミナリもさっきよりは遠のいているが、いつ落ちてもおかしくない膠着状態が続いていた。
ときおり強ばった表情を見せるハルヒはいつもより少しかわいかった。
さすがに騒ぎ疲れたのかベッドに腰掛けてただ窓の外を見ている。
『ねぇ 明日の不思議探索…できるかしら?』
さぁな。 天気予報では明日も雨だってよ。カミナリの方はわからんが。
『もしも明日も外 出れなかったらまた泊めてくれる?』
一瞬---すごく真剣な顔をしたハルヒがいた。
まるで、この世の行く末が俺の回答に詰まっているかのように。
『お前は永住する気か。勘弁してくれ。さすがに俺もクラスメイトとドキドキ☆1つ屋根の下!
なんてエロゲ的展開を黙って現実にできるほどの理性は持ち合わせてない。』
『じょ 冗談に決まってるじゃない。何 考えてんのよエロキョン!』
エロキョンはよせ。限りなく紳士な対応で欲望の壁の前で体育座りしている俺に向かって。
冗談…とは思えないくらいの目を見ちまって、なんていうか気まずい…というか その
恥ずかしさが勝ってしまった俺は、はぐらかして逃げてしまった。このチキン野郎。
だが実際、外見美少女から「泊めて」と言われて気の利いた言動ができるヤツがいたらその術をご教授願いたいね。
雨はやみそうにも無かった。


いわゆるゴールデンタイムには、落ちモノゲー大会、アルバム披露+「全然変わってないじゃない!あんた真面目に生きてんの?」という失礼な疑問を向けられたりと、
これといって困るようなことは起きず夜は更けていった。
まぁ 途中で「エロ本チェッーク!!」とか言い出してヤツがベッドの下を漁りだしたのには焦ったが、
それは全力で阻止した!いや 高校生にもなってベッドの下を隠し場所としている男はまずいないだろうが、敢えてベッドのゴールキーパーとなることでヤツの意識を定着させたのだ。
結果、やましいもんは見つからずにすんだオーライ。
っつかお前はもし古泉の部屋に行くようなことがあったら同じことをやってくれるんだろうな?その時はベッド以外の捜索をおすすめしとこう。


ハルヒと攻防戦を繰り広げている間、妹のことをすっかり忘れていた。
ふっと見るとコントローラーを握ったまま眠りこけている。画面にはゲームオーバーの文字が浮かんでいる。

『母さんの部屋で寝かせてくるよ。お前はこいつの部屋で寝たらいい』
コントローラーから離れない指をひっぺがしながら妹を抱きかかえた。
『…うん』
『どした? あ…そうか』
『怖くないったら』
ならそんな目で見つめてくれるな。勘違いしちまうだろうが。
ハルヒの肩肘はって、でも弱気になっているみたいなカンジがどうしたらいいのか惑わせる。
『怖くなったらこっちにくればいい。』
『はぁ!?あんた何言って!!!』
『冗談に決まってんだろ。 何考えてんだエロハルヒ?』
『なっ! うるさい!なんでもないわよ!』
俺のみぞおちにいい拳をいっぱつ入れて「もう寝るんだから!あんたこそこっちこないでよ!」
とかなんとかブツブツいいながら妹の部屋に入っていった。
これでよかったんだよな?いや いいも悪いもないか。
窓の外を見ると、さっきは少し回復していた天気がまた悪い方向に向かっているのがわかった。
音こそ小さいが、時々空が明滅している。ハルヒは大丈夫なんだろうか?

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