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あくまでも殺人とは即興曲のようなものだ。
確かに一部は計画性はあれど、いざ本番という時期になると計画通りに行くとは限らない。
例えば、標的が右に行くと思って右の道に待ち伏せていたらその時だけ左に行くという場合もある。
そう、それはまさにカデンツァ。血のカデンツァ。鉄の臭いがする即興曲、ね。
 
             Arakawano Coco Umeshiba著「殺人における情景描写」より
 
雄猫だった少女 ~永久ニ君之唄~
 
                       魔女夜会章 第二話「Kadenz des Blutes」
 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・。
 
「ん・・・・・・」
ずっと、眠っていた気がする。どれぐらいだろう。
俺は時計を見たいから起き上がりたかった。だが、どうもそれはままならぬらしい。
何せシャミセンが俺に抱きついて眠っているんだから。
「すー・・・すー・・・」
今はそれはもう朝比奈さんやハルヒに負けず劣らずの可愛い女の子。
抱きつかれていて平静を保つことに凄く精神を削っている。
素数を数えたってどうしようもないぐらいだ。
あぁ、もう・・・半開きの唇が・・・。誘ってる?誘ってるんだよな?
 
妄 想 が 止 ま ら な い ! !
 
じゃあ・・・キスぐらいなら、別にいいよな?だって、あれだ。うん、飼い猫とのスキンシップだし。
って自分を正当化したって世間の目はごまかせないぞ!!
そうだ!これはれっきとした犯罪だぞ!!
「・・・・・」
とりあえず抱き返してみた。
んー、人の温もりの抱き枕。なんだか知らないが結構落ち着くもんだな。
「・・・そういや、阪中大丈夫かな・・・」
俺と関わる人間は例外なく今まで酷い目に合っている。
今回は阪中が怪しいと見るべきだろう。あとは、佐伯か?
ただ佐伯より阪中が俺としては気になる。何でかは知らん。
そういや、ハルヒはどうなったんだ?あいつ、最近学校で見ないぞ。
・・・って、この前SOS団全員でハルヒの様子見たばかりじゃねぇか。生きてる生きてる。
と、突然シャミセンが目をぴくりと上げて物凄い速さでクローゼットに飛び込んだ。
シャミセンは人前に出ないようにと俺は厳しく言い聞かせている。
という事は、誰か来るのか。
俺のそんな予想を裏付けるようにそれからしばらくしてドタドタという音共に俺の部屋が開かれ、
「キョンくん電話だよー起きてー」
と妹が飛び上がって起きているのにボディプレスを叩き込んできた。
「ぐぎゃっっ!」
腰にジャストミート!!かなり逆方向に曲がった。
こ、これは・・・うがあがあああがああああ!!!
痛いなんてものじゃない。死ぬかと思った。マジでマジで。チョベリバ?って感じか。古いな。
俺は呻きながら渡された電話を受け取った。
「誰?」
『私、阪中なの』
「あぁ、お前か・・・どうしたんだ?」
『・・・佐伯さん行方不明だって』
暗い調子で阪中の声がそう言った。
もうここ数日連続して起きる事件に慣れてきた俺ではあるが、やはり強い衝撃を受けた。
「・・・行方不明・・・?」
『うん・・・何だか、不安なのね・・・。キョンくんは、大丈夫だと思う?』
「・・・解らない。けど、大丈夫だと信じたい」
『うん・・・そうなのね。・・・大丈夫かな、私達は』
「・・・大丈夫さ。俺が手出しさせない」
『クスッ・・・頼もしいのね。じゃあ、また学校で。ごきげんようなのね』
「あぁ、またな」
電話を切り、未だに近くに立っていた妹に電話機を渡した。
だが、渡されても動かずしばらくぼうっとしていた。
「どうした?」
その様子に思わず問う。
「なんでもない・・・かな、かな」
酷く曖昧に我が妹は答えた。その顔は何処か不審な事があったかのようだった。
それも、今まさに居るこの部屋。俺の部屋に。
キョロキョロと目を動かして部屋の中を探っている。
 
まさか、シャミの事がバレたか?
 
いや、それはない。あぁ、ないさ。こいつに限ってそんな事があるわけがない。
我が妹はとことこと受話器を片手に俺の部屋を出て行った。
出て行く際に一回、振り向いてから。
一体何がどうしたというのだろう。兄としては心配である。色々とな。
しばらくしてクローゼットからそろりそろりとシャミセンが顔を出した。
「ご主人様、ご主人様の妹様の様子おかしかったですね。心配ですにゃ」
「あぁ・・・なんだろうな」
俺達は首を傾げた。
 
 
<SIDE SAIKI>
―――五時間後。
 
何があったのかは覚えていない。けど、何をされたのかは覚えている。
痛みに耐え忍んでいたのを覚えている。腕を千切られたのを覚えている。
それで何か知らない人に助けられて、それでここに連れられて。
・・・確かホームレスだったっけ。あの人。何か学校から取ってくると言ってから随分経つけど。
こんなところに生活の痕跡があるという事はあの人は長く此処に居たという事なのか。
 
―――ぴちゃん・・・ぴちゃん・・・・・。
 
水が染みた服が冷たい。ここはどこだろう。
とにかくふらふらとしながら立ち上がる。
学校から何か取ってくると言った以上、学校は近い。そして水を管理している所。
片腕は無く、その断面図を醜く晒している。これでよく生きているなと思う。
外に出ると。そこは学校のプールの横。つまりはプールの管理室だった。
「っ・・・職員室に行けば、誰か居るかな・・・・・」
ふらふらとしながらも、私は何とか学校へと向かう。
辺りは夜。学校は電気が消えて暗い。だけど、職員室には電気が点いていた。
私は事務室前の扉を開ける。夜間でもそこだけは開いているから。
と言うよりも、学校内に入るためには事務室を通らないといけない。
だけど誰も居ない。事務室の奥に居るのだろうか。
「すいませーん・・・」
私は、呼ぶ。片方しかない手で事務室の窓を叩てみた。
だけど誰も居ない。事務室に居ないという事は皆職員室か。
それとも見回りの時間なんだろうか。それはないか。
とりあえずフラフラになりながらも職員室へと向かう事にした。
今は、助けが欲しい。
そして、私は、職員室の扉を開けた。
 
―――ガラッ
 
刹那。その光景に私は呆然とした。と、同時に後悔した。
一瞬何か理解出来なかった。簡単に理解出来るのに。
ただ、理解したくなかった。それはただの幻想だと思いたかった。
時間が経つに連れて、嫌なのに理解していく頭。それと同時に私の頬が引きつっていく。
「い・・・い・・・」
駄目だった。恐怖が限界だった。
口が勝手に開く。
「いやぁぁぁぁああああああああっっっ!!!!」
職員室に居た、いや、”あった”のは
             
天井からぶら下がる無数の惨殺された首吊り死体だった。
 
何本もぶら下がった死体は窓から入る風でゆらゆらと揺れている。
皆一様に血を滴らせて、職員室の空気を血の匂いで充満させていた。
首に巻きつくのは沢山の”イト”。
電話線、毛糸、縄、ビニールロープ。髪の毛が長い女性教師は己の髪で首を吊っていた。
「いやぁぁぁっっ!!やぁああああああっっ!!」
私は恐怖の限界を超えた限界に理性を失って揺らめきながらその場から走り出した。
この学校に居ること事態が無理だった。
恐怖?もはやそんなものではない。それ以上に異常というものから逃げていた。
事務室が見えてきた。
錯乱しながらも私は先程とは違う事に気付く。
 
・・・窓が、紅い。
 
私は立ち止まった。近付くのが怖かった。
「・・・・・・・・・・」
急に冷静になってしまって、今の状況の異常さに気付いた。
職員室から警察に連絡すれば良かった、なんて考えたりした。
だけど、
 
―――ずるっ
 
「!!」
上から音がした。この上は職員室。
 
何かが、居る。
 
もうそうゆっくりとはしていられない。だけど、慎重に。
私はゆっくりとゆっくりと事務室の窓に近付いた。
紅い。窓がただ紅い。
「はぁ・・・はぁ・・・・・」
息が荒くなっていく。
窓はやはり紅い。その中に、白い点が見える。
「はぁ・・・はぁ・・・・・」
それを凝視する。
 
それと”目”が、合った。
 
「―――――!!」
 
「―――――!!」
窓一面に乱れ飛ぶ血と肉、臓物の中にへばりついていた白い点。
 
眼球。
 
眼窩から何らかの理由によって飛び出した眼球がへばりついていたのだ。
もう悲鳴も上げられない。何も考えられない。
「ひっ・・・」
私は、その時、ゆっくり近付いている気配に気付いた。
思わず後ろに行きそうになった視線を前に戻す。
 
怖い。見たくない!見たくない!!
 
だけどそれは叶わない願望だった。だって後ろを見ずとも前を見てしまったんだから。
事務室の紅い窓。そこに映ってしまっていた。
紅い紅い笑顔の少女が。私の背後に居る少女が。
動けなかった。恐怖で身が竦んでしまっていた。
動いて欲しかった。体にただ動いて欲しかった。
でも、動いたのは私の目だけ。私達は窓ガラス越しに視線を重ねた。
狂気が私を見ている。
「ひっ・・・・・!!」
「うふふ・・・うふふふふ、あははははははははは・・・・・・・げてげてげてげて!!!」
狂ったような笑い声が後ろから聞こえて、
それは一瞬だった。
足の感覚が無くなって、血が噴出した。床に倒れた私は何が起きたか解らなくて足を見る。
折れた白い骨が見えた。
「痛い・・・・あがあぁあぁっ!!」
口の中に手を突っ込まれた。
 
―――ぐちゃり。
 
引っこ抜かれた舌が床に叩きつけられた。
口から血が出て、血が出て、血が出て、呼吸が難しかった。
溢れ出る血を飲むか、吐くかしか出来ない。
「苦しい?大丈夫だよ、もう楽にしてあげるから」
少女の顔は、髪の毛で見えない。けど、口元だけは見える。
 
にんまりと、楽しそうに笑う子供のような口元。
 
それが近付いてきて、変な感触がした。体の支えが抜ける感触。
後ろを振り返ると私の背中から重なった骨が無理矢理引っこ抜かれるのが見えた。
背骨だった。
「ぎ―――」
激痛に血で叫べない口で叫ぼうとした。だけど、その前に頭がごろりと転がる感触がした。
それからすぐに、痛みはしなくなった。ただ、意識が遠のいていくだけ。
 
視界の隅。
 
最後の私は中身を撒き散らされている自分の”体”を”見た”
 
<SIDE IMOUTO>
 
―――キョンから電話を受け取って受話器に返した直後。
―――佐伯が絶命する約五時間前。
 
「キョンくん、女の子からばっかり電話がくるー・・・」
もててる感じじゃないのに。わたしのお兄ちゃんだって、安心してるのに。
うー。最近、いつもいつも女の子から電話が来ている。
不安が募るじゃないの。ぷんっ!ぷんっ!
・・・なんちゃって。てへへっ♪でも、嫉妬してるのは本当なの。
大大大大大大大だーーーーーい好きな私のお兄ちゃんだもん、キョンくんは。
「・・・それにしても」
部屋を開けたとき。何故かシャミの雰囲気がした。
わたしの気のせい?でも、確かにしたような・・・あれれ?
「・・・幽霊でも居るのかな」
何となーくそんな気がしてぽつりと呟いた。
 

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