俺の名は谷口、探偵さ!
というような決まり文句を言う推理漫画があるらしいが、残念ながら俺はまだ見たことがない。
そもそも漫画や小説の探偵と、実際の探偵の間には大きな隔たりがある。架空の探偵たちは毎週、毎号のようにさまざまな事件にまきこまれる。なぜか主に殺人事件だ。
実際の探偵は、まあ滅多にそういうことはない。たとえ殺人事件に出くわしたとしても進んで関わり合いを持とうとはしないし、容疑者としてマークされても自ずから真犯人を捜そうと躍起になったりはしない。まともなオツムの一般常識人なら、でしゃばらない程度に、可能な限り警察の捜査に協力して一刻も早く事件が解決するよう祈るだけだ。自分が被害者なら、悪霊となって犯人にとりついてやるくらいのことはするかもしれないが。

そんなわけだから、実際に探偵が職業として機能していくためにはいろいろな要素が必要だ。客のニーズに最大限こたえる才能や、接客マナーの才能、人をひきつけるカリスマ性、営業にむている社交的な才能などなど。
自分の長所は、自分自身では見つけづらいものだ。だから俺が自分にどんな才能があるのかなんてこの場で語るべくもないが、ひとつだけ言えることがある。
俺はこの界隈じゃ、けっこう顔の探偵なんだ。


最近、俺の身の回りでおかしなことがある。前々から妙だな、妙だな、と思っていたが。今ならば確信を持って言える。
依頼がこない。仕事がないのだ。
探偵なんてものは水商売だ。忙しい時もあれば、閑古鳥が鳴くときもある。しかし今まで、これほど仕事がなかったこともない。
もしかして世の中は、俺の知らない間にすっかり全人類が仲良く手を取り合って共生できる平和なラブアンドピースでアヨーヨーヨー的時代に突入したってのか? 俺だけが、チョンマゲ頭で牛鍋屋に入っていく明治時代の武士みたいな時代遅れ者になってしまっているのか? Oh,My God!

なんてね。んな訳ねっての。そりゃ俺だって一触即発の戦時下よりは平和な時代の方がいいと思うが、たとえ困ったことがあっても自分でなんでも解決できるストレスの無いクリーンな世の中なんてまっぴらだ。健康に悪いと分かっていてもファーストフードを食べたくなるようなもんさ。
きっと仕事を斡旋してくれる行きつけのバーで、何かあったに違いない。国木田のやつが怠慢しているんだ。きっとそうだ。そう思い直し、俺はひさしぶりに行きつけのバーへ足を運んだ。

「あれ、キミ知らなかったの?」
あっけらかんとして国木田が言った。
バカ言うな。俺の知らないことなど何もないぞ。新聞は毎日確認しているし、プロバイダのHPもマメにチェックしている。社会情勢だってバッチリ把握している。雑誌は週刊文春の中村うさぎのエッセイからゴシップ誌のガリ版にまで目を通してるんだ。
「キミこの夏の暑さでボケちゃったんじゃない? それともマスコミの情報にばかり頼っていて足下の確認がおろそかになってたんじゃないかな?」
聞き捨てならないセリフじゃないか。俺が身の回りに気を配りそこねてたって言うのか?
じゃあ教えてもらおうじゃないか。この情報収集の権化であるところの谷口探偵が知らなくて、さびれたバーのバーテンダーが知っているという情報を!
「キミの家の近所に、新しい探偵事務所ができたじゃないか。まさか本当に知らなかったのかい?」
ごめんなさい。偉そうなこと言ってすいませんでした。知りませんでした。


いい度胸してるじゃないか。この谷口探偵のテリトリーを無断侵犯してくるとは。
聞くところによるとその振興探偵事務所は俺の住むアパートから、200mほど離れたところにあるマンションの一室に事務所をかまえているという。憎々しいことに、そこは俺の家よりも200mも駅に近いマンションだ。しかもすぐ目の前にコンビニがある。
なにがマンション事務所だ。セレブ気取りなんですか?ってんだ。お前んちよりうちの方がバス停に近いんだぜ。目測で5mは。
俺は眉間にタテジワというものを寄せてみて、問題のマンションの前を通りかかった。最新鋭のセキュリティーポリシーによって建てられたコンプライアンスの塊みたいな建築物だ。

探偵は客商売である以上、接客対応も大事な要素だ。探偵は決して、依頼人よりも高い地位にある人間であってはならない。というか、上から物を見てはいけないというべきか。金品緞子を見せつけては、依頼人を萎縮させてしまうだけだからだな。探偵と依頼人は、依頼人重視の信頼関係を大切にしなければならない。というのが俺の考えだ。
なのにこんな政治的要人が住まうような、瀟洒なマンションに事務所なんて構えやがって。客をバカにしてるのか?
なにから何までもが気にくわない。中でももっとも気に食わないのが、国木田の言った一言だ。
『あそこの事務所やってるのは、キョンらしいよ』

キョン。俺と国木田が共通で知っている人物に、そんな恥ずかしいニックネームの人間は一人しかいない。
俺が専門学生の頃に同期だった、韓国からの留学生、金。キム・ヨン。通称キョン。アジアンテイストでのっぺりした、全体的に覇気の欠ける、地味な顔立ちの男だ。
知り合った最初のうちはけっこう意気投合して、俺と国木田とあいつで仲良くやってたんだが、ある日を境にして俺たちは訣別することになる。
理由は簡単なことだ。お互い哲学的な、心の深い場所で正反対の思考をもっていたからだ。思想の違いというやつだ。

「谷口? 谷口じゃないか。久しぶりだな」
マンションの中から見覚えのある人物が出てきて、俺を見とがめた。
久しぶりだな。キョンじゃないか。何年ぶりだろう。ずいぶんご無沙汰だったじゃないか。
「まったくだ。専門学校の卒業式以来か。懐かしいな。元気そうでなによりだ」
にこやかスマイルでキョンは笑ってそう言った。白々しいやつめ。
「そうだ。谷口、実はさ。俺最近、ここの探偵事務所で働き始めたんだ。ちょっと上がって行かないか? コーヒーくらい出すぜ」
え、マジで? 行く行く。俺コーヒー大好きなんだ。
面白いじゃないか。俺がお前の商売敵と知っての申し出なのかどうか知らないが、俺を中に招き入れるとは。
マンションの中は整然としていた。掃除が隅々まで行き届いているのだろう。よくこんな宇宙人の無菌室みたいなところに住めるな。田沼恋いしきって気分にはならないんだろうか。ならないんだろうな。
エレベーターを降りてキョンに先導されぴかぴかの廊下を歩いていくと、ファッショナブルな門扉の前に行き着いた。
キョンがカードをバーコードバトラーの読み込み口みたいなのにかざすと、乾いた機械音がしてロックが外れた。クレジットカードも持ってない俺にしてみればカードの何がいいのか良く分からないな。
「キョンくん、おかえり」
キョンが扉を開けると、中から瞳の大きな活発そうな女の子が出てきた。2,3回見たことがある。キョンの妹だ。

キョンに促されてイスに着いた俺の前に、キョン妹がコーヒーを置いて下がった。手馴れてるな。おいおいまさかキョン、探偵って妹とやってるのか?
「ああ。人を雇うような余裕はないからな。妹はこっちの大学に通ってるから、よく手伝ってもらってるんだ」
キョンはそう言って高そうなカップに手をつけた。
人を雇う余裕がない? こんな高級マンション暮らしのくせに、どの口がそういうんだ? ああん? 有限会社気取りですか!? お前が余裕のない生活を送っているというなら、俺なんてとっくの昔に赤貧で白骨化してるわ。
それにしても、いいところに住んでるな。ひょっとして、けっこう儲けてるのか?
口の端をひくひくさせながら、俺はキョン妹のいれたコーヒーを飲んだ。うちで飲むインスタントコーヒーなどとは段違いの味と香りだ。
「いや、あまり儲かってはいないな」
嫌味かこの野郎…。俺の仕事を横からかっさらうような真似をしていながら。
俺は無理して笑顔をつくり、「でもこんないいところに住んでるんだろ? それなりの儲けがなけりゃ、やってけないんじゃないの?」と訊いた。
キョンはカップをソーサーの上に戻し、神妙な顔で腕を組んだ。

「谷口よ。探偵は客商売である以上、接客対応も大事な要素なんだ」
どっかで聞いたことあるようなセリフだな。
「探偵っていうのは、客を安心させてやらないといけないんだ。そうだろ? 探偵を頼ってくる依頼人は、困っているから探偵に相談をもちかけてくるんだ。精神的に非常に不安定になっている人も、当然多い。そんな客相手に探偵が薄汚いチンピラみたいな格好で、うらぶれたアパートの一室に住んでいたりしたらどう思う? 不安が解消されるわけがない。こんな探偵に相談するくらいなら自力でなんとかしよう、と思うわけだよ」
「キョンくん、私ちょっと買い物に行ってくるね」
ああ、とキョンは妹に手を振った。

「この仕事をやっていく上でもっとも大事なことは、客との信頼関係をどううまく築きあげるかなんだ。そのために多少無理をしてでも、こういったセキュリティの整った場所に事務所を構える必要があるんだ。清潔で安全、懇切丁寧な対応を心がけていれば、相手も心を許してくれるんだ」
なぜだろうな。俺は一切お前に対して心を許す気にはなれないんだが。
「ところで谷口。お前は今、なにしてるんだ?」
ニコニコ笑顔でキョンが不意にそう訊いてきた。 な に し て る ん だ、 だ と ?
よくぞ訊いてくれた。探偵やってんだよ!!
と、よっぽど言ってやろうかと思ったが、危ない危ない。これはこいつの罠だ。そうに違いない。俺があっけらかんとフレンドリーに「探偵やってま~す!」などと答えようものなら、たちまち邪悪な笑みをうかべ、資本の暴力で獲得したまやかしの仕事量をかさに、お前はダメ探偵だなどといわれのない罵倒を浴びせかけられないとも限らない。そうなりゃいかに俺が温厚な谷口さんでも、プッチンプリンの下面の爪ばりにブチ切れるぜ。
キョンが、俺が探偵をやってるとは知らないという設定でいくのならそれに乗ってやろうじゃないか。俺だってこんなどうでもいい揉め事を起こすのは本意でないからな。
とりあえず俺は無難に、自営業と答えておいた。
「へえ、自営業か。やるじゃないか。青年実業家って感じだな」
キョンはそれからもしきりに俺が何の事業を興しているのか訊いてきたが、そんな誘導尋問に乗る俺じゃない。とりあえず無難に、ネジを作って委託販売する会社を興しているが今は空前の交通機関ブームなので主にバスの後部座席に使用する小型ビスを生産している、と答えておいた。
キョンもそれ以上はつっこんで訊いてくることもなく、しんみりした表情で「そうなのか」と言っただけだった。


無性にムカムカして収まりやまない夜だった。なにがキョンだ。二昔前のアイドルモドキかってんだ。
金をもってるからって金銭にものを言わせて超設備の事務所をかまえるなんて。気づかないふりして遠まわしに俺の主義にイチャモンつけてくるなんて。実の妹に助手をやらせてるなんて!
忌々しい。ナタでも持ってキョン宅に忍び込んでやりたい気分だぜ。まあセキュリティが整っているコンプライアンス設計だから、キョン宅どころかマンション自体に入ることもかなわないだろうが。
俺は昔っからやつが気に食わなかったんだが、今日まさに、俺の考えが正しかったことが証明されたわけだ。やつは気に食わないキザったらしなのだ!

コンビニでビールを3本買って帰路についた。本当は5,6本ほしかったところだが、いかん、金がない。仕事もない。夢もない。
濃厚のむヨーグルトの底にたまった沈殿物みたいにネバネバ愚痴を口の中で反芻しつつ、俺はアパートの前に立った。
「遅い! なにやってたのよ。仕事もないくせに」
朝倉涼子じゃないか。どうしたの、こんな時間に。もう夜だぜ。ははん、分かった。道に迷って家に帰れなくなったんだな。だから仕方なく俺の家に来たが、誰もいないし開いてない。このままじゃ真っ暗になっちゃうよ~、と泣きそうになってたところへ俺が帰ってきたというわけだ。
「頭の中にウジでも湧いてるんじゃない? 違うわよ。せっかくミイラなみにひからびてるあなたに仕事を紹介してあげようと思って依頼人をつれてきてやったのに。やっぱり、今度新しくできた方の探偵さんの方へ行くべきだったかしら?」
え、うっそ、マジで? ごめんなさい朝倉さん。朝倉さま。ちょっとしたお遊びのつもりだったんです。うそうそ。知人とのひさしぶりの再会を喜ぶ時は、ああいう小粋なシャレを言って場を和ませるのが俺の田舎の流儀なの。
朝倉涼子は小さくため息をつくと、まあいいわ。と呟いた。よかった。俺のとっさのでまかせを信じてくれたようだ。
「谷口くん。ひさしぶりね」
鈴をころがすような女性の声が聞こえた。
朝倉涼子が身を引くと、その後ろに小柄な女性のシルエットが見えた。誰だ。俺を知っているのか?
小さな女性のシルエットが前へ踏み出した。アパートの前の街灯の淡い明りに照らされ、ぼんやりとした輪郭が浮かび上がる。
「朝比奈さん……?」
女性は、柔和な顔をほころばせ、にこ、と微笑んだ。




インターホンが鳴りひびく。テレビを見ていた妹の表情が曇り、すがるような目で兄を見た。
「大丈夫だ。お前は、部屋にもどってなさい」
キョンはそう言い、テレビを消した。あまり妹に心配をかけまいと軽い口調で言ったつもりだったが、妹もインターホンを鳴らした相手とその目的は知っている。不安げな顔で、兄を心配するようなことを呟き、妹は居間から出て行った。
キョンは妹が自室に戻ったのを確認すると、玄関に赴き、ドアを開けた。
「夜分遅くに、失礼しますよ」
にやけた顔の男が、遠慮するように玄関へ入ってきた。
キョンは手元にあった客用スリッパを手に取ったが、来客のにやけ顔の男は頭を軽く左右にふってことわった。
「今日は長居するつもりはありません。ここで用をすませましょう」
男は背広の内側から名刺をとりだしてキョンに差し出した。
「営業の……古泉?」
「初めまして。古泉といいます。以後、お見知りおきを」
キョンはうさんくさそうな顔つきで名刺をしまった。どうせ聞こえの良い言葉を並べただけの、でっちあげの名刺だ。名前だって本名かどうか怪しいものだ。
「僕がここへ来た理由は……まあ言わずともご理解いただけると思いますが」
「ああ。十分わかってるぜ」
「では話が早い。率直に言いましょう。あなたの負債は完全に、あなたの返済能力の限度を超えています。こうしている間にも、あなたの負債額は天井知らずで伸び続けているのですよ」
ちっ、とキョンは舌打ちした。
悪質な高利貸しにひっかかってしまった不運が、心の深いところにズキズキと突き刺さる。

「以前も別の者がお話させていただきましたが、なんとかするなら今のうちですよ。いや、今すぐご決断されるべきです。もう、一分一秒の遅れがあなたの人生を大きく歪めかねないところまで来ているのですから」
たとえ話をしましょう。と古泉は指を立てた。
「あなたは第一次世界大戦で勝利した諸国が、敗戦国の一つであるドイツに多額の賠償金を請求した歴史的事実をご存知ですか?」
何が言いたいんだ、とキョンが腕を組む。
「戦争をするには多額の費用や物的資源が不可欠です。それらを補う意味でも、勝利した国は敗戦国に対して賠償金を請求することができる。しかし第二次世界大戦の折にアメリカは日本に対して賠償金などを求めなかった。物資を奪うような要求もなし」
「だから何が言いたいんだ?」
「何故、太平洋戦争でアメリカが敗戦国である日本に、賠償金を請求しなかったか分かりますか?」
いいや。と答えてキョンは嘆息をもらした。

「アメリカが戦争に費やした費用を日本に請求すれば、それは莫大な金額になる。疲弊しきっていた日本には、その支払いに耐えうるだけの国力が無かった。枯渇していた」
「それで?」
「第一次世界大戦でドイツの支払い能力をはるかに超える金額を請求したアメリカに猛反発が起こり、独裁者であるヒトラーが出現した。その前例があるから、アメリカは日本に多額の賠償金を請求できなかったのですよ。日本において第二のヒトラーが出現する可能性がありましたからね。アメリカは日本という国から奪うのではなく、占領して共生をすることにした。おそらくそれは非常に優秀な手段だったのでしょうね。現に今こうして日本は、世界有数の平和な国になった」
馬鹿馬鹿しい。そう言ったキョンの腕を、古泉がにこやかな表情のまま握り締める。キョンは、優男な外見に似合わない古泉の握力にぞっとした。

「我々もあなたに支払い能力をはるかに超えた負債を返済しろ、と迫る気はありません。強引な手段に及んだところで、返済できもしない負債をしぼり取ろうなど、無駄な行動は好まない。それなら別の手段をもってお互いに相応の妥協を図ることが、最良の手段だとは思いませんか?」
あなたは、華僑の生まれだ。古泉が低く呟く。
「国に帰れば、それなりの家と土地があるのでしょう? あなたの負債額には届きませんが、それで手を打つのが最良の方策だと我々『機関』は考えています。我々はあなたの負債の一部を回収できずマイナス収支となりますが、自己破産されて全ての負債を踏み倒されるよりはマシです。多めに見ましょう。それに、このマンションや現在のあなたの所持金などには一切口出ししません。どうです? いい案だと思いますが」
「ふざけるな。国の土地は俺の物じゃない。両親の、祖先の物だ。俺一人の判断でどうこうできるものじゃない」
「ふざけているつもりはないのですが。僕は気が小さいので、できれば荒事は避けたいのですよ。たとえば、あなたのご両親を日本に呼んで、このマンションで一緒に家族水入らずで暮らすというのはどうでしょう? 過去の栄光を追いかけるばかりの華僑なんてやめて、日本でごくごく一般的な上流階級家庭となってみては? その方が幸せな生涯を送れると思いますよ」
なんなら、ご両親の日本国籍も『機関』にてご用意しましょうか。と古泉はつけくわえた。



「キョンくんを、助けてあげてほしいの」
ひさしぶりの挨拶を終えた後、笑顔から一転、朝比奈さんの表情に陰がさす。いや、夜だから周りが暗いってのは別問題だよ。
キョンを? 俺が? なんで?
「キョンくんは、単刀直入に言うと、悪質な闇金融に騙されているの」
高利貸しに? はっはっは。何を言うかと思えば。あいつがそんな金貸しにかかるわけないでしょう。知ってるでしょ、あいつの実家は有名な華僑の金持ち一家なんスよ? やだな、朝比奈さん。俺を騙してかつごうっての? ひょっとして、これもキョンの差し金? ちくしょう!
野郎、専門学生時代の俺たちクラス全員のマドンナであったところの朝比奈さんを使って……なんて卑劣なやつなんだ!
「違うのよ、谷口くん。違うの……。全部、私が悪いの………。私のわがままのために彼は、キョンくんは、実家からの仕送りをすべて断って、自力でお金を稼いで生活してるの」
そっすか? 確かに働いてはいましたけど。

「私と彼がつきあい始めたのは、専門学校の卒業式の次の日から」
なにぃ!? あんにゃろ、卒業式の翌日に朝比奈さんになんてことしくさってたんだ!? パールだ。パール的な物であいつの頭をかち割ってやらないと気が済まない!
「1年前だったわ。私、お酒のいきおいで手に職のなかった彼に対して、言っちゃったの。ああ、なんていうことを言ってしまったのかしら」
ニートは氏ねとか言ったんスか。そんな問題発言もあいつに限っては朝比奈さんの意見が正しいです。気に病むことはないです。むしろ何を言ったとしても、あなたに責任なんてありません。何を言ったのか知らないけど。
「自分の力だけでいきていける、生活力のある人ってステキだな、って言ったら、彼は家からの仕送りを全てストップしてしまったの」
いや、あなたは間違ったことは何一つ言っていませんよ。あの年で親の仕送りに頼っているということ自体が間違っている。あなたは正しい!
「それからドラマ見てて、探偵って格好いいね、キョンくんなってよって言ったら、本当になっちゃたのよ。彼。お金もないのに、金融会社からお金を借りてまで事務所を作って」

……ごめん。言わせて。
あんたら二人ともバカだろ。探偵舐めてるのかよ。



  ~つづく~




<次回予告>


谷口「かったるいから今回で最終回にしようぜ」
朝倉「何いってるのよ。せっかく仕事を紹介してあげたのよ。もっとやる気を出しなさいよ」
谷口「だってさ。なんか、あのバカップルのために危険な橋をわたらないといけないっていうのがさ、なんかこの上なくイヤなわけよ」
朝倉「気持ちは分からないでもないけど、我慢してよ」
谷口「大体さ。なんでそんなこと俺に言ってくるの? どっか別のところに行けばいいんじゃね? 公正取引委員会とかさ」
谷口「あー、醒めるわ。百年の恋も一瞬で醒めるわ。空と君との間には今日もつめたい雨が降る的な気分だわ」
朝倉「ちゃんとしてよ。次回予告にもなってないじゃない。まあ、今まで次回予告通りに話が進んだためしがないけれど」

谷口「次回、このつづき。見てね。それじゃ」
朝倉「こら、ちゃんとやりなさい!」
谷口「うひん! 頭たたくなよ」


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