※ これは 「納涼サプライズ」 の続きですが、続いてません。
   そう思ってみてください。



やあみんな、久しぶり。俺だよオレオレ。俺、谷口。分かるだろ? 合言葉は、おはらっきー。

早速だが、みんなには大事な宝物というものがあるだろうか。どんな逆境におかれようと、どんな辛い出来事に遭遇しようと、これさえあれば立ち直ることができる!ってものだ。
好きな野球選手のサイン入りボールのような物質的な物でも、愛しい恋人のような精神的なものでもかまわない。
俺にはあった。大切な宝物が。しかしそれはある日突然、奪われてしまった。こともあろうに、俺の友だと信じて疑わなかった人物によって、だ。

俺は全てを失った。キョンとの友情も、バイトで貯めた貯金も、朝比奈さんのパンティも。
一度はヤツに復讐を試みた俺だったが、それは虚しいだけの行いだった。ホームセンターでナタまで購入して本格的にテンション上げていたのに、なんだかんだのスッタモンダがあって、俺は復讐することのバカバカしさに気づいたのだ。
大人になった証拠ってことかな。
俺はまた、一から出直す覚悟を決めた。
それはけっこう勇気を要する決断だった。辛いときも悲しいときも、朝比奈さんのパンティは、ただ黙って静かに俺を慰めてくれる白百合のような存在だった。その優しさの庇護を離れることは、苦しい決断だったといわざるを得ない。
しかしこれも、俺が大人の階段をまた一歩のぼるために必要な試練なのだ。そう思い、敢えて俺はキョン妹のクマたんパンツを破りすてた。
もう、パンティは卒業だ。

深夜のコンビニのバイトは実入りが多い分、そのリスクも大きかった。体力的にかなり消耗するし、昼は学校に通っているんだ。眠気との戦いもあった。
だが俺は耐えた。谷口という人間の、さらなる成長のため。これは神が俺に与えた苦行なのだ。この苦難の道をのりきってこそ、見えてくる世界があるのだ。神秘の世界が。
俺は1ヶ月間、ただひたすら耐えた。テストの点数は目に見えて落ちたが、それもいたしかたない。これも俺という好青年が美青年へと羽化するための産みの苦しみというものなんだ。
ここからだ。ここから俺の、人生の逆転快進撃が始まるのだ。


順調だった。バイトで稼いだ金で一時的にブルジョアジーの仲間入りを果たした俺に、ネットオークションで落札できないものなど存在するはずがない。
まさに俺の人生はバラ色だった。誰も俺の資金源にかなう者などいない。ネットオークション見切ったり!
愚かにも時々、この俺さまに向かってくるチャチな庶民がいたが、俺の高額ベットに対抗できるべくもない。向う見ずなザコどもは次々と撃沈していった。
もう、涼宮ハルヒのブラジャーを俺が落札するのも時間の問題だった。

余裕の柔軟体操をしながらオークション終了の時を待っていた俺。もはや、世界は俺を中心にまわっていると言っても過言ではない。
その時、俺の携帯がメールの受信を知らせた。メールか。こんな時間に、誰だ?


   送信者:キョン
   件名:オークションの件
   内容:それで勝ったつもりなのか?w


俺は全身に冷や水をブッかけられたような気分に陥り、急いでパソコンの前にかきついた。
な……なんてことだ。そこには、俺の提示金額をはるかに上回る金額が表示されていた。

入札者のHNは、「Kyon」

俺はふるえる指でマウスをクリックした。
こいつ……一度ならず二度までも! 何故だ!? 何故俺の誇らしい人生にいちいち水をさすマネをする!?
俺がKyonの提示額よりもさらに高い額をベットしても、その3秒後には再びKyonがベットする。最高額入札者は、常に「Kyon」。

Kyon、Kyon、Kyon、Kyon、Kyon!

Kyon!

バカにしやがって!

上等じゃないか。やってやんよ。
俺は汗にまみれた手で、携帯をとった。そして、受信したメールに返信を送る。
決闘だ。今夜、文芸部室までこいや。逃げんじゃねぇぞ。



深夜の学校に忍び込んだ俺は、ふらふらとした足取りでトイレの窓から校内へ侵入した。
あの日。やつの家に忍び込んだ日。俺はジェラシーの塊だった。邪魔さえ入っていなければ。すべてうまくいっていれば。
後悔の念は尽きない。だが、それも今夜までだ。

俺は1年5組の教室に入り、涼宮ハルヒの机からごそごそと体操服を取り出し、身につけた。すこし汗ばんだブルマが心地よい。
覚悟は決まった。この体操服を着ている限り、俺は負ける気がしない。たとえ相手があのキョンでも。
むしろこのまま体操服をもらって帰ろうかという考えも脳裏をかすめたが、それはダメだぜ。これは男と男の神聖な決闘だ。背をむけるわけにはいかない。
俺は自分の衣服を涼宮の机につめこみ、キョンの待つ文芸部室へむかった。
今日。すべての遺恨を絶つ。


「遅かったじゃないか、谷口」
文芸部室では、すでに臨戦態勢のキョンが待っていた。
涼宮の体操服で武装した俺の勝ちはゆるがないだろうと確信していたが、やはりキョンは一筋縄ではいかない男だ。すでに素肌の上に朝比奈みくるのメイド服を身につけ、お茶を沸かしている最中だった。
メイド服にお茶とは。考えたな、キョン。これではブルマの威力も半減だ。
「ちょうどお茶が入ったところだ。早速だが、さあ、始めようか」
キョンはお茶の入った急須を机の上に置いた。急須の口からはほかほかの湯気がたち昇っている。やつの戦意も最高に沸騰しているという証か。

「戦う前に一つだけ聞かせろ、キョン」
「なんだ」
「分からないことがある。何故お前は、そこまで俺の邪魔をするんだ。今のお前の実力をもってすれば、わざわざオークションを使わずとも涼宮のブラジャーくらいわけもないだろう」
「お前がそれを聞くか、谷口?」
「なに?」
「お前に話すことはなにもない。この場で一片のDNAも残さないよう消し炭にしてくれるわ!」


キョンの拳が光を放った。やつめ、本気だな。いいだろう。俺も、もとより手加減するつもりなど毛頭ない。
俺の両手に命の輝きが収束する。今こそ燃え上がれ、俺のコスモよ!
「いくぞ、谷口いいぃぃぃ!」
「こい、キョン!!」


文芸部の部室に輝きが満ち溢れた。

「谷口」

光の中で、キョンと俺が邂逅していた。

「やるな……、お前の……勝ちだ………」
キョンがにやりと笑った。その口元から、一筋の血があふれ出る。

ぐらりと揺らいだキョンの身体が、力尽きたように光の向こう側へと消えていった。
「キョン!」


あたりはすっかり暗くなっていた。文芸部部室の電灯だけが、うつろな光をおとしている。
「キョン、しっかりしろ!」
「谷口……強くなったな。まさか、これほどとは…グフッ」
「キョン……。教えてくれ。何があったんだ。俺の知っている昔のお前なら、あんなことはしなかったはずだ。俺の、大事な心のささえであるパンティを奪い去るなど」
すまなかった……谷口。そういってキョンは目を閉じた。

「……俺はな。お前に、嫉妬していたんだ」
「嫉妬? なぜ。テストの点は俺と同じで人望もあり、女友達もいるお前が、俺の何に嫉妬したってんだ?」
「お前、言ったよな。坂の下の女子高の生徒と…つきあいだしたって」
そうか。キョン、お前、クリスマスの時のことを……。
「違うんだ。違うんだよキョン」
俺はキョンの肩を抱き起こし、言い聞かせるように言った。
「俺……もう、彼女とは別れてるんだ。なんか、言い出せなくてすまなかった」
そうか。キョンはそこのことで…。

キョンはSOS団の3人娘に囲まれてわいわいやってるし、阪中や上級生の鶴屋さんとも仲がいい。女性関係には事欠いていないと思っていた。だがそれは違ったんだな。
キョンは女友達はいても、ただ一人の恋人がいなかったのだ。100人の友達よりも、たった1人の恋人。
それが、キョンの心を嫉妬に染めたのだろう。

「……そうか。もう、別れてたのか」
「そうだ。お前は勘違いしてたんだよ。俺もお前と同じ、ナンバーワンよりオンリーワンに憧れる1人の青年にすぎなかったんだ」
「……すまない。谷口。知らなかったとはいえ、お前には酷いことしちまったな」
いいんだよ。誤解は解けたんだ。

俺はキョンの体を床に横たえた。
「谷口。俺のカバンを開けてくれ。その箱の中に入っているものを、お前にやる」
俺は立ち上がり、パイプイスの上においてあったキョンのカバンに手をかけた。
チャックを開き中をみると、白い箱が入っていた。長細い、長方形の箱だ。
俺は箱をあけて驚いた。そこに入っていたのは、Kyonが落札したはずの涼宮のブラジャーだった。

「キョン、お前……」
「それは最初から、お前にやろと思ってたんだ。すまん。お前に対する償いが、こんなことしかできない俺を許してくれ」
「キョン……。もういいんだよ。もういいんだ。お前は、やっぱり俺の友達だ!」
「谷口」
俺はキョンを抱き上げ、口についた血をぬぐってやった。

「俺たちは友達じゃない。親友だ!」
「変わらない友情に、フォーエバー!」

俺とキョンは、ふたりでブラジャーを握り締めた。
友。それは一生の宝物だ。俺たちは、その意味を深くかみ締め、生涯の友情をちかったのだった。



  ~完~


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