御天照様は頂上から西へ60°くらい傾き、青空は赤みがかかり始めてきた。
先ほど、男の悲しい性を利用した足切りによって、参加者は何と6人まで減ってしまった。
生存者のうち、半数は俺の知った顔で占められていた。即ち、古泉、谷口、国木田である。
コンピ研の連中?さっきまで残ってたが、『ネコミミブラクラレインボーアタック』に撃沈した(長門談)という。
いったい何をしたんだお前がやったんだろうと聞いてみたが『教えない』の一点張りだった。

俺は鶴屋さんに呼ばれ、衣装を着替えるように言われた。
別に汚れても、さっきみたいに濡れてもないですから着替えなくてもいいですよ?
「ダメダメ!もうすぐ日が暮れるし、夜の正装にしなきゃいけないっさ!」
俺は鶴屋さんが用意してくれた燕尾服に着替えた。その上、白い手袋とチーフまで用意されていた。

「ハルにゃんも今頃イブニングドレスに着替えているっさ!!キョン君に併せて化粧直しだよ!めがっさ楽しみだね!!!」
なぜ俺とハルヒの衣装を合わせないといけないとか、なぜ二人とも正装じゃないといけないとか、色々言いたいことがあるが、
鶴屋さんはハルヒ同様、俺の意見に回答するという選択肢は持ち合わせてないようだ。
「有希ちゃんもみくるもスーツで正装だよ!二人にもドレス着せたかったけど、今日はハルにゃんが主役だからね!」
長門や朝比奈さんこそドレス姿を見たいのだが、鶴屋さんは以下略。

「いよいよ試練も佳境、クライマックス、起承転結の転だねぇ!」
ハルヒは人数が少なくなって来たため、予定を繰り上げて最後の試練にすると言っていた。
しかし、いったい幾つの試練を遂行する予定だったのだうか?今日中に終わらせてくれるんだろうな
「キョン君が最後の砦、メインの最終試練試験官じゃないのかい!?頑張ってハルにゃんの気持ちに答えてあげなきゃダメにょろよ?」

しまった。すっかり忘れてた。七夕の前日、ハルヒが発言した言葉を。


『あんたを使った試練も考えてあるわよ』


俺は今日、ハルヒの試練に散々巻き込まれていたが、それは本日付でハルヒからの試練参加の辞令があったからである。
今日以前のハルヒは、全ての試練に俺を使うのではなく、一つか、せいぜい二つくらいしか考えてなかったと思われる。
そして、俺を使った試練は未だ巡り合わせていない。鬼ごっこは本来、鶴屋家のボディーガードがやるはずだったからな。
もちろん、俺は他の試練、先ほどハルヒがボツにした試練で使う予定だったのかもしれない。
だが、鶴屋さんは異様にカンがいい。こんなことを言ったからには、最後の試練は俺絡みになるんじゃないか仕方ない、気合いを入れて頑張るか。

しかし、俺は何故、ハルヒの彼氏選びのために気合いを入れないといかんのだ?
そして気合いが入ってしまうというのはどうしてなんだろう?調子が悪いのか?俺。


「みんなお待たせー!おやおやおゃぁ?人数も大分少なくなってきたねっ!ハルにゃんは浮気癖があるのは嫌いなんだから、ここに残ったみんなも重々気をつけるんだよ!」

それから数分後、鶴屋さんの案内により試練が再会された。俺とハルヒはステージ奥のパーティションの裏で待機中である。
鶴屋さんの号令の後、パーティションが開き、スポットライトが点き、ハルヒが最後の試練を言い渡すという算段になっていた。
先ほどの鶴屋さんの宣言通り、長門と朝比奈さんは赤い蝶ネクタイをした、黒のスーツに身を包んで鶴屋さんの横にいた。
そしてハルヒは白のイブニングドレスを身に纏っていた。見た感じウェディングドレスのような衣装だ。
先ほどと違い、髪をアップに纏めあげ、首、腕、手首等はダイヤモンドやプラチナの飾りで覆われていた。主役と言わんが如く。
ハルヒ、その身に着けている宝石類、一つでもなくしたらエラいことだぞ。
学校の建物敷地備品教師の給料、全て合わせてもおっつかないんじゃないのか?気をつけて扱えよ?

俺がが何よりも気になるのは、ハルヒの衣装が、昼間よりも露出が大きいことだ。
背中はもちろん、肩、鎖骨は殆どが露になっている。特筆すべきは前方のV字カットの大きさと深さだ。
切れ目はだいたいみぞおちあたり、そこから肩にかけて布は(もっと高級な素材かも知れないがよくわからん)鋭角な二等辺三角形をなしている。
これは本当に正装なのだろうか?俺はまだ高校生だし、ハルヒも同様で、高校生の正装は本来学生服である。
本物の正装を身に着けた女性を身近で見たことはないが、こんなに露出が大きいものだろうか?
鶴屋さんなら知ってるだろうが一般的高校生は知らないのが普通だと思う。
そして、知らないことをいい事に俺とハルヒは騙されているんじゃないかと言うパッションがわき出てくる。

わかった。俺が何を言いたいか、ストレートに言おう。
ハルヒの衣装は露出が過大であり、つまり、横から見てると、その、輪郭が見えるんだ。
仕方ないだろ?ハルヒをは横にいるんだ。ハルヒを見るとどうしても目に入るんだ。
朝比奈さんを見慣れているせいか、普段のハルヒからは想像できないくらい大きくみえる。
こいつは着痩せするのだろうか?こうゆう衣装で、比較対象がなければ、朝比奈さんとタメを張れるんじゃないかと錯覚す

「何見てんのよ。スケベ」

ぬかった!ハルヒに気付かれた!!
「またこんなところばっかり見て!あんた、あたしがブラしてるかどうかみてたんでしょ?」
ハルヒは自分の胸の谷間を指差しながら嬉しそうに俺を尋問していた。どうやらさっきの事をまだ根に持っているらしい。
仮設ステージとはいえ、照明はパーティションで区切られており、日光が俺の背より遥か高い位置から入ってくるのみで、少々薄暗い。
とはいえ、人や顔の判断もできるし、ハルヒが指差した胸の谷間もよく見える。
先に言ったとおり、横目から輪郭が分かるくらいの光は射しているってことだ。
ハルヒが指差す部分には、特には何かをつけているように見えない。
もしかして今回は本当にノーブラか?いやいや、パッドくらいはしてるだろう。第一なんでハルヒは俺にそ

「教えてあげるわエロキョン。今回は正真正銘、ノーブラよ!」

ハルヒは自分のそれを持ち上げ、放した。ゴム鞠のようなそれは、持ち上げられると軽く押しつぶされ、横から軽くはみ出し、放すと同時に揺れていた。
そして、ハルヒの言ったことが正しかったかの如く、はみ出した部分から、それを覆うものは見あたらなかった。

ス、スマン、分かった!俺が悪かった!止めてくれ!!
「あらぁ、キョンって以外と恥ずかしがりやなのね。スケベなくせして!」
薄暗いとは言え、見えるんだよ!お前のその輪郭がどう動いているかくらいは!
「ふふーん。よ~く見てるじゃない。ほれ!ほれ!ほれ!」
ハルヒは俺が何もしない事を悟ったのか、さらに同じ事を繰り返し、その上大胆な動きに出ていた。
ハルヒは肩からドレスを外し、さらに胸を露出させてきた。
上半分は生まれたままの状態で、下半分は手ブラでドレスを抑え、俺に迫って来た。
「ほーれほれ!どうよエロキョン!あんたはこうゆうのが好きなんでしょ?でもこんなに誘ってるのに手が出せない純情なボ・ウ・ヤ!あはははは!」


俺は何かがキレたようだ


「いい加減にしろ!」


俺はパーティションに両手をつき、ハルヒに覆い被さるような体勢を取った。
ハルヒは俺の両腕の中で、手ブラをしたまま固まっていた。
「俺だって男だ。あんまり男を挑発するなよ。調子に乗り過ぎると、お前の大事なものが、俺に奪われることになるぜ?

……………
ハルヒはパーティションにもたれかかり、俯いて沈黙を保っていた。

一応言っておくが、俺は本当にプッツンしたわけではない。調子に乗っているハルヒを戒めるためにこんなことをしたんだ。
さっきキレたと言ったのは、ちょっとした演技、冗談だ。お願いだ。信じてくれプリーズ。

…………
ん?ハルヒが何か言い出した。だが声が小さすぎる。
ぃぃ……奈良……4揚げる………
またしても意味不明なことを言い出した。何だ?奈良で餡を4回揚げる?揚げ饅頭でも作るのか?

おい、ハルヒ
俺がそう言おうとした瞬間、



ガラガラガラ


突然パーティションが開いた。

そして、ハルヒと俺はステージに倒れこんだ。


咄嗟のことだったのだが、俺はハルヒの後頭部がステージに打ち付けられる予感がした。
それを回避すべく、俺は両腕でハルヒの頭を抱え込んだ。

…………!!」
ハルヒが何か喋ったかもしれないが、俺の全神経はハルヒの頭を守ることで精一杯であった。


―――
最初に目に入ったのは、俺の下敷きになっていたハルヒだった。
頭を守ったためか、うずくまるような行動は見せていない。
ハルヒは呆然と俺の方を見ている。両肩からドレスが外れているのを直そうともしない。


安心して、俺は前を向いた―――


―――
そして、鶴屋さん、6人の参加者、全員が視界に入った。みんな硬直している。



………キャー!!!誰かーっ!たすっ、助けてー!!!」


その沈黙を打ち破ったのはハルヒの悲鳴だった。

さて、ここで俺の脳内人格同士で禅問答をすることにしよう。作麼生!説破!

問.俺は今、どんな体勢だ?
答.ハルヒに覆い被さろうとしている体勢だ。

問.俺の両腕は今どこで何をしている?
答.ハルヒの頭を包むように抱えてるんだ。

問.ハルヒは今どんな格好で、何をしている?
答.イブニングドレスを肩から外し、半脱ぎ状態で叫んでいるぞ。

問.つまり、傍から見るとどんな光景だ?
答.俺がハルヒを襲い、ハルヒが助けを求めているように見えるな。

はい、今の俺の心理状況がわかったかな?


マジで勘弁してくれ


「おおーっと、ハルにゃんがキョン君に襲われているよー!助けられるのは君だ!君しかいないんだ!!それが『最終試練 決戦!タイマン勝負!そして彼女を救え!』だっ!!」


鶴屋さんの宣言により、盛り上がりは最高潮になったらしい。イマイチ人数が少ないので盛り上がりにかけるが。
ハルヒよ、こんなところでさっきの仕返しとはな人が少なかったのがせめてもの救いか
「いゃあー、びっくりしたっさ!まさかあんなところでハルにゃんを襲おうとしているとは、お姉さん全っ然考えてなかったよ!!」

最終試練発表後、鶴屋さんは俺にそう語りかけて来た。あのときの台詞はアドリブだったらしい。
「キョン君も積極的だねえ。青春ど真ん中、ストライクゾーンを謳歌してるんだね!でも、前もって言ってくれればパーティションを開く時間を遅らせることができたのにさ!今度からは報告を頂戴よ!人払いするからさ!」

俺は鶴屋さんに一部始終を話した(ハルヒのドレスが外れてたのははずみだったということにしたが)が、やっぱりというか何というか、
『わかったよ!そうゆうことにしとけばいいんだね!そりゃ飛んだハプニングだったね!これでいいかい!』という風に納得したらしい。
できれば、俺の話を作り話ではなく、本当の話として聞いて欲しいのですが。
ハルヒだって、そんな変な噂が立つのは嫌でしょうし。
「ハルにゃんなら、そんな噂が流れても気にしないっさ!それに、おいたをしてもハルにゃんなら許してくれるって、前に言わなかったかい!?」

さっきの顛末について、俺は一応ハルヒに謝罪をした。何とハルヒは事も無げに『別に気にしてないわ』と言い切った。
あんなことになって寛容にしてくれるとはな。ドレスの背中の開きのことを指摘したときは、あんなに怒っていたからそのギャップに驚きだ。
正直、『なんてことするのよエロキョン!!』と言われて金的を喰らうことを予想してたんだがな。
もし長門や朝比奈さんがハルヒと同じ目にあったら、間違なくそうするんじゃないかと思うんだが。

「ハルにゃん自身のことは寛容なのさ!ことキョン君に対してはね!」
鶴屋さんは俺の心を見透かしたかのように、俺の疑問に答えていた。
「だからおいたをしても許してくれると思ったんだい!キョン君も、ハルにゃんの行動や言動を大目にみてあげないとだめにょろよ?今回の争奪戦だって、ハルにゃんが色々悩んで開催したんだからさ!ハルにゃんを助けてあげなきゃ!」
鬼ごっこやテストで、十分貢献したと思ったんですが。
「ちっちっちっ!それは違うよ!ハルにゃんは最終試練の試験官にキョン君を指名したんだよ!?一番大事な部分を任せているんだ!キョン君を信頼してるのさ!ハルにゃんに選ばれた人なのさ!」

鶴屋さんはまるで古泉みたいなことを言っていた。
「再三言うけどっ、ハルにゃんの想いに答えてあげなきゃ!!じゃあ、ベリーベリーファイトだよ!!」
鶴屋さんはそう言って、控室に戻って行った。

やれやれ。俺がハルヒに信頼されているとはな。俺は真逆だと思ってたんだがな。

最終試練(前編)に続く



|