Report.24 長門有希の憂鬱 その13 ~朝倉涼子の手紙~


 それにしても気になるのは、涼宮ハルヒが見たという夢。朝倉涼子が出てきたという。そして、あの『手記』を見せられた時の突然の閃き。あの時わたしは、誰かが囁く声を聞いたような感覚を覚えた。
 あれは何だったのか。わたしの感覚器の誤作動か。


 ここでわたしは、ある仮説に辿り着いた。喜緑江美里にその仮説を伝えると、彼女もそれを支持した。しかしその仮説を検証することはできない。なぜなら、それはわたしの感覚では知覚できないから。
 江美里は、あるいは知覚しているのかもしれない。
「わたしが知っているかどうかは、不開示情報です。もし知っていたとしても、それを長門さんに教えるつもりはありません。……意味が無くなってしまいますから。」
 わたしが辿り着き、そして検証することができない仮説。
 それは情報統合思念体の把握している情報には存在しない概念。むしろ、人間に存在する概念。だから、あえて人間の言葉で表現する。


 朝倉涼子は、『あの世』に逝った。


 説明を要する。
 人間には『宗教』が存在するが、人間の『死』についての概念は宗教によって区々。
 代表的なものは、死ねばそれですべてが終わるという概念と、死んだ後、別の世界に行くという概念。わたしの仮説は、後者の説を採用する。
 最期のあの日。橋の欄干から飛び降り、『入水自殺』した涼子。あの時彼女は、落水後すぐに、意図的に水を大量に飲み込んだ。ヒトとしての『死』を迎えるために。当時のわたしは、人間の言葉で言えば『動転』していて、正常な判断を下すことができなかったので、そのことに気付かなかった。
 しかし落ち着いた今、冷静に当時のログを分析してみると、前記の状況を把握した。あの時の涼子は、情報統合思念体との接続を完全に切断していた。インターフェイスとしての機能を完全に停止させたまま、水中で『呼吸』しようとすればどうなるか。
 当然、ヒトと同様に生命活動は停止する。もちろん、その後再接続すれば、何事もなかったように活動を再開できるが、その時の涼子には、その選択肢はなかった。待つのは有機情報連結解除だけ。だから、なぜ涼子がそのような『無意味』な行動を取ったのか、その時のわたしには分からなかった。
 呼吸器官を水で満たしても、すぐに『死亡』するわけではない。しばらくは意識もあるし、生命活動は続く。それが急速に生命活動が低下し、死に至る。その過程は、ヒトと同じ。よって、たとえインターフェイスであっても、その瞬間には相当な苦痛を伴う。それなのになぜ。
 その考察の結果、辿り着いたのが、前記の仮説。涼子は、人間で例えると『霊魂』として『あの世』で活動しているのではないか。
 情報統合思念体との接続を切断した状態では、情報統合思念体は即座にインターフェイスの情報を把握することができない。ほんの僅かながら、情報取得までに時間差が発生する。
 涼子は、その時間差を突いたのではないか。『肉体』が機能を停止し、情報生命体だけの状態となって、情報統合思念体に強制的に接続され、情報生命体は回収、肉体は有機情報連結を解除されるまでの、ほんの僅かな時間差。この刹那に、涼子は持てる情報操作能力を総動員して、情報統合思念体が感知できない領域に潜り込み、その管轄から外れることに成功したのではないか。
 情報統合思念体が感知できない領域があることを、情報統合思念体は認めないが、わたしは確信している。涼宮ハルヒの能力が作用すれば、そんなことも可能になる。
 しかし、ここで一つ問題がある。ハルヒは涼子の消滅を知らないはず。
 まさか……涼子単体で?


 答えは意外な形でもたらされた。
 ある日のこと。全員揃った部室にノックの音が響く。
「どうぞー。」
 答えたハルヒの声に、江美里が入室した。
「文芸部宛てに手紙が届いたので持ってきましたよ。」
 江美里がもたらした物は、エアメールだった。差出人は……“ASAKURA Ryoko”。
 ハルヒに手紙を渡すと、江美里は退室した。
 ハルヒは手紙を一瞥すると、嬉々として読み上げた。内容は『近況報告』と言えるものだった。
 手紙の締め括りはこう。
 ――文芸部部長 長門有希様、SOS団団長 涼宮ハルヒ様へ
 - To Leader of the literature club NAGATO Yuki, Leader of the SOS brigade SUZUMIYA Haruhi
 ――SOS団海外特派員(笑) 朝倉涼子より
 - Than the SOS brigade foreign correspondent :-) ASAKURA Ryoko
 締め括りは、日本語と英語で書かれていた。
「うんうん、朝倉も、ちゃんとSOS団員としての活動をしとぉみたいやね! ちょっと、キョン! あんたも、少しは朝倉を見習って、もうちょっと活動に気合入れたらどう?」
【うんうん、朝倉も、ちゃんとSOS団員としての活動をしてるみたいね! ちょっと、キョン! あんたも、少しは朝倉を見習って、もうちょっと活動に気合入れたらどう?】
「へいへい。」
 『彼』は、肩をすくめながら返事をした。表情には、事情を知っているせいか、若干戸惑いが見て取れる。それは、他の団員達もまた同様だった。
「ん? 何(なん)か入っとぉわ。」
【ん? 何(なん)か入ってるわ。】
 ハルヒは同封物に気付いた。彼女は早速それを出してみる。
「これ、何(なん)やろ?」
【これ、何(なん)だろ?】
 出てきたものは、栞。……涼子と過ごした最後の日に、涼子がわたしとお揃いで買った物だった。ハルヒもその事実に気付いた。
「そういえばこれ、有希が使ってるのと一緒違(ちゃ)う?」
【そういえばこれ、有希が使ってるのと同じじゃない?】
 わたしはこくりと頷いた。
「貸して。」
 わたしはハルヒに向けて手を伸ばした。
「有希、これがどうかしたん?」
【有希、これがどうかしたの?】
 ハルヒからそれを受け取ると、わたしはそれを少しいじった。
「うわ!? 何(なん)か出てきた!」
「これはUSBフラッシュメモリ。」
 ちょうどページをめくるように本型の飾りを操作すると、中から簡素化されたUSB端子が現れる仕組みになっていた。
 ここでわたしは思い当たった。別れの間際、最期の瞬間に涼子が遺した一かけらの情報。その情報にはヘッダとして、『器へ』という指示が付いていた。
 『器』とは、もしかして、人間が使用するこのストレージデバイスのことではないのか。
 わたしは試しに、情報をこのフラッシュメモリに導入してみた。特に変化は見られない。
「じゃあ、早速中を見てみよか。」
【じゃあ、早速中を見てみようか。】
 フラッシュメモリをハルヒに渡すと、彼女は団長席のパソコンにそれを接続した。
「うーんと、中身は……よぉ分からんファイルがいくつかと、実行ファイル、か。カチカチっとな。」
【うーんと、中身は……よく分かんないファイルがいくつかと、実行ファイル、か。カチカチっとな。】
「ちょ! おま、ウィルスチェックしてから……っ!」
 『彼』が慌てて止めようとするが、時既に遅し。ハルヒは謎の実行ファイルを実行してしまった。何か問題が起きても、すぐに対処できると見て、わたしは静観する。
「ふーん。『分割ファイルの連結プログラム』やって。」
【ふーん。『分割ファイルの連結プログラム』だって。】
 しばらくパソコンのファン音が大きくなり、やがて処理が終了した。
「何(なん)かビデオファイルができたわ。ほな、再生するから、みんなこっち来て。」
【何(なん)かビデオファイルができたわ。じゃあ、再生するから、みんなこっち来て。】
 団員達を団長席に呼び寄せると、ハルヒはビデオファイルを再生した。
 内容は……カナダで撮影したという、涼子からの『ビデオレター』だった。
『――以上、SOS団海外特派員・朝倉涼子がお届けしました! ……なんちゃって♪』
 映像の涼子は、そう言うとちろりと舌を出した。
『また、日本に帰ってみんなと会える機会があると良いな。じゃあね。』
 手を振る涼子の姿が煌めく砂と化して風に溶けると画面が暗転し、『劇終』の文字が黒い画面に映されて、ビデオは終了した。
 この『ビデオレター』は、もちろん捏造。実際のカナダの映像と、涼子の身体構成情報を合成してある。わたしが導入した情報は、どうやら涼子の身体構成情報の一部だった模様。
 それにしても手の込んだこと。一体、誰が、何のために?
「普通の手紙に加えてビデオレターとはねえ。なかなか手の込んだメッセージやないの。」
【普通の手紙に加えてビデオレターとはねえ。なかなか手の込んだメッセージじゃないの。】
 ハルヒは満足げに頷いている。
「カット割といい仕草といい、撮り慣れ、かつ撮られ慣れしてる感じやね。」
【カット割といい仕草といい、撮り慣れ、かつ撮られ慣れしてる感じよね。】
 ハルヒは腕を組んで椅子の背もたれにもたれると、
「これは美味しい逸材かもしれへんわ。今度の映画では、超監督のあたしの下に、助監督兼助演女優として抜擢しよか。」
【これは美味しい逸材かもしれないわ。今度の映画では、超監督のあたしの下に、助監督兼助演女優として抜擢しようかしら。】
「大変結構なことかと。」
「おいおい、まさか映画の撮影のためだけに、カナダから呼び出すつもりか!?」
 いつもの通りハルヒの意見に逆らわない古泉一樹と、ツッコむ『彼』。
「さすがにカナダから呼び出すと、映画制作費が足りひんようになるから、次に朝倉が帰国する時やな。その辺の連絡調整はあたしがするから、あんたらは心配せんでええわ。」
【さすがにカナダから呼び出すと、映画制作費が足りなくなるから、次に朝倉が帰国する時ね。その辺の連絡調整はあたしがするから、あんた達は心配しなくて良いわ。】
 ハルヒは封筒と便箋をためつすがめつし、
「電話番号とか、せめてメールアドレスくらい書いとけばええのに……エアメールで送るしかないか。今度はすぐに連絡取れるようにしとかなあかんな。」
【電話番号とか、せめてメールアドレスくらい書いとけば良いのに……エアメールで送るしかないか。今度はすぐに連絡取れるようにしとかなきゃね。】
 調べてみたところ、その住所は架空のものだった。地名は存在するが、そのような番地はない。
「それにしても、ビデオのラスト、すごい特殊効果やな。CGやろか?」
【それにしても、ビデオのラスト、すごい特殊効果ね。CGかしら?】
 それ以外にも、例えば空を飛びながら撮影したような映像や、涼子が分身した映像等、様々な映像が納められていた。まるで、インターフェイスの能力を誇示するかのように。
「どうやって撮ったんか分からへんけど、まるで、朝倉が人間違(ちゃ)うような感じやったな。例えば……宇宙人か何(なん)かみたいな。」
【どうやって撮ったのか分からないけど、まるで、朝倉が人間じゃないような感じだったわね。例えば……宇宙人か何(なん)かみたいな。】
 『宇宙人』。その言葉にわたしは驚愕した。驚愕のあまり、『彼』にしか分からない程度に目を見開くくらいに。
 涼子は、ハルヒに自分の存在をアピールしている? 忘れさせないように、思い出させるように、教えるように。
 まさか。
 涼子は、ハルヒの能力を利用して『復活』を企てている?
 涼子が情報統合思念体の管轄を離れた独自の情報生命体として活動しているとは、あくまで仮説の域を出ない。検証のしようもない。それに、今この瞬間にも、涼子の存在は検出できない。やはり考え過ぎか。
『抵抗。』
 不意に、通信が入った、ような気がした。……涼子?
 ――――。
 返事がない。ただのしかば……いや、何でもない。人間の言葉で表現すると『気のせい』か。後ろを振り返ってみても、何もない空間が広がっているだけだった。


 活動終了後。
 わたしは、皆が帰った後の文芸部室に江美里を呼び出し、問い詰めた。
「どういうつもり。」
「何のことでしょう?」
 江美里は、透き通るような、人畜無害な笑みを浮かべたまま答えた。
「とぼけないで。」
 わたしは更に言い募る。
「あなたが、『朝倉涼子の手紙』を持ち込んだ。あれは本来、この世界に存在し得ないはずの物品。」
 そう。そのような……『死者からの手紙』など、本来この世界にはあり得ない物。
「わたしは単に、誤って振り分けられた手紙を適切な宛先に届けただけですよ? 感謝されこそすれ、非難される謂れはないと思いますが。」
 あくまでとぼけるつもりか。
「あなたの行動は、情報統合思念体に対する『反乱』と解釈されても仕方のない行為。」
「まあ。」
 江美里は『驚いた顔』をした。……つまりは、作った表情。
「この銀河を統括する、情報統合思念体に対して『反乱』だなんて……」
 江美里は被りを振って、
「わたしみたいな、『ただの人間ごとき』に、そのような大それたこと、できるはずがないじゃないですか。」
 ……自分をして、『ただの人間ごとき』? どの口が言うか。
「いひゃい、いひゃい、ひゃへへふひゃひゃい~」
【痛い、痛い、やめてください~】
 わたしは、江美里の口に両手の指を突っ込んで横に引っ張っていた。
「ひょんとうのほほははひはふはら~」
【本当のこと話しますから~】
 わたしが指を引き抜くと、江美里はさも痛そうに自分の頬を撫でた。
「ふう。」
「本当のことを話して。全部。詳らかに。」
 江美里は、しばらく中空に、まるで何かを確認するかのように視線を巡らせた後、口を開いた。
「あなたは、神を信じますか?」


 …………
「は?」
 思わず間の抜けた声が出てしまった。あまりにも突拍子もない言葉だったから。
「あらあら。その反応は新鮮ですね。」
 …………
「まあ、今のは軽いジョークです。だから、その手はとりあえず下ろしてください。ね?」
 後ずさりしながら江美里は言った。わたしは静かに、再び江美里の口に突っ込もうと臨戦態勢を取った手を下ろした。
「長門さんは、朝倉さんについて、ある仮説に辿り着きましたね。」
 わたしは頷く。
「端的に言えば、その仮説は正しかった、ということです。」
 涼子は、『霊魂』又は『幽霊』、若しくはこの国の伝統的な宗教によれば、『神』になった。
「そして、情報統合思念体でさえも把握できない次元に潜り込むことに成功したのです。」
 荒唐無稽で、俄かには信じ難い話。でも、そう仮定すれば辻褄が合うのも事実。
「潜伏した朝倉さんは、水面下で行動を起こしています。」
 様々な形でわたし達に働きかけながら。例えば、消去された記憶を呼び覚ますために夢を見させたり、適切な定義を耳元で囁いたり。
 だが、行動を起こしているのは涼子だけではない。わたしは江美里を真っ直ぐに見ながら言った。
「その行動を幇助しているのが、あなた。」
 江美里はわたしの視線を真正面から受け止めながら、
「なぜそう思ったのですか?」
 と、事も無げに問い返した。わたしは証拠を突きつける。
「あの『手紙』には、同封物があった。」
 同封されていた、USBフラッシュメモリが付いた栞を取り出した。
「これは、あの日涼子がわたしとお揃いで購入したもの。」
「市販品ですから、他にも同じものが沢山あると思いますが?」
 普通に考えれば、そう。だが、
「同封されていた栞は、市販品ではない。このような機能は、通常の商品には付いていない。」
 USB端子を露出させる。本来この飾りには、何の機能もない。だが送られてきた栞の飾りには、USBフラッシュメモリが仕込まれていた。そのように改変されていた。
「その中には、存在しないはずの動画が収められていた。」
 主演・朝倉涼子、のビデオレター。
「その動画は、わたしが朝倉涼子から受け取っていた最期の情報を埋め込むことで、完成された。」
 涼子の身体構成情報を基に、高度に再現された涼子の映像。
「このような真似ができる者は、涼宮ハルヒを除いて人類には存在しない。」


 そしてこのような手の込んだ方法で情報を完成させたのは、恐らく情報統合思念体の目を欺くため。それぞれの端末が持つ情報単体では、何の意味も成さないただのノイズにしか見えない。また、それらの情報を単に情報統合思念体の持つ方法で結合しても、やはり何の意味も成さないようになっていた。
 鍵は、栞。
 栞に仕込まれた、人間が使用する記憶媒体に、人間が使用する情報機器が取り扱える形で情報を埋め込むと、初めて『人間にとって』意味のある情報が生成されるように断片化し、暗号化されていた。
 これは情報統合思念体に対しては極めて有効な隠蔽方法。たとえ情報統合思念体が情報の暗号化を見破って生成された情報を手にしても、情報統合思念体にとってはやはり意味を成さないノイズでしかない。なぜなら、その情報は情報そのものには意味がないから。
 これは、情報生命体である情報統合思念体には、なかなか理解できない概念。有機生命体でなければ、理解できないのかもしれない。
 この情報を取り扱うためには、情報を『情報』として再生しても意味がない。この情報の送り主の『意図』を再生しなければならない。
 『なぜ』このような情報を、『誰』に対して、『どのように』伝達したのか。
 これらの点を、送られた情報以外の『状況』から『推理』し、その『趣旨』を『解釈』しなければならない。
 情報統合思念体にとって、情報とは『目的』。情報そのものに価値があるのであって、情報を伝える手段等には何ら興味はない。
 しかし有機生命体……人間にとっては、情報は時に『手段』となる。
 人間が取り扱う情報は、情報統合思念体から見れば、極めて不完全。情報の伝達には常に齟齬が発生する。その点を逆に利用する。
 一見正常な、普通の情報があったとする。その情報は、通常の再生方法では、特に変わった意味を持たない。だが、その情報の『背景』から『連想』することで、全く別の情報が生成されることがある。そしてその生成された別の情報こそが、『目的』としての情報である場合がある。
 これは、情報に込められた真の情報、メタデータ。ある意味で『偽装』。このような情報の伝達方法は、情報統合思念体等の情報生命体には、考えも付かない。
 なぜなら、情報生命体の情報伝達は、完璧だから。完璧過ぎるから。少なくとも同種の情報生命体同士なら、齟齬なく情報を伝達できるから。
 人間は、同じ人間同士であっても、情報の伝達には常に齟齬が発生する。これは、情報統合思念体――情報生命体――から見れば、重大な構造的欠陥。しかし人間は、この構造的欠陥を補い、逆に活用する術を見付けた。情報の伝達に齟齬が発生するならば、齟齬を見込んで情報を冗長化して伝達すれば良い。
 その冗長化の手段として、伝達する情報そのものには仮の意味を持たせ、本当に伝達したい情報はメタデータに埋め込む。メタデータの再生方法は、人間が最も得意とする情報処理方法……『連想』に拠らせる。
 人間の『連想』では、その処理を行う際に『鍵』となる情報によって、再生結果が左右される。もしその『鍵』となる情報を共有する者同士なら、『連想』された情報は極めて高い精度で、時には人間の通常の手段で伝達する情報よりも高い精度で、伝達したい内容を再生する。
 しかし、その『鍵』となる情報を共有しない者同士では、伝達したい内容はほとんど再生されない。また、場合によっては、全く逆、あるいは全く別の情報に再生されることさえある。
 この特性を利用すれば、人間の持つ程度の情報伝達手段、つまり不特定多数を経由しないと情報を伝達できない仕組みであっても、特定の相手に対して選択的に情報を伝達することが可能となる。また、同様に不特定多数に対して同じ情報を伝達しながら、情報の受け手によって再生結果が異なることを利用して、情報の攪乱を図ることもできる。
 これらのことは、別々に行うことも、同時に行うことも可能。


 今だから言う。わたしはこの手法を用いて、情報統合思念体に『隠し事』をしていた。朝倉涼子から受け取っていた最期の情報の内容を、この手法で意図的に伏せていた。
 理由など説明できない。わたしが伝えたくなかったからとしか言えない。
 また、今もわたしは『隠し事』をしているかもしれない。あるいは、もうしていないかもしれない。これも明言はしない。したくないから。
 では、なぜわたしは今になってこのような『告白』をしたのか。理由はあえて言わない。言ってしまっては『意味』がない。
 情報統合思念体は、これらの点についてよく考えるべき。そうでないと、朝倉涼子の、喜緑江美里の、行動は理解できない。
 これは私見だが、この二体の、あるいはわたしを含めた三体のインターフェイスの行動が理解できなければ、人間の行動は到底理解できない。すなわち、情報統合思念体に未来はない。そう思う。
 ヒントは、後の報告にあるかもしれないし、ないかもしれない。よく考えてみてほしい。

 



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最終更新:2020年03月15日 18:54