『涼宮ハルヒのプリン騒動』
 ―3日目―
 
 
 
 昨日も朝比奈さんのせいでえらいことになりかけたな。
 だが朝比奈さんが自分からあんなことをするとは思えん。古泉の差し金か?あるいは長門もなのか?
 しかし、そのおかげというべきか、またハルヒと楽しく過ごせたのも事実なわけで。
 それにしても昨日の別れ際のハルヒの名残惜しそうな顔は反則的なまでに可愛かったな。
 ひょっとするとみんな俺のためにあんなことをしてくれてるのか?
 そうだよな。あいつらにとって俺たちの仲を邪魔する理由なんてないはずだからな。
 
「はあぁい。どうぞぉ」
 部室のドアをノックすると朝比奈さんのエンジェルボイス。そして中にはハルヒ以外の3人+α。
「やぁ!キョンくん、ひっさしぶりだねぇ」
「あぁ、どうも鶴屋さん。お久しぶりです。元気でしたか?」
「もっちろん!このとおり、めがっさピンピンしてるっさ!」
 相変わらずこの人は凄いバイタリティだな。
「ところでキョンくん、これを見てほしいっさ!」
 
 鶴屋さんの手にはまたもやというべきか、プリンがちょこんと乗っかっている。……嫌な予感が。
「まさか、またそれもハルヒの、なんてことはありませんよね?」
「そんなわけないっさ。これは鶴屋社の最新作プリンなわけだよ。みんなにはもう食べてもらったよ」
 周りを伺うと、朝比奈さんの極上スマイルが見える。
「はいぃ。とってもおいしかったですよぉ」
 
 それにしても鶴屋社?そんなのあるのか?……どうもうさんくさいな。
「キョンくん……食べてくれないのかい?……おねえさんもの凄く悲しいにょろ……」
 ちょっ、そんな本気で悲しそうな顔しないでくださいよ。
「わ、わかりました。頂きます。どうもありがとうございます」
 鶴屋さんからプリンを受けとろうと手を伸ばす。……が、空振りに終わる。
 
 あの、鶴屋さん?何をなさっているのですか?
「何って?決まってるじゃないかい。早くあーんってするっさ!」
 って、ええ!?まじですか?……目はまじみたいだな。
「……してくれないのかい?やっぱりハルにゃんじゃないと嫌かい。……おねえさんめがっさ悲しいっさ……」
「わ、わかりました。頂きます」
「そうかい?それじゃ、はい、あーん」
「は、はい。……あー――」
 バタンッ!!
 うわぁ……タイミング最悪だぜ。というか絶対この人たち狙ってやっただろ……。
 ハルヒは明らかに前二日間よりも激しく怒っていた。おもわずハルヒから視線を外してしまう。
 
「ちょっとキョン?なぁにやってるのかしらね?しかもそれあたしのプリンよね?」
 ああ、だよな。やっぱりこれはハルヒのプリンだよな。
「……すまん、俺もちょっとよくわからん」
「何をわけのわからないこと言ってんのよ!……古泉くんどうなってるの?」
「そうですね。まず、僕と長門さんが二人で部室にいると彼がやってきました」
 いや、ちょっと待て。すでにそこから違うってのはなんでだ?
「あんたは黙ってなさい!……で?」
「すると彼がおもむろにプリンを取り出しまして、食べる準備を始めたというわけです」
「ふーん、でも古泉くんは当然これがあたしのって知ってたわよね?」
「もちろんです。が、彼に尋ねたところ『ハルヒから許可はもらった』と言われてしまって」
「ふーん。まぁ百歩譲ってその辺はいいわ。で、これはどういうこと?」
 そういって固まってしまっている鶴屋さんと俺を指差す。
「鶴屋さんは朝比奈さんと一緒に彼の後に来ました。そして、彼と久しぶり、と挨拶をしているうちに彼が――」
 
「ちょっ、ちょっと待つっさ!」
 突然、鶴屋さんが古泉の説明に割り込む。
「キョンくんは何も悪くないっさ。えっと、そ、そう。あたしが、……そう、あたしが無理矢理やったっさ!」
 あの、鶴屋さん?……言ってることは間違ってませんが、ちょっと言い方が。
「だからキョンくんは悪くないっさ。あたしが無理矢理、そう、無理矢理あーんってさせようとしたのさ!」
 まるで、というよりも、俺が悪いのを優しい鶴屋さんが必死でかばっているようにしか見えませんけど?
「そうだよねみんな?全部あたしがやったことっさ?」
 そう言って鶴屋さんは大げさに周りをぐるっと見回す。
 朝比奈さんは首が取れそうなくらいブンブンと首を縦に振っている。
 古泉は、そういうことにしておくのが無難ですね?といった表情で微笑んでいる。
 長門は何度か俺と鶴屋さんを見比べた後に、
「……それでいい」
 と、ポツリと呟いた。
 
 ああ、こりゃだめだ。
「キョン……あんたってやつはぁぁぁ!!!」
「ま、待てハルヒ。待ってくれ。俺の話を聞いてくれ!」
「何が話を聞け、よ。問答無用よ!……そんなことするなんて!」
 
 バタンッ!!
 そうしてハルヒは部屋を飛び出して行った。
 殴られるくらいは覚悟したが、まさかそんな行動をとるとは思わず、俺は立ち尽くしていた。
「何をしているんですか!早く追ってください!」
「早く追うべき」
「キョンくん早く!」
「そうそう、早く行くっさ!」
 くそっ、この人たちは!!自分達でやっといてどの口が言うんだよ!?
 なんて言ってる場合じゃない。このままハルヒをほっとくなんてできないに決まってる。
 ……わかったよ。行けばいいんだろ。
「ハルヒっ!!待ってくれ!!」
 ハルヒに続いて、俺も部屋を飛び出した。
 
 後ろで、「どうだいっ?めがっさうまくいったっさ」と聴こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
 
 
◇◇◇◇◇
 
 
『涼宮ハルヒのプリン騒動』
 ―3日目(裏)―
 
 
 
「いやぁ、疲れた疲れた。どうだったかい?おねえさんの演技は。抜群にょろ?」
「はい!やっぱり鶴屋さんすごいです。私すごくドキドキしました」
「僕もびっくりです。まさかあそこまでやるとは……。全部アドリブですると聞いたときには驚きましたが」
「そんなに褒められると照れちゃうっさ!何にせよ、面白かったよ」
「いえいえ本当にすごかったですよ。さすが人を欺くのは天下一品ですね。まさに鬼畜の所業でした。」
「……実はあんまり褒められてなかったにょろ……」
 
「それにしてもお二人、どうなっちゃったんでしょうかぁ?」
「きっと大丈夫」
「そうですね。そこは彼になんとかしてもらわないと困りますからね。しっかりしてくださいよ」
「……自分たちでやっておいてどの口が言うんでしょうかねぇ……」
 
「……来た」
『嫌よ!離しなさい。あたしは帰るの!』
『いいからちょっと話を聞いてくれ。な、頼む。なんでも好きなの注文していいから。……もう泣かないでくれ』
『うっさい!泣いてないわ。泣いてないわよ!』
『わかった。泣いてない。それでいいから。……で、どれが食べたい?』
『……どれでもいいのよね?……じゃあこれにするわ』
「おっと、涼宮さん、あれを選んでしまいましたね」
「え、なんですかぁ?……えっと『アカシックプリン』……,000!?高いですぅ。おいしそうですね?」
「彼女は騙されている」
「そのとおりです。あれは高値なわりに実はたいした物ではありませんからね」
「それならとなりの『ビッグバンプリン』 0を食べる方がいい」
「そうっさ。あれは微妙だよね。けど一番は右から二番目の『スーパーノヴァプリン』っさ!」
「……なんか全部すごい名前なんですけどなんででしょうか?」
「それはですね。名前を付ける際にこのようにするよう長門さんから頼まれまたからなのですよ」
「……へぇぇ、長門さんの趣味なんですかぁ」
「別に趣味ではない。宇宙人として物に宇宙的名前を付けるということはごく自然なこと」
「そ、そうなんですか。……もうどうでもいいですけど」
「話がそれてしまいましたね。とにかく涼宮さんは騙されてしまったようです。かわいそうなことです。」
「そうだね。あのプリンはホントに地雷と言ってもいいからね」
「それにしてもみなさん詳しいですねぇ?ひょっとしてみなさんも騙されちゃったんですかぁ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「おや、どうやらお二人に動きがあるようです」
「え、あ、あれ?また私のはスルーなんですかぁ?」
 
『悪かったよ。お前のプリン食べちまって』
 
『そんなこと、……どうでもいいのよ』
『だからもう泣かないでくれって。頼むから』
『うっさい。……泣いてないって、言ってるでしょ……』
『その、……鶴屋さんのもすまん。断りきれなかった俺も悪かったわけだし』
『どうせあんたも、ちょっと嬉しいかも、とか思ってたんでしょ』
『そんなわけないだろ!?俺だって困ったんだよ』
「……言い切った」
「言い切りましたね」
「言い切られちゃいましたねぇ」
「……うぅ、みんなひどいにょろ」
『とにかく、もうあんなことは二度としない。だから……許してくれないか?』
『そんなの……信じられないわ』
「もう、キョンくんったら仕方ないね。おねえさんが助けてあげるっさ!」
「どうするんですかぁ?あ、電話ですか?」
 
「もしもし、ハルにゃんかい?ほんとーにごめんね。でもキョンくんはハルにゃんには渡さないっさ!!」
「……鶴屋さん、一人で何やってるんですかぁ?」
「ありゃ、ばれちゃったかい?」
「こちらは向こうの映像も見てるんですから、当然ですよ」
「やっぱ、修羅場に入るのはちょっとめんどいかなぁ、なんて思っちゃったりして」
「するならちゃんとすべき」
「……はいはい、わかったよ。じゃあ今からちゃんとやるね」
「ではお願いしますね」
 
「もしもし、ごめんね。全部あたしたちが仕込んだことなのさ。だからキョンくんは許してあげて」
『でも……キョンは……鶴屋さんに』
「あれはあたしがかなり強引にやっちゃったことだから、キョンくんは悪くないっさ。ね?」
『……わかったわ。……鶴屋さんにそこまで言われたら』
「そうかい?良かったよ。お詫びに明日、年間100個限定のあのプリンをプレゼントするっさ!」
「な、なんですって!?年間100個限定!?まさかあの幻のプリン?」
「まさか。ありえない」
「いや、でもアレしか考えられません。そんな……もし本物なら恐ろしいことになりますよ。」
「えぇぇぇ?一体なんなんですかぁ!?」
「……なんでもない」
「そうです。なんでもないです。あなたは気にしないでください」
「うぅ……ひどいですぅ」
 
『鶴屋さんなんだって?』
『キョンくんは悪くないから許してあげてってさ。……まぁ仕方ないわ』
『じゃあ俺の言ったこと信じてくれるのか?』
『……今回だけよ』
『良かった。……許してもらえなかったらどうしようかと思ってたぜ』
『……どうでもいいけど、これあんまりおいしくないの。別の頼んでもいい?』
『ええ!?それ,000もしたんだぜ?……わかったよ。今日だけだぜ?』
『ありがと。キョン』
「ふぅ、とりあえず一段落ついたようですね」
「これで計画どおり」
「そうですねぇ。って、明日ってどうなってるんですかぁ?長門さんがするんですよね?」
「そう、準備は万端。しかし、内容はまだ秘密」
「秘密……ですか。ということは明日は長門さんが一人で、ということでよろしいのでしょうか?」
「いい。しかし、あなたには少しだけ手伝ってもらう」
「僕ですか?それはもちろん構いませんが。なんでしょうか?」
「それも秘密」
「明日でおわりなんですよねぇ?ちょっと残念な気もします」
「そうですね。最後は盛り上がるといいのですが」
「ま、きっとなんとかなるっさ!それじゃあたしは帰るね。バイバーイ!」
「じゃあ私たちも解散にしましょうかぁ。また明日」
「……明日」
「それでは、また」
 
 
プリン騒動3日目 ―完―
 


 


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